変形労働時間制とは?1カ月・1年の労働時間と残業代の計算方法を解説
変形労働時間制とは、一定の期間内での所定労働時間を柔軟に調整できる制度のことです。同制度を活用すれば、残業時間の削減や従業員のワーク・ライフ・バランスの向上につながるため、近年では導入を検討する企業が増えてきています。
本記事では、変形労働時間制の概要をはじめ、導入した際の残業時間の考え方やメリット・デメリットなどを解説します。制度の導入や運用に当たっての参考として、ぜひ最後までご覧ください。
変形労働時間制を導入・運用する際は、制度内容を就業規則に適切に反映することが重要です。就業規則の記載内容を整理する際は、以下のテンプレートを資料ダウンロードしてご活用ください。
変形労働時間制とは
変形労働時間制とは、労働基準法で定められた法定労働時間を一定期間の平均で満たせば、所定労働時間を柔軟に設定できるという制度です。これにより、繁忙期には所定労働時間を長く、閑散期には短くなど、業務量の変動に応じた調整が可能となります。
変形労働時間制は、労使協定または就業規則等において定めることにより、一定期間を平均し、1週間当たりの労働時間が法定の労働時間を超えない範囲内において、特定の日又は週に法定労働時間を超えて労働させることができます。
(参照:厚生労働省『労働時間・休日』)
変形労働時間制では、1年単位・1カ月単位・1週間単位で所定労働時間を設定できます。
例えば、一定の要件の下では、ある週の所定労働時間が法定労働時間を超えていても、ほかの週で調整すれば、総労働時間を法定範囲内に収められるというわけです。
なお、変形労働時間制を導入するには、就業規則の改定や労使協定の締結などを行った上で、各制度に応じた労働基準法上の要件を満たす必要があります。
変形労働時間制と裁量労働制の違い
変形労働時間制と混同されやすい制度に、裁量労働制というものがあります。両者の主な違いは、以下のとおりです。
【変形労働時間制と裁量労働制の違い】
| 変形労働時間制 | 裁量労働制 |
|---|---|
| 法定労働時間を超えてはならない | 法定労働時間を超える可能性がある |
| 一定期間の平均で法定労働時間を満たせば良いので、1日8時間以上はたらいても問題ない | 所定労働時間は「みなし労働時間」で評価されるため、実労働時間が1日8時間を超える場合がある |
| 労働者の裁量で所定労働時間を決められない | 労働者の裁量で所定労働時間を決められる |
変形労働時間制では、一定期間を平均して法定労働時間の枠内に収めることを前提に、特定の日や週に1日8時間を超える労働が認められます。
ただし、あくまでも法定労働時間の枠内で調整しなければならないため、期間全体で法定労働時間を超えてはなりません。また、所定労働時間の配分はあらかじめ企業側が定めるものであり、労働者の裁量によって決められるものではありません。
一方、裁量労働制は「みなし労働時間制」の一種であり、実際の労働時間にかかわらず労使で定めた時間を労働したものと見なす制度です。
例えば、みなし労働時間を1日8時間に設定した場合、実労働時間に関係なく所定労働時間は「8時間」として扱われます。業務の進め方や時間配分は労働者の裁量で決められるため、はたらき方の自由度が高い点が特徴です。
変形労働時間制と比較しながら裁量労働制への理解を深めたい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。
(参考:『裁量労働制とは?メリット・デメリット、導入方法と運用の注意点を解説』)
変形労働時間制とシフト制の違い
ここまでの内容を踏まえて、変形労働時間制とシフト制の違いも押さえておきましょう。
シフト制とは、時間や曜日ごとに従業員が交代ではたらくことを前提とした勤務形態及び管理手法です。管理者が従業員の希望や業務の状況を考慮しながら、一定期間のシフト表を作成して所定労働時間を割り当てます。
変形労働時間制とシフト制は、所定労働時間を柔軟に設定できる点で混同されることがありますが、実際には役割が異なります。
変形労働時間制が繁閑に応じて所定労働時間を調整するための「法的な制度」である一方、シフト制は「誰が・いつはたらくか」を具体的に割り振り管理する「勤務形態および管理手法」です。
変形労働時間制の種類
変形労働時間制は、対象期間の違いや内容に応じて4種類に分けられます。
【変形労働時間制の種類】
●1年単位の変形労働時間制
●1カ月単位の変形労働時間制
●1週間単位の変形労働時間制
●フレックスタイム制
ここでは、それぞれの制度の特徴を解説します。
1年単位の変形労働時間制
1年単位の変形労働時間制は、1カ月を超え1年以内の一定期間を平均して1週間あたりの労働時間が40時間を超えない範囲において、特定の日に8時間、特定の週に40時間を超えて労働させることができる制度です。
同制度の特徴は、1年間の業務の繁閑に応じて所定労働時間を配分できることです。繁忙期には1日10時間程度の所定労働時間を設定し、閑散期には短時間勤務とするなど、年間を通じた柔軟な運用が可能となります。
特に、一定の時期に業務が集中する業種や、季節によって業務量に差が生じる職種に適しているといえるでしょう。
なお、制度の運用にあたっては、守らなければならない法令上の制約があります。具体例としては、「年間の労働日数は280日以内」「1週間の所定労働時間は52時間以内」「1日の所定労働時間は10時間以内」「連続勤務日数は原則として最長6日まで」などが挙げられます。
なお、労働日数の上限が適用されるのは、対象期間が3カ月を超える場合に限られます。対象期間が1年であれば上限は280日、1年未満の場合は「280日×(対象期間の暦日数÷365)」で期間に応じた上限日数を計算します。
(参照:厚生労働省『1年単位の変形労働時間制』)
1カ月単位の変形労働時間制
1カ月単位の変形労働時間制では、1カ月以内の一定期間を対象に、週の平均が40時間を超えない範囲で所定労働時間を調整できます。なお、以下の特例措置対象事業場は1日8時間、週44時間までです。
特例措置対象事業場とは次に掲げる業種に該当する常時10人未満の労働者を使用する事業場です。
商業 接客娯楽業 映画・演劇業 映画の映写、演劇、その他興業の事業 保健衛生業 病院、診療所、社会福祉施設、浴場業、その他の保健衛生業 接客娯楽業 旅館、飲食店、ゴルフ場、公園・遊園地、その他の接客娯楽業 (引用:厚生労働省『法定労働時間』)
1カ月の業務量の増減に応じて所定労働時間を配分できるため、月内で繁閑差が生じやすい業務に適した制度といえます。
対象期間の週平均労働時間は40時間以内に収める必要がありますが、1日単位および1週間単位での所定労働時間の上限は、一律には定められていません。
(参照:厚生労働省『1か月単位の変形労働時間制』)
1週間単位の変形労働時間制
1週間単位の変形労働時間制は、日ごとの業務に著しい繁閑があり、事前に労働時間を特定することが困難な小規模事業場の便宜を図るための制度です。導入できるのは、常時使用する労働者が30人未満の小売業・旅館・料理店・飲食店に限定されています。
同制度では、1週間の平均労働時間を40時間以内とすることを条件に、1日10時間まで労働させることが可能です。週の前半に1日10時間の勤務を集中させ、後半を休日とするなど、業務状況に応じた所定労働時間の調整ができるため、所定労働時間をあらかじめ固定しておくことが難しい業務に適した制度といえるでしょう。
運用上の特徴として、各日の労働時間は当該週が始まる前に書面で通知する必要があり、緊急かつやむを得ない場合には前日までの変更通知も認められています。
なお、前述した、10人未満の事業場であっても、この制度を導入する場合は週40時間制が適用される点に注意が必要です。所定労働時間の上限(1日10時間・週40時間)を超えて労働させた場合は、残業代の支払いが必要となります。
(参照:厚生労働省『1週間単位の非定型的変形労働時間制(法第32条の5)』)
フレックスタイム制
フレックスタイム制も、変形労働時間制の一つに含まれます。
フレックスタイム制とは、3カ月以内の一定期間(清算期間)における総労働時間をあらかじめ定めておき、従業員がその範囲内で各日の始業・終業時刻を自主的に決定できる制度です。
一般的には、必ず勤務する時間帯の「コアタイム」と、出退勤時刻を柔軟に調整できる「フレキシブルタイム」を組み合わせて運用されます。例えば、コアタイムを10時~16時に設定した場合、それ以外の時間帯については従業員が自ら所定労働時間を調整できます。
また、企業の判断によってはコアタイムを設けず、全ての時間帯をフレキシブルタイムとした運用も可能です。
(参照:厚生労働省『1 フレックスタイム制とは』)
フレックスタイム制の導入方法や労働時間の考え方について詳しく知りたい方は、以下の記事で詳しく解説しています。
(参考:『フレックスタイム制を簡単解説!調査に基づく84社の実態も紹介』)
自社に合う変形労働時間制の選び方
変形労働時間制は、種類ごとに特徴が異なるため、自社の業務内容や運用体制に適した制度を選ぶことが重要です。そこで本項では、自社に合う変形労働時間制の選び方を解説します。
【自社に合う変形労働時間制の選び方】
●日ごと・週ごとの繁閑差が大きい場合
●月ごと・季節ごとに繁忙期がある場合
●忙しさの波が比較的少ない場合
日ごと・週ごとの繁閑差が大きい場合
特定の日、または週に業務量が偏る場合には、1カ月単位の変形労働時間制を導入することをお勧めします。この制度を活用すれば、週の中で忙しい日には所定労働時間を長めに設定し、比較的余裕のある日には短くするなど、1日単位や1週間単位で柔軟に配分できます。
月ごと・季節ごとに繁忙期がある場合
特定の月、あるいは季節に業務が立て込む場合は、1年単位の変形労働時間制が効果的です。繁忙期と閑散期のバランスを考慮して所定労働時間を設定することで、年間を通じて効率的なはたらき方を実現できます。
忙しさの波が比較的少ない場合
業務量に大きな変動がない業種・職種では、変形労働時間制を導入しないことも選択肢の一つです。その場合は、完全週休2日制を維持したり、土曜日の所定労働時間を半日にしたりといった運用を検討すると良いでしょう。
変形労働時間制の残業時間・残業代の考え方
変形労働時間制の種類や選び方を把握できたところで、ここからは各制度の残業時間・残業代の考え方を見ていきましょう。
【変形労働時間制の残業時間・残業代の考え方】
●1年単位の場合の残業時間・残業代の考え方
●1カ月単位の場合の残業時間・残業代の考え方
●1週間単位の場合の残業時間・残業代の考え方
1年単位の場合の残業時間・残業代の考え方
1年単位の変形労働時間制の残業時間・残業代は、以下の基準1.~3.の考え方に基づいて算出します。
【1年単位の場合の残業時間・残業代の考え方】
| 基準1.日ごとで考える (所定労働時間が8時間を超えている日) |
●所定労働時間が「8時間を超えている日」の場合、所定労働時間を超えてはたらいた時間が残業時間となる ●所定労働時間が「8時間以内の日」の場合は、8時間を超えてはたらいた時間のみを残業時間と見なす |
|---|---|
| 基準2.週ごとで考える (所定労働時間が40時間を超えている週) |
●所定労働時間が「40時間を超えている週」の場合、所定労働時間を超えてはたらいた時間が残業時間となる ●所定労働時間が「40時間以内の週」は、40時間を超えてはたらいた時間のみを残業時間と見なす ●ただし、「日ごとの基準」で残業となった時間は、週ごとの基準では計算から除外される |
| 基準3.設定期間全体(1年間)で考える | ●期間全体の法定労働時間を超えてはたらいた時間が残業時間となる ●ただし、「日ごとの基準」「週ごとの基準」で残業となった時間は、期間全体の基準では計算から除外される |
(参照:厚生労働省『1年単位の変形労働時間制導入の手引』)
なお、以下の厚生労働省の資料では、企業が設定した期間中に退職・採用となった場合の計算方法も確認できます。
(参照:厚生労働省『1年単位の変形労働時間制』)
1カ月単位の場合の残業時間・残業代の考え方
1カ月単位の変形労働時間制でも、1年単位と同様、「日ごと」「週ごと」「月全体」の3つの基準に基づいて残業時間・残業代を算出します。
【1カ月単位の場合の残業時間・残業代の考え方】
| 基準1.日ごとで考える (所定労働時間が8時間を超えている日) |
●所定労働時間が「8時間を超えている日」の場合、所定労働時間を超えてはたらいた時間が残業時間となる ●所定労働時間が「8時間以内の日」の場合は、8時間を超えてはたらいた時間のみを残業時間と見なす |
|---|---|
| 基準2.週ごとで考える (所定労働時間が40時間(44時間)を超えている週) |
●所定労働時間が「40時間(44時間)を超えている週」の場合、所定労働時間を超えてはたらいた時間が残業時間となる ●所定労働時間が「40時間(44時間)以内の週」は、40時間(44時間)を超えてはたらいた時間のみを残業時間と見なす ●ただし、「日ごとの基準」で残業となった時間は、週ごとの基準では計算から除外される |
| 基準3.設定期間全体(1カ月)で考える | ●月ごとの法定労働時間を超えてはたらいた時間が残業時間となる ●ただし、「日ごとの基準」「週ごとの基準」で残業となった時間は、月全体の基準では計算から除外される |
(参照:厚生労働省『1か月単位の変形労働時間制』)
基準2.の「44時間」は、前述した「特例措置対象事業場」に適用される法定労働時間を指します。
(参照:厚生労働省『法定労働時間』)
1週間単位の場合の残業時間・残業代の考え方
1週間単位の変形労働時間制の残業時間・残業代の考え方は、以下のとおりです。
【1週間単位の場合の残業時間・残業代の考え方】
| 基準1.日ごとで考える (所定労働時間が8時間を超えている日) |
●所定労働時間が「8時間を超えている日」の場合、所定労働時間を超えてはたらいた時間が残業時間となる。ただし、本制度では1日の労働時間の上限が10時間と定められているため、10時間を超えた労働は、週の合計が40時間以内であっても時間外労働となる ●所定労働時間が「8時間以内の日」の場合は、8時間を超えてはたらいた時間のみを残業時間と見なす |
|---|---|
| 基準2.設定期間全体 (1週間)で考える |
●法定労働時間の40時間を超えた時間が残業時間となる。なお、本制度を導入する場合、常時10人未満の事業場に認められる「週44時間」の特例措置は適用されず、週40時間が基準となる ●ただし、「日ごとの基準」で残業となった時間は、週全体の基準では計算から除外される |
(参照:厚生労働省『1週間単位の非定型的変形労働時間制(法第32条の5)』)
1週間単位では、「日ごと」と「週全体」の基準を組み合わせて計算することで、正確に残業時間を把握できます。
変形労働時間制における残業管理を正しく理解するには、法定時間外労働の基本も押さえておくことが重要です。
(参考:『【弁護士監修】法定時間外労働は月45時間・年360時間までー正しい知識と割増賃金の算出方法を解説』)
変形労働時間制を導入するメリット
変形労働時間制を導入し、適切に運用すれば、企業や従業員は以下のようなメリットが得られます。
【変形労働時間制を導入するメリット】
●業務量に応じて所定労働時間を最適化しやすい
●残業時間と残業代の抑制につながる
●従業員のワーク・ライフ・バランス向上につながる
●企業イメージが向上する可能性がある
業務量に応じて所定労働時間を最適化しやすい
変形労働時間制を導入すると、業務量に応じた所定労働時間の設定が可能になります。繁忙期に所定労働時間を延長し、閑散期に短縮すれば、従業員の過剰な負担を抑えつつ、必要な労働力を効率的に確保できるでしょう。
例えば、月初に業務が集中する経理部に関しては、月の上旬は1日9時間~10時間勤務と所定労働時間を長めに設定し、業務が落ち着く中旬のタイミングで1日6時間~7時間と勤務時間を短縮することが可能です。
結果として、従業員の心身の健康維持や、業務の生産性の向上につながります。
残業時間・残業代の抑制につながる
設定期間全体で考える場合は、残業時間・残業代を抑えられる点も、変形労働時間制を導入するメリットの一つです。

同制度を適切に活用すれば、例えば、繁忙期に1日の所定労働時間を10時間に設定しても、閑散期に1日の所定労働時間を6時間に設定することで、通常の労働時間内として扱うことができ、残業時間・残業代は発生しません。
そのため、従業員の労働負担を適正化しながら人件費の増加を抑制できます。
従業員のワーク・ライフ・バランス向上につながる
変形労働時間制を導入すれば、従業員のワーク・ライフ・バランスの向上も期待できます。企業が業務の繁閑に合わせてあらかじめ所定労働時間を配分することで、閑散期に労働時間を短縮したり、休日を増やしたりといった運用が可能になります。
これにより、休暇の計画や私生活のスケジュールが立てやすくなることはもちろん、子育てや介護など個別の事情を抱える従業員でも無理なくはたらけるでしょう。
結果として、従業員のワーク・ライフ・バランスの向上に寄与し、はたらきやすい職場環境の形成につながります。
企業イメージが向上する可能性がある
変形労働時間制を導入するメリットとしては、社会や転職希望者に対して「はたらきやすい環境を整えている会社」というイメージを与えられる点も挙げられます。
こうした印象は、自社に適した人材の採用や従業員の定着にも良い影響を及ぼし、企業の持続的な成長に貢献します。
変形労働時間制を導入するデメリット
変形労働時間制を導入するにあたっては、事前に押さえておきたいデメリットもいくつか存在します。
【変形労働時間制を導入するデメリット】
●勤怠管理や給与計算が複雑化する
●従業員の負担が増える
●社内のスケジュール調整が難しくなる
●労働基準法に抵触する可能性がある
以下で、一つずつ見ていきましょう。
勤怠管理や給与計算が複雑化する
変形労働時間制には、いわゆる固定労働時間制と比べて、勤怠管理や給与計算が複雑になりやすい側面があります。これは、月や週、日によって所定労働時間が変動するためです。
特に手作業で管理や集計を行っている場合は、担当者の負担が増大し、入力ミスや計算ミスの発生リスクが高まります。管理体制やシステムが整っていなければ、正確な勤怠管理や給与計算が困難になる可能性があるため、変形労働時間制の導入時には十分な準備と運用ルールの策定が求められます。
変形労働時間制の運用では、労働時間を正確に記録する体制づくりが重要です。
(参考:『出勤簿とは?必要項目や保存期間・作成方法を解説【無料テンプレート付】』)
従業員の負担が増える
変形労働時間制の導入によって長時間勤務が継続した場合、従業員の負担が増す可能性がある点もデメリットの一つに挙げられます。特に人材不足の状況が続く企業では、代わりの人材で業務を補うことが難しく、現場の従業員に過度な負荷がかかってしまうことがあるでしょう。
こうした事態を避けるためには、所定労働時間の見直しや業務量の調整、従業員の健康管理への配慮が不可欠です。
社内のスケジュール調整が難しくなる
特定の部署のみに変形労働時間制を導入すると、他部署と就業時間がずれて、社内会議やミーティングの調整が困難になることがあります。意思疎通の機会が減少すると、部署間の連携や情報共有が滞り、全体の業務効率や生産性に悪影響を及ぼしかねません。
円滑な業務運営のためには、関係部署間での連携を考慮して所定労働時間を調整することが大切です。
労働基準法に抵触する可能性がある
変形労働時間制の管理が不十分だと、法定労働時間を超えた労働につながる可能性があり、労働基準法に違反するリスクも生じます。
就業規則では、所定労働時間や勤務パターンの明確なルールを定め、管理体制を確立することが重要です。適切な運用によって法令順守を徹底し、従業員が安心してはたらける環境を整えましょう。
変形労働時間制の導入方法と手順
ここからは、変形労働時間制を導入する主な流れを紹介します。
【変形労働時間制の導入方法と手順】
1.従業員の勤務実績を調べる
2.制度の対象部署や対象者を決める
3.所定労働時間や対象期間などを決める
4.就業規則を整備する
5.労使協定を締結する
6.労働基準監督署へ届け出る
7.変形労働時間制の導入と社内周知をする
8.適正な運用と給与の支払いをする
1.従業員の勤務実績を調べる
変形労働時間制を導入するには、まず従業員の勤務実績を調べる必要があります。これにより、「残業が多い時期は所定労働時間を増やす」「残業が少ない時期は所定労働時間を減らす」といったように、所定労働時間を適切に配分できるようになります。
2.制度の対象部署や対象者を決める
従業員の勤務実績を調べたら、次に、選択した変形労働時間制を適用する部署や人材を明確化します。業務状況や繁閑の傾向を分析し、制度導入の効果が見込める部署や人材を抽出してください。
特にフレックスタイム制を導入する場合は、他部署との連携に支障が生じないよう、適用対象を慎重に決める必要があります。
3.所定労働時間や対象期間などを決める
変形労働時間制を導入する際は、所定労働時間や対象期間なども事前に決めておかなければなりません。「勤務は1日何時間にするか」「いつからいつまで実施するか」といったことを、明確に設定しましょう。
4.就業規則を整備する
対象者や所定労働時間、対象期間などを決定したあとは、それに基づき、就業規則を整備します。なお、常時10人以上の労働者を使用する事業場では、就業規則に変形労働時間制を採用する旨を記載し、各日の始業・終業時刻、休憩時間、休日等を定める必要があります。
変形労働時間制の導入によって、従業員のはたらき方がこれまでと変わるため、制度内容を漏れなく記載することが大切です。
制度導入後に現場で混乱が起きないよう、就業規則や届出書類の内容を人事・管理職間で共有しておくことも重要です。社内説明や運用準備の参考として、就業規則テンプレートや関連フォーマットを以下から資料ダウンロードしてご活用ください。
変形労働時間制を就業規則に反映する際は、制度内容だけでなく、就業規則全体の記載事項や変更時の届出手順も確認しておくと安心です。就業規則の基本や作成・変更の流れについては、以下の記事で詳しく解説しています。
(参考:『【無料テンプレート付】就業規則とは?記載事項と作成・変更の届け出の手順を解説』)
5.労使協定を締結する
「1年単位」および「1週間単位」の制度を導入する場合、必ず過半数代表者等との書面による労使協定の締結が必要です。
1カ月単位の制度は、就業規則のみでも導入可能です。なお、フレックスタイム制も労使協定により清算期間や総労働時間を定める必要があります。
労使協定で定める主な項目は、以下のとおりです。
【労使協定で定める項目の例】
●対象者の範囲
●対象期間と起算日
●労働日数・所定労働時間
●労使協定の有効期間
定める項目は制度の種類によって異なる場合があるため、労使協定の内容を事前に確認し、必要に応じて就業規則へ反映することが重要です。
6.労働基準監督署へ届け出る
整備した就業規則や締結した労使協定は、労働基準監督署に届け出る必要があります。残業や休日出勤が発生する可能性があれば、併せて36協定も提出しましょう。
なお、就業規則は一度提出すれば、変更がない限り再提出不要ですが、労使協定は有効期間が過ぎる前に再締結しなければなりません。期限を過ぎると、時間外・休日労働が法的に認められなくなります。
7.変形労働時間制の導入と社内周知をする
採用した制度の内容(労使協定や就業規則)は、労働者に周知しなければなりません。周知は適用要件の一つとして位置づけられています。
導入後は、新たな制度に従業員が戸惑わないようしっかりと説明を行い、制度内容の理解を促すことが重要です。
(参照:三条労働基準監督署『就業規則・労使協定は周知が必要です!』)
8.適正な運用と給与の支払いをする
変形労働時間制を導入したあとは、就業規則や労使協定に従って適正に運用できているかどうかを、定期的に確認することが大切です。
また変形労働時間制の導入により、残業時間の考え方も導入前とは変わるため、従業員へ支払う給与を間違えないように慎重に計算しましょう。
変形労働時間制を導入する際の注意点
変形労働時間制の導入にあたっては、法令上の要件や運用上の注意点などを正しく理解しておく必要があります。本項では、同制度を導入する前に押さえておきたいポイントを解説します。
【変形労働時間制を導入する際の注意点】
●労働日数・所定労働時間に上限がある
●勤務シフトや所定労働時間の変更にはルールがある
●制度決定後の変更には制約がある
●別途残業代を算出する必要がある
労働日数・所定労働時間に上限がある
1年単位の変形労働時間制では、年間の労働日数および所定労働時間に上限が設定されています。労働日数の上限が適用されるのは、対象期間が3カ月を超える場合に限られます。
対象期間が1年であれば上限は280日で、1年未満の場合は「280日×(対象期間の暦日数÷365)」で期間に応じた上限日数を計算します。
また、1日の所定労働時間は最大10時間、1週間の所定労働時間は52時間までと定められています。そのほかの細かなルールに関しては、以下の厚生労働省のサイトを確認してください。
(参照:厚生労働省『1年単位の変形労働時間制』)
勤務シフトや所定労働時間の変更にはルールがある
変形労働時間制で定めた勤務シフトや所定労働時間は、原則変更できません。これは、労働基準法の変形労働時間制の項目で、「企業側が業務上の都合で所定労働時間を変更すること」が認められていないためです。
ただし、自然災害や機械の故障、従業員のけがなどの正当な理由がある場合や、労働者の不利益とならない場合は、適切な手続きを経て変更できるケースがあります。
(参照:厚生労働省『改正労働基準法の施行について』)
制度決定後の変更には制約がある
1年単位の制度では、労使協定で定めた対象期間や特定期間を、期間の途中で変更することは認められません。また、就業規則の改定・労使協定の再締結だけでなく、労働基準監督署への届け出も必要です。
別途残業代を算出する必要がある
変形労働時間制を導入していても、あらかじめ定めた範囲を超えて労働させた場合には、残業代の支払いが必要です。
残業代を決定する際は、制度の種類や内容によって、所定労働時間が異なる点に注意しなければなりません。誤った方法で残業時間を算出すると、残業代の未払いや法令違反につながる恐れがあるため、制度に応じた正確な管理が求められます。
変形労働時間制に関するよくある質問
ここでは、変形労働時間制に関する疑問にお答えします。
【変形労働時間制に関するよくある質問】
●変形労働時間制は全従業員に適用する必要がありますか
●変形労働時間制でも残業代は発生しますか
●変形労働時間制でも36協定は必要ですか
●パート・アルバイトにも適用できますか
●1カ月単位と1年単位はどう選べば良いですか
変形労働時間制は全従業員に適用する必要がありますか
変形労働時間制は、全ての従業員に一律で適用しなければならない制度ではありません。就業規則や労使協定で、対象とする労働者の範囲を明確に定めれば、業務量の変動が大きい部署や従業員にのみ適用できます。
変形労働時間制でも残業代は発生しますか
変形労働時間制を導入しても、法定労働時間や所定労働時間を超えて労働させた場合には、残業代の支払い義務が生じます。制度の種類や内容によって所定労働時間が変わるため、残業時間を算出する際は注意が必要です。
変形労働時間制でも36協定は必要ですか
変形労働時間制が適法に運用されている場合、あらかじめ特定された所定労働時間の範囲内であれば、1日8時間・週40時間を超えて労働させても36協定の締結・届出は不要です。
ただし、その特定された所定労働時間を少しでも超えて労働させる場合や、法定休日に労働させる場合には、通常の労働時間制と同様に36協定の締結と所轄の労働基準監督署への届出が必要となります。
そのため、予測不能な業務量の増減が見込まれる場合は、変形労働時間制を導入していても36協定を締結しておくことがほとんどです。36協定がない状態では臨機応変な残業対応ができず、法違反リスクを抱えることになります。
なお、1年単位の変形労働時間制(対象期間が3カ月超)を採用している場合、36協定で定められる時間外労働の限度時間が通常の「月45時間・年360時間」より短く、「月42時間・年320時間」となる点にも注意が必要です。
36協定の締結・届出や特別条項の考え方について詳しく知りたい方は、以下の記事で詳しく解説しています。
(参考:『【弁護士監修】36協定は違反すると罰則も。時間外労働の上限や特別条項を正しく理解』)
パート・アルバイトにも適用できますか
変形労働時間制は、手続きと運用が適正であればパート・アルバイトにも適用可能です。適用するには、就業規則に変形労働時間制に関する規定を設け、必要に応じて労使協定を締結する手続きが必要となります。
ただし、重要な条件があります。変形労働時間制では、単位期間が始まる前に各日・各週の勤務スケジュールをあらかじめ確定させなければなりません。
アルバイトの出勤日を毎週自己申告で決めていく方法は、変形期間中の労働時間があらかじめ特定されているとはいえず、適法な変形労働時間制とは認められません。
また、対象期間の途中で採用・退職したパート・アルバイトについては、1年単位の変形労働時間制では実際に勤務した期間を平均して週40時間を超えた分の割増賃金を支払う清算義務が生じます。1カ月単位の変形労働時間制には明文上の清算規定はありませんが、特定の日・週単位で発生した残業代の支払義務は免れません。
1カ月単位と1年単位はどう選べば良いですか
1カ月単位と1年単位の変形労働時間制は、業務の繁閑の周期や規模に応じて選択すると良いでしょう。1カ月単位は月内で業務量に変動がある場合に適しており、1年単位は特定の月あるいは季節ごとの繁閑差が大きい場合に有効です。
まとめ
業務量の変化に対応しながら柔軟に所定労働時間を調整できる変形労働時間制。残業時間・残業代の抑制、ワーク・ライフ・バランスの実現といった多くの効果が期待できるため、導入する企業が今後さらに増えてくることが見込まれます。
複雑な残業時間の計算方法や必要な手続きなどを十分に理解した上で、制度を導入・運用していきましょう。
変形労働時間制を適切に運用するには、制度内容を理解したうえで、就業規則や必要書類を整備しておくことが大切です。自社の就業規則の見直しや届出書類の準備を進める際は、テンプレートや関連フォーマットを資料ダウンロードしてご活用ください。
変形労働時間制を適切に活用するには、制度運用だけでなく、従業員がはたらきやすい環境づくりの視点も重要です。ワークライフバランス向上の取り組みについては、以下の記事で詳しく解説しています。
(参考:『ワークライフバランスの取り組みとは?基本的な捉え方とポイントを解説』)
(制作協力/株式会社eclore、編集/doda人事ジャーナル編集部)
就業規則フォーマット一式(意見書、就業規則届、就業規則変更届)
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