頼れる30~40代が辞めていく!企業が見落とす「3つのズレ」とは

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パーソルキャリア株式会社

doda編集長

桜井 貴史(さくらい・たかふみ)

プロフィール
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  • 30~40代はライフイベントの比重が増す一方、企業からは変革や管理職としての役割を期待される世代。仕事の負荷と納得感のズレが生じ、離職につながりやすい
  • 制度を整えるだけでは30~40代の中核人材の定着にはつながらない。個々の事情や価値観を話せる関係を築き、役割や仕事の意味づけまで見直す必要がある
  • 管理職は施策を実行するだけの存在ではなく、支援されるべき対象でもある。管理職自身の「ライク」や悩みに向き合うことが、組織全体の離職防止につながる

労働力不足が深刻化する中、企業は30~40代の中核人材に、生産性向上や事業変革、後進の育成といった重い役割を期待しています。一方で、パーソルキャリアが実施した転職に関する意識調査※1によると、ビジネスパーソンの意識が「仕事寄り」から「プライベート寄り」へと変化しつつあります。中でも2026年の調査結果では、プライベートを重視する人が全年代のうち30代前半で最も高くなりました。
※1.定例市場調査転職編:全国のビジネスパーソン4,947人(20~64歳男女)を対象とした調査を実施しました。

仕事上の責任が増す時期と、子育てや介護などで私生活の比重が高まる時期が重なる30~40代。企業の期待だけが膨らめば、はたらき方への納得感を失い、離職を選ぶ人が増えかねません。制度を整えてもなかなか埋まらないこのズレを、どう解消すればよいのでしょうか。

パーソルキャリア株式会社のdoda編集長・桜井貴史氏は、その手がかりとして「ワーク〈ライク〉バランス」を挙げます。仕事と私生活を切り分けるのではなく、人生における「やるべきこと」と「やりたいこと」のバランスを見つめ、仕事の中にも一人ひとりの“ライク”を見いだしていく考え方です。中核人材が納得してはたらき続けるために、企業や管理職は何を見直すべきなのか。はたらき方とマネジメントを再設計するポイントを聞きました。

「企業の期待」と「中核を担う30~40代の価値観」がすれ違う

――人材不足が深刻化し、企業が従業員により高い生産性を求める一方で、はたらく人の意識は「仕事寄り」から「プライベート寄り」へと変化しています。この背景をどのように見ていますか。

桜井氏:かつては仕事を最優先し、長くはたらくことが当たり前とされた時代もありました。しかし現在は、仕事と生活を切り分けるだけでなく、「自分の好きなことや大切にしたい時間を人生の中でどう組み合わせるか」を考える人が増えています。

背景の一つには、多様性を尊重する価値観の広がりがあります。SNSの普及によって、身近に同じ趣味を持つ人がいなくても自分の「好き」を共有し、認め合える相手とつながれるようになったこともその一因でしょう。

以前は、会社は自分を認めてもらえる数少ない共同体の一つでした。係長、課長、部長と昇進し、頼られることが、社会から認められているという実感にもつながっていたのだと思います。しかし現在は会社の外にも、自分の価値観を認めてもらえる場所があります。だからこそ、必ずしも昇進や管理職になることだけが、はたらく人にとってのゴールではなくなりました。

――プライベート重視への変化について、中でも30~40代ならではの背景があるのでしょうか。

桜井氏:30~40代は、結婚や子育てなどのライフイベントを迎えやすい時期です。家庭で担うことが多くなれば、プライベートの時間を大切にせざるを得ません。時代が変化し、職場で「家族との時間を優先したい」と、以前より率直に言いやすくなったことも影響しているでしょう。

一方、企業から見れば、この世代は経験を積み組織の中核を担う存在です。管理職として部下を育てることや、事業変革をリードすることを期待されます。つまり、私生活の比重が高まる時期に、仕事上の責任も重くなるのです。

残業が多く、子育てや家族との時間を確保できない。柔軟にはたらくための制度はあっても、実際には利用しづらい。そうした状況に直面したとき、現在は転職という選択肢を取りやすくなっています。「企業の期待」と「30~40代の価値観」にズレが生じたままだと、中核を担う人材の離職につながりかねません。

中核人材の離職を招く「量・柔軟性・納得感」の3つのズレ

――企業もワークライフバランスを重視し、労働時間の短縮や柔軟なはたらき方を支える制度を整えています。それでも中核人材の離職が起きるのはなぜでしょうか。

桜井氏:企業が用意している環境と、個人が求めているはたらき方の間に、まだまだズレが残っているからだと思います。そのズレは、大きく「どれくらいはたらくか」「どうはたらくか」「なぜはたらくか」という3つの観点から考えられます。

1つ目の「どれくらいはたらくか」は、業務量や労働時間といった負荷の問題です。労働時間そのものは以前より改善されていますが、30~40代は仕事上の責任が重くなる上、子育てなど私生活で担うことも増える時期です。たとえ残業時間が以前より短くなっていても、本人が引き受けられる負荷との間にズレがあれば、はたらき続けることは難しくなります。

2つ目の「どうはたらくか」は、柔軟性の問題です。リモートワークや休暇、育児支援などの制度があっても、実際に利用しづらいカルチャーが残っていれば、柔軟にはたらける環境とはいえません。制度を利用しようとしたとき、上司が難色を示したり、周囲に利用者がほとんどいなかったりすれば、従業員は申請をためらいます。

そして3つ目が、「なぜはたらくか」という納得感です。給与や労働時間、制度の利用状況は比較的把握しやすい一方で、「自分は何のためにこの仕事をしているのか」「この会社にいて成長できるのか」「いま頑張ることが、どんな未来につながるのか」といった思いは、勤怠や業績の数字だけではわかりません。3つの中でも、特に見過ごされやすいのが、この納得感だと思います。

「管理職任せ」だけでは、中核人材の離職を防げない

――従業員の納得感を把握するには、日ごろのマネジメントが重要になるということでしょうか。

桜井氏:そうですね。企業は1on1を導入したり、エンゲージメントサーベイを実施したりしていますが、制度として形だけ整えても十分ではありません。

マネジメントの根底にあるのは、1対1の人間同士のコミュニケーションです。上司が自分に心を開いてくれているか、信頼できる相手か、自分のことを理解してくれているか。こうした感覚は、以前もいまも変わらず重要でしょう。

ただし、従業員の価値観や生活は以前より多様化しています。かつては「課長になるために、いま頑張る必要がある」と伝えれば、仕事の意味づけができたかもしれません。しかし、現在は管理職になることだけが共通のゴールではありません。仕事で成長したい人もいれば、家族との時間や週末の活動を充実させたい人もいます。

本人が何を大切にし、何に悩んでいるのかを対話によって理解しようとしなければ、その人にとっての納得感は見えてきません。

――そのためには、1on1をどのように見直せばよいでしょうか。

桜井氏:業務の進捗を確認する「情報共有」だけでなく、お互いの思いや悩みを伝える「感情共有」の場にすることが大切だと思います。

部下は上司から評価される立場なので、そもそも本音を話しにくいものです。仕事を重視している上司に対して、「週末の推し活が楽しみです」「子どものために早く帰りたいです」といった話は、簡単にはできませんよね。

だからこそ、まず上司から自己開示することが大切です。仕事で困っていることや家族についての悩み、週末に楽しかったことなどを率直に話す。それによって部下も、「この人には自分のことを話してよいのだ」と感じられるようになります。そうした関係ができて初めて、本人が望む未来や、いまの仕事を頑張る意味について話せるようになるのです。

――桜井さん自身も、自己開示を心がけているのでしょうか。

桜井氏:はい。私の場合は若いメンバーから「上司はそもそも怖い存在なので、もっとプライベートのことを発信したほうが話しかけやすくなりますよ」と助言してもらいました。

もともと自分のことを発信するのは苦手だったのですが、いまは社内のチャットツールに、大好きなサッカーの話や週末に作ったスパイスカレーの話など、仕事以外のこともどんどん書いています。

その発信をきっかけに、メンバーからおすすめのスパイスを教えてもらったこともあります。上司側のちょっとした自己開示が会話の入口になるのだと実感しましたね。

――ただ、管理職にそこまでの役割を求めると、負担がさらに重くなりませんか。

桜井氏:おっしゃる通りです。現在の管理職は、多様な価値観に配慮しながら、ハラスメントにも注意し、一人ひとりのパフォーマンスを高めなければなりません。

それにもかかわらず、企業が「1on1を実施してください」「部下のことを理解してください」と現場に任せるだけでは、今度は管理職の疲弊・離職につながりかねません。管理職も、仕事の悩みや生活上の事情を抱えた一人の人間であり、マネジメントされ、支援されるべき存在なのです。

その意味では、人事や経営は、世代による価値観の違いや、子育て・介護と仕事を両立する人が置かれている状況などを、管理職が知識として学べる機会を用意する必要があると思います。

同時に、管理職自身が何に悩み、今後どうなりたいのかにも耳を傾けなければなりません。離職防止を「管理職に頑張ってもらう施策」と捉えるのではなく、管理職の離職も防ぐ組織全体の取り組みとして進めることが重要です。

関係性を起点に、はたらき方を再設計する

――1on1で本人の価値観や事情を理解した後、業務や役割にはどのように反映すればよいでしょうか。

桜井氏:大切なのは、対話を通じて見えてきた本人の希望や優先したいことを、実際の目標設定や役割の付与、仕事の進め方につなげることです。話を聞くだけで業務が何も変わらなければ、本人は「結局、会社はわかってくれない」と感じてしまうでしょう。

たとえば、いまは家族との時間を優先したい人に、従来と同じ負荷や役割を求め続ければ、立派な制度があってもなかなか活用できません。一方で、「仕事を通じて成長したい」「より大きな役割に挑戦したい」と考えている人に、全員一律の負荷しか与えなければ、物足りなさから離職する可能性があります。本人がいま何を優先し、仕事に何を求めているのか。それを踏まえて、担ってもらうミッションや権限、期待する成果を話し合う必要があるのです。

仕事に力を注ぎたい人には、挑戦できる役割や、それに見合う報酬・ポジションを用意する。仕事以外を充実させたい人には、担う役割を明確にした上で、限られた時間でも成果を出せる進め方を一緒に考える。一律に同じキャリアを求めるのではなく、その人に合った形で力を発揮してもらうことが重要です。

――現場の対話を支えるために、人事には何ができますか。

桜井氏:管理職に全てを任せず、異なる事情や価値観を知る場を作ることです。

たとえば、育児や介護と仕事を両立する従業員が、どのような一日を過ごし、何に困っているのか。経験のないことを「理解してください」と求めるだけでは限界があります。人事が当事者の声を聞く勉強会や、利用できる制度を学ぶ機会を設け、管理職も参加できるようにすることが有効です。

知らないものに不安や抵抗を感じるのは、人間として自然なことです。だからこそ、個人の好き嫌いやマインドの問題として片づけず、価値観が変化した社会的・世代的な背景を知識として理解してもらうのです。そうした共通理解があれば、現場でも相手の事情を聞きやすくなり、本人も話しやすくなるはずです。

「ワーク〈ライク〉バランス」で納得感を高める

――「doda」では、企業と中核人材のズレを埋めるための考え方として「ワーク〈ライク〉バランス」を提唱しています。これはどのような考え方なのでしょうか。

桜井氏:従来のワークライフバランスは、仕事と生活に使う時間をどう配分するかという考え方が中心でした。育児や介護などと仕事を両立するために、制度や環境を整えることはもちろん重要です。一方で、生活や価値観がこれだけ多様化すると、全員の事情を制度だけでカバーすることには限界があります。

そこで「ワーク〈ライク〉バランス」では、人生における「やるべきこと=ワーク」と、「やりたいこと=ライク」のバランスに目を向けています。

仕事が全てワークで、私生活が全てライクというわけではありません。仕事の中にも、誰かに喜んでもらうことや成長を実感することなど、その人が「やりたい」と感じる部分があります。反対に、好きな活動を続けるために体調を管理したり、必要な収入を得たりすることは、ワークに当たるかもしれません。

仕事の中にライクを見いだせれば、本人は自分なりの意味を持って仕事に向き合えるようになります。それが顧客の喜びでも、自身の成長でも、実現したい未来でも構いません。やるべき仕事と、自分がやりたいことが結び付けば、主体性やパフォーマンスを高める力になります。

――管理職や人事が従業員のライクに向き合う際、注意すべきことはありますか。

桜井氏:ライクの在り方を、会社や上司が決めつけないことです。仕事で大きな挑戦をしたい人もいれば、仕事では決められた役割を果たし、家族や趣味を大切にしたい人もいます。同じ人でも、人生のある時期には仕事に力を注ぎ、別の時期には家庭を優先することがあるでしょう。どれが正しいというものではありません。

うまくいかないのは、制度だけを整え、上司が自分の価値観を一方的に当てはめるケースです。「成長したいなら管理職を目指すべきだ」「自分たちの世代はもっと長くはたらいた」と決めつければ、本人は本音を話せなくなります。

一方、本人が大切にしていることを聞き、目標や役割、仕事の進め方に反映できれば、納得感を高められます。だからこそ、上司も開示できる範囲で自分の悩みやライクを伝え、互いの価値観を対等に共有できる関係を作ることが大切なのです。

【取材後記】

「管理職になった瞬間に、いきなりスーパーマンになるわけではないんですよね」。そんな何げない桜井さんの言葉も印象に残る取材でした。部下の価値観を理解し、一人ひとりに合った役割を考えることは、決して簡単ではありません。だからこそ、管理職に役割や責任を期待することに加えて、管理職自身の悩みにも目を向ける必要があるのでしょう。そうした取り組みが、会社を支える中核人材の定着につながっていくのだと感じました。

企画・編集/平尾千晶、森田大樹(doda人事ジャーナル編集部)、岩田悠里(プレスラボ)、取材・文/多田慎介、撮影/塩川雄也