抜擢人事とは|導入のメリット・デメリットや失敗を避ける注意点を解説

d’s JOURNAL編集部

勤続年数や年齢などは考慮せず、「高い成果を上げる人材」や「能力が高い人材」を会社にとって重要なポジションに就かせる、抜擢人事。年功序列制度から脱却し、抜擢人事を進めていきたいと考えている人事担当者も多いでしょう。失敗を避けるためには、抜擢人事のメリット・デメリットや運用にあたってのポイントを押さえることが重要です。

この記事では、抜擢すべき人材の特徴や抜擢人事のメリット・デメリット、成功させるためのポイントなどをご紹介します。

抜擢人事とは実力重視の人材配置

抜擢(ばってき)人事とは、勤続年数や年齢などにこだわらず、「高い成果を上げる人材」や「能力が高い人材」を社内外から抜擢し、重要なポジションに配置すること。成果や能力に基づき役職に就かせる、実力重視の人材配置です。

抜擢人事では、「若手社員」であっても、実力さえあれば重要なポジションに就ける可能性があります。後輩社員が先輩社員の上司になるというケースも珍しくありません。

また、勤続年数や年齢のほか、国籍や性別、勤務先も考慮されないため、女性管理職や外国人の少ない職場において、「女性社員」や「外国人労働者」が重要な役職に抜擢されることもあるでしょう。「外部企業で活躍している人材」を自社に招き入れ、重要なポジションを担ってもらうというケースも考えられます。

すなわち、「中堅・ベテラン社員/若手社員」「男性/女性」「日本人/外国人」といった属性を取っ払い、実力を重視した人材配置を行うことが抜擢人事であると言えるでしょう。

抜擢人事が注目される背景

抜擢人事が注目される背景には、「年功序列制度の衰退」と「グローバル化に伴う変化への対応」があります。詳しく見ていきましょう。

年功序列制度の衰退

従来、日本では年齢や勤続年数などに応じて役職や賃金が上がっていく「年功序列制度」が主流でした。しかし、「社員の高年齢化に伴う人件費の高騰」や「若手社員の離職」といった課題が浮き彫りになったことから、年功序列制度を廃止する企業が年々増えてきています

代わりに主流となってきているのが、業務における成果などに応じて、昇給・昇格を決める人事評価制度である「成果主義」です。実力重視の人材配置である「抜擢人事」は成果主義をベースとしたものであるため、成果主義の普及に伴い、抜擢人事への注目が高まっています

(参考:『年功序列とは?1分でサクッとわかる、制度の仕組みとメリット・デメリット』『成果主義の導入で失敗しないためのポイント5つ~メリット・デメリットから解説~』)

グローバル化に伴う変化への対応

グローバル化に伴い、企業を取り巻く環境は近年目まぐるしく変化しています。そうした中、変化に対応するための人材配置として注目されているのが、抜擢人事です。

抜擢人事であれば、グローバルな展開・視野が必要な事業に、実力のある人材を勤続年数や年齢、国籍、性別などにとらわれることなく配置できます。「海外での居住・勤務経験がある人材」や「多様な価値観を理解している人材」などを重要なポジションに就かせることで、グローバル化に伴う変化を企業にとっての好機ととらえられるようにもなるでしょう。

このように、抜擢人事はグローバル化が進む現在にマッチしているため、関心が高まっているのです。

抜擢人事で抜擢すべき人材の特徴

実際、どのような人材を抜擢するとよいのでしょうか。抜擢人事で抜擢すべき人材の特徴を表にまとめました。

抜擢すべき人材の特徴

特徴 具体例
経験・スキル・実績がある ●就かせたいポジションに求められる経験・スキルを有している
●仕事で高い成果を上げている
問題解決能力が高い ●状況判断や解決策の検討などに長けている
●行動力がある
報連相を密にできる ●適切なタイミングで、伝えるべき相手に報連相をできる
リーダーシップがある ●チームをまとめ上げる力がある
●チームメンバーのモチベーションを高められる
人望がある ●同僚から信頼されている
職場以外でも模範的である ●社会で求められるルール・マナーを守っている

上記はあくまで例のため、これ以外の特徴が求められるケースもあるでしょう。また、企業としてのフェーズや事業内容などによって、「どの特徴を優先すべきか」は変わってきます。そのため、「自社は現在、どのような状況にあるのか」「どのような事業で、どういった活躍をしてもらいたいのか」などを念頭に置き、抜擢すべき人材を総合的に判断することが重要です。

抜擢人事の主な活用パターン

抜擢人事の主な活用パターンとしては、「若手からの人材抜擢」と「外部からの人材抜擢」があります。詳しく見ていきましょう。

若手からの人材抜擢

抜擢人事のパターンとして多いのが、若手からの人材抜擢です。

抜擢人事では、社員の勤続年数や年数などを問わず、高いスキル・能力を持っているかどうかが基準となります。勤続年数の長さと仕事における成果は必ずしも比例しないため、実力のある若手社員を抜擢するケースが多いです。そのため、若手社員が先輩社員の上司に抜擢されるケースも少なくありません

なお、若手からの人材抜擢の場合には、「選ばれなかった中堅・ベテラン社員の反発」や「組織内の人間関係の複雑化」などが特に生じやすいため、注意が必要です。抜擢しなかった社員のケアについて後ほどご紹介しますので、そちらを参考にしてください。

外部からの人材抜擢

外部の人材を抜擢するパターンもあります。具体的には、社外から実力のある人材を雇用し、重要なポジションに就かせるという形です。

外部からの人材抜擢は、「参入したい新規事業に関するノウハウが自社にはない場合」や「新しい風を入れ、社内を活性化したい場合」などに効果的とされています。実力の高い人材を社外から抜擢することにより、「市場の変化に対応しやすくなる」「既存社員が刺激を受け、生産性が向上する」といった成果も期待できるでしょう。

なお、外部からの人材抜擢に際しては、先ほどご紹介した「抜擢すべき人材の特徴」に加え、「自社の企業文化にマッチしているか」「自社の企業理念や経営方針などに共感しているか」も重要な基準となります。

抜擢人事の4つのメリット

抜擢人事には、以下の4つのメリットがあります。

抜擢人事のメリット

●未来の幹部・リーダー候補の成長を促進できる
●新人・中途社員のモチベーション向上につながる
●社員を適材適所で活用できる
●市場の変化などに迅速に対応できる

詳しく見ていきましょう。

未来の幹部・リーダー候補の成長を促進できる

抜擢人事には、未来の幹部・リーダー候補の成長を促せるというメリットがあります。

抜擢人事で選ばれる人材は、実力のある人材のため、そもそも幹部・リーダー候補としてのポテンシャルを有していることが多いです。そうした人材に重要なポジションでさまざまな経験をしてもらうことにより、決断力や行動力、リーダーシップ、マネジメント能力などが養われます。その結果、次世代の幹部・リーダー候補の育成や、中長期的な企業の成長にもつなげられるでしょう。

新人・中途社員のモチベーション向上につながる

抜擢人事は、年功序列制度と異なり、スキルや実力重視でポジションが決まるため、新人や中途社員にも平等にチャンスがあります。「仕事に頑張って取り組んでいれば、高いポストに就くのも夢ではない」との意識が芽生え、仕事へのモチベーション向上につながるでしょう。スキルアップを図ろうと、仕事に関連した講座受講や資格取得などに取り組む新人・中途社員が増える可能性もあります。

その結果、新人・中途社員の早期離職防止やチームの業務効率化なども期待できるでしょう。

社員を適材適所で活用できる

抜擢人事の運用にあたっては、あらかじめ社員一人ひとりのスキルやポテンシャルなどを理解しておくことが必要です。その過程で、「社員が何を得意としているか」「どういったキャリア形成を望んでいるのか」などを把握できます。そのため、上司や人事部の固定観念・先入観にとらわれることなく、適材適所の人材配置を行いやすくなるでしょう。

社員一人ひとりが自身の適性にあったポジション・業務に就けるようになることで、生産性向上や離職防止などの効果も期待できます

市場の変化などに迅速に対応できる

企業はいつ、「市場ニーズの多様化」や「新しいビジネスモデルの台頭」といった市場環境の変化や、AI技術をはじめとする技術革新に直面するかわかりません。こうした変化に直面すると、企業はこれまでとは違った形で業務を進める必要性に迫られます。「既存のマネージャー層には、変化に対応できそうな人材がいない」というケースも考えられるでしょう。

抜擢人事を導入していれば、変化に対応するために求められるスキルを有する人材を社内外から見つけ、登用させることが可能です。その結果、変化に迅速に対応でき、ビジネスチャンスに変えられるでしょう。

なお、上述のメリットが相まって、組織の活性化も期待できます

抜擢人事の3つのデメリット

抜擢人事にはさまざまなメリットがある一方で、以下のようなデメリットもあります。

抜擢人事のデメリット

●中堅・ベテラン社員からの反発を招く可能性がある
●抜擢された人材の経験不足が露呈するリスクがある
●組織内の人間関係が複雑化する可能性がある

それぞれについて、見ていきましょう。

中堅・ベテラン社員からの反発

年功序列が強く根付いた会社や保守的な企業風土の会社では、抜擢人事を導入すると、勤続年数が長い社員の反発を招きかねません。「なぜ、長年会社に貢献してきた我々ではなく、若手社員が抜擢されるのか」という不満の声が挙がるリスクがあります。また、言葉にはしなくても、抜擢された人材に協力しない・指示に従わないなど態度として示す中堅・ベテラン社員が出てくる可能性もあるでしょう。中堅・ベテラン社員の退職につながるリスクも懸念されます。

一方で、「年齢や業務経験に関係なく、一人ひとりが力を発揮できる」ような企業風土の場合には、そこまで大きな反発は生じにくいでしょう。企業風土によって、抜擢人事の向き不向きがある点にも注意が必要です。

抜擢された人材の経験不足が露呈するリスク

抜擢人事では、仕事で上げた成果のほか、リーダーとしてのポテンシャルも考慮して、抜擢する人材を選ぶケースもあります。そうした場合に懸念されるのが、重要なポジションに就かせたあとに経験不足が露呈するリスクです。「自ら行動することには長けているが、チームをまとめ上げる力に乏しい」「勤続年数が短いため、社内外とのコネクションが少ない」といった課題が人事異動後に発覚することもあるでしょう。このように、十分な能力を発揮できず、期待したほどの成果につながらない可能性があることも想定しておく必要があります。

組織内の人間関係の複雑化

抜擢人事では時として、「年下の上司と年上の部下」という関係性が生じることがあります。その結果、「部署・チーム内でのコミュニケーションに支障をきたす」「職場の雰囲気が悪くなる」「メンバー間での競争意識が過度に強くなる」「抜擢された人材が孤立してしまう」など、人間関係が複雑化しやすくなります。場合によっては、重要なポジションを任された人材への嫉妬や劣等感から、ハラスメントにつながるケースもあるでしょう。

抜擢人事を成功させるポイント

抜擢人事を成功させるためには、「評価基準・選考プロセスの開示」と「抜擢しなかった社員のケア」という2つのポイントを押さえることが重要です。そうすることで、先述のデメリットを軽減・解消する効果も期待できます。

抜擢人事を成功させるポイントについて、詳しく見ていきましょう。

評価基準・選考プロセスの開示

抜擢人事の実施にあたり重要なのが、評価基準や選考プロセスを開示することです。

評価基準や選考プロセスが開示されていないと、「選考基準に偏りがあるのではないか」「選考する側のお気に入りの社員を優先しているのではないか」といった不満・不信感が生じやすくなります。「組織としての士気の低下」や「離職者の増加」などにもつながるでしょう。

また、「抜擢人事そのものには賛成だが、年下の社員がいきなり上司になるのはおもしろくない」と感じる社員がいることも考えられます。こうした不満を軽減するためにも、「なぜ、その人が選ばれたのか」を誰でも理解できるような状態をつくっておく必要があります

まずは選考に先立ち、「客観的な評価基準を設定しておく」「複数の評価者による評価や自己評価を経て、抜擢する人材を決める形とする」など、客観性・公平性の高い仕組みを整えましょう。その上で、抜擢人事の評価基準や選考プロセスをあらかじめ社内に周知しておくことが重要です。

抜擢しなかった社員のケア

抜擢人事を成功させるためには、抜擢しなかった社員のケアも欠かせません。

抜擢人事では、従来の年功序列制度であれば重要なポストに就くはずだった社員が、そのポジションに就かなくなるということがしばしば起こります。当然ながら、重要なポジションに就くことを期待していたものの就けなかった社員の不満は募るでしょう。それにより、「仕事へのモチベーションが下がる」「職場の人間関係が悪化する」など、業務に支障が生じることも考えられます。

そうした事態を避けるため、抜擢しなかった社員の気持ちに寄り添うことが重要です。状況によって必要なケアが変わってくる可能性もありますが、以下のようなことを実施するのが望ましいでしょう。

<抜擢しなかった社員のケアの例>

●人事・採用担当者や選考に関わった上司が個別で声をかけ、抜擢しなかった社員の不安な気持ちなどに耳を傾ける
●フィードバックの機会を設け、「どのような点を改善すれば、高く評価されるか」などを共有し、認識をそろえる
●抜擢しなかった社員を今後どのように活用していくか(どのような役割・職務を担ってもらうか)を考えて、相手に伝える など

まとめ

実力重視の人材配置である抜擢人事は、主に若手社員や外部から人材を抜擢する形で実施されます。抜擢人事には、「未来の幹部・リーダー候補の成長促進」や「新人・中途社員のモチベーション向上」といったメリットがあります。一方で、「中堅・ベテラン社員からの反発」や「組織内の人間関係の複雑化」などに注意が必要です。

「評価基準・選考プロセスの開示」「抜擢しなかった社員のケア」という2つのポイントを押さえながら抜擢人事を実施し、時代の変化に乗り遅れない企業を目指しましょう。

(制作協力/株式会社mojiwows、編集/d’s JOURNAL編集部)

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