IT人材採用激化時代に打ち勝つ。テラスカイが導入したストーリーのあるオフィス戦略
IT人材の採用は年々激化しており、2018年5月のエンジニア求人倍率は7.75倍にまで上昇しています(※)。これは、他の業種・業界に比べても圧倒的に高い数値。今後、労働人口が減少する日本において、ますますIT人材の獲得は苦しくなっていくと予測されます。
(※2018年6月11日発表『転職求人倍率レポート(2018年5月)』より)
こうした採用マーケットの中、『社員成長』そして『採用』の課題を受け、魅力あるオフィス環境を取り入れたのが、クラウドソリューションを提供する株式会社テラスカイです。2015年には東証マザーズに上場を果たした同社は、現在の社員はおよそ300名。そのうち70%をエンジニアが占めています。今後、社員700名体制を目指し、年間100名のエンジニアを採用していく方針です。そんな同社は2018年5月にオフィスを移転。オフィス環境を刷新した結果、移転して僅かな期間で求職者の入社意向に加え、リファラル採用の成果が高まってきていると言います。そこで、オフィス移転の陣頭指揮を執った株式会社テラスカイの経営企画本部長の髙井氏に加え、採用を担当するHRチーム マネージャー・今泉氏と中田氏に登場いただき、詳しく話を伺いました。
オフィスにまつわる「3つの課題」
髙井氏:以前のオフィスには、大きく3つの課題がありました。1つ目の課題が、エンジニアのコミュニケーションの問題です。当社にはソリューション事業と製品事業の2部門があるのですが、急速に人員が拡大したことに伴い、前のオフィスでは製品事業の部門を別拠点に切り出したのです。本社からわずか徒歩5分の立地でしたが、途端に2つの事業部門のエンジニアの交流が薄くなってしまいました。異なる事業ではあるものの、部門に関係なくエンジニアがアイデアを出し合いより良いサービスを提供していくことを大事にしていたため、その毀損は大きかった。それを解消したいということが、まず1点目です。
髙井氏:当社では、小さいプロジェクトだと4~5名、大きいプロジェクトだと10数名というチーム単位で開発を行っています。チームで集まってミーティングを行い、プログラミングなどの個人作業はデスクに戻って進めていくというスタイルです。こうした「チーム」と「個」の働き方を、より柔軟にして生産性を高めたいという点が2つ目の課題です。そして最後の課題は、採用です。今後の事業計画に基づいて社員700名体制を構築するためには年間100名を採用する必要があります。激しいエンジニア採用競争に打ち勝つためには、「エンジニアが働きたい!」を思うような魅力を持ったオフィスにすることが急務でした。そこで、社員を巻き込んで、フレキシブルにオフィスの在り方を考えていきました。
新オフィスが、「採用力」を高める。
髙井氏:そうですね。新オフィスはどうしても15階~17階の3フロアになることは分かっていました。そうした環境の中でもエンジニアのコミュニケーション量が増え、柔軟に働ける環境をつくるためにどうすればいいか。社内外で意見やアイデアを募った結果、各階それぞれにコンセプトを設定し社員が意欲的に働けるよう、プランニングしたのです。
髙井氏:はい。まず、15階と17階はエンジニアの執務スペースになっています。15階は、テラスカイの「Terra」(大地)をコンセプトに、グリーンを基調にした落ち着いたデザインにしました。一方で17階はテラスカイの「Sky」(空)をコンセプトにして、ブルーを基調とした爽やかなデザインにしたのです。
そして、中間地点となる16階ですが、Terra(大地)とSky(空)の真ん中となる「Horizon」(地平線)というコンセプトにしています。2つをつなぐ、皆が自然と集える場所にしたいという思いが込められてるんですね。エンジニアはもちろん社外のステークホルダーのみなさんが集まり、広く勉強会やミーティングができる「ホライゾンラウンジ」を設置しました。15階にいるエンジニアと17階にいるエンジニアが気軽に交流できるスペースとして機能させ、社内外の知識が集結する、そんな場になるというストーリーを設定しています。
中田氏:実際に15階のエンジニアと17階のエンジニアがホライゾンラウンジに集まり、ソファなどに腰かけながら打ち合わせをする姿は頻繁に見かけますね。以前に比べて、交流する場は本当に増えました。
今泉氏:以前のオフィスでは、従来通りの決められたスペースで仕事をすることが当たり前になっていたんですね。その一方、ちょっとしたミーティングで集まらないといけない場合、毎回会議室の予約を取ることは面倒でした。今回のオフィスでも、各自の席は用意しているものの、あえてオープンな場所をたくさんつくることで、特に「ここで働かなければならない」という制限がなくなりました。15階と17階の各階にも、昇降式のデスクを多数設置していて、立ったまますぐに数名でミーティングすることができます。自席で仕事に集中するもよし、階を移動してホライゾンラウンジでコーヒーを飲みながらゆったりと仕事するもよし。―このようなノマドスタイルで仕事ができるオフィス環境になっています。生産性を向上させながら、エンジニアがクリエイティブな仕事ができる環境を提供できています。
髙井氏:その他にも、15階と17階にはそれぞれTEDスペースを設置していて、社内勉強会をしたり、影響力のあるカンファレンスの中継を投影したりと、活用方法はエンジニアに自由に任せています。
今泉氏:プレゼンテーション力を高めるという目的もあり、このTEDスペースでグループ内での取り組み事例を発表することも増えてきたようです。自然とエンジニアが「こうしたい」と思える、主体的な動きができる状態をオフィスによって実現できていると実感していますね。
新オフィスを活用し、リファラル採用を15%から30%に
今泉氏:現在、当社の採用は、人材紹介・ダイレクトリクルーティング・採用媒体の3つの手法が柱となっています。現状は、転職顕在層にしかアプローチできておりませんが、年間100名を採用する計画なので、今後は転職潜在層に向けてアプローチしていく必要が出てきています。
髙井氏:エンジニアの有効求人倍率は7倍強というデータもあり、他社さんでもエンジニアは喉から手が出るほど採用したいという状況だと思います。当社のビジネスはBtoBですので、IT業界といえども転職候補者の方の知名度が高いとは言えません。そこで、転職潜在層にアピールできるイベントなどをこの新しいオフィスで仕掛けていくと同時に、社員によるリファラル採用も強化して「採用」という大きな課題解決の一助にしていきたいと考えています。
今泉氏:勉強会は規模を拡大して行うなど、コンテンツの企画・実施は着々と行っています。例えば、当社のベテランエンジニアが中心となった勉強会・交流会を開催し、コミュニティ作りの場として機能しました。さらに、社員の家族を招くイベントの開催も予定していますし、その様子はオウンドメディアで積極的に公開するつもりです。こういったコンテンツを社内外に発信していくことで、業界内でのプレゼンスを高めていきたいですね。それによって、転職潜在層にも気づきを与え、リファラル採用に結びつけていきたいと考えています。
中田氏:最終面接のときに、求職者の方に向けてオフィスツアーを行うのですが、ホライゾンラウンジはみなさんとても興味深く見学されますね。ラウンジを使って仕事をしているエンジニアも多いので、当社で働くイメージが湧きやすいようです。エンジニアのミーティング風景を見て業務内容の質問をされることも増えてきましたし、その場で直接エンジニアたちに話をしてもらうこともあります。
今泉氏:移転したばかりではありますが、すでにこの新オフィスが決め手になって入社されたエンジニアもいます。
髙井氏:昨年は約70名のエンジニアを採用したのですが、そのうちのおよそ15%がリファラル採用です。今後環境をフルに活用して、リファラル採用を30%まで引き上げていきたいですね。
【取材後記】
インタビュー開始前にオフィスツアーをしたところ、実際に各所でエンジニア同士が昇降式デスクを使い、立ちながらミーティングをしていました。さらに、インタビューを行った会議スペースには壁一面がホワイトボードになっており、社員の発想をスピーディーに「見える化」できるなど、細部にまでこだわりを感じさせるオフィスでした。また、インタビューが終了したお昼時には、ホライゾンラウンジがランチスペースに。500円でメニュー多彩のビュッフェが提供されており、多くの社員が利用。そしてなんと、ランチの列には社長の姿も。気さくに社員と会話している姿が印象的でした。
新オフィスにコンセプトとストーリーを持たせることで、社員の「はたらく」を刺激し、それが採用力向上にもつながっていく。――IT人材の採用が激化しているなか、エンジニア目線のオフィスを設けることが一つの“武器”となり得るでしょう。
(取材・文/眞田 幸剛、撮影/石山 慎治、編集/齋藤 裕美子)