【フォーマット有】要員計画の概要と計画の立て方・流れを解説

d’s JOURNAL編集部

事業を進めていく際に必要となる人員を見積もるために使われる「要員計画」。要員計画を的確に策定することで人材を適切に管理でき、異動に関するプランや能力開発プランなどを効果的に実施できるようになります。

この記事では、要員計画の概要やメリット、「トップダウン方式」「ボトムアップ方式」と呼ばれる2つの算定方式、要員計画の立て方などについてご紹介します。

要員計画のテンプレートもダウンロード可能ですので、ぜひご活用ください。

要員計画とは事業遂行に必要な人員計画を立てること

要員計画とは、事業を遂行する際に必要となる人数を見積もるための計画のこと。要員計画では、事業計画に沿った長期的かつ合理的な採用や人材配置であることが重視されます。要員計画を策定する際には、「人材配置」「人材採用計画」「異動計画」「能力開発計画」などを練ります。

的確な要員計画の策定により、「この部署には、人員がどれだけ必要か」「必要な人員を確保するため、新たに何人採用する必要があるのか」などを適切に判断できるようになります。

要員計画は、単に採用活動や人事異動を考える際の手段としてだけでなく、経営計画を完遂させるための重要な手段の一つとも言えるでしょう。

要員計画と人員計画・採用計画との違い

要員計画と混同される言葉に「人員計画」と「採用計画」があります。それぞれの言葉の意味と、要員計画との違いを解説します。

人員計画は具体的な人材配置を計画すること

要員計画と人員計画は、どちらも「ヒト」についての計画だという点では同じですが、計画の「内容」が若干異なります。人員計画とは、「この部署にはどのような人材が必要か」「どの部署に誰を配属するか」などの具体的な人材配置を計画すること。

部署などの小単位における「質的な側面」に注目し、具体的な人材配置を計画するのが、人員計画の特徴です。人員計画を練るためにはまず、「どこに何人必要か」を決定する必要があります。

この「どこに何人必要か」という人材戦略を立てるのが、要員計画です。要員計画では、経営方針や事業計画を基に「量的な側面」に注目して計画を練ります。人員計画のベースとなるのが要員計画だと捉えることができるでしょう。

採用計画は人員採用を立案する要員計画の一要素

採用計画とは、経営方針や事業計画を基に人員採用を立案することです。採用人数の決定方法は、各部門で必要な人員を積算する「積み上げ方式」と、総額人件費や事業計画から必要人員を算出する「総枠方式」の2つがあります。また採用計画では、「募集要項の決定」「採用スケジュールの立案」「採用コスト算出」なども計画します。

「要員計画」の決定に際しては「採用計画」を練るというフローも発生することから、「採用計画」は「要員計画」に不可欠な要素の一つと言えます。

「採用計画」を踏まえて「要員計画」を立て、「要員計画」を基に「人員計画」を考えるという流れで、人材の確保が行われると理解するとよいでしょう。

要員計画を立てる目的・メリット

「要員計画」は、「ヒト、モノ、カネ、情報」という4つの経営資源の1つである「ヒト」を管理するための計画です。要員計画により、「採用」「配置転換」「能力開発」などを調整しながら企業の経営方針や事業計画の達成を目指します。

要員計画を立てることで得られるメリットを3つ紹介します。

目標を立てることで課題が明確化する

要員計画を立てることで目標と課題がより明確になり、達成に向けた行動も明確化します。経営目標の達成には、PDCAのサイクルを回していくことが重要です。

人事においても、目標と現状に差異があれば「要員計画の策定」「人事配置の変更や採用・異動の実行」「評価」「改善」を繰り返し、問題を解決します。要員計画の策定により、PDCAを回せるようになれば、採用において有効策を打ちやすくなるでしょう。

人材のミスマッチ解消による離職防止

要員計画を立てることで事業内容に合った人材を適切に配置でき、人材のミスマッチ解消につながります。人材のミスマッチは離職の原因となることが指摘されているため、ミスマッチを防止することで、離職防止にもつながるでしょう。

また、要員計画は経営層と現場が連携しながら設計し、運用します。そのため、求職者に対して一貫したメッセージを発信でき、自社に合った人材を採用しやすくなるのもメリットです。

適切な人材配置による生産性向上

要員計画を基にした適切な人材配置により、生産性の向上も期待できます。「どの事業にどのような経験・スキルを持った人材が何人必要か」などが明確になることで、過剰人員は必要な部署へ配置転換でき、既存業務の人員数の最適化を図れるためです。適材適所の人員配置は、モチベーションや業務スピードの向上にもつながります。

また適切な人材配置により、将来活躍できる人材を計画的に育成できるのもメリットです。

要員計画の立て方には2種類の方法がある

要員計画の立て方には、「トップダウン方式」と「ボトムアップ方式」の2種類があります。それぞれの方式について、ご紹介します。

トップダウン方式とは

「トップダウン方式」とは、経営計画や利益計画といった企業の戦略に基づき、企業に必要な人員を「人件費」と「採算」という2つの側面から算定する方式のこと。別名、「マクロ的算定方式」と呼ばれています。

トップダウン方式では、まず「売上高」や「付加価値」「損益分岐点」「人件費率」「労働分配率」といった指標を参考に、「総額人件費として許容できる要員は何人までか」という基準で全社的に必要な人員を算定します。

その後、全社的に必要な人員を各部署に振り分ける仕組みとなっています。トップダウン方式の方程式は、以下の通りです。

●トップダウン方式の方程式

必要な人員=(年間売上高×付加価値率×労働分配率)÷1人当たりの人件費
または
必要な人員=(目標売上高×適正人件費率)÷1人当たりの人件費

トップダウン方式の場合、「予算的に妥当かどうか」を判断しながら必要な人員を決めることになるため、企業の決めた予算内での人員補充が可能になります。一方で、予算を気にし過ぎると、「この部署は人が足りていない」「この部署には、最低でもあと●人の増員が必要」といったように、現場の声を反映しにくくなることも考えられます。

そのため、トップダウン方式で必要な人員を検討する際には、「予算を守れるか」というだけではなく、「現場の人手不足を改善できるか」という観点でも考える必要があるでしょう。

ボトムアップ方式とは

ボトムアップ方式とは、現場の声を参考にしながら、各部署の「業務量」を基に、各部署に必要な人員を算定していく方式のこと。別名、「ミクロ的算定方式」と呼ばれています。

ボトムアップ方式ではまず、各部署にヒアリングを行い、「実際の業務量」や「今後、業務を進める上で、どういうスキルを持つ人が何人くらい必要になりそうか」などを把握します。

各部署で必要な人数が決まったら、各部門、各事業所、全社という順番で必要な人員を積み上げ、「会社全体として、何人必要なのか」を算定します。ボトムアップ方式では、以下の方程式が用いられます。

●ボトムアップ方式の方程式

必要な人員=総業務量÷(1人当たりの標準業務量×所定労働時間)

ボトムアップ方式の場合、「業務を遂行するのに何人が必要か」という観点で必要な人員を決めていくため、各部署の人員不足解消につながります。しかし、各部署の要望全てに応えようとすると、会社全体として必要な人員が増え過ぎてしまい、「人件費がかさむ」「当初予定していた予算をオーバーしてしまう」といった問題が起こる可能性もあります。

そのため、ボトムアップ方式で必要な人員を検討する際は、「各部署の要望に応えられているか」だけでなく「予算内に収まっているか」についても確認する必要があるでしょう。

双方の手法を活用するポイント

このようにトップダウン方式とボトムアップ方式には、それぞれに良さと課題があります。そのため、どちらか一方のみではなく両方の方式で必要な人員を算定し、そのギャップを埋めていくことが重要です。

またその際、「自社の離職率」や「採用市場の動向」なども併せて確認するようにすれば、より現実的な要員計画の策定につながります。

要員計画の立て方には2種類の方法がある

【フォーマット有】要員計画の立て方と流れ

要員計画の策定時には、さまざまな数値を基に検討していく必要があります。そのため、項目の抜け漏れがないよう、要員計画のテンプレートに沿って作成を進めていくとよいでしょう。要員計画のテンプレートは、こちらからダウンロードできます。

ここでは、要員計画の立て方と全体の流れについて、順を追ってご紹介します。本記事を読み進めながら、ダウンロードしたテンプレートに必要な情報を入力し、要員計画を策定してみましょう。

要員計画の立て方と流れ

①人事担当による現状把握

要員計画を立てる際は、まず人事担当が中心となり、現状を把握する必要があります。現状把握のために記載する必要がある項目は、以下の通りです。

●現状把握のために記載する必要がある項目

項目 記載内容
年度末在籍人数 各部署の社員の増減を考慮した上で、「年度末に在籍予定の社員の人数」を記載
年度当初在籍人数 「年度初めの時点で、各部署に在籍している社員の人数」を記載
年度減員分 今年度中に「減る見込みの社員の人数」を記載
年度増員分 今年度中に「増える見込みの社員の人数」を記載

テンプレートの各項目の記載欄に、想定される人数をできるだけ正確に記載しましょう。これらの情報を入力することで、各部署の「年度末在籍人員(見込み)と年度当初在籍人員の差異」が自動的に算出されます。

②社内の各部署のニーズ調査(ボトムアップ方式)

要員計画を立てる際には、現場の声を聞くことも重要です。そのため、人事担当者による現状把握が終わったら、次に社内の各部署に対して、必要な人員に関する「ニーズ調査」を行いましょう

課長・部長といった各部署の責任者にヒアリングし、「現場で働く人員に過不足がないか」「いつまでに何人補充する必要があるのか」「どういったスキル・経験を持つ人材を必要としているか」などを確認します。

その際、社員の退職・異動などに伴う欠員補充としてのニーズや、担当業務の拡大に伴う残業・休日出勤といった負荷を軽減するためのニーズ、難易度が高く専門的なプロジェクトを進めるための専門性の高い人材のニーズなど、具体的にどういったニーズがあるのかも、併せて確認するとよいでしょう。

各部署で新たに必要な人員がわかったら、テンプレートの「【ボトムアップ】要員要望数」の欄に書き込みます。各部署の要員要望数の記入が終われば、ボトムアップ方式で全社的に必要とされる人員を割り出すことができます。

③経営計画の確認と必要人員の算出(トップダウン方式)

現場のニーズを把握したら、次に組織としてのニーズを確認します。経営計画や経営者の意見を参考に、組織としてのニーズを把握しましょう。

その際、特に重視したいのが、既存事業の推進や新規事業の開拓といった事業計画を進める上でのニーズや、「特定の年代の社員が極端に少ない」「部署によって、社員の役職やスキルに偏りがある」といった人材構成の課題を改善するためのニーズです。経営計画や予算などをよく確認した上で、計画の実現に向けて必要となる人員をトップダウン方式で正確に割り出しましょう。

組織として各部署に新たに要望する人数がわかったら、テンプレートの「【トップダウン】要員要望数」の欄に書き込みます。

④適正値の検証とギャップの調整

ボトムアップ方式とトップダウン方式で算出された要員要望数の間には、多少なりともギャップがあるでしょう。そのため、そのギャップを調整する作業が必要になります。ギャップを調整する際には、「労働生産性」や「直間比率」から要員要望数が適正かを判断しましょう。

労働生産性は、社員の生み出す付加価値を労働投入量で割ったものです。要員計画を策定する際には、「今年度の売上見込み」から原材料費や外注費などを差し引き、「人員数」で割ったものを「労働生産性」として検討するとよいでしょう。

(参考:『【5つの施策例付】生産性向上に取り組むには、何からどう始めればいいのか?』)

また直間比率は、営業や生産といった直接的に利益を生み出す「直接部門」と、そのサポートを担う経理や総務といった「間接部門」の比率を意味します。扱っている商品・サービスの種類や企業規模などによって理想とされる直間比率は異なりますが、1つの目安として、全従業員に占める直接部門の従業員の割合が「70%~90%」くらいになっているかどうかを確認するのが望ましいでしょう。

労働生産性や直間比率は、テンプレートの下の方にある計算欄で確認することができます。労働生産性や直間比率を確認した上で、要員要望数のギャップを調整しましょう。調整の人数は、テンプレートの「【調整済み】要員要望数」の欄に記載します。

⑤新卒採用数の割り出し

要員要望数のギャップ調整後に行う作業は、新卒採用数の割り出しです。中途採用や異動と比べると、新卒採用には時間やコストがかかる傾向にあります。

そのため、「何人を新卒採用するのか」は、要員計画を策定する上での重要な要素の1つとされています。各部署の「年度減員分」「年度増員分」の内訳や「要員要望数」などを基に、新卒採用数を割り出しましょう

⑥採用計画の立案・適正の確認

新卒採用数を割り出したら、それを基に採用計画を立案します。「いつまでに」「何人」「どういう人に」入社してもらう必要があるのかを考えながら、採用計画を立てましょう。

採用計画を立案する際には、採用市場の動向や採用スケジュールなどを踏まえた上で、「計画に無理がないか」採用が適正であるかを確認することも重要です。

(参考:『事業計画に基づく採用計画の立て方とは?』)

⑦要員計画の決定

要員計画は、各部署の責任者や経営者といった決裁者に承認を得て、初めて正式決定されるものです。そのため、要員計画案と採用計画がそろったら、決裁者に「この計画で問題がないか」を確認してもらいましょう。

決裁者全員の承認を得て最終的に決まった人数を、テンプレートの「配員決定数」に記載します。「配員決定数」の入力後には、各部署で新たに必要となる「決定数合計」が自動的に算出されます。

要員計画を運用する際の注意事項

要員計画を策定する際には、どのようなことに注意が必要なのでしょうか。要員計画を運用する際の注意事項として、以下の2つが挙げられます。

実現可能な計画を立てる

要員計画は経営方針や事業計画を達成するための計画です。なるべく安易な変更が発生しないよう、実現可能な計画を立てましょう。求める人材をタイミングよく採用できるとは限らないため、採用難易度やコストを踏まえて現実的な目標を設定することが重要です。

また、予定通りに採用を進めるため、獲得難易度の把握も欠かせません。獲得難易度が高いとされるのは、習熟度や専門性の高い人材です。自社に必要な人材を長期的・安定的に確保できるよう、獲得難易度とともに予算や現場ニーズを把握し、バランスを考えて計画しましょう。

退職・休職のリスクにも備える

社員の想定外の退職・休職は、要員計画に影響をもたらします。特に、企業への貢献度が高い社員の突然の退職・休職は、要員計画の運用上、大きなリスクとなるでしょう。

そのため、社員の退職・休職リスクへの備えとして、今後発生するであろう業務についても必要人員数を算定しておくことが重要です。併せて、育児・介護と仕事を両立する社員に対するフォロー体制を構築するなど、退職率を改善させる施策も検討しましょう。

要員計画の学習におすすめの書籍

要員計画について、もっと詳しく勉強したいときにおすすめの本を3冊、ご紹介します。

要員・人件費の戦略的マネジメント 7つのストーリーから読み解く(デロイト トーマツ コンサルティング株式会社) 【著】デロイト トーマツ コンサルティング株式会社 【監修】岡本 努
要員や人件費について、定量的なアプローチから解説している1冊。実際の企業でのシーンを取り上げながら、「7つのストーリー」仕立てで、要員・人件費を最適化できる方法を学ぶことができます。現実的なケーススタディが掲載されているため、人事担当者や経営者などにおすすめです。

人件費・要員管理の教科書 環境変化への対応に悩むすべての実務家のために(株式会社労務行政) 【著】高原 暢恭
「要員計画の策定」や「人件費の管理」などに関する知識を、基礎から応用まで幅広く学べる本。スピード経営を進めていく上で重要な要員計画・人件費の管理について、「戦略アプローチ」「財務アプローチ」「業務アプローチ」という3つのアプローチから解説しています。「説明がわかりやすい」と好評な一冊です。

余剰人員か人手不足か 要員計画の立て方と総額人件費管理(中央経済社) 【著】窪田 千貫
健全な経営状態を維持するために必要な、人件費管理の考え方をまとめた1冊。トップダウン方式とボトムアップ方式に基づく要員計画の立て方を、事例を交えながら解説しています。経営者や経営企画担当者、人事担当者などにおすすめです。

まとめ

要員計画は、企業にとって最も重要な経営資源の1つである「人材」を適切に配置し、無理のない採用を進めていくために必要不可欠なものです。

経営計画に基づき予算に見合った人員を検討する「トップダウン方式」と、現場の声を基に部署ごとに必要な人員を積み上げていく「ボトムアップ形式」を併用しながら、要員計画を策定しましょう。

要員計画を策定する際には、「各部署や組織のニーズ把握」の他、「ギャップの調整」や「要員計画案の作成」「新卒採用数の割り出し」といったフローが必要となります。

テンプレートを活用しながら、自社に合った要員計画を策定し、人事異動や新規採用に役立ててみてはいかがでしょうか。

(制作協力/株式会社はたらクリエイト、編集/d’s JOURNAL編集部)

【Excel版】要員計画計算フォーマット

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