【社労士監修】人材開発支援助成金とは?受給条件や申請方法を一気に理解

社会保険労務士法人クラシコ

代表 柴垣 和也(しばがき かずや)【監修】

プロフィール

企業が従業員の職業能力開発に取り組んだ場合に、その経費や賃金の一部が助成される「人材開発支援助成金」。以前は「キャリア形成促進助成金」という名称で運用されていましたが、平成29年(2017年)4月にコースの再編や、助成対象となる訓練の見直しが行われました。従業員の人材育成に力を入れやすくなることから、多くの企業で導入されています。今回は「自社でも導入したい」「対象者や申請手順を改めて知りたい」と考えている方のために、全7コースの受給条件や金額、申請フローなどを解説します。

人材開発支援助成金とは?

人材開発支援助成金とは、労働者のキャリア形成の促進を目的とした助成金のことです。

近年、慢性的な人手不足を背景とした人材採用難から、自社内で人材を育成する必要性が増しています。人材開発支援助成金では、企業が従業員に対して職務に関わる専門的知識や技能獲得のための研修(訓練)を計画・実施した場合や、育成に向けた制度導入を行った場合に助成金が支給されます。実施にかかる経費などを補うことができるため、企業は人材育成に取り組みやすくなります。

キャリア形成促進助成金からの改正点

「人材開発支援助成金」は、もともとは「キャリア形成促進助成金」と呼ばれていました。平成29年度の名称変更から現在に至るまでの改正点を簡単にご紹介します。

改正点①:コースの統廃合

キャリア形成促進助成金は、「重点訓練コース」「雇用型訓練コース」「一般訓練コース」「制度導入コース」の4コースで構成されていましたが、人材開発支援助成金に移行する際に、コースの統廃合が行われました。毎年少しずつ変更を重ね、現在は「特定訓練コース」「一般訓練コース」「教育訓練休暇付与コース」「特別育成訓練コース」「建設労働者認定訓練コース」「建設労働者技能実習コース」「障害者職業能力開発コース」の全7コースがあります。

改正点②:生産性要件の導入

人材開発支援助成金に移行する際、新たに「生産性要件」が導入されました。生産性要件を満たした場合に、支給される助成金が増額されます。生産性の計算方法と、助成金が増額される要件は以下の通りです。

<生産性の計算方法>
生産性=「付加価値」÷「雇用保険被保険者数」

※「付加価値」とは「営業利益」「人件費」「減価償却費」「動産・不動産賃借料」「租税公課」を全て足したもの
※「人件費」の対象となるのは「労働者給与」のみで、「役員報酬」は含まれない

 

<生産性要件>
①支給申請を行う直近の会計年度における「生産性」が、その3年度前に比べて6%以上伸びていること
②金融機関から一定の「事業性評価」を得ている場合、「生産性」が申請時の3年度前に比べて1%以上(6%未満)伸びていること

(参照:厚生労働省『各雇用関係助成金に共通の要件等』)

生産性を向上させるためには、研修によって従業員のスキルアップを図るほかに、「個人業務の可視化」や「業務の自動化」なども効果的です。助成金を最大限に活用できるよう、企業全体で取り組んでみましょう。
(参照:『【5つの施策例付】生産性向上に取り組むには、何からどう始めればいいのか?』)

各コースの違いと共通事項

人材開発助成金は現在7コースに分類されていますが、それぞれの内容は複雑です。ここでは、各コースの違いと共通点についてご説明します。

各コースの違い

コースごとに対象となる事業主や実施内容、助成の種類が異なります。以下違いを比較しながら、自社でどのコースを適用できそうか、参考にしてください。

コース名 支給対象 訓練内容・目的 助成の種類
①特定訓練コース ●事業主
●事業主団体など
職業能力開発促進センターなどが定める特定の訓練の受講 賃金助成、経費助成、実施助成
②一般訓練コース ●事業主
●事業主団体など
特定訓練コースの要件に該当しない訓練を実施 賃金助成、経費助成
③教育訓練
休暇付与コース
●事業主 有給教育訓練休暇制度または長期教育訓練休暇制度を新たに導入し、労働者がその休暇を取得して訓練を受講 賃金助成、経費助成、導入助成
④特別育成訓練コース ●事業主
●事業主団体など
有期契約労働者などに対し、正規雇用労働者などに転換、または処遇を改善することを目的として訓練を実施 賃金助成、経費助成、実施助成
⑤建設労働者
認定訓練コース
●中小建設事業主
●中小建設事業主団体など(経費助成のみ)
建設労働者の技能の向上を図るために職業能力開発促進法による認定職業訓練を実施 賃金助成、経費助成
⑥建設労働者
技能実習コース
●建設事業主
●建設事業主団体など(経費助成のみ)
建設労働者の技能の向上を図るために自社または登録教習機関などでの技能実習を受講 賃金助成、経費助成
⑦障害者職業能力
開発コース
●事業主
●事業主団体など
●学校法人
●社会福祉法人
●障害者雇用の促進に係る事業を行う法人
障害者に対して職業能力開発訓練事業を実施 訓練設備の設置・更新
運営費

各コースの共通事項

それぞれのコースで要件が定められていますが、助成金を受け取るためには、「雇用保険」に関して以下の要件を満たしている必要があります。

●雇用保険適用事業所の事業主であること
●訓練の対象者が、訓練開始時から終了時までの間に「雇用保険の被保険者」となっていること(障害者職業能力開発コースは除く)

コースの分類や支給要件などは改正されることがありますので、導入するときは必ず厚生労働省の発行する最新の案内をご確認ください。ここからは、コースごとに詳細をご説明していきます。

人材開発支援助成金:①特定訓練コース

「特定訓練コース」とは、職業能力開発促進センターなどが定める特定の訓練を受けた場合に助成を受けられるコースです。7種類の訓練メニューがあります。

特定訓練コースの内容(訓練メニュー別)

訓練メニュー 概要・趣旨 対象者 主な受給条件
労働生産性向上訓練 労働生産性の向上につながる訓練【Off-JT】 雇用保険の被保険者 実訓練時間が10時間以上であること
若年人材育成訓練 若手労働者のスキルアップを目的とした訓練【Off-JT】 雇用契約締結後5年以内、かつ35歳未満の雇用保険の被保険者 実訓練時間が10時間以上であること
熟練技能
育成・承継訓練
熟練技能者の指導力強化や技能承継を目的とした訓練【Off-JT】 雇用保険の被保険者 ●熟練技能者の指導力強化または技能承継のための訓練、もしくは認定職業訓練のいずれかであること
●実訓練時間が10時間以上であること
グローバル人材
育成訓練
海外関連の業務に従事する労働者を対象にした訓練【Off-JT】 雇用保険の被保険者 ●海外関連の業務を行う事業主が実施する、海外関連の業務に関連する訓練であること
●実訓練時間が10時間以上であること(海外の訓練施設などで実施する場合は30時間以上)
特定分野認定実習
併用職業訓練
建設、情報通信業を対象にした厚生労働大臣の認定を受けた訓練【Off-JT/OJT】 15歳以上45歳未満で、所定の条件に当てはまる雇用保険の被保険者のうち、建設業、製造業、情報通信業の労働者 ●建設業、製造業、情報通信業に関する、認定実習併用職業訓練(厚生労働大臣の認定を受けたOJT付き訓練)であること
●実施期間が6カ月以上2年以下であること
●キャリアコンサルティングを受け、ジョブ・カードを交付されること(一部の対象者を除く)
※申請を行う前に、厚生労働大臣の認定を受ける必要あり
認定実習
併用職業訓練
業種を限定しない、厚生労働大臣の認定を受けた訓練【Off-JT/OJT】 15歳以上45歳未満で、所定の条件に当てはまる雇用保険の被保険者 ●認定実習併用職業訓練(厚生労働大臣の認定を受けたOJT付き訓練)であること
●実施期間が6カ月以上2年以下であること
●キャリアコンサルティングを受け、ジョブ・カードを交付されること
※申請を行う前に、厚生労働大臣の認定を受ける必要あり

特定訓練コースの受給金額

特定訓練コースの受給金額

※()内は中小企業以外の助成額・助成率
※事業主団体などに対しては経費助成のみで、生産性要件の適用はなし
※「若年雇用促進法に基づく認定事業主」「セルフ・キャリアドック制度導入企業」に該当する場合、経費助成率の引き上げあり

 

特定訓練コースの申請に必要な書類

各訓練メニューで提出書類が異なります。詳しくは、厚生労働省『人材開発支援助成金(特定訓練コース)の申請に必要となる書類一覧』をご確認ください。

(参照:厚生労働省『 令和2年度版パンフレット(特定訓練コース、一般訓練コース)詳細版』、『令和2年度版パンフレット(特別育成訓練コース)』)

人材開発支援助成金:②一般訓練コース

「一般訓練コース」とは、特定訓練コースの要件に該当しない訓練を実施する場合に助成を受けられるコースです。雇用保険の被保険者が対象で、以下の基本要件を満たす必要があります。

●Off-JTの訓練であること
●実訓練時間が20時間以上であること
●セルフ・キャリアドック(定期的なキャリアコンサルティング)の対象時期を就業規則などに規定すること(事業主のみ)

一般訓練コースの受給金額

一般訓練コース

一般訓練コースの申請に必要な書類

一般訓練コースの提出書類は、厚生労働省『人材開発支援助成金(一般訓練コース)の申請に必要となる書類一覧』から確認できます。

(参照:厚生労働省『 令和2年度版パンフレット(特定訓練コース、一般訓練コース)詳細版』、『令和2年度版パンフレット(特別育成訓練コース)』)

人材開発支援助成金:③教育訓練休暇付与コース

「教育訓練休暇付与コース」とは、有給教育訓練休暇制度または長期教育訓練休暇制度を新たに導入し、雇用保険の被保険者である労働者が、その休暇を取得して訓練を受けた場合に助成を受けられるコースです。労働者自身がキャリアアップの機会を確保することを促進できます。

教育訓練休暇付与コースの内容(制度別)

制度 概要 主な受給条件 休暇取得のルール
教育訓練
休暇制度
3年間に5日以上の取得が可能な有給の教育訓練休暇制度 ●3年間に5日以上の取得が可能な有給の教育訓練休暇制度を、就業規則などで規定すること
●制度を利用する労働者は、業務命令でなく自発的に教育訓練やキャリアコンサルティングなどを受講すること
●制度導入から3年の間に、企業の雇用する被保険者数に応じて、所定の数の被保険者にそれぞれ5日以上取得させること
●制度導入から1年ごとの期間内に1人以上の被保険者が当該休暇を取得すること
長期教育訓練
休暇制度
1年の間に120日以上の教育訓練休暇の取得が可能な長期教育訓練休暇制度 ●休暇取得開始日から1年の間に、120日以上の教育訓練休暇の取得が可能な長期教育訓練休暇制度を、就業規則などで規定すること
●制度を利用する労働者は、業務命令でなく自発的に教育訓練やキャリアコンサルティングなどを受講すること
●休暇取得開始日から1年の間に、1人以上の被保険者に120日以上の教育訓練休暇を取得させること
●60日以上の連続休暇と20日以上の連続休暇で構成すること
●その他、所定の条件に当てはまること

教育訓練休暇付与コースの受給金額

教育訓練休暇付与コース

※賃金助成は1人当たり最大150日分が上限
※雇用する企業全体の被保険者数が100人未満の企業は1人、同100人以上の企業は2人が支給対象者数の上限

 

教育訓練休暇付与コースの申請に必要な書類

教育訓練休暇制度と長期教育訓練休暇制度では、必要となる書類が異なります。詳しくは、厚生労働省『人材開発支援助成金(教育訓練休暇付与コース【教育訓練休暇制度】)の申請に必要となる書類一覧』、『人材開発支援助成金(教育訓練休暇付与コース【長期教育訓練休暇制度】) の申請に必要となる書類』をご確認ください。

なお、支給申請期間もそれぞれ異なるため注意が必要です。

●教育訓練休暇制度:制度を導入した日から3年経過した日の翌日から2カ月以内
●長期教育訓練休暇制度:制度導入・適用計画期間(制度導入日から3年)内に、被保険者の長期教育訓練休暇の取得開始日より1年以内、かつ支給要件を満たす休暇の最終取得日の翌日から2カ月以内

(参照:厚生労働省『 令和2年度版パンフレット(特定訓練コース、一般訓練コース)詳細版』、『令和2年度版パンフレット(特別育成訓練コース)』)

人材開発支援助成金:④特別育成訓練コース

「特別育成訓練コース」とは、有期契約労働者などに対し、正規雇用労働者などへの転換、または処遇の改善を目的として訓練を実施した場合に助成を受けられるコースです。目的に合わせて3つのメニューに分かれています。

特別育成訓練コースの内容(訓練メニュー別)

一般職業訓練

「一般職業訓練」とは、Off-JTの訓練を行うもの。有期契約労働者などで、雇用保険の被保険者が対象となるが、以下3つのパターンによって受給条件が異なります。

通常 ●Off-JTの訓練であること
●実施期間が1年以内であること
●実訓練時間が20時間以上であること
●通信制の訓練ではないこと
育児休業期間中に
職業訓練を行う場合
以下の点について異なる
●実訓練時間が10時間以上であること
●一般教育訓練給付指定講座以外の通信制も対象とする
中長期的
キャリア形成訓練の場合
以下の点について異なる
●実施する訓練は、専門実践教育訓練指定講座であること
●専門実践教育訓練指定講座の通信制も対象とする
●実施期間は1年以内に限らない

有期実習型訓練

有期実習型訓練は、ジョブ・カードを活用した、Off-JTとOJTを組み合わせた3~6カ月の職業訓練のこと。

訓練対象者 正社員経験が少ない非正規雇用の労働者で、雇用保険の被保険者
(以下の3種類)
●基本型:有期契約労働者などを新たに雇用して訓練を実施
●キャリアアップ型:既に雇用している有期契約労働者などに訓練を実施
●派遣型:紹介予定派遣による派遣労働者に訓練を実施する
主な受給条件 ●OJTとOff-JTを組み合わせて実施すること
●実施期間が3カ月以上6カ月以下であること
●訓練修了後にジョブ・カードにより職業能力の評価を実施すること
●訓練開始日の1カ月前までに訓練計画届を提出し、管轄労働局長の確認を受けること
●キャリアアップ型は、訓練計画届の提出前にキャリアコンサルティングを実施すること
●基本型は、訓練計画届の提出後にキャリアコンサルティングを実施すること

中小企業等担い手育成訓練

「中小企業等担い手育成訓練」は、業界団体を活用した、Off-JTとOJTを組み合わせた最大3年の職業訓練のことを指します。

訓練対象者 製造業または建設業などの分野の、正社員経験が少ない非正規雇用の労働者で、雇用保険の被保険者
主な受給条件 ●企業でのOJTと、専門的な知識や技術を有する支援団体によるOff-JTを組み合わせて実施すること
●実施期間が3年以下であること
●職業訓練を受ける有期契約労働者などに対して、適正な能力評価を実施すること
●その他、所定の条件に当てはまること

特別育成訓練コースの受給金額

特別育成訓練コース

※()内は中小企業以外の助成額・助成率
※1年度1事業所当たり1千万円が上限

 

特別育成訓練コースの申請に必要な書類

特別育成訓練を実施する際、各段階で書類を提出する必要があります。

●訓練計画届:訓練開始の日から1カ月前まで
●訓練開始届:職業訓練の開始日の翌日から起算して1カ月以内(有期実習型訓練または中小企業等担い手育成訓練のみ)
●訓練計画変更届:訓練計画届の確認を受けた後に、訓練内容などを変更する場合
●支給申請:訓練終了日(最後に訓練を行った日)の翌日から2カ月以内

訓練メニューによって提出書類が異なりますので、詳しくは厚生労働省『人材開発支援助成金(特別育成訓練コース)のご案内』をご確認ください。

(参照:厚生労働省『令和2年度版パンフレット(特別育成訓練コース)

人材開発支援助成金:⑤建設労働者認定訓練コース

「建設労働者認定訓練コース」とは、建設事業主や建設事業主団体などが、建設労働者の技能の向上などを図るために、職業能力開発促進法による認定職業訓練を実施した場合に助成を受けられるコースです。受ける助成の種類によって受給条件が分かれています。

建設労働者認定訓練コースの内容(助成内容別)

訓練対象者はいずれの助成の場合も、中小建設事業の従業員で、雇用保険の被保険者となります。

助成の種類 主な受給条件
経費助成 ●職業能力開発促進法による認定職業訓練であること
※広域団体認定訓練助成金の支給、または認定訓練助成事業補助金の交付を受けている認定職業訓練であることが必要
賃金助成 ●有給で認定職業訓練を受講させること
※人材開発支援助成金(特定訓練コース、一般訓練コース、特別育成訓練コースのいずれか)の支給を受けていることが必要

建設労働者認定訓練コースの受給金額

建設労働者認定訓練コー

※賃金助成については、1年度1事業所当たり1,000万円が上限

建設労働者認定訓練コースの申請に必要な書類

建設労働者認定訓練コースでは、訓練実施前の利用申請手続きはありません。支給申請は訓練終了日(最後に訓練を行った日)の翌日から2カ月以内に書類を提出する必要があります。
助成内容によって提出書類が異なりますので、詳しくは厚生労働省『建設事業主等に対する助成金に係る申請書(平成31年度版)』をご確認ください。

(参照:厚生労働省『建設事業主等に対する助成金(旧建設労働者確保育成助成金)』)

人材開発支援助成金:⑥建設労働者技能実習コース

「建設労働者技能実習コース」とは、建設事業主や建設事業主団体などが、建設労働者の技能の向上などを図るために、自社または登録教習機関などでの技能実習を受講させた場合に助成を受けられるコースです。助成を受ける内容や支給対象によって受給条件が分かれています。

建設労働者技能実習コースの内容(助成の種類および訓練対象者別)

助成の種類 訓練対象者 主な受給条件
経費助成 中小建設事業の従業員で、雇用保険の被保険者 自社または登録教習機関などで行う技能実習を受講させること
経費助成 中小以外の建設事業の女性従業員で、雇用保険の被保険者 女性従業員に対して、自社または登録教習機関などで行う技能実習を受講させること
賃金助成 中小建設事業の従業員で、雇用保険の被保険者 従業員に対して、有給で技能実習を受講させること

建設労働者技能実習コースの受給金額

建設労働者技能実習コース

※1つの技能実習につき、経費助成は1人当たり10万円が上限
※1つの技能実習につき、賃金助成は1人当たり20日分が上限
※建設労働者技能実習コースでの支給額の合計として、1年度1事業所当たり500万円が上限

建設労働者技能実習コースの申請に必要な書類

建設労働者技能実習実施日の3カ月前から原則1週間前までに、計画届などを提出する必要があります。ただし、登録教習機関などに委託して実施する訓練の場合は、この手続きは不要です。
また、支給申請は訓練終了日(最後に訓練を行った日)の翌日から2カ月以内に書類を提出します。
助成内容によって提出書類が異なりますので、詳しくは厚生労働省『建設事業主等に対する助成金に係る申請書(平成31年度版)』をご確認ください。

(参照:厚生労働省『建設事業主等に対する助成金(旧建設労働者確保育成助成金)』)

人材開発支援助成金:⑦障害者職業能力開発コース

「障害者職業能力開発コース」とは、障害者に対して職業能力開発訓練事業を実施する場合に、助成を受けられるコースです。

障害者職業能力開発コースの内容

支給対象 ●事業主
●事業主団体
●学校法人
●社会福祉法人
●障害者雇用の促進に係る事業を行う法人
訓練対象障害者 ●身体障害者
●知的障害者
●精神障害者
●発達障害者
●高次脳機能障害のある者
●その他所定の難治性疾患を有する者
●ハローワークに求職の申込みを行っており、障害特性、能力、労働市場の状況などを踏まえ、職業訓練を受けることが必要であるとハローワーク所長が認めた者
基本条件 厚生労働大臣が定める教育訓練の基準に適合する障害者職業能力開発訓練事業を実施、または訓練に必要な施設や設備の設置・整備もしくは更新を行うこと

障害者職業能力開発コースの受給金額

障害者職業能力開発コースの受給金額

※初めて助成金の対象となる訓練科目ごとの施設、または設備の設置・整備の場合は5,000万円が上限
※訓練科目ごとの施設、または設備の更新の場合については1,000万円が上限

障害者職業能力開発コースの申請に必要な書類

<受給資格認定申請>
●受給資格認定申請書
●認定申請明細書
●障害者職業能力開発訓練事業計画書 など
※訓練設備の設置や更新費:7月16日~9月15日、または1月16日~3月15日までの期間に申請
※運営費:職業訓練を開始する3カ月前までに申請

<支給申請>
●支給申請書
●実績明細書
●支払内訳明細書
●支給申請額計算書
●訓練受講状況報告書 など

(参照:厚生労働省『Ⅶ 障害者職業能力開発コース』)

申請の流れ

人材開発支援助成金(障害者職業能力開発コースを除く)を受給するためには、基本的に訓練(または制度導入など)開始の1カ月前までに、労働局への「計画届の提出」が必要です。計画届が労働局で受理された後に計画に沿って訓練を開始し、完了後2カ月以内に改めて「支給申請」を行い、承認されれば助成金を受け取れます。「支給申請」から、労働局の審査を経て実際に助成金が支給されるまでは、おおむね4~6カ月ほどかかります。

申請の流れ

流れ①:実践型人材養成システム実施計画の提出

一部の訓練(特定訓練コースのうち、特定分野認定実習併用職業訓練および認定実習併用職業訓練、特別育成訓練コースのうち、有期実習型訓練)については、訓練開始日の2カ月前までに「実践型人材養成システム実施計画」を提出し、厚生労働大臣の認定を得る必要があります。「実践型人材養成システム実施計画」の参考様式と記載例は、厚生労働省のホームページで確認できます。

流れ②:職業能力開発推進者の選任・事業内職業能力開発計画の策定

特定訓練コース、一般訓練コース、教育訓練休暇付与コースにおいては、「職業能力開発推進者」の選任を要件としています。職業能力開発推進者は、社内で職業能力開発の取り組みを推進するキーパーソンとなり、事業内職業能力開発計画の作成・実施や、職業能力開発に関する労働者への相談・指導などを行います。そのため、人事・採用担当や労務関連の業務責任者などが適切です。
事業主および選任された職業能力開発推進者は、計画届の提出前に「事業内職業能力開発計画」の策定を行います。事業内職業能力開発計画は、労働者の職業能力の開発および向上を段階的かつ体系的に行うために、以下の4つの項目を参考に作成します。

●経営理念・経営方針に基づく人材育成の基本的方針・目標
●昇進・昇格、人事考課などに関する事項
●職務に必要な職業能力などに関する事項
●教育訓練体系(図、表など)

様式は任意ですが、厚生労働省のホームページなどで作成の参考例を確認することができます。
(厚生労働省『事業内職業能力開発計画作成の手引き』『 令和2年度版パンフレット(特定訓練コース、一般訓練コース)詳細版』、『令和2年度版パンフレット(特別育成訓練コース)』)

流れ③:キャリアコンサルティングの実施<特別育成訓練コースのうち、有期実習型訓練の基本型とキャリアアップ型のみ>

特別育成訓練コースのうち、有期実習型訓練の基本型とキャリアアップ型においては、キャリアコンサルタントなどによる面談の実施が受給条件となります。なお、実施のタイミングはキャリアアップ型の場合は計画届の提出前、基本型の場合は計画届の提出後と定められているため注意が必要です。

流れ④:計画届の提出

事業主が「訓練実施計画届」や「制度導入・適用計画届」、およびその他の必要な書類を作成し、職業訓練などの開始日から起算して1カ月前までに管轄の労働局に提出します。なお、建設労働者認定訓練コース、建設労働者技能実習コース、および障害者職業能力開発コースには申請期間が異なるものや利用申請自体が不要なものがあります。詳しくは各コースの詳細をご確認ください。

必要書類はコースやコース内の分類により細分化されています。様式が変更になる場合もあるので、以下の厚生労働省公式ページより最新版をダウンロードしてご使用ください。
(厚生労働省『人材開発支援助成金_申請様式のダウンロード』『建設事業主等に対する助成金申請様式ダウンロード(平成31年度)』)

流れ⑤:訓練や制度導入などの実施

提出した「訓練実施計画届」や「制度導入・適用計画届」に沿って、訓練や制度導入を実施します。なお、特別育成訓練コースのうち、有期実習型訓練および中小企業等担い手育成訓練については、訓練開始の翌日から起算して1カ月以内に「訓練開始届」を労働局へ提出する必要があります。

流れ⑥:支給申請

教育訓練休暇付与コース以外の場合は、提出した訓練実施計画に沿った職業訓練などを実施。その後、訓練の終了した日の翌日から起算して2カ月以内に必要な書類を事業主が作成し、管轄の労働局に支給申請を行ってください。こちらも上記の申請書のページから必要な様式をダウンロードできます。

教育訓練休暇付与コースの場合ですが、導入する制度により助成金を申請できる期間が異なります。詳しくは上記の教育訓練休暇付与コースについての解説をご確認ください。他のコースと比べて、制度導入開始から支給申請までの期間が長いため(3年以上を要するものもあります)、申請を忘れないように注意しましょう。

計画変更申請

利用申請(または計画届の提出)時に届け出た内容通りに研修が実施されていないと判断された場合、助成金を受給できないこともあります。そのため、利用申請後に研修日程などが変わる場合には必ず変更の届け出をしましょう。

生産性要件による引き上げ申請

生産性要件に該当し、助成金額の引き上げを希望する場合は、別途申請書類を作成して提出する必要があります。申請時期は以下の通りです。

<教育訓練休暇付与コース以外の場合>
訓練開始日が属する会計年度の前年度より3年度後の会計年度の末日の翌日から起算して5カ月以内に、割増額を申請します。
(例:2019年度開始の訓練の場合、2021年会計年度末日の翌日から起算して5カ月以内)

<教育訓練休暇付与コースの場合>
支給申請と同時に申請します。

人材開発支援助成金を申請するメリットとデメリット

人材開発支援助成金にはどのようなメリット・デメリットがあるのかをご紹介します。

メリット:人材育成にかかる費用が抑えられる

人材開発支援助成金を利用する一番のメリットは、人材育成における企業の費用負担を減らせる点でしょう。特に中小企業に対して手厚い助成額が設定されているので、これまで費用の問題から社員のキャリアアップに力を入れにくかった企業にとってはうれしい制度です。企業側が背中を押すことで、社員自身のキャリアアップへの意欲を高める効果も期待できます。

デメリット:申請手続きに労力がかかる

助成金を申請するには、多くの書類作成が必要です。特に人材開発支援助成金の場合は、訓練などを実施する前後でそれぞれ申請しなければならないので、企業によっては負担に感じることがあるかもしれません。また、訓練完了後の支給申請から受給までに時間がかかることもあります。企業側は一時的にその経費の全額を工面しなければならないので、注意しておきましょう。

申請時に注意したいこと

人材開発支援助成金を利用する際に迷いやすいポイントをいくつかご紹介します。

Q.税金はかかる?

国から交付される助成金は収入の扱いとなり、法人税や所得税がかかります。人材開発支援助成金も例外ではありませんので、会計の仕訳をする際は「雑収入」の科目で処理を行いましょう。

Q.キャリアアップ助成金との併給は可能?

人材開発支援助成金と同じく、「労働者のキャリア形成の促進」を目的とした「キャリアアップ助成金」もあります。キャリアアップ助成金とは、有期契約労働者などの非正規雇用労働者を対象に、正規雇用への転換や昇給があった場合に受け取れる助成金のことです。人材開発支援助成金の申請を行い、実施した職業訓練によって正社員への登用など成果が上がった場合には、キャリアアップ助成金も併せて受給できる可能性があります。受給のための要件や申請期間がそれぞれ異なるので、事前に確認しておきましょう。
(参照:『【社労士監修】キャリアアップ助成金を徹底解説-初めてでも理解できる申請方法-』)

Q.助成金申請対象者が退職してしまったら?

助成の対象者が支給申請日以前に退職してしまった場合でも、「本人都合の退職である」「実訓練時間の8割以上を受講している」などの要件が満たされていれば受給対象となり得ます。該当する可能性がある場合は、労働局やハローワークへ問い合わせてみましょう。

ただし、対象者の退職が自己都合ではなく解雇など企業側の都合による場合は6カ月間、助成金の申請自体ができませんので気を付けましょう。

【まとめ】

人材開発支援助成金は、支給条件や申請手順を理解してうまく活用することができれば、費用負担を抑えて社員教育を行うことができるため、企業と社員の双方にとってメリットの多い制度です。しかし、申請には手間と時間がかかる上、対象者や訓練内容により受給できる金額もさまざまであるなど、複雑でわかりにくい点もあるかと思います。難しさを感じる場合には、労働局などの相談窓口も利用しながら申請方法などを事前に確認し、自社での活用を模索してみましょう。

(制作協力/株式会社はたらクリエイト、監修協力/社会保険労務士法人クラシコ、編集/d’s JOURNAL編集部)

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