ReDesigner&デザイナードラフトから見る、デザイナー採用成功のポイント

株式会社グッドパッチ

ReDesigner事業責任者 兼 キャリアデザイナー
佐宗 純

立教大学卒業後、大手通信会社にてデザイン会社と組み、デザイン思考を用いた新規事業開発に従事。2015年にUXデザイナーとして株式会社グッドパッチに入社。Prottの初期フェーズやデザイン思考研修の設計、NTTデータとの事業提携を担当。 2018年5月、デザイナー向けキャリア支援サービスReDesignerを、2019年6月に学生向けキャリア支援サービスReDesigner for Studentを立ち上げ、両事業の事業責任者を務める。
Twitter:@Junsus4D

株式会社リブセンス

デザイナードラフト ディレクター
まさよふ(不破 昌代)

大手ゲーム会社に2Dデザイナーとして新卒で入社すると同時に働く母になる。その後、人材業界のWebディレクター、ITベンチャー企業でUXデザイナー、マーケター、デザイナーHR/採用広報を経て、現在は株式会社リブセンスのディレクター。 デザイナーとして&デザイナー採用担当としての両側面から経験してきた失敗を活かして「デザイナーの人生を変革するサービスづくり」の試行錯誤中。14歳と11歳の2人の母。
Twitter:@masayofff

なぜ今、デザイナー採用が注目されているのか
デザイナーを採用するときに必要なこと(株式会社リブセンス まさよふ氏)
データから紐解くデザイナーのイマ(株式会社グッドパッチ 佐宗氏)

デザインのケイパビリティを経営の上位に位置づける企業が増加しつつある現在。今後さらにビジネスにおいてデザイナーの市場価値が高まり、採用難易度は上がっていくと予想されます。デザイナーと言っても、Webやグラフィック、UI、UX、プロダクト、サービス、ブランディング…とさまざまな領域があり、志向やスキルも一人一人異なります。その中で、企業の人事・採用担当者はどのようにデザイナーと向き合っていけばよいのでしょうか。

そこで当メディアは、2019年11月7日に「ReDesigner」と「デザイナードラフト」が協同で開催した、『【採用担当者向け】デザイナードラフト & ReDesignerから見た転職動向とキャリア』に潜入。デザイナー採用のリアルな状況と人事・採用担当者が取り組んでいくべきことについて、レポートします。

なぜ今、デザイナー採用が注目されているのか

なぜ今、デザイナー採用が注目されているのか

マーケットを予測し、ニーズがありそうなモノやサービスを大量に作れば売れる時代から、VUCA(※)と呼ばれる世の中の変動性・複雑性が増して将来が見えない時代へ。ただスペックや機能が良くてもユーザーに使い続けてもらえず、差別化が難しい市場環境になってきました。

※VUCAとは、Volatility(変動)、Uncertainty(不確実)、Complexity(複雑)、Ambiguity(曖昧)の頭文字をつなぎ合わせた造語。現在の社会経済環境がきわめて想定外な事象に直面しているという時代環境を表す。

ではユーザーは何を基準に、商品やサービスを選ぶのでしょうか。コモディティ化が進む中で人々の選ぶ基準は、「物質的価値」からストーリーやその人にとっての意味といった「情緒的価値」へとシフトしています。商品やサービス自体ではなく、その商品やサービスを通じて得られる体験そのものに価値を感じ始めたのです。つまり企業も体験を主軸に置いたサービス開発が重要になってきました。

実際、日本においても下記のような動きが見られています。

・経済産業省・特許庁による「デザイン経営」宣言
・博報堂やアクセンチュア、NTTデータといった大手企業によるデザイン会社への投資・買収が増加
・自社内にデザイン組織を立ち上げ、外部発注ではなく内製化を促進
・CDO(Chief Design Officer)やCxO (Chief Experience Officer)など、デザインエグゼクティブ層の配置

つまり、事業や経営における「デザイン」の重要性が高まっていると同時に、ビジネス設計やサービス設計、コミュニケーション設計などの上流フェーズから携わることができる「デザイナー」の存在が大きくなっています。

今後ますますデザイナーの採用難易度が上がっていく中で、人事・採用担当者はどのようにデザイナー採用と向き合っていけばいいのでしょうか。

デザイナーを採用するときに必要なこと(株式会社リブセンス まさよふ氏)

こんにちは。株式会社リブセンスでデザイナードラフトを担当しています、ディレクターのまさよふと申します。今回はデザイナードラフトの調査データに加えて、私自身が前職でデザイナー採用に携わっていた経験も踏まえながらお話させていただきます。よろしくお願いいたします。

デザイナーを採用するときに必要なこと(株式会社リブセンス まさよふ氏)

なぜデザイナー採用は難しいのか?

Techcrunchの記事によるとUberのデザインチームの規模は、2012年と比べると70倍以上に成長しており、2017年にはデザイナー1人に対しエンジニア8人という比率になっているようです。LinkedInにおいても、2010年時はデザイナー1人に対してエンジニア11人だったところが、2017年時にはデザイナー1人に対しエンジニアが8人と、比率が上がっているのです。つまり、世界的に企業内におけるデザイナーが占める割合が高まっており、日本にもその流れが来ている状態です。

日本国内にいるあらゆるデザイナーは約20万人(平成27年国勢調査)と言われ、営業やエンジニアに比べて圧倒的に人口が少ない職種です。とは言え、デザイナー採用が難しい理由は、人口が少ないからと片付けることはできません。さまざまな要因が絡み合っており、マッチングが難しいことが採用の妨げになっていると考えています。その理由を具体的に見ていきましょう。

デザイナー採用の難しい理由

(株式会社リブセンス 登壇資料より)

まず1つに「デザイナー組織の課題」です。デザイナーは高い専門性が求められたり、人によって専門性が異なったり、採用においてスキル要件を理解・整理したりするのが難しい職業です。そのため、要件マッチングが困難であると言えるでしょう。さらに、キャリアステップを描きにくいこと、育成・マネジメントできる人材が少ないことなどが挙げられます。デザイナーにとって「この会社で自分はどのようなキャリアを歩めるのか」というビジョンは大事ですし、企業としてもデザイナーの育成やマネジメント、キャリアステップについてきちんと定めておかなければいけません。

2つ目は、「デザイナー採用時の課題」です。先ほどもお伝えしましたが、前提としてデザイナーのニーズも市場価値も向上しています。その中で、企業における期待や役割の変化が起こっており、デザイナーを重要ポジションに配置する企業が増加しているのです。しかし、企業側にデザインの価値を適切に評価できる仕組みや人材が不足しており、デザイナーの要件を踏まえた適切な年収を提示することができない。では、現場のデザイナーが人事に代わって採用活動を行えるかというと、知識も知見もないことが多い。このような要因が絡み合い、デザイナー採用は難しいと言われているのではないでしょうか。

当社が運営しているデザイナードラフトは、「年収を先に提示した上でスカウトをする」というサービスです。まさに野球選手のドラフトを想像していただくとイメージしやすいかと思います。2019年9月に実施されたデザイナードラフトの結果は、平均提示年収が576万円でした。2018年10月と比べると10%弱の約40万円も上昇していることがわかります。

デザイナードラフトの平均提示年収額

(株式会社リブセンス 登壇資料より)

デザイナードラフトに登録しているデザイナーは、ビジュアルやUIデザインだけではなく、仕様・要件定義や企画、情報設計の段階から携わっている人材が増えてきています。デザイナーと言っても経験した役割や持っているスキルもさまざま。単純に「IllustratorやPhotoshopが使えるから」「デザイナー経験が何年だから」「マネジメント人数が何人だから」「年収はいくらだから」という基準では、適正な年収額を提示できません。自社がなぜデザイナーを採用したいのか。デザイナー採用市場を知った上で、より的確で具体的なアプローチをすることが求められるでしょう。

具体性の高い「課題」と「期待役割」でデザイナー採用を成功へと導く

デザイナーの採用を成功させるために、求職者に向けてどうメッセージを届けていけばいいのでしょうか。私が考えているポイントは3つになります。

 1.レジュメやポートフォリオを読み込む
2.「まずは気軽に会うことを歓迎」していることを伝える
3.自社の課題と任せたいことをしっかり伝える

特に大事なのは、3ですね。経験年数やポジションが上がれば上がるほど、「事業や組織にどんな課題があるのか」「自分は何を期待されているのか」など、自身に求められる役割を重要視する傾向があります。デザイナーの立場になり、どのような課題と期待役割であれば、自社に興味を持ってもらえるのかを考えることが重要です。

具体性の高い「課題」と「期待役割」でデザイナー採用を成功へと導く

私自身、前職でデザイナードラフトを利用していたときも、採用体制や募集要件などを大きく変更しました。実施したことは次の通りです。

 ・採用要件の再設定(細かくマトリクスで定めていく)
・提示年収額(デザイナーの市場価値を知り、見直しをする)
・現場を含めた採用体制の構築(現場のデザイナーを巻き込まないと無理だと感じた)
・採用広報体制の構築(企業理解を深めてもらうため、経営陣の声などを盛り込む)

どのようなスキルや経験を持ったデザイナーが何を求めているか、現在のデザイナー採用市場の状況や年収相場を知った上で最適なアプローチをすることが重要です。自社の課題や期待役割を明確に定義できない、市場価値に合わない年収を提示していては、いつまでたっても採用は難しいでしょう。

デザイナーに解決してほしい課題は何か、それに最適なデザイナーはどのようなデザイナーなのか、そのデザイナーは市場でどれくらいの価値があるのか。これらを改めて見直してみることが、採用の成功へとつながるのではないでしょうか。

データから紐解くデザイナーのイマ(株式会社グッドパッチ 佐宗氏)

ReDesignerで事業責任者を務めています、佐宗です。前職からデザイン思考を活用した事業開発や既存プロダクト改善を担当しておりまして、「デザイナーがパフォーマンスを最⼤限発揮できる社会をつくる」をミッションにサービスを展開しています。

データから紐解くデザイナーのイマ(株式会社グッドパッチ 佐宗氏)

データから紐解くデザイナーのイマ。経営志向が増加傾向に

はじめに、ReDesignerに登録しているデザイナーがどのような志向を持っているのかをご紹介します。まさよふさんパートでも、デザイナーの範囲が広がってきているとおっしゃっていましたが、当サービスでも顕著に表れています。UI・UXデザインスキルだけではなく、CI(コーポレート・アイデンティティ)やVI(ビジュアル・アイデンティティ)などのブランディングに関するスキルや、情報設計、コンセプト立案など、より事業レイヤーに沿ったスキルを磨いていきたいと考える方が増えています。事実、5年後に思い描いているデザイナーのキャリアについて聞いたところ、「ビジネスを作りたい」「メンバーをリードしたい」「経営に携わりたい」など、ビジネスを極めていきたいという方々の割合が以前と比べ増加しています。

デザイナーとしてのキャリア像は?

(株式会社グッドパッチ 登壇資料より)

次に、デザインをする上で最も嬉しく思うときについて紹介します。「ユーザーが喜んでいる姿」と「社会的影響度」が合わせて68%でした。つまり、自分のスキルが活かせればいいわけではなく、自身のデザインを通じてどうコミュニケーションが行われたのかを大事にしている。より広い視野でデザイン業務を行っていることがわかります。

嬉しいこと

(株式会社グッドパッチ 登壇資料より)

実際に転職ケースで見てみると、年収500~800万円のいわゆる「リードデザイナー」と呼ばれる方たちは、「幅広い産業に挑戦したい」「自分が好きなサービスに携わりたい」と考えており、シニアデザイナー(年収700~1,200万円)になると、さらに「⾃分が共感する世界観に、スキルと経験で貢献したい」という希望を持って転職を検討します。その際企業を選ぶ上で「経営レベルのデザインへの意識」や「ポジションの期待値とのマッチ度」を重要なポイントとして挙げています。レイヤーが上がれば上がるほど、「会社がデザインに対してどのような考えを持っているのか。それに対して自分はどのように貢献していけるのか」と考えており、経営や事業のビジョンや方向性と照らし合わせているのではないでしょうか。

採用で大事なのは、デザイナーの価値観を理解すること

デザイナー採用が成功している企業は何が違うのか?

以上を踏まえて、デザイナー採用に成功している企業はどのようなことを行っているのでしょうか?いくつかポイントを紹介します。

 1.経営トップ・採用メンバーがデザイナー採用にコミットしている
2.デザイン組織のミッションステートメントをつくり、社外へ発信している
3.デザイナー自身が発信している

株式会社ココナラは、代表がデザイナー採用の重要性を理解し、行動されています。代表自ら足を運んで採用候補者に会いに行く。ReDesignerに対して事業戦略や会社の目指す方向性を講義したり、メッセンジャーでタイムリーに判断したりと、その時間のかけ方も圧倒的です。やはり代表自らが情熱を注ぐことで、デザイナーにも本気度が伝わっていくのだと思います。株式会社プレイドは、デザイナー専⽤スライドデック(資料)を作成したり、デザイナーのインタビュー冊子をつくって候補者の方に渡したり。デザイナーとして何を大事にしているのかをきちんと候補者に伝えているところが真摯ですし、注力されていると感じますよね。最近では、三井住友銀行がnoteを始めたことが話題になりましたが、デザイナーブログやSNSなど、デザイナーが自社の取り組みや自身の業務を発信していることも大事です。

採用で大事なのは、デザイナーの価値観を理解すること

自社のデザイン組織について、正確に語ることはできるか?

ReDesignerが⼤切にしていることにも通じるのですが、ポイントは2つだと思っています。まず1つに「デザイナーの価値観を聞く」ことです。先ほども紹介しましたが、デザイナーが仕事において喜びを感じるポイントはさまざまです。これだけ多くのポイントがあるわけです。採用候補者と向き合うときに、彼・彼女はどう考えているのか、何が喜びなのか、それを自社で実現できるのかを考えなければなりません。人事・採用担当者も社内デザイナーや外部デザイナーのヒアリングなどによってデザイナーの志向性や実績を理解していく必要があるのではないでしょうか。

そして大切なポイントはもう1つあって、それは「デザイン組織を理解する」ことです。皆さんは自社のデザイン組織について、正確に語ることはできますか?「使っているツールや技術」はもちろんのこと、「会社の中でデザイン組織はどこに位置しているのか」「部署のミッションは何で、デザイナーは何人いるのか」など。「任せたい範囲と役割」「チーム特性は何か」など、チーム概要について説明はできますか?同時に、「会社におけるデザインの考え方」や「デザイナーの評価方法」「キャリアパス」などデザインへの取り組みについてもしっかり話せることが必要です。人事・採用担当者が自分ごと化して、同じ目線で語れるようになる。企業課題の解像度を上げて伝えられるようになる。まずは、ここから始めてみることをお勧めします。

※本セミナーでは、この他、まさよふさん・佐宗さんの両名によるQ&Aセッションや懇親会が行われました。
まさよふさん・佐宗さんの両名によるQ&Aセッションや懇親会

【取材後記】

専門性が高く、役割の幅も広がっているデザイナー採用。エンジニアと同様に、採用難易度が高いと感じている人事・採用担当者の方も多いのではないでしょうか。

本イベントに参加して驚いたのが、UI/UXデザイナーを志望している学生の74%が総合大学出身であるということ(『ReDesigner for Student』より)。一般的なイメージから「美術大学・専門学校出身者がデザイナーを目指す」と思い込んでしまうと、他の可能性に気がつかないなんてことも起こりかねません。

デザイナー採用を行う上で、まず人事・採用担当者がやるべきことは、デザイナーや自社のデザイン組織について知るということなのではないでしょうか。そして、求職中のデザイナーの気持ちに寄り添い、自社での役割やミッション・期待を伝えること。デザイナーだから、専門性が高いからと身構えることなく、人や組織に向き合っていくことが重要なのだと感じました。

(取材・文・編集/齋藤 裕美子、撮影/佐藤 貴明、Special Thanks/押田 一平、SUZUKI3)