オンライン勤務によって、社員の心は離れていく?カルチャー浸透に取り組む3社の施策

株式会社Hajimari

執行役員兼人事プロパートナーズ事業部長  山中諭(やまなか さとる)

株式会社GA technologies

CHRO 清家良太(せいけ りょうた)

株式会社うるる

取締役 小林伸輔(こばやし しんすけ)

新型コロナウイルスの影響で多くの企業がリモートワークに移行し、画面越しにコミュニケーションを取る毎日。それぞれが孤独にパソコンへと向かい続けた先に待ち受けているのは、社員の心離れかもしれません。

来るアフターコロナ。「いざふたを開けたとき、社員がそっぽを向いていた」という状況を防ぐためには、「社員を自社のファンにする強い組織づくり」が必要となります。

2020年6月16日、株式会社MyReferが主催する、社員のファン化に取り組む組織の経営陣を集めたオンラインイベント「Fanbase Recruiting MTG vol.2」が開催されました。登壇したのは、株式会社Hajimariの山中諭氏、株式会社GA technologiesの清家良太氏、株式会社うるるの小林伸輔氏です。

参考:Fanbase Recruiting MTG vol.1

お酒を交えながら、ざっくばらんな空気の中、「新型コロナウイルスの影響で、採用方針をどう切り替えたか」「帰属意識を持ってもらうための、オンラインでの取り組み」といった、各社のリアルなHR戦略が飛び交った1時間半をレポートします。

(※記事中の写真はMyRefer提供)

社員の心が会社から離れていく? アフターコロナ時代に求められるHR戦略とは

イベント前半では、MyReferの鈴木氏より、アフターコロナ時代に求められるHR戦略の在り方が語られました。


(株式会社MyRefer 登壇資料より)

鈴木氏:新型コロナウイルス感染症の影響で、多くの企業が採用人数を減らさざるをえない状況に陥っています。コロナ禍前のように人は増やせないけれど、業績は維持しなければならない。このジレンマをクリアするために、企業には生産性の向上が求められます。

企業の生産性を向上させるためのHR戦略は、2つに分けられます。1つ目は外部向け施策で、即戦力となるハイクラス人材や、カルチャーマッチした人材の採用が重要になるでしょう。2つ目は内部向け施策で、既存社員の最適な配置や帰属意識の向上に取り組むことです。

しかし、自粛を余儀なくされた状況下で、会社との距離が広がり、社員による会社への帰属意識やエンゲージメントが低下しています。今、企業には「社員を自社のファンにする組織づくり」が求められているのです。

 

いち早く社員のファン化に注目し、施策に取り組んできた各社は、どういったHR戦略を立てているのでしょうか。登壇した経営陣の3名に、自社の取り組みについてお話しいただきました。

「カルチャー」 を起点とした、心の根っこでつながる組織づくり

イベントの後半から、ファンベース採用に取り組む企業3社の経営陣が登壇。「コロナ不況に勝ち残る、強い組織のつくり方とは?」をテーマにして、Q&A形式のパネルディスカッションが繰り広げられました。

――新型コロナウイルス感染症の拡大によって、これまでと採用戦略は変わりましたか?

 

山中氏:Hajimariでは、ビフォーコロナと比べて、今の方が採用に力を入れています。なぜなら、新型コロナウイルスの影響で業績が下がり、採用をストップしている企業が増えているから。競争相手が減って人材獲得のチャンスなので、しっかりと戦略を立てて採用活動をしています。

戦略の一つが、人材サービス会社とこまめにコミュニケーションを取ることです。採用の足を止める企業が多い中、「うちは採用を強化しています」とエージェントにアピールする。すると、エージェントも積極的に人材を紹介してくれるのです。こうした取り組みの結果、以前よりも母集団が2倍に増えました。

 

 

清家氏:GA technologiesも新型コロナウイルスによる悪影響を受けず、売上が伸び続けているため、採用を強化しています。基本的に選考の流れは変えていませんが、唯一変わったことは、最終面接をオンラインにしたこと。以前まで、最終面接のみ直接顔を合わせていましたが、今は一次面接から最終面接まで、全てオンラインで完結できるように調整しました。

あとは、このコロナ禍において、改めてカルチャー(※)にフィットする人材を採用しようと心がけています。私たちの採用基準は、これまでも、カルチャーへのフィットが第一。ただ、会社への帰属意識やエンゲージメントの低下が叫ばれる中で、社員をファン化するには、より一層「カルチャー」という深い根っこでつながる必要があります。

(※)企業・組織文化のこと。

 

小林氏:うるるはオンラインとオフラインを併用していますが、最終面接は対面です。組織戦略として「『うるるスピリット』“ムンムン”の組織を目指す」を掲げるほど、「うるるスピリット」という行動指針を大切にしています。採用面接で「『うるるスピリット』は宗教です。あなたは信仰できますか?」と聞くくらい、深いカルチャーが醸成された会社です。

そんな私たちが、カルチャーにフィットする人材を採用するために行っていること。それは、採用候補者が「うるるにマッチするか」を確かめられるよう、熱量の高い情報を提供することです。うるるスピリットを感じられるブログを、週2日のペースでアップする。選考を受ける人には、PDF形式でビジョンブックを送り、「事前に読んでください」とお願いをする。こうしてカルチャーがわかるコンテンツをいくつも用意しておけば、面接を受ける前に、採用候補者自身がカルチャーへのマッチ度を判断できるからです。その結果、うるるの考えに心から共感してくれる人だけが選考に進む環境をつくれています。

――リモートワークによって会社と社員の距離が離れる中、帰属意識を持ってもらうために、どのような取り組みをしていますか?

小林氏:ビフォーコロナ時代にオフラインで開催していたイベントを、オンラインで開催できるように整えました。社員のモチベーションが下がらないように、社内LT(※)大会や社内飲み会など、自宅にいてもメンバーとコミュニケーションを取れる機会をつくっています。

(※)ライトニングトーク。勉強会やイベント、カンファレンスなどで行われる、5分程度の短いプレゼン。

また、新たに一から始めた取り組みもあります。自宅でも仕事のメリハリをつけることを目的とした、社内のヨガマスターによるオンラインの朝ヨガ。直接顔を合わせられなくてもカルチャーを浸透させられるようにと始めた、社長や経営陣の対談配信などです。

コミュニケーションの濃度という視点で見ると、正直、オフラインに勝るものはありません。しかし、オンラインに切り替えたことで、社員が気軽に参加できるようになり、イベントへの参加者が増えました。社員のイベント参加率が上がり、一人一人のカルチャーへの接触回数が増えたことで、帰属意識が高められたのではないかと思います。

山中氏:私たちは、毎週金曜日の夜9時から、社内ラジオをやっています。パーソナリティーを務めるメンバーを毎回変えて、ゲストのメンバーを呼び、仕事のことや自宅でのことなど、トークが盛り上がっていますよ。

途中、CMコーナーもありまして。楽しみながら会社や事業への理解を深めてもらうため、各事業部をスポンサーに見立てて、ラジオのCM風に事業部の紹介をしています。

 

 

清家氏:社内ラジオ、おもしろい取り組みですね!私たちは、これまでオフラインで行ってきた全グループ表彰式をオンラインで開催しました。開催が決まったのは、4月に緊急事態宣言が出たあたり。そこから約2カ月間、テレビ収録さながらの本格的なスタジオ撮影を実施するなど、会社としてそれなりに大きな額を投資しながら準備を進めました。

結果、社内からも社外からも評判で、「オンライン表彰式のスキームを教えてほしい」と企業から数件の問い合わせもありまして。初めての取り組みだったので、手探りで進めてきましたが、大成功だったと思います。

特によかったのは、普段あまり顔を合わせないメンバー同士のコミュニケーションが促進されたこと。ここ数年で社員がどんどん増える中、これまでのオフライン表彰式は「今表彰されているのは誰だろう?いきなり声をかけづらいし、話すタイミングがない」と戸惑いがありました。一方、オンラインだとチャット感覚でコメントを投稿できるため、話したことがないメンバーとも活発にコミュニケーションを取れましたね。

――組織が急成長する中で、組織づくりの失敗はありましたか? その失敗をどう乗り越えましたか?

小林氏:実は数年前、少し極端な表現ですが、弊社は組織として壊れかけていました。原因は、当時「うるるスピリット」という言葉はあったものの、形骸化し、メンバーにカルチャーが浸透していなかったこと。能力ばかりを優先して採用し、カルチャーのフィットに関しては無視してしまっていた時期がありました。

カルチャーを軸にした組織づくりの重要性に気づいてからは、内側からじっくりと、4年ほどかけて組織を「治療」しました。今はメンバー全員が声をそろえて「うるる=カルチャードリブンの会社」と言うようになりました。苦しい時間を経験してきてよかったと心から思えています。

カルチャーは目に見えるものではないし、明日の売上をつくるものでもありません。しかし、どこかでメスを入れないと、数年後に大きな苦労をすることになる。手術は早いに越したことはないので、カルチャーが浸透していないなら、一日でも早く手を打った方がよいでしょう。

 

 

清家氏:小林さんのその話、とても共感します。私は、組織が成長する中で必ず失敗を繰り返すものだと思っています。重要なのは、そこからどう最速で立ち上がることができるかです。

だから意識すべきは、「失敗しないためにどうするべきか」ではなく「最速で意思決定をして、そこから成功のために時間を使う、あるいは残りの時間で意思決定をしなおす」ということ失敗は避けて通れないものだと受け入れ、「現状から1ミリでもプラスに持っていくには?」と自分に問いかけながら、淡々と最速で乗り越えるようにしています。

山中氏:過去の経験で印象深いのは、人事制度をつくったエピソードです。当時は、次々と発生する組織課題に対して、人事制度をつくることで解決しようと、つぎはぎをするイメージで制度設計をしていました。しかし、その進め方では場当たり的な制度しか生まれず、サステイナブルな組織づくりはできません。

そこで考え直し、ビジョンというゴールから逆算して、一貫性のある人事制度の設計をするように意識しました。つくるのは、ビジョンをかなえるために必要な制度だけ。こう考え始めてから、組織づくりがうまく回り出した気がします。

 

ただ、一貫性のある人事制度だからといって、「その制度はいつまでも正しい」と思い込むのはダメ。定期的にテコ入れするために、制度に有効期限を設けるのがおすすめです。期限を最初に決めておいて、見直しのタイミングを強制的につくる。そして、そのときの組織の状態に合わせて人事制度を再度調整していくことが、成長し続ける組織になるために必要だと思います。

清家氏:人事制度の見直し、賛成です。というのも、人事制度は組織づくりの特効薬だと思われがちです。よく聞くケースとして「一つの人事制度に多くの成果を求められる」ということがあります。

「組織を変えたいなら、新しい人事制度をつくればよい」という思考で、制度を導入すること自体が目的になり、設計ばかりに気を取られている会社は少なくありません。運用が二の次になっているのです。弊社では、一つの人事制度に目的を一つ、有効期限を半年と設定し、定期的に制度を見直しています。

人事制度は「設計1割、運用9割」のバランスがベストでしょう。大切なのは、どんな制度をつくるかよりも、効果的に制度を活用するためにどう運用していくか。定期的に見直しながら、手間をかけて制度を運用していくことが、組織づくりの基盤になるのではないでしょうか。

 

 

登壇者からのメッセージ

小林氏:本日の冒頭、「生産性の向上が大切になる」というお話がありました。生産性は「モチベーション」×「仕組み」だと考えています。モチベーションと業績、生産性は離れたもののようですが、完全に一致しているもので、これを上げるために、目に見えない部分である、カルチャー浸透が大切だと思っています。仕組みはITでなんとかカバーができるため、重要となる社員のモチベーションアップに引き続き取り組んでいきたいですね!

清家氏:人事の仕事には正解がなくて、各社各様です。だからこそ、会社の垣根を越えて一緒に取り組む仲間でありたいと思っています。どうすれば日本全体の経済が良くなるのか、これからはチーム日本で取り組んでいきたいです。

山中氏:人事は15、6年担当してきましたが、「この仕事に正解はない」と感じています。私は、自分がかかわるステークホルダーに対して仁義を通すこと、そして自分自身が楽しむことに信念を持って取り組んできました。人事は日の目を見ず、苦労も多い仕事ですが、みなさんもそれぞれの信念を持ち、楽しんで取り組んでほしいと思っています。

取材後記

新型コロナウイルスの影響でリモートワーク化が進み、帰属意識やエンゲージメントの低下が叫ばれてきました。物理的な距離が遠くなっても、心の距離を縮めるべく、カルチャーを起点としたさまざまな取り組みを各社が行っています。

カルチャーは一日にして成らず。明日の数字を追いたくなったとき、社員にカルチャーが浸透しているか不安になったときは、地道にファン化の施策を積み上げてきた3社のことを思い出してみてください。

取材・文/柏木まなみ、編集/野村英之(プレスラボ)d’s JOURNAL編集部