「採用もDXも建設業界は時代遅れ」。数十人の雇用創出に成功する新潟県の建設会社代表が語る、ヒトが集い、収益を高められる会社づくり

小柳建設株式会社

代表取締役社長
小柳卓蔵(おやなぎ・たくぞう)

プロフィール

いまだ3Kのイメージが強い建設業界。加えて「地方」や「零細・中小企業」というワードを絡めると、採用に際して不利だと言われている。しかしそのような環境下にありながら、直近では県外から半数、全体でも例年に比べ倍近い人材を採用しているのが、新潟県に本社を構える小柳(おやなぎ)建設(本社:新潟県三条市、代表取締役社長:小柳卓蔵)だ。

首都圏でのマンション工事なども手掛けている同社には、毎年多くの求職者が集い採用決定に成功している。なぜ同社に魅力を感じて集まるのか。小柳卓蔵代表(以下、小柳氏)と、PR部署のリーダーであり採用担当の堂谷紗希氏(以下、堂谷氏)にそのポイントを聞いた。

小柳建設株式会社 代表取締役社長 小柳卓蔵(おやなぎ・たくぞう)

DX化も含め働き方改革を積極的に推し進めた

――早速ですが、なぜ地方の中小建設会社でありながら、応募者が増えるなど採用がうまくいっているのか、具体的な数字も含め、秘訣をお聞かせ願えますか。

堂谷氏:例年は5~6名の採用で横ばい状況でしたが、2021年は約2倍の11名。うち5名が県外からの人財です。応募が増えた要因は、コロナ禍により従来のリアルな会社説明会などを行うことが難しい状況の中、いち早くオンラインでの活動にシフトしたことが大きいと考えています。

小柳氏:新潟県内でもトップクラスのスピードで、オンラインによる採用活動にシフトできたと自負しています。ただ、いきなりできたわけではなく、2015年ごろからいわゆるDXを進めており、採用に限らず社内の業務効率化も含め、システムや制度などを整えていったことが大きいと捉えています。

実際、コロナ禍になる前から県外の学生などに対しては、オンラインによる採用活動を行っていましたし、コロナ禍の影響で業務が混乱することも一切ありませんでした。

――2015年からDXを進めていたとは、先見の明がありましたね。

小柳氏:私は3代目になるのですが、家業に入る前は金融業界で働いていました。そのときの経験が、大きかったと感じています。というのも2008年に家業に入ったとき、あまりにも仕事の進め方がアナログ過ぎて、愕然(がくぜん)としたからです。

やり取りは全て紙であったため、情報を探すのにとにかく時間がかかる。申請も同様で、承認には社長のハンコが必要でした。このような状況を若い人たちが好むわけがありませんよね。業務効率化という点においても、大きな経営課題だと感じていました。

そこで、2014年に社長に就任したタイミングでDX化を一気に加速させます。具体的には、オンプレで構成していたシステムをフルクラウドに。情報は全てクラウド上にアップしているため、自宅はもちろんオフィス外などどこにいてもアクセスかつ業務ができる体制を整えました。

東日本大震災で実際起きた事例ですが、クラウドに情報を置くことは、水害などの被害対策にもなりますし、サーバーをメンテナンスする手間や時間が削減される、とのメリットがあります。

“日本初”となる取り組みで周囲の目が明らかに変わった

――クラウド化以外ではどのようなDXを進めたのですか。

小柳氏:メールや電話によるやり取りは廃止。やり取りは全てチャットで行うなど、情報の共有を漏れなくスピーディーに実践するために、ChatworkOffice365(現:Microsoft365)といったコミュニケーションツールを導入しました。

社内のやり取りだけではありません。ファクスや電話でやり取りしていたお客さまに対しても、できるだけデジタルによる簡便・スピーディーでコストもかからない、やり取りやコミュニケーションをお願いしました。電子契約はいい例で、現在は9割のお客さまとの間で利用しています。

もう一つ、マイクロソフト社のMR(複合現実)デバイス「Microsoft HoloLens」を活用し、工事の進捗(しんちょく)や安全状況などを遠隔地にいながらゴーグルを通して3D画像でリアルに確認できたり、作業のシミュレーションなども行えたりする「Holostruction(ホロストラクション)」というアプリケーションを共同開発しました。

堂谷氏:Holostructionは、国土交通省から建設現場の生産性向上を実現する革新的技術だと3年連続で認められたことで大変評判になりました。多くのメディアでも取り上げていただき、求職活動をしている学生はもちろん、周りの当社を見る目が明らかに変わったと感じています。

小柳氏:建設会社が生産性向上を目的にHoloLensを活用するのは、日本で初めての取り組みでもありました。実証実験を経て現在では、国土交通省から受注した工事においては、同デバイスとアプリケーションを使い竣工検査を遠隔で行っている現場も多くあります。

2021年には紹介してきた業務効率化DXの要素を盛り込んだ新社屋を竣工事前に経験値を積んでいたフリーアドレス制など、さらなる業務効率化に寄与する制度を導入して改革を続けています。

小柳建設株式会社の社員

デジタルツールを導入するだけでなく社員一人一人の意識も改革する

――改革を推し進める際に意識したことはありましたか。

小柳氏:単にデジタルツールや新しい制度を導入するだけではなく、一人一人の社員の意識の変革が重要だと考えています。私が一方的に変わろうと言ったからといって、納得する要素がなければ社員は変わりませんからね。

そこで、今世界の最先端ではどのようなツールを使って業務を進めているのか、ツールや仕組みを導入することで、どのような働き方が実現しているのか、などリアルな体験を社員にしてもらっています。

具体的には、シアトルやシリコンバレーにある先進的な企業や、現地で開催されているイベントなどに5~6名の社員を連れて視察してきました。マイクロソフト本社も含め、取り組みはこれまで10回以上に及びます。ポイントは社長など経営陣のみで視察を行わず、現場で活躍する社員が必ず同行するということです。

――メンバーはどのように選んでいるのですか。

小柳氏:そこがとても重要で、私から指名するのではなく、社員からの挙手制としています。なぜ行きたいのか、何を見たいのかをしっかり伝えられる社員を選抜しています。単なる海外旅行ではありませんし、私が指示した業務でもありませんから、社員は現地で大いに刺激を受けます。その刺激的な体験を帰国してから、会社やふだんの業務に自主的にフィードバックしてもらいたいと考えています。

Holostructionはまさに、2016年に訪れたマイクロソフトのイベントで発想を得て、建設業界で使いたいと思いアプリケーションの開発に至りましたからね。

社員の側からという観点では経営はトップだけが行うのではなく、一人一人の全社員が関与する。稲盛和夫氏が考案した「アメーバ経営」も取り入れています。そしてここでも、リアルタイムで情報を共有できるシステムが活躍しています。

今社内ではどのようなプロジェクトが動いているのか、それに携わっているメンバーは誰なのかなど、進捗状況を明確化しつつ、全員に共有されていることがポイントです。あらゆる数値や情報の可視化や透明化とも言えるでしょう。

その上で、会社の目標、プロジェクトの目標、各チーム、個人間で、それぞれのKPIや目標を明確化し、同じく共有する。目標設定においては上からではなく、数字を見た上で各人に設定してもらうことで、いい意味でやる気が喚起されると同時に、達成率も高まると考えています。

小柳建設株式会社の社員

利益率を意識することで賞与増や残業削減につながった

――改革に着手してからの業績の変化についてはどうですか。

小柳氏:無理な営業や残業などを極力減らすことを第一と掲げ、「受注高」「売上高」「営業利益」の3本柱であったKPIを営業利益一本とし、同目標達成を社員一丸となって、まさにアメーバ経営の目標に据え進めていきました。

その結果、営業利益はここ数年右肩上がりで伸びていますから、狙い通りの状況です。売上は3割ほど減っていますが、過剰な売上をコントロールした結果ですし、営利が高いので社員への賞与も右肩上がりで伸び続けており、直近2021年の実績は約4カ月分の賞与、それでいて残業は月平均2.6時間と以前と比べ8時間減りました。有給の取得率もアップ、離職率も17.8ポイント減の13.9%となっています。

オンライン業務が広まったことにより、移動に費やす時間も以前と比べ約5割減となっています。

常に情報を共有していますから、産休や育休などで一時的に仕事から離れる場合の引き継ぎ業務も発生しません。そのため、男性の育児休暇取得率も高まっています。

小柳建設株式会社の社員

PR部門を新設し、女性社員をリーダーに抜擢(ばってき)

――そしてこのような改革や取り組みを積極的に外部に発信することで冒頭の応募者の増加につながっていったわけですね。具体的に採用に関する施策についても、お聞かせ願えますか。

小柳氏:オフィスの新設に伴い、まさしくご質問されたように積極的に情報を発信していこうとPR部門を新設して、採用も含めた広報活動に注力していく体制を整えました。もともとは私が人事・採用周りも担っていたのですが、新卒で入社して以来会社の成長と変革を肌身で感じ、私の意図を心底理解している堂谷にバトンタッチしました。現在は彼女が部署のリーダーとして会社をけん引してもらっています。

――採用広報で意識していることを聞いてもよろしいでしょうか。

堂谷氏:リクルートサイト、DM、SNSなど、さまざまな媒体で情報を発信していますが、共通しているのは、採用ターゲットを明確にすることです。加えて、投じた発信に対して視聴者にどのような行動をしてもらいたいのか、いわゆるカスタマーエクスペリエンス(CX)を明確にした上で、各種コンテンツの作成や施策を行っています。

例えばYouTubeによる情報発信では、学生がYouTubeを見る際に、どのようなコンテンツだと興味を持つのかなど、インターンの学生や同じく若い社員にヒアリングを行いました。

その結果、テーマごとに5分ほどの動画を制作していくという結論に至りました。堅苦しくない、フランクな感じの構成やトーンにすることなどを意識しています。

YouTubeによる発信は、会社説明会で毎回同じことを話していた業務からの解放との意味合いもありました。求職者にとっても、予約を取ることなく会社説明を簡便に聴けるとのメリットもあるとも考えています。

小柳建設株式会社の社員

会社を変えることができるのは“自分たち”だけ

――採用で苦労している人事担当者や経営者にメッセージを頂けますか。

小柳氏:「うちの業界はどうせ人が集まらない」「今の若い人は入ってもすぐに辞めてしまう」――。特に、同業者からよく聞く声ですが、私はこのような声に対してははっきりと「その考えは改めるべき」だと考えていますし、公言もしています。

というのも、自社の採用がうまくいっていないのは業界のイメージや慣習が理由ではなく、会社そのものに魅力がないと考えているからです。はっきりと申し上げれば、人のせいにしているだけだと。

以前の当社がまさにそうであったのでよくわかりますが、昼間は現場、事務仕事は現場が終わってから夜行う。だからどうしても帰るのは夜遅くなってしまう。このような働き方が当たり前だとの思考の人が、建設業界では大多数です。

そうではなく、17時までに帰るためにはどうすればよいのかを考える。変わらないではなく、自ら考え、変えるしかないのです。働き方も含め、自分の会社の状況を変えられるのは、社員やトップしかいないのですから。

小柳建設株式会社の社員

――そうはいっても、特に年配者などはなかなか変えられないケースも多いと思います。

小柳氏:そのような場合は、役員やマネジメント層を若くて変化を起こすことのできるマインドを持った人員に、刷新する必要があると考えています。実際、当社でもご指摘の通りITツールなどに強くない年配社員などは付いてこられないケースも見られました。その結果、改革のスピードが思ったような速度ではなかった。

そこで2019年に思い切って、平均年齢が60歳以上であった取締役10人を、平均年齢41歳のメンバー3人に刷新しました。結果、その後の変革スピードは説明した通りです。

もちろん、会社が生き残っていくために必要な取り組みであることを、一人一人の役員に説明するなど丁寧な対応を心掛けましたが、それでも私の意見には賛同できないと、会社を去っていく者もいました。でもそれは、会社を経営していく上では仕方のないことだと捉えています。

――今後の展望をお聞かせください。

小柳氏:今後は、ビジネスモデル変革(建設業のサブスクリプション化など)に主眼をおいて動き出している最中です。

また、売り上げなど会社の成長についても、業務効率化ツールやコミュニケーションツールなどを導入したことで、以前は一部のベテランの技術者しか達成できなかった実績を、誰でも平均して高いクオリティで再現できる、いわゆる「再現性」に関しての体制も整っています。

そこでこれからのフェーズでは、積極的に売上を増やしていきたいと考えています。実現には多くの人材が必要ですから、採用も積極的に行っていきたいですね。

採用を成功させるために、これも繰り返しになりますが、ますます働く環境の整備とその状況を的確に発信していく――。そのような考えでいます。

――ありがとうございました。

小柳建設株式会社の本社
※本社外観

【取材後記】

建設業界は、長らく労働人口の高齢化とそれに伴う若い担い手不足が叫ばれてきた。しかしながら3K(きつい・汚い・危険)のイメージが強いことから採用難と言われ、伝統を重んじる業界の体質もありDXの波も及びにくいことが課題であった。そんな中においても小柳建設では県内外から十数人の採用創出に成功し、加えてDX推進などにより生産性と利益率の向上にも努めてきた。いま現在、建設会社の中でももっとも勢いのある企業の一つと言っても過言ではない。今後の日本の建設業の隆盛は、こうした先進的な企業が取り組む新3K(給与・休暇・希望)を含む働く方改革であったり、DX推進などに託されるのかもしれない。

取材・文/杉山忠義、編集/鈴政武尊・d’s journal編集部

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