社員全員で採用する – 「お試し入社」がミスマッチ・早期退職を防ぐ

株式会社Lang-8

代表 喜洋洋(き・ようよう)

中国生まれ。大学時代に上海への留学中に、ルームメイトと母国語をお互いに添削し合うことで語学力が成長。それを機に語学学習サービスであるLang-8を立ち上げ、京都大学卒業後の2007年に京都で起業。2014年10月にスマホで語学学習ができる「HiNative(ハイネイティブ)」をリリース。以降も、語学学習サービスの運営を継続している。

株式会社Lang-8

人事兼管理部長 佐々木義弘

中堅企業にてIPOへ向けた業務改善、社内業務整理、内部統制委員を経験。外資系スタートアップのバックオフィスを経て、日本発グローバルサービス「HiNative」の急成長を支えるバックオフィスに従事。

採用資料の公開で、応募者は4〜5倍に。面接ではより深い話ができる
「曖昧耐性」を見極める、お試し入社
入社前にミスマッチがわかることは、お互いにとって前向きなこと

採用活動において、最も避けたいことの1つが「入社後のミスマッチ」。ミスマッチは企業にも本人にも悪影響を及ぼし、早期退職にもつながりかねません。

株式会社Lang-8は、全世界500万人以上のユーザーが文章を気軽に添削し合える相互学習プラットフォーム「HiNative」を主力事業として運営しています。社員数12人と少数精鋭の組織である同社にとって、早期退職はまさに死活問題。そこで、採用資料の一般公開や「お試し入社制度」といった取り組みを行うことで、採用時のミスマッチを防いでいるといいます。

今回はその取り組みの内容と効果について、代表取締役の喜洋洋さんと人事兼管理部長の佐々木義弘さんにお話を伺いました。

採用資料の公開で、応募者は4〜5倍に。面接ではより深い話ができる

まずは御社の組織体制について教えてください。

採用資料の公開で、応募者は4〜5倍に。面接ではより深い話ができる

喜氏:社員は現在12人、アルバイトなどを含めると25人、さらにフリーランスの方が10人ほど手伝ってくれています。6〜7割はエンジニアで、外国籍のメンバーが2〜3割。弊社のような小規模な企業にとっては、1人のミスマッチが大きなダメージとなるため、採用活動はかなり慎重に行っています。

ミスマッチを防ぐために、「採用資料の公開」と「お試し入社」を導入されているとうかがいました。まず採用資料の公開について、狙いを教えてください。

喜氏:弊社の事業・サービス説明や、働く環境、福利厚生、お試し入社制度を含む採用フローなどについて一つのスライド資料にまとめ、公開しています。サービスの面白さや弊社の可能性について、これまでは面談・面接でお会いした方へ個別に説明をしていました。しかし昨年から今年の初めにかけては採用に苦戦していて、そもそも弊社内のことが社外によく知られていないことが原因の1つなんじゃないかと考えたんです。

そこで、普段から情報をもっとオープンに発信して、より多くの方に知っていただこうと、採用資料の公開を始めました。面談・面接前にこの資料を読んでくれている方とは、お会いした際により深い話ができるので、大きなメリットを感じています。

採用資料を拝見しましたが、自社サービスについて非常に詳細にまとめているのが印象的でした。

それなら事前にできる限り情報を公開

佐々木氏:「HiNativeを全く知らなかった方でも、どんなサービスかがある程度想像できるように」と意識して作成しました。たとえば「HiNative」は97%以上が海外ユーザーと、グローバル規模で活用されているサービスであることをアピールしたり、サービスの魅力が具体的に伝わるよう「利用シーン例」を挙げたりしています。

特にスタートアップへの転職では、入社後自分がどんなサービスを担当するのか、そのサービスはどんな所で役に立っていて、どれぐらいの成長性を持っているのかを重視する方が多い。それなら事前にできる限り情報を公開して、納得いただいた上で面接に進んでもらった方が、より濃い話ができると思ったんです。もちろん、「じゃあ具体的にどんな働き方になるのか?」というイメージもしやすいよう、弊社の仕事の進め方や福利厚生なども盛り込みました。

採用資料の公開後、応募者数などに変化はありましたか?

佐々木氏:そうですね。資料公開前後に絞った詳細な効果測定は行っていませんが、公開前と比べて応募者は4〜5倍にはなったと思います。特にエンジニアからの応募も増えましたね。

「曖昧耐性」を見極める、お試し入社

お試し入社についても教えてください。具体的にはどのような制度なのでしょうか?

佐々木氏:候補者の方に数時間から最長1カ月の期間で、業務委託として弊社での仕事を経験していただく制度です。HiNativeに関わる業務で実際にコードを書いたり、チームミーティングに参加したりする。タイミングや期間は候補者と相談しながら決め、期間中は社員とのランチを設定するなどして、候補者と社員がなるべくコミュニケーションを取れるようにしています。

お試し入社制度は、先ほどの採用資料の公開と同じタイミングで始めたのでしょうか?

佐々木氏:いえ、お試し入社は、実は創業初期からカルチャーとしてはあったんです。当時はフリーランスのエンジニアやデザイナーに事業を手伝ってもらうことが多く、マッチングした方がそのまま社員として入社していました。それならば正式に会社の仕組みにしてしまおうと制度化したんです。私自身も、2〜3週間のお試し入社を経て入社した一人。そのころは、従業員数がちょうど10人になるタイミングで、お試し入社中の私は、就業規則の整備・再設定などの業務を経験しました。

「曖昧耐性」を見極める、お試し入社

佐々木さんも、候補者としてお試し入社を経験されているんですね。制度としてのメリットはどんなところにありますか?

喜氏:エンジニアやデザイナーなどは、実際に手を動かしてもらうことでわかることも多いんです。スキル・カルチャーなどの可視化しづらい部分まで含めて、総合的にマッチするかどうか、お互いに慎重に見極められることがメリットだと考えています。

佐々木氏:候補者にとっても、働く環境を入社前に見たり、実際に雰囲気を感じ取ることができたりするのはメリットだと考えています。特に大企業からの転職を考えている方だと、組織規模が大きく変化するわけですから、どんな環境なのか事前に見てもらうことの意味は大きいです。エンジニアやデザイナーにとっては、自分たちが触るソースコードが綺麗なのか汚いのか、といったこともモチベーションに響きますから。

私自身お試し入社経験者として、会社のリアルな雰囲気を知り、自分がこの会社で何をすれば良いのか、これから会社がどんな方向に進むのか、実感値として掴みながら入社を検討できたのは良かったと感じています。

採用側だけではなく、候補者の方にもメリットがあるのですね。お試し入社の期間中は、候補者のどのような点を見ているのでしょうか?

喜氏:まずはスキルです。そして私たちは「曖昧耐性」と呼んでいるのですが、曖昧な状況を受け入れられるか、その状況を受けて自ら何をすべきか考えて動けるかも重要なポイントとして見ています。弊社の業務環境には、まだまだ整っていない部分もあります。そういった状況では、「マニュアルがないので動けません」ではなく、「自分がどう動くか?」を考えられるかが大切。佐々木のお試し入社の際には、臨機応変に対応しなければならない業務も意図的にお願いしていました。

曖昧耐性

それから、「攻撃的でないか」ということも重視します。つまり、相手を尊重してコミュニケーションができる人かどうかです。

私たちは、Googleの開発チームが実践している「HRT(※1)」という原則を大事にしています。エンジニアが多い弊社では、Slack(※2)などでテキストコミュニケーションをする場面が多くあります。ただテキストだと、意図せず冷たい印象を与えてしまうことがありますよね。だからこそ、きちんと相手を尊重して話すことができるか、論理と感情を分けてコミュニケーションできるかを見るのです。お試し入社の方には社内のSlackのほとんどのチャンネルに入っていただいて、普段の業務のやりとりを通して社内の雰囲気を感じていただくようにしています。

(※1)Humility(謙虚)、Respect(尊敬)、Trust(信頼)。『Team Geek――Googleのギークたちはいかにしてチームを作るのか』にて紹介されている。
(※2)ビジネスチャットツール。

入社前にミスマッチがわかることは、お互いにとって前向きなこと

お試し入社制度には、現場の社員の方々から得られる協力も不可欠かと思います。制度導入はスムーズに進んだのでしょうか?

喜氏:もちろんはじめは社員が戸惑ったり、候補者の方を受け入れるチームの負担が大きくなってしまったりしました。当時はそもそも、採用活動そのものについて、社員としっかりと共有できていなかったんです。

そこでSlackの採用チャンネルに社員全員に入ってもらい、全員が採用状況を把握でき、また意見を言える体制にしました。みんなで採用を行う意識を醸成し、体制も整ってきてからはうまくいくようになりましたね。現在は、お試し入社の制度もポジティブに受け入れられています。お試し入社期間中の候補者についても社員みんなで意見交換を行い、大多数の同意があれば、お試し入社の方に正式に入社オファーをするようにしています。

入社前にミスマッチがわかることは、お互いにとって前向きなこと

お試し入社に協力してもらうというより、採用活動そのものに現場のみなさんを巻き込んでいるんですね。

喜氏:そうですね。それに加えて、最近は候補者に許可をいただいた上でリファレンスチェックも行っています。在職中だとご迷惑になるかもしれませんから、前職以前の上司・同僚の方へのヒアリングですね。リファレンスチェックではっきりと悪く言う方はなかなかいないとは思いますが、明確に“とてもおすすめです”と言われる人はやはり心強い。

佐々木氏:採用資料で事前に情報をオープンにし、面接でより濃い話をする。そしてお試し入社でスキルやカルチャーマッチを判断し、リファレンスで第三者からの声も聞く。この一連のフローによって、かなりミスマッチは減っていると考えています。

お試し入社の期間を経てマッチングしなかった場合でも、「他社に決まったけれど、体験入社自体はすごく良かった」「良い経験ができた」などと、ポジティブなフィードバックをもらうことも多いんです。事前にマッチしないことがわかることは、双方にとって非常にポジティブなことだと考えています。

集合写真

【取材後記】

「お試し入社制度は、会社と候補者がお互いを見極める場である」というお話が印象的でした。現場の協力の下、候補者に実際の業務を任せてみることは、一見かなりの労力がかかる採用フローです。しかし「ミスマッチが事前にわかることはポジティブ」なことと捉え、その労力をかけていることこそ、Lang-8社の急成長の秘密なのではないでしょうか。

(取材・文/佐藤 由佳、撮影/黒羽 政士、編集/田中 一成・檜垣 優香(プレスラボ)、齋藤 裕美子)