秘訣は「現場に気付いてもらう」こと。BASEのスクラム採用は地道にじっくりと

BASE株式会社

社長室 採用マネージャー 米田 愛

プロフィール

従来の採用といえば、これまでは採用チームをメインにして進めていくものでした。そんな中、近年急速に広まっているのが、“スクラム採用”という概念です。スクラム採用とは、株式会社HERPが提唱する概念で、人事・採用担当者ではなく現場のメンバーが主体となって進める採用手法のこと。

この手法をうまく取り入れているのは、2019年10月25日に東京証券取引所マザーズへ新規上場した、BASE株式会社。同社の採用マネージャーである米田愛さんは、「スクラム採用には、酸いも甘いもある」と話します。BASEの、スクラム採用における現場を巻き込む方法とは―。米田さんに話を伺うと、今後採用チームに求められる役割が見えてきました。

ひたすら地道に。スクラム採用のホントのところ

近年、スクラム採用という言葉をよく耳にします。今日は、御社がどのようにスクラム採用に取り組んでいるのかをお聞きしたいと思います。

ひたすら地道に。スクラム採用のホントのところ

米田氏:最初にひとつ、念頭に置いていただきたいことがありまして。スクラム採用は実際のところ、地味な上に、採用チームの功績を感じづらいんです。もちろん、その分メリットも大きいですけれどね。

地味で、功績になりにくい…。

米田氏:スクラム採用は、バズワードのように広がっている言葉なので、「はやっているからやってみよう」と思われることがあります。ただ蓋を開けてみると、採用チーム側は各チームのマネージャーに協力してもらえるように依頼したり、資料をひたすら作ったり、細かくて地道な仕事が多くなります。

また、各チームが主体となって進めるために、「採用チームの力で、これだけの人を採用できました」という功績にはなりにくいんです。そこを理解してから取り組まないと、「トレンドの採用手法」というイメージとのギャップに悩まされてしまうかもしれません。

スクラム採用は華やかな採用手法に見えるけれど、採用担当者は影武者となって地道に進めていく必要があると。現場に採用を任せるとすると、採用チームはどのような業務をされるのですか?

採用担当者は影武者となって地道に進めていく必要がある

米田氏:採用チームは、採用PM(プロジェクトマネージャー)として、「全体の管理」と「メンバーが採用に取り組みやすくするためのサポート」をしています。

たとえば、採用関係ミーティングのファシリテーションや、求人票作成のアドバイスと添削、面談の同席とフィードバック、各種人材紹介サービスを利用する際の使い方の説明資料作りなど。今挙げたのはほんの一部で、多岐にわたる業務に取り組んでいます。

採用に直接関わる部分は、現場における各チームのマネージャーが主体となって進めていますね。採用計画の策定や求人票の作成、スカウトなどのダイレクト・ソーシング、カジュアル面談、選考、オファー面談などを担ってもらっています。

いつからスクラム採用に取り組まれているのでしょうか?

米田氏:2019年4月からですね。それまでは、採用チームと取締役が中心となって、採用活動を進めていました。

しかし、採用チームにBASEで現場(事業部)を経験したメンバーがおらず、特に採用で注力したかったエンジニアについても経験者がいませんでした。そのため、事業の方針や戦略、各チームとの相性やニーズを踏まえた上での人材マッチングが難しかったのです。採用の進捗状況も芳しくなくて限界を感じていました。

現場チームの欲しい人材は、現場チームが一番わかっている。それぞれの職種から見るBASEの魅力は、現場チームが候補者に対して最も熱量高く伝えられる。その考えのもと、社員が主体的に採用を進める「スクラム採用」に取り組むことにしました。

そんな背景があって、BASEのスクラム採用が始まったんですね。

米田氏:そうです。ただ、初めからうまくいったわけではありません。スクラム採用の重要性に気づいてもらうのに随分苦労しました。スタートして半年くらいまでは、採用手法を社内に浸透させるため、毎日必死に走ってきました。

チームづくりは楽しいもの。いかにモチベーションを上げられるかがカギ

スクラム採用を始めた当初は、どういった課題があったのでしょうか?

チーム作りは楽しいもの。いかにモチベーションを上げられるかがカギ

米田氏:「採用は採用チームが行うもの」という認識のマネージャーもいたので、人によっては積極的に採用活動に取り組んでもらえていませんでした。そのため、「なぜ各チームが採用をやるべきなのか」を伝え、理解してもらうまでに時間がかかってしまいましたね。

そのうえ、現場チームのマネージャーは、最初から採用活動のすべてを担えるわけではありません。新任マネージャーであれば最初は採用活動の全容を把握しきれていなかったり、そもそもマネージャーとしての業務に加えて採用を担当することになるので、負荷がかかってしまったり。どうしても業務が後回しになってしまいがちです。

週1回での開催をはじめたスカウトタイムにも、最初はなかなか人が集まりませんでした。

確かに、通常業務のほかに採用業務が加わると、積極的には取り組めないかもしれません。そのような課題を解決するために、どのような工夫をされたのですか?

米田氏:「やってください」と直接的に言い過ぎると、言われている方はネガティブな気持ちになりがちです。とは言え、ふわっと伝えるだけでは行動に移してもらえません。そこで、「自分たちで採用活動を進めたほうが、求める人材に出会える」と気づいてもらえるよう行動しました。

これは、とあるエンジニアリングマネージャーの場合ですが。これまでBASEではダイレクト・ソーシングを行っておらず、スクラム採用においても、スカウトをコンスタントに送っている状態ではありませんでした。「エンジニアは、エンジニアからスカウトをもらうほうがうれしいので」と言っても、マネージャー業が忙しいことも相まって、採用に時間を十分に割いてもらえていませんでした。

自分たちで採用活動を進めたほうが、求める人材に出会える

そこで、採用チームが候補者を探してきて、マネージャーに確認するという流れに切り替えました。最初は「この人は良さそう」「この人はこんな懸念点がある」といった具合にフィードバックをもらう運用にしました。しかし、次第に「自分が都度フィードバックするよりも、ダイレクトに候補者を探したほうがよりマッチする人材に出会える」いうことに気づいてもらえたんです。

そこからは、採用活動に積極的に取り組んでもらっています。「『やってください』と言うだけではスクラム採用の重要性に気付いてもらえない」と、自分の学びにもつながりました。

まずは採用チームが動くことで、マネージャーの主体性を引き出せたわけですね。ただ、“やらされている感”を出さずして主体性を引き出すコミュニケーションの塩梅に、難しさを感じている人事・採用担当者もいそうです。

米田氏:確かに難しいと思います。私は、採用に対する主体性を引き出すため、メンバーのモチベーションを上げることも重要だと考えています。例えば、スカウトの返信が来ていたら、Slack(※)のチャンネルで「返信来ていますね!」とこまめに発言する、とか。
あとは、入社が決定したら、チームのマネージャーに「Slackで報告してください」とお願いしています。採用チームが投稿すると、採用チームの成果のように見えてしまうので。入社報告の投稿にはスタンプがたくさん付き、ワイワイとにぎわうので、採用は楽しいものというイメージもつけられます。

常に、「スクラム採用の重要性に気づいてもらうため、何をするべきか」と自分に問いかける。そして、ポジティブなコミュニケーションをし続けることを意識しました。

(※Slack:ビジネスコミュニケーションツール)
こうした取り組みを続けた結果、社内メンバーの意識は変わりましたか?

米田氏:変わりましたね。以前は採用チームから「この人の選考、どうなっていますか?」と投げ掛けていました。しかし、今は各チームのマネージャーから「この方、早めに選考を進めたいので日程調整してください」と積極的にアクションしてくれるようになったんです。

先日は、エンジニアリングマネージャーが開発チームのブログに『私がエンジニアリングマネージャーとしてやりがいを感じる瞬間 2019』という記事を上げていました。その中にスクラム採用のことを書いてくれていたんです。「地道に根気強くコミュニケーションをとってきてよかった」と感じる一件でした。

それはうれしい…!これまでの努力が実った瞬間ですね。

地道に根気強くコミュニケーションをとってきてよかった

米田氏:ここ最近で、一番うれしかったです。本来、チーム・組織づくりは、メンバーが「こういうチームにしたいから、こういう人を採用しよう」と楽しみながら行うもの。メンバー自身の手で築き上げられてきたチームは、より連帯感が深まると思うんです。

色の濃いチーム作りをするために注意したいのが、チームにとって「目標人数を採用すること」自体が目的にならないようにすること。なぜなら、数字を達成するため、妥協しながらの採用活動になってしまうからです。

そのため、今は採用チームマターで、内定受諾数という採用目標が決められています。今後、社内にさらに「採用は自分たちでやるもの」という意識が根付いてきたら、各チームに採用目標を分配していくことも検討しています。

事業を成長させるためには、1つの施策に固執しない

スクラム採用を導入してみて、米田さんが感じるメリットを教えてください。

事業を成長させるためには、1つの施策に固執しない

米田氏:チームが求めている人材を、メンバー自身が採用していくので、ミスマッチが起こりにくいのがメリットだと感じます。

チームにとっては、適切な人材を自分たちの目で見極められる。候補者にとっては、採用担当者がチームメンバーになることを考えて、より現場の肌感を感じられる。会社にとっては、ミスマッチが起こりにくいから、成長スピードを速められる。そんな三方よしの採用手法だと思います。

「スクラム採用をやってみたい」という他社の採用担当者がいたら、米田さんはお勧めされますか?

米田氏:弊社にはスクラム採用という手法が合っていましたし、大きなメリットも得られました。しかし、全ての企業、職種にとって有効なわけではないので、一概にお勧めはできません。

スクラム採用というと、よく採用チームの手間が少なくなると思われがちです。しかし、決して採用チームが手を抜くための手法ではありません。だって、採用チームだけで進めるほうがラクな場合もたくさんあるし、人に「やってください」と働き掛けるほうが実は難しいこともあるので。

冒頭でもお話ししましたが、スクラム採用は地道に進めていく必要がある手法です。ミスマッチが起こりにくい反面、採用チームはもちろん、メンバーにも負担がかかる。メリットとデメリットを加味して、取り入れるかどうかの意思決定をするべきではないでしょうか。

流行に流されることなく、採用チームが本質を見極めた意思決定をすることが大切なんですね。米田さんは今後、採用チームに求められる役割は、どのように変化していくと考えていますか?

米田氏:事業目標を達成するための採用ができるよう、旗振り役として社内を引っ張っていくのが、採用チームに求められる役割だと思います。

そもそも採用は、事業を成長させるために行う手段のひとつ。人材の採用が最終目標ではなく、事業目標ありきで成り立つ施策なのです。そのため、会社のフェーズや事業の課題が変わったら、あわせて採用手法も変えていかなければなりません。

弊社が今ベストだと思っているスクラム採用も、状況が変われば、別の採用手法に切り替えていくつもりです。会社の目指す先を見据え、常に最適な採用手法を選択していく――。このように、会社の成長に向かって社内を引っ張っていくことが、これからの採用チームに必要な姿勢なのではないかと思います。

事業を成長させるために行う手段

【取材後記】

採用チームだけでなく、社員全員が当事者となり、採用プロジェクトを進めていく「スクラム採用」。バズワードのように広まりつつある採用手法の陰には、地道な努力が隠されていました。
スクラム採用のポイントとなるのが、いかに“やらされている感”を出さずに、現場を巻き込めるかということ。しかし「主体的に取り組んでもらえるよう、コミュニケーションを取るのが難しい」と感じる担当者も多いはず。
もし、スクラム採用における採用チームの在り方に悩んでいるのなら、BASEの「『チームづくりは楽しいもの』と気付いてもらうコミュニケーション」を意識してみてはいかがでしょうか。

(取材・文/柏木 まなみ、撮影/黒羽 政士、編集/斎藤 充博(プレスラボ)、齋藤 裕美子)