誰にも頼られない生き方から卒業。ベアーズ高橋ゆき流、すべてのビジネスパーソンに届ける「働いて幸せに、そして生きる」こと【2/2】

株式会社ベアーズ 取締役副社長

取締役副社長
高橋 ゆき (たかはしゆき)

プロフィール

家事代行サービスのパイオニア、株式会社ベアーズ(中央区日本橋浜町/代表取締役社長:高橋健志)は、2020年の新型コロナウイルスの感染拡大が国内で進む中、オンラインコミュニケーションなどのシフトを中心とした組織デザインで社員エンゲージメントの維持に奏功している。同社の取締役副社長であり、家事研究家、1男1女の母など、さまざまな顔を持つ高橋ゆき氏(以下、高橋氏)へ、前回に続いて社員とのコミュニケーションの在り方、さらには働いて幸せになるとはどういうことなのかを伺った。前半はこちらから。

コロナ禍でも高まった社員との絆

●コロナ禍で社員とのコミュニケーションはどう変化しましたか

高橋氏:私、そもそもハグ魔で、握手魔だったんです(笑)。会社から100mほどのコンビニへ行くだけなのに、社内ですれ違う社員皆にいちいち声をかけたり、握手したりして――。さらに嬉しいことがあるとハイタッチしたり、ハグしていたんですね。そんなスキンシップがすべてだった私が、オンラインコミュニケーションへ移行していく中で、みんなに私の持っている愛をしっかり伝えられるか不安でした。

それは社員もまったく同じ気持ちだったらしく、オンラインの中では自分の気持ちが伝わらないと感じていたそうです。これまで培ってきたベアーズのチーム力が落ちるんじゃないかと誰もが懸念していたんですね。というのも、もともと当社では、愛と感謝、温もりがテーマの「ベアーズびと」を定めていました。こうした社員の体現をオンラインでは伝わらないと思っていたんです。

ところがです、半面オンラインでも伝わることがすぐに判明しました。しかも「前よりも良い」という社員からの声も多数だったのです。例えばオフライン時、これまで会議は本社の主導のもと行われていたのですが、本社勤務をしている社員に支店からの声は「東京勤務だから本社のメンバーはすぐに会えていいね」だったんです。

しかしオンラインに切り替わると、いまは北海道支店から福岡支店まで、毎日会おうと思えばWeb上で会えるようになったわけです。さらに会議で上がった情報はすぐにリアルタイムで共有できています。情報というのは単なる業務上のことだけではありません。その”想い“も一緒に共有できる素敵さがあったのです。

それから社内イベント。これまではダイレクトコミュニケーションと称して、運動会やバーベキュー、社員旅行など対面での開催がメインでした。今年はそれが一切できなくなってしまい、年に1回全社員が集まる期末の決起大会などもすべてオンラインになりました。ですが、オフライン時には聞こえてきた社員の「またあの人の長い話か…」といった会場の温度感の違い。これがフラットに解消されていました。どういうことかというと、オンラインは1対1で、画面上では常に対面状態。だから聞いている自分の心に、より響くんだそうです。

そして視覚上はもちろんですが、聴覚、つまりイヤホンによる存在も大きい。私が社員に向けたメッセージである、「大好きよ!」もしっかり聞こえます(笑)。会場で多勢に向けて発するメッセージより、もっとダイレクトに社員一人一人伝わっているんです。ハグや握手、ハイタッチできないのは、さびしいと思うだけであって、チーム力や愛情を感じ合うのにはなんら問題がなかったわけです。

ですから、オンラインでは伝わらないということは、ただの固定概念だったんです。どんなコミュニケーション手段でも一生懸命実践してみて、そこに愛や感謝を注げば、画面の向こうにいる人にもちゃんと伝わる。もちろん、会社の風土である「暑苦しいほどに愛ある経営」をこれまでにも実践してきましたので、その土壌をベースにしていたことが良い方向に働いたと感じます。社員の安全面の確保のためにオンラインがあるのではなく、私は「そこに愛があるのか。by オンラインダイレクトコミュニケーション」と自覚すると、良いコミュニケーションが生まれるのではないかと考えています。
 


 

●対面サービスを慣行されているベアーズですが、コロナ禍でその提供に変化はありましたか

高橋氏:当社は、今年の2月の段階で、いち早く「サービス提供に関するポリシー」をつくり、周知徹底してきました。コロナ禍におけるこれらの策定は、ご家庭向けのサービス業の中では、当社がもっとも早いリリースだったのではないかと記憶しています。

例えば、社員向けの措置として在宅勤務制への移行など。お客様宅サービスご訪問時の措置として、「37.5度以上での出勤は禁止」や「入退室時には手洗いをルール化」「ドアノブなどはハンカチなどを使い入室を指示」など、ですね。特にお客様宅サービス向けとしては、訪問スタッフの体温が37.5度あれば当日キャンセル可、キャンセル料もいただかないなどを徹底しています。もちろんスタッフの健康管理も、当日だけでなく前夜にも検温してもらうなど最善の注意を払っています。

また、そのことで驚いたのが、当社のベアーズレディ(家事代行スタッフ/正社員)の活躍でした。なんと7割以上のベアーズレディがコロナ禍でも稼働してくれたのです。うち3割は高齢のスタッフだったため、それぞれのご家族や本人の健康面での心配などがありますので、気持ちは嬉しいのですが、万が一を考えて稼働を差し控えていただきました。もちろん雇用側としてお客様宅訪問に無理やり向かわせるわけにはいきませんし、もしも行きたくない人は行かなくていい、そんな風にルールを設けていました。社員の自主性を尊重していましたが、有り難いことに、ほぼ全員が本人の意思で稼働したいと声を上げてくれたのです。嬉しかったですね。

コロナ禍の影響によって、私たちのような家事代行サービス、エッセンシャルワーカーと称して良いでしょうか。その需要状況や仕事を取り巻く環境は大きく変わりましたが、暮らしのインフラを守る、整えるという意味では大きく社会に貢献していると感じますし、当社社員もそれを感じて誇りに思っています。最近では、担い手の職業地位の向上にもつながっていると感じています。
 


高橋ゆきが考える、「働いて、幸せに生きる」ということ

●近年、”働き方”について多様化が進んでいますがご自身はどのような”働き方”観をお持ちですか

高橋氏:私は、経営者として、毎年テーマを掲げて邁進しているのですが、ここ近年はほぼ変わらないお気に入りのテーマのもと実践しています。それは「働いて、幸せに生きる」。逆を言えば、まだそれを実現できていないことの表れでもあるのですが…。

これは、幸せな心根で動くことは、幸せな心を生み出し、幸せな状態に結びついていくという考えをテーマにしています。つまり「”幸動“しよう。」ということ。幸動して社会をつくることが大事だと私自身思っています。また、こうしたことを自分に持っておかないと、すぐに人生における生きる指標のピントが合わなくなってくるのです。「自分はなぜ働いているんだろう」「どうして上司にあんなことを言われなければならないんだろう」といったことで思考がいっぱいになってしまいます。

繰り返しになりますが、自分の幸せな心を持って行動する、その行動が幸せな社会をつくっていく。だから”幸動”です。そのことを自覚できれば、社会全体がもっと幸せに包まれた状態になるでしょう。幸せはなるものではなく、向かっていくことでもない。今持っている幸せを集めていくことで、より幸せのシナジーを拡げていこうという考え方です。そうすると心身が本当に幸せになります。そう思わない人は単純に疲れるだけですし、何をやっているのか、自分でも分からなくなってくる。働いて幸せに生きている人の特徴は、みんな”幸動”しているんですよ。だからこのテーマを選びました。

最近では、「”幸動”して、be go love(愛になろう)」と、標榜しています。働くことが辛いことであってはならないわけです。昨今では、「働いている自分は本当の自分ではない」「オンとオフは使い分ける」と考える、特に若い人も増えていますが、私にはその考えが良く分からない。活きるということが、働かせてもらえているという感謝の念がない人は、どこまでいっても幸せを感じて働くことはできないと思っています。

ですから、自分のことばかり考えているのではなくて、自分の存在が誰かたった一人のためで良いから幸せをつくっていけているのか――。そんなことを考えると良いと思います。それに社会を動かすとか、大きなインパクトを与えるものでなくていいんですよ。例えば、寒いなあと感じている同僚に気付いたら、その手に温かい缶コーヒーを握らせてあげる。それだけでもいいんです。それが幸動なんです。そういうことの積み重ねの先に日々のお仕事がある。自分を頼りにしてくれる。またそれに対してやるべき仕事がある。それは生きていくうえでとても健康的なこと。

困りますよ。誰からも頼られず、誰からもキミの仕事だよって言われない人生は。そんなとき人は「何のために生きているんだろう」って思うじゃないですか。ですからいろいろな考え方があるのは承知していますが、先輩や上司から叱咤激励されているうちが華ともとれます。”幸動”によって今日の自分があるって思えたら、周囲に深い感謝の念がわくと思います。”幸動”の連鎖によって、社会は良くなると信じています。
 


信頼や感謝で溢れた人になるため、"幸動"することが大事

●「愛」や「幸せ」といったキーワードをとても大事にされていますね。今後の展望も教えてください。

高橋氏:いまは多様化に加えてコロナ禍により、答えのない社会が形成されていると感じます。そんな時勢だからこそ、「愛ある幸動」「愛ある選択」「愛ある決断」などが必要ではないかと思います。答えのない時代も悪くないですよ。単なる行動力や決断力だけなら殺伐としてしまいます。ですからやっぱり「そこに愛はあるのか」ってなるわけです(笑)。

当社の今後ですが、働いて幸せに生きる「ベアーズびと」を1人でも多く抱えたい。働く人々にとっての企業・組織というのは、オフィスの有無ではなくて、絆自体が働く人にとっての「家」でなくてはならないと考えています。ですから信頼や感謝で溢れた社員を増やせる風土や環境をきちんとつくりたい。でもそれだけでは理想家で終わってしまうので、同時に「暮らしのサポートカンパニー」として、1つでも多くのお茶の間の幸せ度数に貢献できるサービス業を確立していきたいなと思っています。そのためには”幸動”あるのみです!
 


 

【取材後記】

“幸動”を掲げて激動の2020年を走りきるゆっきー。自分の”幸動”次第で、誰かが、社会が良くなると自覚している人はまだまだ多くはないのではないだろうか。とかく「働くとは」「幸せとは」を、一面的に捉えがちの私たちであるが、家事代行サービスのパイオニアであるベアーズの躍進の先にはその答えが見つかっているのだろう。混迷の2020年から2021年へ。コロナ禍にある私たちは「家事」という分野からさまざまな事を学ばなければならない。

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取材・文/鈴政武尊、撮影/西村法正、編集/鈴政武尊