新卒の離職率はどのくらい?離職の主な理由と人材定着のためにできることを解説
d's JOURNAL編集部
新卒社員は企業にとって未来を担う重要な存在です。一方で、多くの可能性を秘めているからこそ、ほかの世代と比較して離職リスクも高いのが新卒者の特徴でもあります。
この記事では新卒者の離職率に関するデータとともに、離職につながる主な原因を8つに分けて紹介します。
そのうえで、離職率の低下に向けて企業が実践できる取り組みについても詳しく見ていきましょう。
離職率とは?どのように計算する?
離職率とは、一定の期間に職場をやめてしまった労働者の割合を示す数字です。基本的な計算式はシンプルであり、「離職率=設定した期間の離職者数÷期首あるいは前期末の常用従業員数×100」で求めることができます。
離職率の計算結果は、どのくらいの期間を設定するかによって大きく異なります。ただし、離職の実情と原因を突き止めるために、実際には数年単位の短期間に絞るのが一般的です。
たとえば前期末の時点で3,000人の常用雇用者がいる企業において、過去5年間で合計300人の離職者が発生した場合、5年以内離職率は「300人÷3,000人×100=10%」となります。
新卒者の3年以内離職率は3割以上
離職率を分析するうえで、もっとも重要となるのは新卒者のデータです。厚生労働省の2022年10月時点のデータによれば、平成31年(2019年)卒業の就職者における離職率は、高校卒で35.9%、大学卒で31.5%とされており、いずれも3割を超えています。
離職率3割は一見すると特別に高く見えるかもしれませんが、30%前後という数値はおおむね例年通りであり、少なくとも30年近く変わっていません。
また、厚生労働省の「令和4年雇用動向調査」によれば、離職率は25歳以上と20~24歳で大きな差があり、新卒者が特に多いことが明らかにされています。
これらの結果から、「新卒者の定着」は多くの企業にとって主要な課題であることがわかります。
会社の規模や業界によって離職率は異なる
離職率は企業全体の課題といえる一方で、事業規模や業種によって傾向が異なる面もあります。ここでは、厚生労働省のデータをもとに、離職率の細かな実情を見ていきましょう。
規模別の新卒離職率
厚生労働省のデータによれば、新卒者の3年以内離職率は、会社の規模が小さくなるほど高くなる傾向にあることがわかります。たとえば、従業員数1,000以上の企業の離職率は高校卒で24.9%、大学卒で25.3%といずれも平均を下回っています。
それに対して、従業員数500~999人や100~499人は平均程度、従業員30~99人の企業になると高校卒で43.4%、大学卒で39.4%まで増えてしまい、平均を大きく上回ります。
業界別の新卒離職率
離職率は業界によって異なり、全体的に次のような傾向が見られます。
業界別の新卒離職率
- 離職率が高い業界:宿泊業、飲食サービス業、教育業、小売業などのサービス業界
- 離職率が低い業界:インフラ業界、鉱業、採石業、製造業
特に宿泊業や飲食サービス業の離職率は高校卒で61.1%、大学卒で51.5%と半数を上回っており、人材の定着が難しい状態にあることがわかります。一 方で、電気・ガス・熱供給・水道業などのインフラ業界においては、大学卒の離職率11.1%と低い数値が保たれています。
また、鉱業・採石業・砂利採取業で11.5%、製造業も19.0%と、いずれも平均を大きく下回る水準です。
新卒の就職者が離職してしまう8つの主な理由
新卒者が離職してしまうのには、さまざまな理由があります。定着率を向上させるためには、離職に共通する原因を把握したうえで、自社の状況を振り返ることが重要なプロセスです。
ここでは、代表的な理由を8つに分けて解説します。
期待と現実のギャップを感じてしまう
新卒者は就職先について多数の選択肢を持っています。そのなかから、一社を選んで入社を決断することとなるため、自社に対しては何らかの前向きな期待を抱いていると考えるのが自然です。
たとえば、懇親会やインターンシップの雰囲気がよかったことが、入社を決意する理由になるケースも少なくありません。この場合、入社後の現実と比べてあまりにもギャップがあれば、せっかく就職しても退職に至ってしまうリスクが高くなります。
こうした事態を防ぐためには、採用の段階からある程度の現実的な側面も伝えておき、自社の実情について正しく認識してもらうことが大切です。
給与や労働条件に不満を感じてしまう
想定していたよりも給与が低く、自身が評価されていないと感じてしまうことも、離職の主要な原因となります。世代の変化にともない、ワークライフバランスが重視される面も大きくなっているものの、給与は依然としてモチベーションの維持につながる大きなポイントの一つです。
特に新卒者の場合は、各種保険料や税金などの仕組みを実感していないことが多いため、額面と手取りとのギャップに驚いてしまうケースも少なくありません。そのため、給与計算や控除の仕組みについては、入社時に時間をとって説明しておくことが大切です。
また、労働条件については、「労働時間が長い」「休日が少ない」「祝日に休めない」「福利厚生が不十分」といった点が理由としてあげられます。
この場合、ほかの企業に就職した新卒者の友人と比べて、自身の待遇に不満を感じてしまうケースも多い傾向にあります。
プレッシャー過多
新卒者が退職を考える理由の一つに、納期や達成目標などにプレッシャーを感じてしまうというものもあげられます。なかでも営業職のように結果が具体的な数字に表れやすい部門では、ノルマに関するプレッシャーが離職原因につながりやすいです。
特に新卒者の場合は、その企業で自身がどのように成長していくのか、具体的なビジョンが見えていないことが多い傾向にあります。
そのため、早い段階から厳しいノルマを課してしまうと、新卒者はこの先もさらに目標が高くなっていくことを想像して、マイナスイメージを膨らませる可能性があるのです。
成長のためにはある程度の達成目標も必要ですが、今後の予定も明確に示したうえで、ノルマを慎重に加減することが大切です。
社風になじめない
会社の方向性や経営方針に納得できないなど、社風になかなかなじめないことが離職の原因になる場合もあります。労働者にとって企業の社風や目指すべき方向性は、自身のキャリアに大きく影響を与えるポイントです。
新卒者は今後の就職期間が長くなるのに加えて、キャリアプランにもさまざまな選択肢が残されているため、会社の方向性や経営者の考えに疑問を抱いた場合には離職を考える可能性も高めです。
また、周囲の就職者との雰囲気になじめないなど、新卒者同士のコミュニティが原因になる場合もあります。
人間関係にストレスを感じてしまう
厚生労働省が公表している「雇用動向調査結果の概況」(2020年)によれば、就職から1年以内に離職するケースにおいて、男女を問わず「職場の人間関係が好ましくなかった」を理由にあげている方が多いといえます。
契約期間の満了や労働条件などの待遇面と並んで、職場の人間関係にストレスを感じる方が多い傾向がわかります。
厳しい上司や先輩との関わりにストレスを感じて、仕事そのものがつらくなってしまうといった原因が典型的ではありますが、人間関係のトラブルはほかにもさまざまなパターンがあります。
「苦手な人とのかかわりにストレスを感じてしまう」「社内の風通しが悪くコミュニケーションが図れない」など、上下のつながり以外の部分でも離職の原因につながるケースは少なくありません。
コミュニケーションが希薄であれば、離職率だけでなく生産性にも悪い影響が生まれるため、優先的に解決する必要があります。
相談できる上司や先輩がいない
新卒者は長く勤めている従業員と比べて、何かと悩みを抱えてしまう場面が多い傾向にあります。不慣れな業務や環境に適応できずに悩みや不安を感じたとき、頼りになるのは上司や先輩といった存在です。
そのため、社内の身近なところに悩みを相談できる相手がいないと、仕事への意欲が保てずに離職を考えてしまうリスクが高くなります。
また、相談できる環境は整っていても、お手本となる、あるいは尊敬できる人物を見つけられない場合には、心を開いて悩みを打ち明けるのが難しくなります。
仕事に面白さを感じられない
仕事そのものにやりがいや面白みを感じられないことも、離職を考える大きな原因の一つです。就職者の多くは事前に自身の適性ややりたいことと、企業の業種や業態を見比べたうえで入社を決断しています。
しかし、配属部署や与えられる役割によっては、思い描いていたビジョンと実際の業務内容に大きな乖離が生じてしまうケースも少なくありません。
希望の業務と現実の間でミスマッチが起きているにもかかわらず、キャリア形成について何もフォローが行われなければ、ほかの可能性を探すために転職を考える可能性も高くなります。
前向きなキャリア形成が見込めない
自身のキャリアに対して高い意識を持っている新卒者の場合、企業の成長性に限界を感じて気持ちが離れてしまうといったケースもあります。
たとえば企業の方向性が時代の変化に追いついていないと感じれば、入社してから歳月が経過してしまう前に離職を決意することもあります。
また、先輩や上司の昇進スピードを通して自身の将来と重ね、見切りをつけてしまうといった場合もあるでしょう。キャリア形成について前向きなイメージを持ってもらうためには、新卒者に対してだけでなく、社内全体の仕組みを向上させる必要があります。
新卒の離職率を下げるために企業ができること
新卒者の離職は、企業にとってさまざまなデメリットをもたらします。採用コストが無駄になってしまうだけでなく、残った従業員のモチベーションにも影響を与えてしまうため、離職率を下げるための努力が必要です。
ここでは、新卒者の離職を防ぐために企業側がどのような点に目を向けるべきかについて、5つのポイントに分けて見ていきましょう。
採用段階からミスマッチを防ぐ
新卒者における離職原因の一つには、キャリアプランや希望する業務と実際とのミスマッチがあげられます。そのため、まずは採用前に自社にマッチする人材像を明確にして、具体的な採用基準に落とし込むことが重要です。
また、細かな希望と現実とのミスマッチを防ぐためには、「RJP」を実施するのも有効です。RJPとはRealistic Job Previewの略称であり、採用前に実際的な仕事情報を開示するプロセスを指します。
業務の難しさや責任といった情報もありのままに伝えることで、理想と現実のギャップを埋め、採用のミスマッチを防ぐという考え方です。
Z世代にあたる新卒者は、インターネットを通じて企業に関するさまざまな情報を入手したうえで比較検討することが前提となっているため、自社のネガティブな情報には企業自ら触れる姿勢も重要となります。
なお、こちらのリンクから効率的な新卒の採用活動を実現するためのターゲット設定の解説資料をダウンロードいただけます。ぜひご利用ください。
社内コミュニケーションを活性化する
社内コミュニケーションの充実は、定着率の向上だけでなく、生産性の向上にもつながります。しかし、従業員の自主性に任せるだけでは、どうしても取り組みにバラつきが生まれてしまうのも確かです。
そこで、まずは定期的なコミュニケーションの場を設けるなど、企業側が仕組みを整えることが大切です。そのうえで、1on1の実施やメンター制度の導入も良好な人間関係を築く有効な手段となります。
メンター制度とは、年齢や社歴の近い先輩が新入社員一人ひとりにつき、相談役としてサポートする仕組みです。傾聴力に優れ、コミュニケーション能力の高いメンターがつけば、新卒者が不安や悩みを抱えていても離職に至る前にケアできると期待できます。
しかし、こまめなサポートを行うためには、サポートする先輩や上司の負担も十分に考慮しなければなりません。企業が主体となって、担当者のマネジメントスキルを育成したり、業務の偏りに配慮したりする工夫も必要です。
労働環境や評価制度を見直す
社内制度のうえから離職率を改善するためには、労働環境の見直しに着手することも大切です。長時間労働や休日出勤を是正するとともに、テレワークやフレックスタイム制の導入など、自社に合った柔軟な働き方を目指すことも重要となります。
また、評価制度の明確化・見える化を行い、評価や待遇に納得感が生まれるような仕組みを整えることも大切です。
評価の仕組みがわかりやすくなれば、キャリアプランも描きやすくなり、新卒者の定着率向上を期待できるようになります。
キャリア支援を含めた育成を行う
新卒者に前向きな気持ちで働いてもらうためには、長期的な視点でキャリアを描けるようにサポートすることも大切です。
企業が主体となってキャリア支援を行うことで、従業員のモチベーションが向上し、自然と離職率の低下にもつながっていきます。
具体的な取り組みとしては、新卒者を対象にしたキャリアデザイン研修や、スキルマップ、評価シートを用いた1on1による面談があげられます。
いずれにしても、現在の業務がどのような成長を生み出し、どのようなキャリアアップにつながるのかを企業が明確に示せることが重要です。
ストレスケアの仕組みをつくる
精神的なストレスによる離職を防ぐためには、社内にストレスケアの仕組みを設けることも大切です。たとえば「コンプライアンス相談窓口」を設置して、社内のハラスメント行為や不正行為を相談できる仕組みを設ける方法があります。
そのほかには、身体や心のトラブルがあったときに相談できるように産業医のサポートを受ける、ストレスチェックを活用してメンタルヘルスの不調を防ぐといった制度の充実も重要です。
また、新卒者は自身のストレスについて積極的に言及できないケースも多いため、定期的に業務内容の調整を行い、見えない負荷が蓄積しないような工夫も必要となります。
まとめ
新卒者の3年以内離職率は3割を超えており、多くの企業にとって重要な課題となっています。離職率が高まれば、採用コストがかさんでしまうだけでなく、従業員のモチベーション低下にもつながるなど多くのデメリットが生じます。
一方で、事業規模や業種によっても離職率にはバラつきがあり、企業の取り組みによって割合を低下させることも可能です。
まずは離職につながる主な原因を分析し、自社の実情も踏まえながら、どのように対処していくべきなのかを検討してみましょう。
(制作協力/株式会社アクロスソリューションズ、編集/d’s JOURNAL編集部)
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