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「データ活用で大切なのは人の体温」サイバーエージェント・人材科学センターの狙い

PROFILE

株式会社サイバーエージェント

人材科学センター 向坂 真弓

一橋大学社会学部卒業後、2003年にサイバーエージェントに新卒入社。インターネット広告代理事業の営業、マーケティング、SEMコンサルを経験した後、海外にてフリーランスとしてマーケティングの仕事に従事。帰国後、人事データ分析を目的として設立された同社の人材科学センターに2016年参画。

人事・採用担当者の重要な役割の一つに、「社内の適材適所の実現」があります。社員の強みや特性を理解し、最適な部署に案内できれば、彼ら彼女らは輝かしく活躍してくれます。しかし、それを実行するにはどうすればよいのでしょうか?

その答えの一つが、アメーバブログやAbemaTVを運営する株式会社サイバーエージェントが2015年1月に立ち上げた組織「人材科学センター」にありました。ここでは社員のアンケートデータや採用データをもとに社内の適材適所の実現を目指しています。今回は人材科学センターに所属する向坂真弓さんに取材を実施。人事施策にデータを活用するにはどうすればよいのか、データ活用を考える企業の理想のファーストステップとは何か、伺いました。

ミッションは「人事をデータで科学すること」

最初に、向坂さんが「人材科学センター」の担当になられた経緯を教えていただけますか。

向坂氏:今では人事部の中でデータ分析の担当をしていますが、もともとは人事や採用の経験もなければ、データ分析の専門家でもなかったんです。私は2003年にサイバーエージェントへ新卒入社して、広告代理店部門の配属になりました。そこでインターネット広告の営業を3年間、その後マーケティングを5年間担当。その後家庭の都合でサイバーエージェントを退社して中国・上海や香港に住み、Web マーケティングの仕事を5年間行っていたのです。

ミッションは「人事をデータで科学すること」

マーケターとしてのキャリアが長かったのですね。

向坂氏:そうですね。そして再び日本に戻ってくることになったときに、「またサイバーエージェントでマーケティングの経験を活かせる仕事をしたい」と思い、人事統括の曽山に相談をしました。そこで彼から提案されたのが、 「人材科学センター」の仕事でした。私と話した1年前に人材科学センターが立ち上がり、そのころは人事の中でマーケティングを強化したいという段階だったのです。ただ、人事でマーケティングをすると言われても正直イメージが沸きませんでした(笑)。それでもマーケティングの経験を活かせること、純粋に「面白そうだな」という動機から人材科学センターにジョインすることになりました。

人材科学センターでは、具体的にどのようなことを行うのでしょうか?

向坂氏:人材科学センターは、人事の中でもデータ分析を専門とする部署です。社員の職歴や評価といった客観情報、社員のコンディションやキャリア志向などの主観情報など、あらゆるデータを分析してレポーティングします。人材科学センターの最大のミッションは「サイバーエージェントの適材適所を推進すること」。この3年間はとにかくデータと社内のメンバーと向き合ってきました。

人材科学センターにジョインされて、あらためてデータの重要性はどういうところに感じますか?

向坂氏:3年間やってきて、最初の1年間はデータを使って「人が知らないような大発見をしなければいけない」という気負いがずっとありました。でも、そもそもそんな発見は難しかったんです。というのも人事のデータのボリュームは、マーケティングの消費者データなどとは比べものにならないほど少ないんですよ。

「人が知らないような大発見をしなければいけない」という気負い

消費者データは1日に何百万件ものデータが入ってきますが、人事のエクセルに表示される社員のデータはうちの会社規模でせいぜい1万件ほど。だから大量のデータから人が発見できないような何かを見つけることはそもそもできないのだということを、1年経ったころにすごく感じました。

では、人事でデータ活用って何ができるんだろうか? 3年間やってきた中で感じているのは、「これまで人が感覚で話していたことを、数字や事実としてデータで示し、意思決定の後押しをすること」です。

「役員が『Aさんは現場に向いてない』と言っていたから」と、伝聞や主観的情報で社内配置を決めるのではなく、いろんな方向から取ったデータを組み合わせて、「データが示すように、Aさんはこの部署よりあの部署の方が実力を発揮できます」と道を示してあげることが大切なのです。それがデータの意味であり、人材科学センターの役割だと思っています。

これまで人が感覚で話していたことを、数字や事実としてデータで示し、意思決定の後押しをすること

たった1行のデータで1人の人生が変わるかもしれない

分析の際、参考にしているデータについて教えてください。

向坂氏:設立当初から主に活用しているデータが『GEPPO』です。これは毎月調査しているサイバーエージェント独自のアンケートシステムで、全社員の回答率は98%になります。GEPPOで集めているのはいわゆる、社員の主観データ。個人のパフォーマンスやチームのコンディションの状況を「快晴」から「大雨」まで、5段階の天気マークから選んで回答してもらいます。

もともとサイバーエージェントでは、社員のやる気や意思を尊重する企業文化が根付いています。そういう意味でもGEPPOで取得できる社員の生の声はすごく大切にしていますね。ただそれだけでは見落とす情報がたくさんあるので、現場の上長と話したときの記録、人事との面談記録、採用時のデータ、勤怠データなどを組み合わせて活用します。本人の声、周りの声、ファクト情報をバランスよく使うことは意識しています。

それらのデータを有効活用するには、目的に合わせてさまざまな切り口から分析することです。たとえば、ある1人の営業マンのコンディションを知るために、個人のコンディション情報と先月の営業成績のデータを組み合わせてみるとか。ただ、どんなデータと組み合わせてレポート結果を見せるかによって、人事や上長の意思決定は大きく変わります。そのため今でも常に試行錯誤を繰り返しながら、現場との密なコミュニケーションを大切にしていますね。

現場との密なコミュニケーションを大切に

GEPPOなどのアンケートを行う際、社員の方から本音のデータを汲み取るために意識されていることは何ですか?

向坂氏:「データを収集しているよ感」を出さないことですね。GEPPOはデータを集めるツールではなくて、「人事と社員とのコミュニケーションの場」という意識で運用しています。そのためアンケート画面の一番上には人事の顔写真とコメントを入れているんです。たとえば4月なら、「新入社員が入ってきたので現場が盛り上がっていますね」というコメントを入れたりしますね。

あと社員がアンケートに書いてくれたコメントにはできる限り人事から返信します。もちろん機械的にではなく、手でちゃんと打ち込んで。悩み相談にはもちろん答えますし、「今年も頑張ります」とチャレンジの宣言をしている社員には「応援していますね」と返しています。

このように、アンケートの運用では「人事が話を聞いてくれている」空気感を大事にしていますね。「データを集めるから情報をここに入力してください」と機械的に進める設計にすると記入者は「データが何に使われているかわからない」と怖さを感じてしまう。だからこそアンケートにも、人の温もりを感じる運用を心がけています。

データ分析のイメージがすごく変わるお話です…。取得したデータを活用する際、注意されている点はありますか?

向坂氏:常に気をつけているのは、データは一人歩きしてしまうということ。当社では実施していませんが、たとえば「この人が退職する確率は30%です」という退職予測のデータを出したとします。「確率として30%は低いな」とこちらが感じても、見る人によっては「30%も退職する確率があるならこの人に重要な仕事は任せられないな…」などと、数字の捉え方が大きく変わってしまうんです。しかも一度「退職する確率が30%」というレッテルがつくと中々剥がれない。

そのため、データをフラットな心で見る意識は非常に大切です。さらにデータを提出する際は、数字だけでなくその人のコメントや周りからの評判、顔写真をつけます。これは「退職率30%の人の話をしているんじゃなくて、あなたの知っているAさんの話なんですよ」と、人の情報を扱っているんだということを意識してもらうために。私は3年間データと向き合ってきましたが、数字を扱うことはいまだに怖いんですよ。「自分が今見ているのは1行のデータではなくて、1人の人生にかかわることなんだ」という感覚は常に持つようにしています。

最終目標は人材科学センターがなくなること

データを活用したい企業はまず、どんなことから始めればよいのでしょうか?

向坂氏:まずは試しに手元のデータをまとめてレポートを出してみることです。人事は絶対、何かしらのデータを持っているんですよ。面接の評価情報や異動の履歴情報、社員の基本的な属性とかもありますし。

最終目標は人材科学センターがなくなること

なかでも最初に集めると良いのは、組織の課題に関連しているデータです。たとえば「若手が最近すごく辞めている気がするんだけど、実際にどれほど退職しているか確認しよう」と、退職率を年次毎に分けてデータを集計してみるとか。感覚で捉えていることを事実で確認すると意外な気づきを得ることができます。課題に関連した数字を見ることで、データの利点をより感じられるんじゃないかと思います。

データ活用の取り組みには色んな部署との連携が必要だと思うのですが、社内の協力体制を得るために大切なポイントはありますか?

向坂氏:2つありますね。まず1つは「どういう人がその仕事をやるか」ということ。データ分析の担当者に向いているのはデータ分析のプロよりも、「社内に精通している人」だと私は感じます。社内に知り合いが多いと、協力を呼びかけるお願いがしやすいですから。データ分析のプロみたいな人をいきなり入れるよりも、実は早道なのかなと。

もう1つは「アウトプットをし続けること」です。人材科学センターが立ち上がった当初、実は「データがほしい」というニーズは社内にありませんでした。「一方通行だな」という思いを抱えながらも色んな現場にレポートを出し続けていたんです。けれども不思議なもので、1年ぐらい経つと「前にこういうデータを見せてもらったけど、こういう切り口のデータはありませんか?」「今度役員と議論をするのでこういうレポートがほしいんです」というオーダーが急に舞い込むようになりました。一度流れができたらしめたもの(笑)、「現場でデータをもっと活用したい」というニーズがどんどん広まりましたね。だからまず、心が折れないことが大切です。

心が折れないこと

あと絶対にやってはいけないのは「我々はデータ分析の専門部署です」と閉じた組織になってしまうこと。現場を理解しないと机上の空論になってしまいますし、データをもとに言いたいことだけ言うご意見番のようなポジションになると、現場と距離感が生まれてしまう。それでは本末転倒です。現場とのやり取りは密にしておくことが大原則ですね。

最後に、人材科学センターの今後の展望を教えてください。

向坂氏:採用にデータを活かす取り組みも少しずつ始めています。最適な採用ルートは何か、どの面接官が合っているのか、面接のプロセスが正しく行われていたのかなど、採用手法の PDCA を回す部分でもデータを参考にしています。

そして最終的に目指しているのは、人材科学センターが無くなることです。私たちは人材科学センターのメンバーを増やして組織がどんどん拡大していくことはイメージしていないんですよ。それよりもここは「ハブ」だと思っています。あくまでもデータを集める最初のきっかけづくりの場所。最終的には人材科学センターを通さなくてもデータを見ることができ、データの活用方法もわかっている状態にしたいですね。専門部署が行うのではなくて、人事全体で当たり前のようにデータを扱えるようになる、それが理想的な人事の姿だと思うのです。
センターがなくなること

【取材後記】

「社内の人材配置にデータを活用する」
そう伺ったとき、客観的データをもとに淡々と意思決定を進めていく人事の姿をイメージしました。しかし向坂さんに話を聞く中でイメージは一変しました。さまざまな部署と綿密に議論を重ねる、毎月のアンケートに体温を宿らせる、社内の信頼を獲得するためにアウトプットを出す。そこには愚直なまでにコミュニケーションを取り続ける人事の姿が想像できました。

データを活用するのも、データを提供するのも人です。さらにデータに基づいた意思決定は1人の人生を変えるかもしれない。そんな危機感と覚悟を持ってデータと人に向き合うことが大切なのかもしれません。

(取材・文/田中 一成(プレスラボ)、撮影/黒羽 政士、編集/檜垣 優香、齋藤 裕美子)

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