【社労士監修】キャリアアップ助成金を徹底解説-初めてでも理解できる申請方法-

社会保険労務士法人クラシコ

代表 柴垣 和也(しばがき かずや)【監修】

プロフィール

一定の条件を満たせば、国や自治体から受け取ることができる「助成金」。助成金にはさまざまな種類がありますが、特に労働者のキャリア開発を目的とした「キャリアアップ助成金」が注目されています。今回は、キャリアアップ助成金の概要や、全7コースの受給金額とその要件、申請フローなどを、初めて申請する方にもわかりやすいように、社会保険労務士(社労士)監修のもと解説します。

そもそも助成金とは何か?

助成金とは、企業が国や自治体から受給できる「返済義務のない」お金のことです。企業の資金調達方法の一つとして知られています。企業が資金調達する方法としてこの他に金融機関からの借り入れもありますが、借り入れたお金は返済する義務があります。そのため、返済の義務のない助成金は、企業にとって心理的負担が少ないものだと言えるでしょう。

助成金と補助金との違い

国や自治体から受給できる「返還義務のない」お金には、「助成金」の他に「補助金」もあります。関連省庁や受給対象が異なりますので、確認しておきましょう。

助成金 補助金
関連省庁 厚生労働省、自治体 経済産業省、自治体
主な目的 労働者の雇用促進、教育・研修の実施、待遇改善など 技術開発、産業振興など
受給対象 要件を満たしていれば受給できる 要件を満たしていても、申請先での内部審査を通らなければ受給できない

(参照:『【社労士監修】雇用関連のおすすめ助成金。メリット・デメリットや条件・申請方法とは』)

助成金のメリットとデメリット

助成金にはどのようなメリット・デメリットがあるのかをご紹介します。

助成金を受け取るメリット

助成金の一番のメリットは返済不要だということです。また「雑収入」の扱いになるため、細かい使い道は自由で、事業展開を進める際などに活用すれば企業の成長につながります。受け取った助成金を使って、労働環境の改善などにかかる費用を捻出することもできるため、働き方改革が促されるという効果も期待できます。「助成金を受給できる企業」は「国が定める労働条件を満たす企業」とも言えるため、社会的信用を得ることにもつながるでしょう。

助成金を受け取るデメリット

助成金の一番のデメリットは、申請手続きの大変さです。申請書類の準備には時間や手間がかかることが多く、申請から受給まで2年ほどかかるケースもあります。場合によっては、助成金の要件を満たすための環境整備に、ある程度の時間と費用がかかることもあるでしょう。その他、助成金の種類によっては実際に受け取れる金額が異なるため、注意が必要です。

(参照:『【社労士監修】雇用関連のおすすめ助成金。メリット・デメリットや条件・申請方法とは』)

助成金を受給するための要件。申請を検討する前に知っておきたいポイント

厚生労働省が管轄する助成金にはさまざまな種類がありますが、「共通の要件」を満たす事業主のみが助成金を受け取ることができます。事業主には通常の企業だけでなく、「社会福祉法人」「医療法人」「NPO法人」「学校法人」など公益性の高い団体も含まれます。受給のための「共通の要件」や、申請を検討する前に知っておきたいポイントについてご紹介します。

ポイント①:受給のための「共通の要件」

助成金受給のための「共通の要件」は、厚生労働省が定めています。

【共通の要件】
雇用保険適用事業所の事業主であること
②受給できない事業主に該当しないこと(※)
③支給のための審査協力に応じること(関係書類の提出、実地調査の受け入れなど)
④支給のための審査に必要な書類(就業規則や出勤簿など)を作成・整備・保管していること
⑤決められた期間内に申請を行うこと

(※)「過去に助成金を不正受給している」「労働基準法などの違反がある」といった場合、受給できない事業主に該当するため、助成金を新たに受け取ることはできません。

(参照:厚生労働省『各雇用関係助成金に共通の要件等』)

ポイント②:中小企業の範囲

助成金によっては、「中小企業かどうか」という基準で助成金の内容や申請のための要件が異なります。そのため助成金の申請を検討する際は、「自社が中小企業に該当するか」を確認する必要があります。中小企業の範囲を表にまとめました。

産業分類 資本金の額・出資の総額 項常時雇用する労働者の数
小売業(飲食店を含む) 5,000万円以下 50人以下
サービス業 5,000万円以下 100人以下
卸売業 1億円以下 100人以下
その他の業種 3億円以下 300人以下

(参照:厚生労働省『各雇用関係助成金に共通の要件等』)

ポイント③:生産性要件

「生産性要件」を満たしていると、助成金の金額が増額されます。企業にとってのメリットが大きくなるため、生産性要件について事前に知っておきましょう。ここでは生産性の算出方法と、生産性要件を紹介します。

【生産性の算出方法】
生産性=「付加価値」÷「雇用保険被保険者数」

「付加価値」とは、「営業利益」「人件費」「減価償却費」「動産・不動産賃借料」「租税公課」を全て足したものです。また、「人件費」の対象となるのは「従業員給与」のみで、「役員報酬」は含まれません。

【生産性要件】
①「生産性」が、申請時の3年度前に比べて6%以上伸びていること
②金融機関から一定の「事業性評価」を得ている場合、「生産性」が申請時の3年度前に比べて1%以上(6%未満)伸びていること

(参照:厚生労働省『各雇用関係助成金に共通の要件等』)

生産性要件を満たすためには、生産性を向上させることが大切です。「個人業務の可視化」「タイムマネジメントの可視化」「労働者のスキルアップ」などにより、生産性を向上させましょう。
(参考:『【5つの施策例付】生産性向上に取り組むには、何からどう始めればいいのか?』)

不正受給とならないために気を付けること

不正受給とは、「偽りその他の不正行為により、本来受けることのできない助成金の支給を受け、または受けようとした場合」のことを言います。助成金を不正に受給した場合のみならず、不正に申請した場合も不正行為とされます。万が一、不正受給をしてしまうと「(今回または今後の)助成金の不支給」「請求金の納付」「事業主の名称や不正受給の内容の公表」「違約金(2019年4月から)」といった措置が行われます。また、特に悪質な場合は「刑事告発」となる可能性もあります。社会的信用を失う恐れがあるため、不正受給にならないよう十分注意しましょう。ここでは不正受給にならないためのポイントをご紹介します。

ポイント①:助成金に関する勧誘に注意する

厚生労働省は助成金の不正受給に関して、「厚生労働省や労働局・ハローワークが、特定の事業者に助成金の勧誘を委託することはありません」と注意喚起しています。万が一、「厚生労働省/労働局から委託を受けています」「より高額な助成金を受けられる方法を知っています」といった勧誘があっても、絶対に応じないようにしましょう。「虚偽の申請書の作成」「申請代理人の不正行為」があった場合も、企業側が不正受給の責任を問われることがあるので注意が必要です。
(参考:厚生労働省『助成金に関する勧誘にご注意ください』)

ポイント②:申請段階で迷ったら、専門家や専門機関に相談する

申請段階での不明点をクリアにすることは、不正受給の防止につながります。そのため、申請書類の準備や書き方などに迷った場合は自ら判断せず、専門家や専門機関に相談することが大切です。「社会保険労務士(社労士)」や「労働局」といった専門家・専門機関に助言・判断をお願いしましょう。

キャリアアップ助成金とは?

「キャリアアップ助成金」とは、非正規雇用労働者の社内でのキャリアアップを促進する目的で作られた助成金のことです。キャリアアップ助成金において、非正規雇用労働者とは「有期契約労働者(契約社員など)」「短時間労働者(パート・アルバイト)」「派遣労働者(派遣社員)」のことを指します。こうした非正規雇用労働者の「正社員化」「処遇改善」などを行えば、キャリアアップ助成金を受給することができます。近年、以下のような改正が行われました。

近年の改正内容

【平成30年度の改正内容】
これまであった「人材育成訓練コース」を、別の助成金(人材開発助成金)に統合

【平成31年度の改正内容】
●「賃金規定等共通化コース」:職務評価加算の支給回数を1事業所当たり1回に変更
●「選択的適用拡大導入時処遇改善コース」:1人当たりの支給額引き上げ、申請上限人数の拡充
●「短時間労働者労働時間延長コース」:1人当たりの支給額引き上げ、申請上限人数の拡充

キャリアアップ助成金は全7コース

現在、キャリアアップ助成金は以下の7コースに分かれています。

① 正社員化コース
② 賃金規定等改定コース
③ 健康診断制度コース
④ 賃金規定等共通化コース
⑤ 諸手当制度共通化コース
⑥ 選択的適用拡大導入時処遇改善コース
⑦ 短時間労働者労働時間延長コース

コースによって対象者や条件、受給できる金額が異なります。この後、コースごとに詳細をまとめてご紹介します。

キャリアアップ助成金①:正社員化コース

「正社員化コース」とは、有期契約労働者などを正規雇用労働者などに転換または直接雇用した場合、対象となるコースです。非正規雇用労働者の正社員登用を検討しているようであれば、正社員化コースが適しています。

正社員化コースの内容

概要

対象者 「正規雇用を前提として雇っていない有期雇用労働者など」「6カ月以上継続して雇用している労働者」など、所定の10項目全てに該当する労働者
受給条件 以下のいずれかの条件を満たした場合、助成金を受け取れる
①有期契約労働者を正規雇用労働者または無期雇用労働者に転換する場合、および無期雇用労働者を正規雇用労働者に転換する場合
②派遣労働者を正規雇用労働者または無期雇用労働者として直接雇用する場合
※その他、事業主に関する条件あり
上限人数 1年度1事業所当たり「20人」まで

受給金額

中小企業 中小企業以外
有期→正規への転換 1人当たり57万円
※生産性要件を満たせば72万円
1人当たり42万7,500円
※生産性要件を満たせば54万円
有期→無期への転換 1人当たり28万5,000円
※生産性要件を満たせば36万円
1人当たり21万3,750円
※生産性要件を満たせば27万円
無期→正規への転換 1人当たり28万5,000円
※生産性要件を満たせば36万円
1人当たり21万3,750円
※生産性要件を満たせば27万円

申請フロー

①キャリアアップ計画の
作成・提出
● 雇用保険適用事業所ごとに「キャリアアップ管理者」を配置
●労働組合などの意見を聞いた上で「キャリアアップ計画」を作成し、管轄労働局長の認定を受ける
●「転換・直接雇用を実施する日」までに書類の提出が必要
②就業規則・労働協約などに
転換制度を規定
●就業規則や労働協約、またはこれらに準じるものに転換制度を規定し、改定後の就業規則を労働基準監督署に届け出る
●10人未満の事業所は労働基準監督署への届け出の代わりに、申立書に労働組合などの労働者代表者の署名・押印でも可
※「試験などの手続き」「対象者の要件」「転換実施時期」などの規定が必須
③試験の実施 ●転換・直接雇用をする前に、就業規則などに規定した試験などを実施
④転換や直接雇用の実施 ●転換や直接雇用を行う際、新たな雇用契約書や労働条件通知書を対象となる労働者に交付
●就業規則などの規定通りの労働条件・待遇にする必要あり
●「転換後6カ月分の賃金」が、「転換前6カ月分の賃金」より5%以上増額している必要あり
⑤「転換後6カ月分の賃金」を
支給後、助成金の支給申請
●賃金には「時間外手当」なども含まれる
●「時間外手当」と「基本給」が別の月に支給されている場合、6カ月分の「時間外手当」を支給した日が基準
●人材開発支援助成金(特別育成訓練コース)の対象となる、有期実習型訓練を修了した労働者を正規雇用労働者などに転換・直接雇用した場合、経費助成の追加支給を受ける際には人材開発支援助成金の支給申請が別途必要
●「 転換後6カ月分の賃金」を支給した日の翌日から2カ月以内に支給申請が必要
⑥審査後、助成金の
支給決定
●申請書類に基づき、審査が行われる
●申請状況によっては審査に時間がかかる可能性あり

申請に必要な提出書類

●「支給要件確認申立書」「管轄労働局長の認定を受けたキャリアアップ計画書(写し)」
「労働協約または就業規則その他これに準ずるもの」「新しい雇用契約書または労働条件通知書」「賃金台帳」など、計17種類の書類のうち該当するものを提出
●派遣労働者を正規雇用労働者または無期雇用労働者として直接雇用する場合、上記の他に「直接雇用前の労働者派遣契約書」「派遣先管理台帳」を提出

(参考:厚生労働省『キャリアアップ助成金のご案内』)

キャリアアップ助成金②:賃金規定等改定コース

「賃金規定等改定コース」とは、有期契約労働者などの基本給の賃金規定などを改定し、昇給した場合に対象となるコースです。賃金を上げることで、従業員のモチベーション向上が期待できます。

賃金規定等改定コースの内容

概要

対象者 「増額改定の3カ月以上前から、増額決定後6カ月以上の期間、継続して雇用している有期契約労働者など」「増額改定により、基本給が2%以上(助成額の加算を希望する中小企業の場合は3%以上)昇給している労働者」など、所定の6項目全てに該当する労働者
受給条件 以下のいずれかの条件を満たした場合、助成金を受け取れる
①全ての有期契約労働者などの賃金規定などを2%以上増額改定した場合
②一部の有期契約労働者などの賃金規定などを2%以上増額改定した場合
※その他、事業主に関する条件あり
上限人数 1年度1事業所当たり「100人」まで
受給回数 1年度「1回」のみ

受給金額

【全ての有期契約労働者などの賃金規定などを2%以上増額改定した場合】

中小企業 中小企業以外
対象労働者数が
1~3人の事業所
1事業所当たり9万5,000円
※生産性要件を満たせば12万円
1事業所当たり7万1,250円
※生産性要件を満たせば9万円
対象労働者数が
4~6人の事業所
1事業所当たり19万円
※生産性要件を満たせば24万円
1事業所当たり14万2,500円
※生産性要件を満たせば18万円
対象労働者数が
7~10人の事業所
1事業所当たり28万5,000円
※生産性要件を満たせば36万円
1事業所当たり19万円
※生産性要件を満たせば24万円
対象労働者数が
11~100人の事業所
1人当たり2万8,500円
※生産性要件を満たせば3万6,000円
1人当たり1万9,000円
※生産性要件を満たせば2万4,000円

【一部の有期契約労働者などの賃金規定などを2%以上増額改定した場合】

中小企業 中小企業以外
対象労働者数が
1~3人の事業所
1事業所当たり4万7,500円
※生産性要件を満たせば6万円
1事業所当たり3万3,250円
※生産性要件を満たせば4万2,000円
対象労働者数が
4~6人の事業所
1事業所当たり9万5,000円
※生産性要件を満たせば12万円
1事業所当たり7万1,250円
※生産性要件を満たせば9万円
対象労働者数が
7~10人の事業所
1事業所当たり14万2,500円
※生産性要件を満たせば18万円
1事業所当たり9万5,000円
※生産性要件を満たせば12万円
対象労働者数が
11~100人の事業所
1人当たり1万4,250円
※生産性要件を満たせば1万8,000円
1人当たり9,500円
※生産性要件を満たせば1万2,000円

申請フロー

①キャリアアップ計画の
作成・提出
● 雇用保険適用事業所ごとに「キャリアアップ管理者」を配置
●労働組合などの意見を聞いた上で「キャリアアップ計画」を作成し、管轄労働局長の認定を受ける
●「賃金規定などを増額改定する日」までに書類の提出が必要
②賃金規定などの増額改定の実施 ●新しい雇用契約書や労働条件通知書を対象となる労働者に交付
●実際に対象となる労働者が昇給している必要がある
●賃金規定などを作成・規定し(新たに整備する場合は除く)、増減改定を実施するまでに3カ月以上の運用が必要
③「増額改定後6カ月分の賃金」
を支給後、助成金の支給申請
●賃金には「時間外手当」なども含まれる
●「時間外手当」と「基本給」が別の月に支給されている場合、6カ月分の「時間外手当」を支給した日が基準
●増額改定前よりも基本給や諸手当を減額してはいけない
●「 増額改定後6カ月分の賃金」を支給した日の翌日から2カ月以内に支給申請が必要
④審査後、助成金の支給決定 ●申請書類に基づき、審査が行われる
●申請状況によっては審査に時間がかかる可能性あり

申請に必要な提出書類

●「支給要件確認申立書」「管轄労働局長の認定を受けたキャリアアップ計画書(写し)」「労働協約または就業規則」「増額改定前後の賃金規定」 「増額改定前後の雇用契約書」など、計10種類の書類のうち該当するものを提出
●「職務評価」を実施した場合、そのことがわかる書類を添付

(参考:厚生労働省『キャリアアップ助成金のご案内』)

キャリアアップ助成金③:健康診断制度コース

「健康診断制度コース」とは、有期契約労働者などを対象に「法定外の健康診断制度」を新たに規定し、実際に4人以上が健康診断を受けた場合に対象となるコースです。心身の健康は仕事のパフォーマンスに影響するため、労働者の健康に気を配ることが望ましいと言えます。

健康診断制度コースの内容

概要

対象者 「事業主に雇用されている有期契約労働者など」「雇入時健康診断/定期健康診断/人間ドックを受診する時点での雇用保険被保険者」など、所定の4項目全てに該当する労働者
受給条件 以下の条件を満たした場合、助成金を受け取れる
①有期契約労働者などを対象とした「雇入時健康診断」「定期健康診断」「人間ドック」を労働協約または就業規則に規定した場合
②労働協約や就業規則に基づき、延べ4人以上に健康診断などを実施した場合
③「雇入時健康診断」「定期健康診断」については費用の全額を、「人間ドック」については費用の半額以上を負担することを労働協約または就業規則に規定し、実際に負担した場合
※その他、事業主に関する条件あり
受給回数 1事業所当たり1回のみ

受給金額

中小企業 中小企業以外
受給金額 1事業所当たり38万円
※生産性要件を満たせば48万円
1事業所当たり28万5,000円
※生産性要件を満たせば36万円

申請フロー

①キャリアアップ計画の
作成・提出
● 雇用保険適用事業所ごとに「キャリアアップ管理者」を配置
●労働組合などの意見を聞いた上で「キャリアアップ計画」を作成し、管轄労働局長の認定を受ける
●「健康診断制度を規定する日」までに書類の提出が必要
②就業規則または労働協約に
健康診断制度を規定
●キャリアアップ計画期間中に健康診断制度を規定
●労働基準監督署に改訂後の就業規則を届け出る
●10人未満の事業所は労働基準監督署への届け出の代わりに、申立書に労働組合などの労働者代表者の署名・押印をもらう形でも可
③延べ4人以上への
健康診断の実施
●就業規則や労働協約に基づいて、法的には実施義務のない有期契約労働者などに健康診断を実施
● 雇入時健康診断および定期健康診断制度を規定・実施した場合、それらの診断費用の全額を負担することを規定・実際に負担
●人間ドック制度を規定・実施した場合、費用の半額以上を負担することを規定・実際に負担
④4人以上に実施した月の分の
賃金を支給後、助成金の支給申請
●賃金には「時間外手当」なども含まれる
●「時間外手当」と「基本給」が別の月に支給されている場合、「時間外手当」を支給した日が基準
●「4人以上に実施した月の分の賃金」を支給した日の翌日から2カ月以内に支給申請が必要
⑤審査後、助成金の支給決定 ●申請書類に基づき、審査が行われる
●申請状況によっては審査に時間がかかる可能性あり

申請に必要な提出書類

「支給要件確認申立書」「管轄労働局長の認定を受けたキャリアアップ計画書(写し)」「労働協約または就業規則」「(実施機関の領収書、健康診断結果表など)健康診断の実施記録や実施日を確認できる書類」など、計9種類の書類のうち該当するものを提出

(参考:厚生労働省『キャリアアップ助成金のご案内』)

キャリアアップ助成金④:賃金規定等共通化コース

「賃金規定等共通化コース」とは、有期契約労働者などを対象に、正規雇用労働者と共通の職務などに応じた賃金規定などを新たに作成・適用した場合、対象となるコースのことです。働き方改革の柱の1つである「同一労働同一賃金」を進めたい企業に適しています。

賃金規定等共通化コースの内容

概要

対象者 「共通化した日の前日の3カ月以上前から、増額決定後6カ月以上の期間、継続して雇用している有期契約労働者など」「正規雇用労働者と同一の区分に格付けされている労働者」など、所定の5項目全てに該当する労働者
受給条件 以下の条件を満たした場合、助成金が支給される
①有期契約労働者などに関して、労働協約または就業規則に正規雇用労働者と共通の職務などに応じた賃金規定などを設けた場合
②実際に規定通りの賃金を支払っている場合
※その他、事業主に関する条件あり
受給回数 1事業所当たり1回のみ
加算上限 加算の上限は「20人」まで

受給金額

中小企業 中小企業以外
基礎となる金額 1事業所当たり57万円
※生産性要件を満たせば72万円
1事業所当たり42万7,500円
※生産性要件を満たせば54万円
加算金額
※2人目以降について
対象労働者1人当たり2万円
※生産性要件を満たせば2万4,000円
対象労働者1人当たり1万5,000円
※生産性要件を満たせば1万8,000円

申請フロー

①キャリアアップ計画の
作成・提出
● 雇用保険適用事業所ごとに「キャリアアップ管理者」を配置
●労働組合などの意見を聞いた上で「キャリアアップ計画」を作成し、管轄労働局長の認定を受ける
●「賃金規定などを共通化する日」までに書類の提出が必要
②賃金規定など共通化の実施 ●新しい雇用契約書や労働条件通知書を対象労働者に交付
●共通化前よりも、基本給や諸手当を減額してはいけない
③「共通化後6カ月分の賃金」
を支給後、助成金の支給申請
●賃金には「時間外手当」なども含まれる
●「時間外手当」と「基本給」が別の月に支給されている場合、6カ月分の「時間外手当」を支給した日が基準
●「 共通化後6カ月分の賃金」を支給した日の翌日から2カ月以内に支給申請が必要
④審査後、助成金の支給決定 ●申請書類に基づき、審査が行われる
●申請状況によっては審査に時間がかかる可能性あり

申請に必要な提出書類

「支給要件確認申立書」「管轄労働局長の認定を受けたキャリアアップ計画書(写し)」「労働協約または就業規則」「共通化前後の雇用契約書」など、計10種類の書類のうち該当するものを提出

(参考:厚生労働省『キャリアアップ助成金のご案内』)

キャリアアップ助成金⑤:諸手当制度共通化コース

「諸手当制度共通化コース」とは、有期契約労働者などを対象に正規雇用労働者と共通の諸手当制度を新たに設け、適用した場合に対象となるコースです。賃金規定等共通化コースと同様に、「同一労働同一賃金」の実現につながることが期待できます。

諸手当制度共通化コースの内容

概要

対象者 「共通化した日の前日の3カ月以上前から、増額決定後6カ月以上の期間、継続して雇用している有期契約労働者など」「共通化後6カ月間以上、雇用保険被保険者である労働者」など、所定の4項目全てに該当する労働者
受給条件 以下の条件を満たした場合、助成金が支給される
①有期契約労働者などに関して、労働協約または就業規則に正規雇用労働者と共通の諸手当制度を設けた場合
②実際に規定通りの手当を支給している場合
※その他、事業主に関する条件あり
受給回数 1事業所当たり1回のみ

受給金額

中小企業 中小企業以外
基礎となる金額 1事業所当たり38万円
※生産性要件を満たせば48万円
1事業所当たり28万5,000円
※生産性要件を満たせば36万円
加算金額①
※2人目以降
対象労働者1人当たり1万5,000円
※生産性要件を満たせば1万8,000円
対象労働者1人当たり1万2,000円
※生産性要件を満たせば1万4,000円
加算金額②
※2つ目以降の手当
諸手当1つ当たり16万円
※生産性要件を満たせば19万2,000円
諸手当1つ当たり12万円
生産性要件を満たせば14万4,000円
※加算金額①の条件:加算の対象となる手当は、対象労働者が最も多い手当1つのみ/加算の上限は「20人」まで
※加算金額②の条件:同時に支給した諸手当のみ、加算の対象とする/加算の上限は「10手当」まで

 

申請フロー

①キャリアアップ計画の
作成・提出
● 雇用保険適用事業所ごとに「キャリアアップ管理者」を配置
●労働組合などの意見を聞いた上で「キャリアアップ計画」を作成し、管轄労働局長の認定を受ける
●「諸手当制度を共通化する日」までに書類の提出が必要
②諸手当制度の共通化の実施 ●新しい雇用契約書や労働条件通知書を対象労働者に交付
●共通化前よりも、基本給や諸手当を減額してはいけない
③「共通化後6カ月分の賃金」
を支給後、助成金の支給申請
●賃金には「時間外手当」なども含まれる
●「時間外手当」と「基本給」が別の月に支給されている場合、6カ月分の「時間外手当」を支給した日が基準
●「 共通化後6カ月分の賃金」を支給した日の翌日から2カ月以内に支給申請が必要
④審査後、助成金の支給決定 ●申請書類に基づき、審査が行われる
●申請状況によっては審査に時間がかかる可能性あり

申請に必要な提出書類

「支給要件確認申立書」「管轄労働局長の認定を受けたキャリアアップ計画書(写し)」「労働協約または就業規則」「新しい雇用契約書」など、計9種類の書類のうち該当するものを提出

(参考:厚生労働省『キャリアアップ助成金のご案内』)

キャリアアップ助成金⑥:選択的適用拡大導入時処遇改善コース

「選択的適用拡大導入時処遇改善コース」とは、労使合意に基づく社会保険の適用拡大の措置により、有期契約労働者などを新たに被保険者とし、基本給を増額した場合に対象となるコースです。このコースの適用対象になることで、労働者の待遇改善が期待できます。

選択的適用拡大導入時処遇改善コースの内容

概要

対象者 「事業主に雇用されている有期契約労働者など」「措置該当日の前日から3カ月以上前から引き続き雇用している労働者」など、所定の5項目全てに該当する労働者
受給条件 以下の条件を満たした場合、助成金が支給される
①労使合意に基づき、社会保険の適用拡大の措置を実施した場合
②有期契約労働者などの基本給を増額し、かつ定額支給の諸手当を減額していない場合
※その他、事業主に関する条件あり
上限人数 申請の上限人数は「45人」まで
受給回数 1事業所当たり1回のみ
特記事項 令和2年3月31日までの暫定措置
● 対象労働者が複数人であり、基本給の増額割合が異なる場合は、最も低い増額割合の区分の支給額を適用

受給金額

中小企業 中小企業以外
基本給の増額割合が
3%以上5%未満
1人当たり2万9,000円
※生産性要件を満たせば3万6,000円
1人当たり2万2,000円
※生産性要件を満たせば2万7,000円
基本給の増額割合が
5%以上7%未満
1人当たり4万7,000円
※生産性要件を満たせば6万円
1人当たり3万6,000円
※生産性要件を満たせば4万5,000円
基本給の増額割合が
7%以上10%未満
1人当たり6万6,000円
※生産性要件を満たせば8万3,000円
1人当たり5万円
※生産性要件を満たせば6万3,000円
基本給の増額割合が
10%以上14%未満
1人当たり9万4,000円
※生産性要件を満たせば11万9,000円
1人当たり7万1,000円
※生産性要件を満たせば8万9,000円
基本給の増額割合が
14%以上
1人当たり13万2,000円
※生産性要件を満たせば16万6,000円
1人当たり9万9,000円
※生産性要件を満たせば12万5,000円

申請フロー

①キャリアアップ計画の
作成・提出
● 雇用保険適用事業所ごとに「キャリアアップ管理者」を配置
●労働組合などの意見を聞いた上で「キャリアアップ計画」を作成し、管轄労働局長の認定を受ける
●「労使合意に基づく社会保険の適用拡大措置により、有期契約労働者などを新たに被保険者とし、基本給の増額をする日 」までに書類の提出が必要
②基本額の増額の実施 ●労使合意に基づく社会保険の適用拡大措置により、有期契約労働者などを新たに被保険者とした上で、基本給の増額を実施
●基本給を増額する際、対象労働者に社会保険加入状況および基本給を明記した「労働条件通知書」または「雇用契約書」を交付
③「増額後6カ月分の賃金」
を支給後、助成金の支給申請
●賃金には「時間外手当」なども含まれる
●「時間外手当」と「基本給」が別の月に支給されている場合、6カ月分の「時間外手当」を支給した日が基準
●「 増額後6カ月分の賃金」を支給した日の翌日から2カ月以内に支給申請が必要
④審査後、助成金の支給決定 ●申請書類に基づき、審査が行われる
●申請状況によっては審査に時間がかかる可能性あり

申請に必要な提出書類

「支給要件確認申立書」「管轄労働局長の認定を受けたキャリアアップ計画書(写し)」「基本給の増額前後の雇用契約書など」「対象労働者の出勤状況・出退勤時刻を確認するための書類」など、計9種類の書類のうち該当するものを提出

(参考:厚生労働省『キャリアアップ助成金のご案内』)

キャリアアップ助成金⑦:短時間労働者労働時間延長コース

「短時間労働者労働時間延長コース」とは、短時間労働者の週所定労働時間を延長し、新たに社会保険を適用した場合に対象となるコースのことです。勤務時間の延長により賃金や担当業務が増えることが予想されるため、労働者のモチベーションアップが期待できます。

短時間労働者労働時間延長コースの内容

概要

対象者 「事業主に雇用されている有期契約労働者など」「週所定労働時間を延長した日の前日から過去6カ月間、社会保険の適用外だった労働者」など、所定の5項目全てに該当する労働者
受給条件 以下の条件を満たした場合、助成金が支給される
①有期契約労働者などの週所定労働時間を5時間以上延長、または労働者の手取り収入が減少しないように週所定労働時間を1時間以上5時間未満延長した場合
②賃金規定等改定コースまたは選択的適用拡大導入時処遇改善コースの実施により、処遇の改善を図った場合
③有期契約労働者などを新たに社会保険の被保険者にした場合
※その他、事業主に関する条件あり
上限人数 ケース①②の合計で、上限人数は1年度1事業所当たり「45人」まで
暫定措置 ケース①での支給額の増額と、ケース②で助成金が支給されるのは、「令和2年3月31日」までの暫定措置
特記事項 ケース②では延長時に基本給を上げ、手取り収入の減少を防ぐ必要あり
※以下、基本給の昇給額の目安
●週所定労働時間の延長時間が「1時間以上2時間未満」:13%以上昇給
●週所定労働時間の延長時間が「2時間以上3時間未満」:8%以上昇給
●週所定労働時間の延長時間が「3時間以上4時間未満」:3%以上昇給
●週所定労働時間の延長時間が「4時間以上5時間未満」:2%以上昇給

受給金額

ケース①週所定労働時間を5時間以上延長した場合

中小企業 中小企業以外
受給金額 1人当たり22万5,000円
※生産性要件を満たせば28万4,000円
1人当たり16万9,000円
※生産性要件を満たせば21万3,000円

ケース②「賃金規定等改定コース」または「選択的適用拡大導入時処遇改善コース」を実施した場合

中小企業 中小企業以外
週所定労働時間の延長時間が
1時間以上2時間未満
1人当たり4万5,000円
※生産性要件を満たせば5万7,000円
1人当たり3万4,000円
※生産性要件を満たせば4万3,000円
2時間以上3時間未満 1人当たり9万円
※生産性要件を満たせば11万4,000円
1人当たり6万8,000円
※生産性要件を満たせば8万6,000円
3時間以上4時間未満 1人当たり13万5,000円
※生産性要件を満たせば17万円
1人当たり10万1,000円
※生産性要件を満たせば12万8,000円
4時間以上5時間未満 1人当たり18万円
※生産性要件を満たせば22万7,000円
1人当たり13万5,000円
※生産性要件を満たせば17万円

申請フロー

①キャリアアップ計画の
作成・提出
● 雇用保険適用事業所ごとに「キャリアアップ管理者」を配置
●労働組合などの意見を聞いた上で「キャリアアップ計画」を作成し、管轄労働局長の認定を受ける
●週所定労働時間の延長が5時間未満の場合、賃金規定等改定コースまたは選択的適用拡大導入時処遇改善コースを実施する必要があるため、キャリアアップ計画にも記載
②週所定労働時間延長の実施 ●週所定労働時間を延長する際、対象労働者に週所定労働時間および社会保険加入状況を明記した「労働条件通知書」または「雇用契約書」を交付
③「延長後6カ月分の賃金」
を支給後、助成金の支給申請
●賃金には「時間外手当」なども含まれる
●「時間外手当」と「基本給」が別の月に支給されている場合、6カ月分の「時間外手当」を支給した日が基準
●「 延長後6カ月分の賃金」を支給した日の翌日から2カ月以内に支給申請が必要
④審査後、助成金の支給決定 ●申請書類に基づき、審査が行われる
●申請状況によっては審査に時間がかかる可能性あり

申請に必要な提出書類

「支給要件確認申立書」「管轄労働局長の認定を受けたキャリアアップ計画書(写し)」「延長前後の雇用契約書など」「対象労働者の出勤簿など(労働時間が明記されているもの)」など、計11種類の書類のうち該当するものを提出

(参考:厚生労働省『キャリアアップ助成金のご案内』)

キャリアアップ助成金についてよくある疑問

実際にキャリアアップ助成金を申請する際、「この場合はどうしたら良いのか?」「どういった制限があるのか?」など迷うこともあるのではないでしょうか。ここではキャリアップ助成金について、よくある疑問とその答えをご紹介します。

何人まで申請可能?

コースごとに何人まで申請可能かが決まっています。各コースの上限人数を以下の表にまとめました。

コース名 上限人数について
正社員化コース 「有期→正規」「有期→無期」「無期→正規」合わせて、1年度1事業所当たり「20人」まで
賃金規定等改定コース 1年度1事業所当たり「100人」まで
健康診断制度コース なし
賃金規定等共通化コース 加算の上限は「20人」まで
諸手当制度共通化コース 加算の上限は「20人」まで
選択的適用拡大導入時処遇改善コース 申請の上限人数は「45人」まで
短時間労働者労働時間延長コース 申請の上限人数は1年度1事業所当たり「45人」まで

就業規則への反映方法

コースによっては、就業規則などに規定を設けることが受給要件の1つとなっています。就業規則への反映の方法は特に決まっていません。労働者側にも理解してもらえるよう、「何についての規定か」「いつから適用になるか」「どういった条件で適用になるか」「賃金や手当などの具体的な金額」といった内容をわかりやすく書くと良いでしょう。就業規則への記載例は、厚生労働省発行の「キャリアアップ助成金のご案内」で確認できます。

年齢制限はある?

労働者が若者でなくても、一定の要件を満たしていればキャリアアップ助成金の受給対象です。一方で、会社側が対象労働者を決めるための条件として「労働者の年齢」を基準にしている場合、コースによってはキャリアアップ助成金が受け取れないことがあるので注意しましょう。

助成金に税金はかかる?

キャリアアップ助成金をはじめ、国から交付される助成金には税金がかかります。助成金の「支給決定通知」が届いた時点で計上を行いましょう。

キャリアアップ助成金の申請が難しいと思ったら…

キャリアアップ助成金は申請に必要な書類も多く、「受け取りたいけれど、なかなか自分たちだけでは申請が難しい」と感じる方もいるのではないでしょうか。意図せず不正受給にならないためにも、専門家や専門機関に相談しましょう。助成金関係の専門家は「社会保険労務士(社労士)」、専門機関は「労働局」です。実際に、多くの企業が助成金の申請手続きを社労士にお願いしているようです。

【まとめ】

助成金を申請する上で大事なことは、どの助成金を申請するのかを決めることです。今回紹介したキャリアアップ助成金には、大きく分けて7つの制度があります。

しかし、助成金についての申請要件はマニュアルに定まっていないことも多く、行政機関と確認をしながら進める必要があり、想像以上に時間がかかることも考えられます。申請手続きで迷った際は社労士などに相談し、キャリアアップ助成金を確実に受給できるようにしましょう。

(制作協力/株式会社はたらクリエイト、監修協力/社会保険労務士法人クラシコ、編集/d’s JOURNAL編集部)

2023年9月~2024年12月までに対応するべき労務関連実務チェックリスト

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