企業変革の方向性を読み解く。DX化を推進するための「目的」と「手段」とは

パーソルプロセス&テクノロジー株式会社

ワークスイッチ事業部事業開発統括部部長 成瀬 岳人(なるせ たけひと)

自社にとってのテレワークの目的を言語化する
業務自動化の推進には、現状の「可視化」と今後の「明確化」が重要
「副業」から「複業」へ。自己変革力を持つ人材育成につなげる
DXを推進していくのは「人」
会社として目指す姿が先、デジタル技術はその後に続くもの

現在、働き方のデジタル化と事業のDX(Digital transformation/テクノロジーとデータで生産性高く企業変革や業務推進を行うこと)が急速に進んでいます。先行きがなかなか見通せない状況下で、従来とは大きく異なる働き方を求められ、戸惑いを隠せない企業は多いのではないでしょうか。特にこれからの時代、テレワーク、AIやRPA(Robotic Process Automation /PC内のソフト型ロボットがバックオフィス業務を中心に代理実行すること)、複業の導入は、企業やそこで働く人々にとって避けては通れないテーマです。では、一体何がポイントで、どのように変えていけばいいのでしょうか。

今回は、パーソルプロセス&テクノロジー株式会社ワークスイッチ事業部で、これまで多くの企業の働き方の転換に携わってきた成瀬岳人氏に、それぞれのキーワードで押さえておくべきポイントを解説していただきました。

※文末に当日の動画や資料へのリンクがあります。

自社にとってのテレワークの目的を言語化する

DX時代の働き方は、大きく4つのキーワードで捉えることができます。それが、①テレワーク、②AIやRPA、③複業、④DXです。ただし、勘違いしてはいけないのが、これらは全て「手段」だということです。それぞれの目的を一般的に定義すると、①テレワークは事業継続のため、②AIやRPAは生産性向上のため、③複業は雇用の柔軟化のため、そして④DXは新しい価値の創造のため、となるでしょう。

テレワークについては、中長期的に取り組む企業が増えると考えられます。まず、新型コロナウイルス感染拡大の状況が今後どうなるかは、不透明な部分が多いものの、現状ではさまざまな専門家が「あと数年はwithコロナの時代が続く」と指摘しています。また、各媒体で毎日のようにテレワークが取り上げられ、認知度も急速に高まっている状態です。そして、いざテレワークをやってみると「意外とできることが多い」と感じた方も多いはずです。

自社にとってのテレワークの目的を言語化する01※当日の資料より抜粋

さらに、新型コロナウイルス以外にも、日本では夏の台風や地震による被害もリスクとして考えなければいけません。今後、新型コロナウイルス以外にもさまざまな形で脅威にさらされる可能性がある中で、BCP(Business Continuity Plan=事業継続計画)の観点からテレワークの重要性はますます高まっていくでしょう。これらのことを総合的に見て、テレワークの流れが短期的に終わるとは考えられません。

テレワークの本質は、自分に最適な場所を選択できることにあります。逆に言えば、なぜその場所で働かなければいけないのかを、働く側が自ら考えて選択しなければいけない。そこで重要になってくるのが、自社におけるテレワークの目的です。どういった意味や目的のためにテレワークを導入しているのか、改めて言語化し、社員に浸透させる必要があるでしょう。その上で、実証段階で見極めるべきなのは、テレワークで何ができなくて、なぜできないかを明らかにすることです。ここをおろそかにすると、現場における導入課題が曖昧になってしまうため、中長期的なテレワーク環境を構築することが難しくなります。

自社にとってのテレワークの目的を言語化する02※当日の資料より抜粋

業務自動化の推進には、現状の「可視化」と今後の「明確化」が重要

数年前から、人がやらなくてもいい業務をAIやRPAによって自動化するのがトレンドになっています。しかし、導入するにあたり、2つの論点を明確にしなければいけません。その1つは、どの業務をどこまで自動化するかです。いっそのこと全てを自動化したらいいと考えてしまうかもしれませんが、実は人がやらなくてもいい業務ほど属人化しているケースはかなりあります。いきなりテクノロジーを導入するのではなく、業務プロセスの可視化と共有化を行った上で、どの業務をどこまで自動化するのか、あらかじめ整理しておく必要があるでしょう

もう1つが、自動化された業務を誰がどのように運用するかです。業務が自動化されたからといって、運用まで自動化されるわけではなく、結局は誰かが運用の面倒を見なければいけません。導入してから運用担当者や方法を決めたのでは、せっかくの自動化がスムーズに活用できなくなってしまいます。こちらも導入前に整理しておくことが求められます。AIやRPAの導入にあたっては、危機感を持ったマネジメント層から徐々に現場へと施策が落ちていくことが多いでしょう。ただ、検討段階では現場に近いほど反応はネガティブです。知識やノウハウを持った現場の社員が、ポジティブな反応になるまでの道のりは長い。マネジメント層が「AIやRPAはよくわからない」とさじを投げるのではなく、いかに導入の重要性を理解して、組織内の転換を引っ張っていくかがポイントになってきます。

業務自動化の推進には、現状の「可視化」と今後の「明確化」が重要※当日の資料より抜粋

「副業」から「複業」へ。自己変革力を持つ人材育成につなげる

働く環境という観点では、副業も重要なテーマです。昨年末、調査会社に協力してもらって全国的な統計を取ってみたところ、副業を「すぐにでもしたい」と考えている20代が圧倒的に多いことがわかりました。彼らとしては、本業以外でも、もう1つくらい仕事ができるのではないかという感覚なのです。このような世代がこれから社会の主役になるにつれ、キャリア論も大きく変化していきます。これまでキャリアというものは、企業に所属し、組織がつくっていくものだとされてきました。しかし今や、人生の変化に応じて、個人が主体的にキャリアや働き方をつくっていくものだという認識へ変化しつつあります。そうなると、企業にとっての副業の意味合いも大きく変わってきます。副業解禁を福利厚生としてではなく、才能ある人材にさまざまな経験をさせて、人的資源を最適化させる機会として捉えなければいけません

「副業」から「複業」へ。自己変革力を持つ人材育成につなげる01※当日の資料より抜粋

自組織以外でも経験を積むことで、自組織では当たり前とされてきた前提を疑う感覚を身に付け、自社の働き方や事業のDX促進など、変革の提案までできるようになってもらう。このような自己変革力を持った社員を、副業を通していかに育てるかが、今後の企業の人材育成のテーマとなっていくだろうと考えています。そのためには、サブを意味する「副業」ではなく、複数の経験を積むことを意味する「複業」という認識へと改め、単なる副業解禁から複業促進へと変えていく必要があるでしょう

「副業」から「複業」へ。自己変革力を持つ人材育成につなげる02※当日の資料より抜粋

DXを推進していくのは「人」

働き方改革のステージは、長時間労働の改善を目的とするステージ1、多様で柔軟な働き方を実現するステージ2、価値創出とイノベーションを促進させるステージ3に大きく分けられます。現在は良くも悪くも、多くの企業がステージ3に突入している状況です。この時、DXというキーワードは非常に重要です。最近の日本において、DXはユーザー体験を良化させ、ビジネスの革新を実現するために、事業・組織の機敏性を改善させるものだと言われています。全ての業界、業種、職種で、デジタルによって新しい価値を生み出すことを求められていくのは間違いありません。

社内でDX推進部のようなものが立ち上がった時、業務プロセスをDX化することもあれば、ワークスタイルをDX化、ビジネスをDX化することもあるでしょう。一概にDXと言っても、内向きと外向きの両方が存在していますが、いずれも共通しているのは人が推進するということです。外部の人間をいれて推進することもありますが、やはり最終的には社内の人間が、自社コンセプトに基づき推進していかなければDXは持続しません。このような人材を社内で育成できるかが、DXの推進には必要不可欠です。

DXを推進していくのは「人」※当日の資料より抜粋

会社として目指す姿が先、デジタル技術はその後に続くもの

つい現場の課題ばかりに目がいき、それらを解決するためにデジタル技術を導入しがちです。しかし、本来は順番が逆。会社として目指す姿が先にあり、その実現のために活用するものなのです。その意味で、テレワーク、AIやRPA、複業、DXは、どれも手段です。これらによって、私たちは時間や場所の制約から解放されて、時間を生み出しているとも言えるでしょう。この新たに生み出された時間を、新たな価値に転換していく状況が訪れています。そして、これらを実行していくのは結局は「人」です。このような人材の育成に対してどれだけ投資できるかが、今後の企業の方向性を決めていくことになるでしょう。

会社として目指す姿が先、デジタル技術はその後に続くもの※当日の資料より抜粋

取材後記

働き方改革、デジタル化の波、新型コロナウイルス感染症の猛威——。大きな変化が一気に押し寄せる中で、企業や個人はスピード感を持って対応しなければいけません。特に、デジタル技術の活用は急務でしょう。しかし、流れに乗っただけで満足してしまってはいないでしょうか。成瀬氏が一貫して語っていたのは、そもそもの目的と手段を明確にすることでした。確かに手段としてのデジタル技術は多くの自由と選択肢を与えてくれます。一方で、目的なき手段は単なる足かせになりかねません。この混迷の時代に対応するため、改めて明確なビジョンをもって改革に取り組む必要があるのではないでしょうか。

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取材・文/橋本歩 EJS、編集/d’s JOURNAL編集部