【フォーマット有】要員計画とは?立て方と作成手順・ポイントを解説
d’s JOURNAL編集部
事業を進めるにあたって、必要な人員を割り出すために用いられる「要員計画」。要員計画を策定することで人材採用や育成、人材配置を的確に行えるようになります。
この記事では、要員計画の概要やメリットについて解説したうえで、具体的な要員計画の立て方について見ていきましょう。また、要員計画を作成する際のフォーマットもあわせてご紹介します。
要員計画とは
企業が人材確保を行ううえで、具体的な目標設定の土台となるのが「要員計画」です。ここではまず、要員計画の基本的な意味や類似する用語との違いについて見ていきましょう。
要員計画の意味
要員計画とは、企業が事業計画を遂行するために、必要な人員の採用・適切な配置などをプランニングすることを指します。企業経営においては、やみくもに優れた人材をできるだけ多く集めるだけでは、理想的な組織づくりを実現することはできません。
過剰な人員を採用すれば、社内の費用を膨らませてしまう原因にもなります。また、せっかく人材を確保しても、適切な配置が行えなければ宝の持ち腐れとなってしまうでしょう。
効果的な人材戦略を立てるためには、事業計画にフィットしたプランニングが重要であり、そのために必要となるのが要員計画です。具体的にどのような能力を持った人材がどれだけ必要なのか、どのように育成・配置すべきなのかを明らかにすることで、企業は質の高い人材戦略を実行できるようになります。
要員計画の目的
要員計画の大きな目的は、先にも述べたように事業計画の遂行にあります。そのうえで、より細かな視点で見ていくと、「採用計画の合理化」「人員の適材適所の実現」「中長期的な人材育成」という3つに分けて考えることが可能です。
要員計画が明確化されていることで、採用に関する方針が統一され、合理的な採用計画を立てられるようになります。また、必要な人材の要件が明らかになっていれば、適切な人員配置・人材育成が可能となり、社内の人的リソースを最大限に活用することが可能です。
このように、人事に関わるさまざまな領域において、要員計画は重要な役割を果たす土台であることがわかります。
人員計画や採用計画との違い
要員計画と人員計画は同じような意味で用いられることも多いですが、シーンに応じて使い分けられるケースもあります。両者を分けて用いるときには、要員計画が「どの部署にどのくらいの人数を配置するか」といった量的な側面を持ち、人員計画はより小さな単位において「どのような人材を求めるか」といった質的な意味合いを持つことが多いです。
また、採用計画は人事のうち人材採用に関する活動・業務のプランニングであり、要員計画の一要素として考えられます。
人員計画については、以下の記事で詳しく解説されているので参考にしてみてください。
(参考:『人員計画とは?立てる目的とメリット、策定方法や注意点をまとめて解説 』)
要員計画を立てるメリット
要員計画を立てることで、企業の人事業務にはどのようなメリットが生まれるのでしょうか。ここでは、3つのポイントに分けてご紹介します。
採用後のミスマッチを防ぐ
要員計画を立てる重要な目的の一つは、「ミスマッチの予防」にあります。せっかく優秀な人材を採用しても、「本人の希望やスキルと任せたい仕事の相性が合わない」「企業カルチャーに共感してもらえない」などの問題が生じれば、思うように活躍してもらうことはできません。
人材の可能性を最大限に発揮してもらうためには、要員計画によって方針を明確にし、ブレのない採用活動を行うことが大切です。関係者できちんと方針が共有されていれば、求人広告の内容やメッセージで一貫した発信ができ、自社が求める人材に訴求しやすくなります。
また、応募者の選考基準も明快になるため、選考や面接のクオリティも向上していきます。
課題が明確になり、業務の効率化につながる
効率的な人材配置によって、業務効率化や生産性の向上につながるのも要員計画を立てるメリットです。要員計画が明らかになっていれば、自社の人材に関する課題を見つけやすくなります。
例えば、欠員によって手薄になってしまう部署や将来的な成長が見込める分野があれば、早い段階で人材確保に着手できるようになるでしょう。その結果、適切な人材配置が実現され、組織全体の生産性が高まっていきます。
中長期的な人材育成に役立つ
企業の組織を発展させていくためには、中長期的な視点に立った人材育成が欠かせません。人を育てていくためには、場当たり的な短期計画ではなく、数年あるいは数十年単位での長期的なプランが必要です。
綿密な要員計画が策定されていれば、それに基づいて育成プランを立てられるため、長期にわたる取り組みを実現しやすくなります。人材開発や育成にどれだけの費用や時間をかけられるのか、どの分野の人材を重点的に育てるべきかが明らかになるので、効果的な育成戦略を立てることができます。
要員計画を立てる2つの方法
具体的な要員計画を立てるうえでは、「トップダウン方式」と「ボトムアップ方式」の2つの方法があります。ここでは、それぞれの算出方法について解説します。
トップダウン方式
トップダウン方式とはマクロ的算定方式とも呼ばれ、経営計画や利益計画といった企業の目標から適正な要員数を算出する方法です。具体的には、損益計算書などの財務諸表を用いて、企業に必要な人員を「人件費」と「採算」という2つの側面から算定していきます。
トップダウン方式の計算式
1.必要な人員=(年間売上高×付加価値率×労働分配率)÷1人当たりの人件費
または
2.必要な人員=(目標売上高×適正人件費率)÷1人当たりの人件費
トップダウン方式は予算と利益の面から計算する方法であるため、数字に基づいた客観性や妥当性が担保されるのが特徴です。一方、現場での需要については加味されないため、トップダウン方式を用いる際には現場の声にもしっかりと耳を傾ける必要があります。
ボトムアップ方式
ボトムアップ方式とはミクロ的算定方式とも呼ばれ、各部署の「業務量」を積み上げながら総業務量を計算し、必要な人員を計算していく方法です。各部署あるいはプロジェクトチーム、各事業所、全社という順番で必要な人員を積み上げ、最終的に何人必要なのかを明らかにします。
ボトムアップ方式の計算式
必要な人員=総業務量÷(1人当たりの標準業務量×所定労働時間)
ボトムアップ方式では、現場の需要をそのまま反映させられるため、現実性の高い要員計画を立てられるのがメリットです。一方で、人件費の予算オーバーにつながる可能性もあるため、費用面には細心の注意を払う必要があります。
【フォーマット有】要員計画の作成手順
要員計画を作成する際には、さまざまなデータや数値を抜け漏れなく反映させていく必要があります。そのため、項目の抜け漏れがないよう、要員計画のテンプレートに沿って作成を進めていくとよいでしょう。
要員計画のテンプレートは、こちら からダウンロードできます。
ここでは、以下の7つのステップに分けて、要員計画の立て方と流れをご紹介します。
要員計画を立てる手順
1.人事担当による現状把握
2.社内の各部署のニーズ調査(ボトムアップ方式)
3.経営計画の確認と必要人員の算出(トップダウン方式)
4.適正値の検証とギャップの調整
5.新卒採用数の割り出し
6.採用計画の立案・適正の確認
7.要員計画の決定
1.人事担当による現状把握
要員計画を立てる際は、まず人事担当が中心となり、現状を把握する必要があります。現状把握のために記載する必要がある項目は、以下の通りです。
項目 | 記載内容 |
---|---|
年度末在籍人数 | 各部署の従業員の増減を考慮して算出された年度末に在籍予定の従業員の人数 |
年度当初在籍人数 | 年度初めの時点で、各部署に在籍している社員の人数 |
年度減員分 | 今年度中に減る見込みの従業員の人数 |
年度増員分 | 今年度中に増える見込みの従業員の人数 |
テンプレートの各項目の記載欄に、想定される人数をできるだけ正確に記載しましょう。これらの情報を入力することで、各部署の「年度末在籍人員(見込み)と年度当初在籍人員の差異」が自動的に算出されます。
2.社内の各部署のニーズ調査(ボトムアップ方式)
ボトムアップ方式で要員計画を立てる際には、現場の声を聞くことが重要です。人事担当者による現状把握が終わったら、次に社内の各部署に対して、必要な人員に関する「ニーズ調査」を行いましょう。
課長・部長といった各部署の責任者にヒアリングし、「現場で働く人員に過不足がないか」「いつまでに何人補充する必要があるのか」「どういったスキル・経験を持つ人材を必要としているか」などを確認します。このときには、次のような項目をもとに具体的なニーズを探っていくとよいでしょう。
ニーズ調査のアプローチ例
・従業員の退職・異動などにともなう欠員補充としてのニーズ
・担当業務の拡大による負荷を軽減するためのニーズ
・難易度が高く専門的なプロジェクトを進めるための専門性の高い人材のニーズ
各部署で新たに必要な人員がわかったら、テンプレートの「【ボトムアップ】要員要望数」の欄に書き込みます。各部署の要員要望数の記入が終われば、ボトムアップ方式で全社的に必要とされる人員を割り出すことができます。
3.経営計画の確認と必要人員の算出(トップダウン方式)
ボトムアップ方式で現場のニーズを把握したら、経営計画や経営者の意見を参考に組織としてのニーズを確認します。既存事業の推進や新規事業の開拓によるニーズ、「特定の年代の社員が極端に少ない」「部署によって、社員の役職やスキルに偏りがある」といった人材構成の課題を改善するためのニーズなどをチェックしましょう。
そのうえで、経営計画や予算などをよく確認し、計画の実現に向けて必要となる人員をトップダウン方式で正確に割り出します。組織として各部署に新たに要望する人数がわかったら、テンプレートの「【トップダウン】要員要望数」の欄に書き込みましょう。
4.適正値の検証とギャップの調整
ボトムアップ方式とトップダウン方式で算出された要員要望数の間には、多少なりともギャップが生じるものです。そのため、「労働生産性」や「直間比率」から要員要望数が適正かを判断し、ギャップを調整する必要があります。
労働生産性は、従業員が生み出す付加価値を労働投入量で割ったものです。要員計画を策定する際には、「今年度の売上見込み」から原材料費や外注費などを差し引き、「人員数」で割ったものを「労働生産性」として検討するとよいでしょう。
(参考:『【5つの施策例付】生産性向上に取り組むには、何からどう始めればいいのか? 』)
また直間比率は、営業や生産といった直接的に利益を生み出す「直接部門」と、そのサポートを担う経理や総務といった「間接部門」の比率を意味します。扱っている商品・サービスの種類や企業規模などによって理想とされる比率は異なりますが、一つの目安として、全従業員に占める直接部門の従業員の割合が「70~90%」くらいになっているかどうかを確認するのが望ましいでしょう。
労働生産性や直間比率は、テンプレートの下のほうにある計算欄で確認することができます。調整した人数は、テンプレートの「【調整済み】要員要望数」の欄に記載します。
5.新卒採用数の割り出し
中途採用や異動と比べると、新卒採用には時間や費用がかかる傾向にあります。そのため、「何人を新卒採用するのか」は、要員計画を策定するうえでの重要な要素の一つとされています。
各部署の「年度減員分」「年度増員分」の内訳や「要員要望数」などをもとに、新卒採用数を割り出しましょう。
6.採用計画の立案・適正の確認
新卒採用数を割り出したら、それをもとに採用計画を立案します。「いつまでに」「何人」「どういう人に」入社してもらう必要があるのかを考えながら、採用計画を立てましょう。
採用計画を立案する際には、採用市場の動向や採用スケジュールなどを踏まえたうえで、「計画に無理がないか」採用が適正であるかを確認することも重要です。採用計画の立て方については、以下の記事でも詳しく解説されているので参考にしてみてください。
(参考:『採用計画とは?策定手順や作成時のポイントを解説 』)
7.要員計画の決定
要員計画は、各部署の責任者や経営者といった決裁者に承認を得て、初めて正式決定されるものです。要員計画案と採用計画がそろったら、決裁者全員の承認を得て、最終的に決まった人数をテンプレートの「配員決定数」に記載しましょう。「配員決定数」の入力後には、各部署で新たに必要となる「決定数合計」が自動的に算出されます。
要員計画を立てるときの注意点
要員計画を立てる際には、どのような点に注意すべきなのでしょうか。ここでは、特に意識しておきたい3つのポイントについて見ていきましょう。
実現可能な要員計画を立てる
要員計画は経営計画や事業計画と密接に紐づいたものであるため、一度適用されたら安易に変更することはできません。そのため、採用市場の状況や自社が許容できる予算をもとに、実現可能な目標を立てることが大切です。
また、新たな人材採用を行う場合には、必要な人材の獲得難易度もきちんと把握しておく必要があります。習熟度や専門性の高い人材を求める場合は、獲得するまでの期間が長くなったり、費用が膨らんだりするケースもあるため、ゆとりを持たせた予算設定が必要です。
退職や休職の影響も考える
従業員の退職や休職は要員計画に影響を与えるので、今後必要となる人員数に余裕を持たせておくことも大切です。特に企業への貢献度が高い人材や替えの効かないポジションに就くメンバーの休職や退職は、要員計画を運用するうえで大きなリスクとなります。
影響の大きさを考えると、要員計画にゆとりを持たせるとともに、やはり必要な人材が離れないための環境改善に取り組むことは重要です。社内環境を向上させ、退職率を改善することができれば、自然と要員計画にも柔軟性が生まれていきます。
自社でどこまで対応できるかを検討する
要員計画はあくまでも事業の遂行が目的であるため、必要があれば外部のリソースを活用するといった判断も重要となります。特に、「一時的に人員が必要な分野」「年に数回しかない業務」「社内に専門家がいない分野」については、外部リソースを活用するほうが効率的な場合も多いです。
自社のリソースが不足している場合は、社内の人員のみで事業を遂行することにこだわらず、柔軟な発想を取り入れるようにしましょう。
まとめ
要員計画は、企業が人材採用や人材育成、人員配置を行う際に土台となるものです。計画の立て方には、経営計画に基づいて予算に見合った人員を検討する「トップダウン方式」と、現場のニーズをもとに必要な人員を積み上げていく「ボトムアップ方式」の2種類あります。
両者の特徴を踏まえたうえで併用し、計算フォーマットを活用しながら、自社に合った要員計画を策定してみましょう。
(制作協力/株式会社STSデジタル、編集/d’s JOURNAL編集部)
【Excel版】要員計画計算フォーマット
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