執行役員とは?取締役との違いや制度を導入するメリット・注意点

白土文也法律事務所(第二東京弁護士会登録)

代表弁護士 白土 文也(しらと ぶんや)【監修】

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役員にどのような権限を与えるかは重要であり、組織のあり方が経営やそれぞれの事業に与える影響は大きなものがあります。

そのため、取締役・執行役・執行役員などの役職に、どのような権限や法的な根拠があるのかを把握しておきましょう。

この記事では各役職による違いや執行役員を置くことのメリット、注意点などを解説します。

執行役員とは

執行役員とは

執行役員について理解をするためには、まずどのような役割を担っているのかを把握することが大切です。取締役や執行役との違いも含め、執行役員について以下の項目で解説します。

執行役員の役割

執行役員とは取締役に代わって会社の業務執行の役員を担う人を意味します。取締役が決定した会社の方針や重要事項について、執行する責任を負うという役割が存在するのが特徴です。

そもそも執行役員という仕組みが設けられたのは、取締役に業務が集中してしまうと経営における重要な意思決定が迅速に行えなくなる事態を防ぐためです。執行役員という役職を設けることで、スムーズな経営を行っていく狙いがあります。

ただし、執行役員は取締役のように会社法上の定義があるわけではないため、どのような形で執行役員を置くかはそれぞれの企業によって異なります。名称も企業によって異なっており、役職者でありながらも曖昧なイメージがついてしまう部分があるでしょう。

執行役員の制度を導入するにあたっては、社内の意見を踏まえたうえで慎重に判断していく必要があります。

執行役員と取締役の違い

執行役員は名称に「役員」とついてはいますが、取締役のように法律によって役割が決められているわけではありません。執行役員にどのような権限を持たせるかは企業によって異なり、取締役と執行役員が同じような業務を行っているケースもあります。

しかし、取締役は会社法によって定められた役員であり、株式会社においては必ず設置しなければならない機関とされています。会社の経営に対して責任を負い、経営方針や重要事項の決定権を持っているのが取締役です。

一方で、執行役員は会社経営における責任者として業務にあたりますが、経営方針や重要事項の決定において権限がありません。実質的には会社との間で雇用契約を交わした社員であり、会社に雇用されているかどうかという点で違いがあります。

執行役員と執行役の違い

執行役員と似たような名称の役職として「執行役」があります。執行役とは会社法で定められた役員であり、指名委員会等設置会社における業務執行、取締役会から委任された業務執行の決定を担う役員のことです。

委員会設置会社の方式を取り入れる企業であれば、指名委員会・監査委員会・報酬委員会の3つの機関を置く 必要があります。指名委員会等設置会社では取締役は業務執行をしないため、代わりに業務執行を担う役員として執行役が置かれる形です。

指名委員会等設置会社を導入する目的は、業務執行者への監督機能を強化し、円滑な会社経営を実現させることです。事業規模が拡大してくれば役員の数が増えていくため、迅速に意思決定を行うのが難しくなる場面もあります。

そのため、経営と監督を制度として分離し、執行役が行う業務に対する監督機能を強めたのが指名委員会等設置会社となります。

執行役員制度を導入する目的

執行役員について理解を深めるには、執行役員制度がつくられた背景や導入する際の目的などを知っておく必要があります。どのような経緯で設けられたのかを以下の項目で解説します。

執行役員制度が求められる背景

日本で執行役員制度が導入されたのは1997年のソニーの事例が最初です。導入には会社役員による不正事件が多発した背景があり、経営への不信感を払しょくする狙いがありました。

執行役員を設けることで経営と業務執行を分離し、従来のトップダウン型では経営層の不正が明るみに出にくかった点が徐々に解消されていきました。取締役が執行役員の監督を行うことで、現場に経営層の意思が反映されやすくなったといえます。

大企業であるソニーでは多くの役員が在籍していましたが、役員間の待遇に大きな差をつけない形で、取締役と執行役員の役割分担を行うことで組織改革しました。ソニーの取り組みは他の日本企業にも広まり、執行役員制度が日本でも定着するようになりました。

執行役員制度の導入によって若い社員を執行役員として抜擢できるようになり、モチベーションのアップやキャリアの形成に役立っているといえます。

導入する目的

執行役員制度を導入する目的は役員の人数を整理して役割を明確化することであり、取締役会の本来の機能を回復させることが狙いです。経済のグローバル化やインターネットの普及などによって、競合他社との競争はますます激しさを増しています。

そのため、企業においては迅速な意思決定が求められる場面が多くなっており、執行役員制度の導入は経営環境の変化に対応するためのひとつの手段です。経営に専念する取締役と業務の遂行に専念する執行役員を分けることで、事業規模が大きくなっても機動的な経営を行えるようになります。

執行役員制度を導入する4つのメリット

執行役員制度を導入することで企業はさまざまなメリットを得られます。以下の項目では4つの視点から執行役員制度を導入するメリットを解説します。

執行役員のメリット・デメリット

取締役の役割が明確になる

執行役員制度を設けることで、取締役会は会社の経営に関する意思決定のみを行う機関として役割が明確になります。取締役が実務に追われるケースがなくなり、本来の役割である経営に専念できる環境の整備につながります。

現場で指揮をとる執行役員の意見をもとに、状況を踏まえながらスムーズな意思決定が可能です。取締役の業務負担を軽減することにもつながります。

優秀な人材を活かしやすい

取締役になるには早い若手社員などの人材でも、現場のリーダーとなる執行役員であれば任命しやすくなります。執行役員は取締役が決定した事項についての実務を担う役割であるため、業務の中心的な存在として活躍を促せます。

能力のある社員を執行役員に抜擢することで、モチベーションアップにつながり、キャリア形成にも役立つはずです。また、執行役員制度が設けられていれば、社外の人材も活用しやすく、リソース不足を補うことができます。

柔軟な姿勢で組織の形づくりができ、経営そのものを活性化させるきっかけにもなります。

組織の透明性が高まる

執行役員の設置により取締役会の機能が明確化し、組織の透明性を高められるというメリットがあります。取締役は執行役員を監督する役割を担うため、責任の所在が明らかになりやすいという特徴もあります。

経営の意思決定や業務執行のプロセスが明確になることで不正が起こりにくい経営環境の整備ができ、企業そのもののイメージアップも可能です。

税務上のメリットがある

執行役員はあくまで企業に雇用された社員という立場です。そのため、通常の社員と同じように給与を経費として計上できます。

役員の人数が多いと税務上のメリットが得られる部分も大きくなります。会社としての負担を抑えつつ、経営の効率化を図る手段として執行役員制度は活用可能です。

執行役員制度で気をつけたい3つの注意点

執行役員制度にはさまざまなメリットがあるものの、あらかじめ注意しておきたい点があります。執行役員制度における3つの注意点について以下の項目で解説します。

法律上の立場が不明確な点がある

会社法によって規定された役員とは取締役や監査役を意味するため、執行役員は法律上の立場が不明確だという点が挙げられます。また、社内規定や業務内容によって、会社における立場が変わる部分にも注意が必要です。

名称についても執行役員や事業本部長などさまざまであり、違いが曖昧な場合があるため現場が混乱しやすい面があります。また、社内だけでなく対外的にもどのような権限がある役員なのか不明確になりやすいといえます。

役員のポストを増やし過ぎるとかえって複雑化する

執行役員を設けることで取締役との役割分担を行えますが、役員のポストを増やし過ぎてしまうと、かえって組織が複雑化する恐れもあるため注意が必要です。役員の数が多過ぎて役員間での意見調整などに時間がかかってしまうと迅速な業務執行を阻害する原因となります。

また、似たような業務を担う執行役員が存在していると、指示を受ける現場の社員が混乱する場合も考えられます。執行役員どうしで業務内容に重複がないかをチェックし、必要最小限の人数に絞り込んでみましょう。

形骸化する恐れがある

業務執行を担うのが執行役員の役割ですが、取締役の監督がうまく機能していなければ任せきりの状態になる恐れがあります。取締役による経営管理が疎かになることで、執行役員制度を導入しても実態が伴わない形式的なものになるリスクが生じます。

執行役員を置いているにもかかわらず、スムーズに進まない場合は取締役のあり方に問題がないかのチェックが必要です。監督しなければならない執行役員の数が多過ぎて取締役の負担が増しているのであれば、他の取締役と分担するなどして改善を検討する必要があります。

執行役員制度を導入するときの準備

執行役員制度を導入し、うまく機能させるには事前準備が非常に重要です。制度を導入する際に必要な準備について以下の項目で解説します。

社内準備におけるチェックポイント

執行役員制度を導入するにあたって、社内で確認しておきたいチェックポイントとしては以下の点が挙げられます。

・契約形態、任期
・勤怠管理、給与
・社内規定の整備

それぞれのチェックポイントについて詳しく見ていきましょう。

契約形態・任期

まず執行役員には「雇用型」と「委任型」の2つのタイプがあります。雇用型は企業が直接雇用をする形であり、社員を雇用する場合と基本的に変わりません。

一方で、委任型とは外部から人を招くものであり、業務委託契約を結ぶ形で一定期間働いてもらう方式となります。執行役員の任期は企業によってさまざまですが、あまり長過ぎても人材の入れ替えが乏しく、組織が硬直化しやすくなるため注意が必要です。

執行役員制度を導入する際は、事前に候補者をリストアップし、社内から登用できる人材がいないかを確認してみましょう。特別な業務などで社内に人材がいないときは、外部から招いてみるのもひとつの方法です。

勤怠管理・給与

雇用型の執行役員は実質的には一般社員と同じであるため、勤怠管理を行う必要があります。委任型の場合は業務委託となるため勤怠管理は不要です。

また、給与体系についても雇用型では給与として取り扱われますが、委任型は役員報酬という形になります。執行役員となる候補者と面談を行う際に、給与面や働き方などについて問題がないかを確認しておきましょう。

社内規定の整備

雇用型の執行役員は社員と同じであり、労働基準法や就業規則が適用されるため、社内規定をきちんと定める必要があります。執行役員に関する規定には、報酬やインセンティブに関する部分も盛り込んでおきましょう。執行役員としての手当など、具体的な項目を追加する形です。

取締役と執行役員との間で報酬の差が大き過ぎると不満が溜まる場合があるため、適正なラインを探ることが大切です。社内規定には報酬に関する部分だけでなく、執行役員の地位・権限・責務・守秘義務・禁止事項・選任方法・辞任方法・解任方法などを細かく盛り込んでおく必要があります。

選任する方法を決める

執行役員は会社法上の機関ではありませんが、「重要な使用人 」として取締役会議の承認が必要であると会社法には定められています。きちんとプロセスを経て、執行役員を選任することが重要であり、手続きを無視して選んでしまうと社内が混乱する原因となるため注意が必要です。

執行役員の選任方法についてはあらかじめルールを設けておき、不公平感が生じないようにすることが大切です。

専門家にも相談をする

はじめて執行役員制度を導入する際、制度設計の部分に関しては弁護士などの専門家に相談をしたほうが無難です。第三者の意見を交えて制度を整えることで、あらかじめ問題点となりそうな箇所をチェックでき、きちんと機能する制度づくりを進められます。

専門家による確認がない場合だと、実際に運用してみたときのイメージが湧きづらい部分もあります。制度の導入にあたって、気になる部分を事前に解消しておくことが大切です。

執行役員に関するQ&A

執行役員制度を導入するにあたって、あらかじめ気になる点はチェックしておきましょう。よくある質問について以下で解説します。

執行役員と社員の違いとは?

執行役員と一般社員では、雇用型の執行役員であれば特に大きな違いはありません。ただし、執行役員は「重要な使用人」として取締役会の承認を得る必要があるため、専任のプロセスを明確化する必要があります。

外部から人材を招き入れ執行役員とする場合は業務委託契約となるため、一般社員とは立場が異なります。

みなし役員とは?

みなし役員とは主に税法上の役員を意味し、会社の登記に関係なく役員とみなされ同等の扱いを受けているなど、一定の要件を満たした役員が当てはまります。たとえば取締役として登記されていない会長や相談役、顧問などが該当します。

実質的な役員としてみなされると、役員報酬の受け取りなどに制限がかかるため注意が必要です。

使用人兼務役員とは?

使用人兼務役員とは役員でありながら部長や課長といった職制上の地位を持ち、常時使用人として職務に従事している人を意味します。代表取締役やその他の取締役、みなし役員などは該当しません。

使用人兼務役員であるかどうかは税法上の取り扱いによるものであるため、事前に問題がないか専門家への確認が必要です。

まとめ

執行役員の設置によって取締役との役割分担が明確となり、経営の意思決定が迅速化します。また、取締役が執行役員を監督することで責任の所在が明らかとなり、不正が起こりにくい組織づくりを進められます。

執行役員であれば取締役と違い若手社員を抜擢することも可能です。組織の透明性を高め、モチベーションがアップする組織づくりに取り組んでみましょう。

執行役員規程

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