入社後のギャップが離職を高める1番の要因!?4年連続で社員定着率100%を達成した「ヤングボード制度」とは

ユーザックシステム株式会社

人事部
樋野 文人(ひの・ふみと)

プロフィール
ユーザックシステム株式会社

マーケティング本部
大川 結以(おおかわ・ゆい)

プロフィール

高齢化で労働人口が年々減少していく中、企業の人手不足は深刻化している。その一方で、新入社員は入社3年のうちに、およそ3分の1が離職するといわれ、人材の流出を防ぎ、定着率を高めることは企業にとって重要な課題となっている。

では、若手社員の帰属意識を高めて成長を促し、定着してもらうにはどうすれば良いのか。

2017年から4年連続で「社員定着率100%」という数字を達成したユーザックシステム株式会社(本社:東京都中央区、代表取締役社長:小ノ島 尚博)には、若手の意見を取りまとめ、さまざまな制度として業務運営に反映させる「ヤングボード制度」という仕組みがある。この制度を通じて、若手社員は自分自身が働きやすい環境を作るプロセスに関与しているという。

ユーザックシステムの制度や業務改善の取り組みについて、同社で組織組成や制度設計に携わる樋野文人氏(以下、樋野氏)、大川結以氏(以下、大川氏)に話を伺った。


積極的な業務改善への提言が行われる社内環境の醸成

――ユーザックシステムの概要と主な事業内容を教えてください。

樋野氏:当社は主にBtoBのパッケージソフトを開発・販売・サポートをしている会社で、今年で52期を迎えました。東京と大阪に拠点があり、約140人の従業員に支えられています。伝票発行ソリューションシステム「伝発名人」など、お客さまの業務改善に特化したパッケージソフト(名人シリーズなど)を販売しています。

かつては流通業に関連するメーカーや商社、倉庫業といったお客さまが多かったのですが、RPAシステム(*1)を開発したところ、世の中の働き方改革の流れもあり、17、18年前からは金融業界や自治体などのお客さまも増えてきました。

RPAシステムを含むDX(デジタルトランスフォーメーション/Digital Transformation)の一連の流れは、大企業での導入が一巡し、現在は中堅・中小企業が取り組んでいるという状況です。コロナ禍以降では、商品を発送する荷主やメーカーが、当社のような会社にコスト削減を目的とした「仕組み改善」を相談されるケースが増えています。

(*1)RPAシステム:Robotic Process Automationの略で、人が行う業務をソフトウエアなどで自動化するテクノロジーを使ったシステムのこと

若手の意見を働き方に反映する「ヤングボード制度」で定着率100%を達成

――4年連続「新卒定着率100%」という数字の裏には「ヤングボード制度」という制度があると耳にしました。どのような制度なのでしょうか。

大川氏:ヤングボード制度(以下、YB)は、今から約20年前に立ち上がったもので、従業員にとってより働きやすい職場環境づくりをするために、会社に対してさまざまな施策や制度を提案するのが主な活動です。時には全社アンケートを取り、社員の意見をまとめるようなこともしています。

私は入社4年目にYBに参加し、今はYBのリーダーを務めています。制度名には「ヤング」とありますが、入社5年~10年目くらいの若手・中堅の社員が、立候補や推薦により、さまざまな部署から集まっています。

――YBが発足した背景を教えてください。

樋野氏:お客さまに業務改善や効率化のためにシステムの提案をするに当たって、「では自分たちはどうなんだ」と問題意識を持ったことがそもそもの始まりです。

約30年前にさかのぼりますが、当時のユーザックシステムは書類管理もずさんで、決して業務効率化が果たされているとは言い難い状態でした。そこで外部のコンサルタントに依頼をして、「C-21活動」という業務改善活動に取り組んだのです。

この活動は一般に言う「5S活動(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)」のようなものも含むのですが、営業や管理本部など、部門ごとに課題を定めて取り組み、結果を発表するということを行っています。

この活動を通じて、工数削減や売上拡大見込みなどの「業務改善ポイント」を見つけ、それを数字で表すということも重視しています。提案力向上の訓練になりますし、業務上の改善点に気づく力を養うという意味でも、この活動は有効に機能していると思います。

――意識の高い一部の人だけではなく、誰もが提言できる環境が整えられたというのが素晴らしいですね。

大川氏:YBを設立してくださった先輩方のおかげというのも大いにあると思います。また、C-21活動においては「改善提案書」の提出が課されており、社員全員が常に改善意識を持ち、会社に提案することが当たり前の文化をつくり上げてきました。

きさくに若手の意見を聞いたり、向き合う時間を取ってくれたりする文化が社内にあるため、提言や発言をちゅうちょしたことはありません。この制度があることで、言いたいことは言う、改善したいことは提案するという空気ができ、みんなの意見を聞くことができているのだと感じます。

――YBを通じてつくられた制度には、ほかどのようなものがありますか。

大川氏:テレワークデーを設定するなどした「テレワーク制度」や、ラフな服装で出社できる「カジュアルデー」、それに「コワーキングスペース制度」などがあります。

コワーキングスペース制度は最近新設された制度で、駅やサテライトオフィスのような場所の利用料を会社が負担するというものです(上限額あり)。自宅や事務所など、同じ場所で仕事をするよりもリフレッシュできるということで、制度化されました。

また、私がYBに入る前は「土曜当番」といって、土曜日に出社することがあったのですが、これもYBの提案によって廃止となりました。


定着率を高めるための工夫ポイントは「●●」と「●●」!?

――「メンター制度」などもありますね。

大川氏:私はユーザックシステムの中で、初めてメンターを付けてもらった新人社員でした。そして、その制度は現在も続いています。

樋野氏:当初は「1年目の若い社員に対して直近の先輩を付ける」という形でスタートしました。その後、2年目以降の社員にも拡大して1年間運用してみました。

2年目の社員になると具体的な業務の悩みが増えてきます。すると、「部署の違う先輩に話しても噛み合わない」、「忙しくて時間が取りづらい」という声も聞こえてきました。そこで効果測定をし、メンター制度は1年目の若い社員に特化した制度となりました。

――さまざまな制度の中で、最も大きな社内変化があったものについて教えてください。

樋野氏:定着率という点においては、メンター制度が非常に効果的だと感じています。メンティーとなる1年目社員の不安が減ることはもちろん、メンターが上司に報告する仕組みにより、新入社員からのアラートや、少し辛そうな人がいるということなどを、会社が察知できるようになりました。早い段階で新入社員のフォローができるということは、定着率においてとても重要なことです。

また、採用担当の立場としては、入社時のギャップをできるだけ少なくすることも大切だと感じています。そのためにも、採用活動の中で「嘘をつかないこと」に留意しています。

大川をはじめとする先輩社員にも、面談で採用候補者と話してもらうことがあるのですが、「会社のことを良く言う必要はない。実際にどうなのかというところを話してほしい」と伝えています。

候補者の方には当社の実情を知ってもらい、それでもなお働きたいという方に入社いただいていることが、離職防止につながっているのではないかと思います。採用の段階では、ここが一番気を付けているところです。

――ギャップが原因で離職される方がいるとしたら、どういった点が理由に挙げられるのでしょうか。

樋野氏:最近では入社後ギャップを原因に辞める人がいないのでなんとも言えないのですが、「入社前に話を聞いて、自分ではやれそうだと思っていたけれども、実際に仕事を始めてみると思い描いたとおりになかなかうまくいかない」、という理由で退職に至ることはまれにあります。

働いている社員のイメージにギャップがあったという声は聞いたことがないので、その部分では成功しているかなと思います。

メンター制度では年の近い先輩社員をメンターにアサインしているので、仕事の進め方で不安がある時などはすぐに相談しやすい雰囲気をつくっています。いわゆる心理的安全性の確保です。メンターは後輩社員が感じるギャップを埋めたり、不安感を軽減させたりするなど、新人がうまく育つ道標を付けていってくれているようです。

――育成において、上司や先輩社員向けの研修制度、社内ルールなどはありますか。

大川氏:入社1年目から3年目までの若い社員には「業務のスキルチェックシート」というものを用意しています。これは「1年ごとにこういうスキルを身に付けましょう」というもので、本人が書いた後に、上司や部門長がフィードバックする機会を設けています。新入社員は、自分の仕事ぶりが正しいのかどうかが気になるものですので、自分の成長を感じてもらうきっかけになればと願っています。

私はメンティーとして先輩にケアしていただいた経験もありますが、その後3年間、メンターとして後輩のケアをした経験もあります。どちらかというと、メンターをする側のほうが勉強になることが多かったように思います。

後輩をどうフォローしてあげればよいか、他部門では何が起きていて、課題に対してどう対処すればよいのかなどと、さまざまなことを考えさせられる非常に貴重な経験でした。メンター制度は、メンター、メンティー双方にメリットがあるようです。

――求職者の方に、ユーザックシステムの魅力をどのように伝えていますか?

樋野氏:業界を知る方から見ると、自社開発のパッケージを商品として持っているところは魅力に感じていただける点だと思います。また、RPAなど、時代の先端を行くような話題性あるツールを扱うことができるのも楽しい部分です。

特に新卒や若いキャリア採用の方には、働き方改革に関わるRPAツールを作っていることや、自社の働き方を改善するYBについても伝えています。


「納得できる働き方」を実現するために、会社としてできることを

――昨今、SGDsやダイバーシティー、人的資本経営のような言葉を聞きます。これらのキーワードで取り組まれていることはありますか?

大川氏:YBではメインテーマにESG(環境・社会・ガバナンス)を挙げています。ESGの中で、G(ガバナンス)については経営陣に任せていますが、E(環境)については名刺の素材や社内で使用する用紙全て、環境に配慮したものを利用することが昨年の経営会議で採択されました。

また、お客さまにソフトウエアをお届けする際にお送りしていたCDを全てデジタル媒体に変え、プラスチックの廃棄物を減らすなどの活動にも取り組んでおります。

S(社会)においては、2年後の「くるみんマーク(*2)」申請・取得を目指しています。女性社員はもちろん、子どものいる男性社員も働きやすい制度を作っていこうと、残業時間の削減と有給休暇の取得推進に向けて、制度を会社に提言したところです。

(*2)くるみんマーク:「子育てサポート企業」として一定の基準を満たした企業に厚生労働大臣から与えられる認証のこと

――有給休暇については、時間有給制度を設けられたそうですね。

大川氏:時間有給制度は、SDGsという言葉が社会に出てくるかなり前から話題に上がっていました。なるべく多くの有給休暇を取得できるように、例えば保育園のお迎えや子どもが急に体調を崩した時などに、フレキシブルに有給休暇が取れるようにしたいというのが目的です。以前は半日単位でしか取得できなかったのですが、1時間単位で取れるように制度改定しています。

YBとしては、女性が働きやすい職場づくりと同時に、男性社員の育児休暇取得を推進したいと模索しています。最近は育休を数カ月取得する男性も出てきましたが、まだ100%ではありません。「産後パパ育休」などの国の制度も活用しながら時代の流れに乗り、お父さん世代の男性が育休を取りやすくなるよう、活動を推進していけたらと考えています。

――働きやすい職場、環境、社会とはどういうものなのか、考えをお聞かせください。

樋野氏:目指すべき姿は「働きがいのある社会」ですが、基本的に働きがいとは会社が与えてくれるものではなく、自分自身で見つけていくものだと思っています。会社の制度や機会をうまく利用してやりたいことを選び取り続ければ、いい人生につながるのではないでしょうか。
仕事そのものを楽しめればベストですから、働きがいのある会社づくりを通して、働きがいのある社会の一員になれればと考えています。

大川氏:働き方改革とは、「納得感ある働き方」に改善していくことと捉えています。仕事が楽しい時ほど忙しいということもあり、残業が必ずしも悪いとは限りません。重要なことは、当人が納得できているかどうか、ではないでしょうか。

納得がいかない、ふに落ちないことがあれば会社に提言し、ギャップを減らしていくことが良い働き方かなと思っています。

――「納得できる働き方」を実現するために、会社としては何ができるでしょうか。

樋野氏:会社としてできることは、さまざまな選択肢を用意することや、希望が持てる明るい未来をつくり続けていくことでしょうか。

大川氏:YBとしては、意見がたくさん集まるように間口を広げ、なるべく良い提言にまとめて会社に提案し、社員全員のギャップや納得ができていない点を減らしていく活動を続けたいと思っています。

今は若手の定着率が世の中でも注目されていますし、私も社内では若いほうなので、困っている後輩の意見を聞くことが多くあります。若手社員の意見を吸い上げる他、ベテラン社員の考え方を伝えたりすることも大切です。引き続き社内の声に耳を傾けつつ、社外の情報も取り入れながら意見をまとめていきたいと思います。

【取材後記】

社員の離職率を抑え、定着率を高めるために企業は何ができるのか。業務改善のソフトウェアを開発・販売するという事業を営むが故に、自らにも不断の業務改善努力を課すユーザックシステム。その取り組みは、企業の誠実さから生まれているという印象を持った。
制度が生まれ、改善を繰り返しながらより良い形で定着していく。これを実現するには、働く環境を改善する「ヤングボード」の活動と、若手社員の声に真摯(しんし)に耳を傾ける経営陣の歯車がうまく噛み合うことが肝要だ。「制度」が生きたものになっているのは、それを動かす人の思いがきちんと反映されているからこそなのだろう。

企画・編集/鈴政武尊・d’s JOURNAL編集部、制作協力/シナト・ビジュアルクリエーション

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