ベアーズ高橋ゆき、エッセンシャルワーカー・家事代行進化論「暮らし方改革」【1/2】

株式会社ベアーズ

取締役副社長
高橋 ゆき (たかはしゆき)

株式会社ベアーズの取締役副社長。社内では主にブランディング、マーケティング、新サービス開発、人材育成担当。家事代行サービス業界の成長と発展を目指す一般社団法人全国家事代行サービス協会の会長を務める。経営者として、各種ビジネスコンテストの審査員や、ビジネススクールのコメンテーターを務めるほか、家事研究家、日本の暮らし方研究家としても、テレビ・雑誌などで幅広く活躍中。2015年 には世界初の家事大学設立、学長として新たな挑戦を開始。TBSドラマ「逃げるは恥だが役に立つ(2016年)」、読売テレビ・日本テレビ系ドラマ「極主夫道(2020年)では家事監修を担当した。通称ゆっきー。

2020年、大きく変わった家事代行市場
大きな需要を感じて進化「家事代行進化論」とは

家事代行サービスのパイオニア、株式会社ベアーズ(中央区日本橋浜町/代表取締役社長:高橋健志)は、2020年の新型コロナウイルスの感染拡大が国内で進む中、オンラインコミュニケーションなどのシフトを中心とした組織デザインで社員エンゲージメントの維持に奏功している。同社の取締役副社長であり、家事研究家、1男1女の母など、さまざまな顔を持つ高橋ゆき氏(以下、高橋氏)に、家事代行市場、社員とのコミュニケーションの在り方、さらには働いて幸せになるとはどういうことなのかを語っていただいた。今回はその前半をお伝えしよう。

2020年、大きく変わった家事代行市場

2020年、大きく変わった家事代行市場

1999年に創業したベアーズは、今年設立22年目を迎えた家事代行サービスのパイオニア企業だ。1990年代から隆盛した「女性の社会進出」「共働き世帯の増加」などを背景に、家庭の家事負担を減らす家事代行および家事支援サービスは、静かにその認知度を上げていく。しかしながらこれらのサービスは、ある特定の富裕層や特別な環境下にあるユーザーのみが利用するものとイメージされてきた。ところが2011年の東日本大震災をきっかけに、生活をサポートする家事に対する需要が国内で急速に高まっていき、省エネ家電をはじめ、介護・介助、家事支援などといったサービスが広く認知されていったのだ。家事支援・代行サービスはその最たる分野となる。

それから9年の歳月を経た現代。家庭内のサポートを行う家事代行サービスは、いまや日本の暮らしの新しいインフラとなったと言っても過言ではない。その需要を、同市場の黎明期から支え続けてきたのがベアーズというわけだ。家事代行市場は、参入事業者が600社以上。経済産業省が2014年に公表した資料「家事支援サービスについて」によると、今後6,000億円規模まで成長する市場とも言われており、2020年の新型コロナウイルス感染流行拡大を機に高まった巣籠り需要などで、さらなる成長が見込まれている

一方、HR観点でも同社の業界への貢献は著しい。例えば、2017年に開始された「国家戦略特区制度による家事支援サービス外国人の受け入れ(※)」に対して、これまで業界的にはサービスの担い手が慢性的に不足している状態であったが、同社はいち早く海外人材の受け入れを開始。新たな雇用を創造しているのだ。拡大する需要に対する働き手の確保はもちろん、多言語対応など幅広いニーズにも対応するという。

さて、そんな活躍めざましい同社になくてはならない存在、それが高橋氏(通称ゆっきー)だ。現在、テレビや雑誌などメディアに引っ張りだこ。今回満を持してd‘s JOURNALへ登場していただいた。家事代行サービスの市況感、コロナ禍での社員とのコミュニケーション、そして自身の仕事観など大いに傾聴したい。

(※)第2次安倍内閣が成長戦略の柱のひとつとして掲げた規制改革制度。“世界で一番ビジネスをしやすい環境を作る”ことを目的に、地域や分野を限定して、規制・制度の緩和や税制面の優遇を行う

高橋氏

●2020年の家事代行サービス市場はどのような状況でしたか

高橋氏:2011年の東北大震災のとき、家事代行というサービスが世間から認知され、その期待の角度も上がりました。それまでは富裕層や特別な環境と特別な人が活用するサービスだと思われていたのですが、世の中に痛ましい事件や災害が広がったため、小さなお子さまも含めて、老若男女すべての国民が「自分にしかできないことに力を注ごう」という風潮が広がりました。それが家事代行サービスニーズの拡大となった要因のひとつです。自分じゃなくていいことに気持ちを患ったり、自分が辛くなることを我慢したりすることを解消したい――。なんとなく国民がそう感じていた時期だったのでしょう。

それにより2011年以降から中流家庭のご利用が大変伸長しました。その利用者層もさまざまで、例えば専業主婦であったり、一人暮らしの方であったり――。これまでとはまったく違う利用者層の認知と拡大が、この9年の間で進んだのです。さらには、ドラマで言えば「逃げるは恥だが役に立つ(2016年/TBS)」や、昨今では「私の家政夫ナギサさん(2020年/TBS)」などの影響もあり、世間には「もっと人に頼っていいんだ。その方がもっと自分の人生をよりまっとうできるんだ」と意識を変えた人も増えました。その矢先に発生したのがコロナショックです。

結論から申し上げると、ベアーズは2011年に「日本の暮らしの、新しいインフラになります」と宣言していたのですが、2020年には、すでに「日本の暮らしの新しいインフラ」になっていたと気付きました。つまり家事代行サービスが、世の中の多くの人に、「既知の存在」となっていたわけです。

その気付きのきっかけとなったのが、2020年3月の小中高臨時休校でした。皆さんご存知の通り、4月、5月は全国的にステイホームの期間のだったため、国民のほとんどが自宅で過ごしていました。そのとき当社としましては、「子どもが学校に通えないのでシッターをお願いしたい」などの要請が多く来るのではと身構えていたのですが、実はその何倍もの数の「家事を手伝ってほしい」という声が上がったんですね。

共働きも当たり前になってきて、夫婦ともにテレワーク。仕事でもしっかり成果を出さなければいけない。でも子供たちはオンライン授業で家にいる。そういった諸問題に対して、単純に家事を手伝ってほしいというニーズ。家族全員、家にいる時間が長くなればなるほど料理は1日3回つくらなければならず、外食も金銭的に大変で、かつ自粛要請により満足にできない。洗濯やトイレ、お風呂の頻度もどんどん増えていく――。そのような背景から、家事そのものへのヘルプが大変増えてきたわけです。

そこで私たちが踏み切ったのは、東京23区内にお住まいの方を中心に、100組限定でどなたでもベアーズを無償で利用できるサービスの提供でした。これは3月上旬、HPで謳っただけでしたが、驚くことにわずか3時間足らずで予約が埋まってしまったのです。ニュースなどのメディアにも取り上げられていないのに、ですよ。しかもその7割以上が、これまでに家事代行サービスを利用したことのないお客様だったのです。

これらを踏まえた時、世界的有事に直面した際、私たちのチャネルやサービスを頼っていただいた、あるいは探している人の数が多かったことに嬉しく思いました。いまはもっともっと無償枠を提供できる企業を目指しています。それだけに、世の中へ、家事代行サービスによる「暮らしのインフラ化」が進み、私たちベアーズが、そして業界全体が、社会への貢献を果たしていると自覚した瞬間でもありました。

高橋氏

大きな需要を感じて進化「家事代行進化論」とは

●ベアーズだけでなく家事代行サービス全体が大きなインフラ化を果たしたわけですね

高橋氏:私は一般社団法人全国家事代行サービス協会の会長を務めさせていただいており、このコロナ禍でも「同業同志」が心をつないで、インフラ化への道を強化なものにしてきたという自負や想いは持っております。先日、協会の定例会をオンラインで開催したのですが、全国津々浦々すべての家事代行サービスに携わる同志が、先述のベアーズと同じように家事代行サービスへの大きな需要を感じている、あるいは大きな引き合いがあると答えています。全国的にも家事代行サービスが、家の中のお困りごとを抱えていらっしゃる人々から頼りにされているんだなとはっきり自覚できましたね。ですからもっと襟を正そう、もっと頑張ろうという想いのもと、現在に至ったわけです。

またベアーズは、BtoC事業だけではなく、法人提携・BtoBtoC事業、マンションコンシェルジュや商業施設などといったBtoB事業でもサービスを提供しています。しかしながらBtoBチャネルは全国の需要と同様に落ち込みました。ですからコロナ禍だけの話をすると、BtoCだけでなく複数のチャネルを持っていて良かったと感じました。収益の柱を分散させてきたことが、結果、ベアーズの引き続きのサービス提供、そして社員の雇用を守ることにもつながりました。もちろん、例えば「社会を良くしたい」といった共通の理念など、根っこの部分が一緒でなければ事業を多様化・多角化する意味はないと思います。誰も幸せにならない事業を多様化してもしようがないですからね。

これからも、私たちはお茶の間の安全や幸せ度数を上げていくことにそのエンジンを使っていきたいと考えています。お茶の間にある笑顔の数だけ、家庭の平和や夫婦円満、親子関係良好がある。そして笑顔が溢れた地域社会は、近隣住人同士の信頼関係が生まれ、治安も良くなっていく。そうした人たちがたくさんお勤めする企業が伸びていくし、そんな企業は当然世の中に必要とされるモノやサービスを扱っている証でもありますので、皆さんで手を取り、コロナ禍を乗り切りたいと思っています。

●今後、家事代行サービスはどのような展開を迎えていきますか

高橋氏:昨今、日本では働き方改革が声高に叫ばれていましたが、このコロナ禍をきっかけに働き方改革と共に”暮らし方改革”が一気に浸透していったように感じます。それは自分にとっての本質的な部分に迫る必要が生まれたこと、人が活きるとは何か、働くとは何か、家庭とは何か――など、考える機会が増えたこと。そうなると自分の命の使い方を突き詰めていくことになる。そこに私たちの介在価値があるのではないかと感じています。

そこでベアーズは、今後「家事代行進化論」と称して、暮らしサポート企業へ進化します。すなわち、新しい暮らし方、新しい雇用創造を生み出していこうという構想です。これには私の原体験でもある、海外生活時に出会ったフィリピン人メイドに、暮らしのすべてをサポートしてもらった安心感、体験から方向づけた施策でもあるわけです。つまり日本は働き方改革のほか、暮らし方改革もセットで実施していくことが、家事代行サービスはもちろん日本の発展にもつながっていく大事なポイントだと睨んでいます。その暮らし方改革サイドを、私たちがサポートしていきたいというわけですね。

特に新しい雇用創造という点では、同社は業界に先駆けて活動していました。例えば、2017年に開始された「国家戦略特区制度による家事支援サービス外国人の受け入れ」により、同年6月14日には東京都の第一号として家事支援外国人の受け入れを開始しました。当時は、東京都・神奈川県・大阪府・兵庫県の4都府県にて受け入れを行い、現在ではフィリピンより約170名の海外人材がベアーズのサービスを提供しております。新しい雇用とは、この海外人材の受け入れを、フィリピン以外の国へも拡充していく施策も含まれています。こうした方々の力もお借りすることで、お茶の間の幸せ、ひいては世界の平和にもつながっていくのではないかと思います。実は2020年は、この先述の構想「家事代行進化論」の幕開けの年ともなったわけです。

高橋氏

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取材・文/鈴政武尊、撮影/西村法正、編集/鈴政武尊