オーナーシップを持つ人材とは?組織に与えるメリットと育成のポイントを解説

d’s JOURNAL編集部

オーナーシップとは、組織や会社に対して当事者として向き合うマインドのことを指します。組織の生産性を高めるための資質として、特に現在のビジネスシーンでは重要視される機会も増えています。

この記事では、オーナーシップの基本的な意味について、類似した用語とも比較しながら見ていきましょう。また、組織としてオーナーシップを意識するうえで重要なポイントもあわせて解説します。

オーナーシップとは

オーナーシップとは、メンバー個人が自身の所属する会社やチームに対して主体性を持ち、当事者として向き合っていく姿勢を指します。また、与えられたミッションや役割について、自身が主体となって管理していくマインドもオーナーシップにあたります。

単に受け身の姿勢で業務に向き合うよりも、自らの考えや使命感に基づいて行動することで、個人のパフォーマンスを最大限に発揮できるようになります。そのため、オーナーシップの育成は、組織全体の力を向上させるうえで重要な課題です。

まずは、オーナーシップの概念について、類似した用語との違いをとおして理解を深めましょう。

 

リーダーシップとの違い

リーダーシップとオーナーシップは、どちらも当事者意識を持つという点では一致していますが、厳密にいえば管理する対象が異なります。リーダーシップがチーム全体を管理するのに対して、オーナーシップによって管理するのは自分自身です。

オーナーシップも視点はチームや会社といった広さが求められますが、目的はセルフマネジメントによって個人のパフォーマンスを高めることにあります。一方で、リーダーシップはチーム全体のマネジメントを行い、組織としてのパフォーマンスを高めるのが目的です。

そのため、フォロワー(部下やチームメンバー)がいなければ成り立たないのがリーダーシップと言い換えることもできます。対して、オーナーシップは個人が組織とどのようにかかわっていくかを示す概念であるため、フォロワーがいなくても成立する点が特徴です。

フォロワーシップとの違い

フォロワーシップとは、リーダーを支えるために必要なことを自分で考えられる能力です。

単にリーダーの意思決定を待つのではなく、自分に果たせる役割を積極的に判断・実行しながらリーダーを支えていく役回りを指すことから、サブリーダーとしての能力とも言い換えられます。

フォロワーシップにも主体的な姿勢が求められることから、フォロワーシップはオーナーシップが土台となって生まれる概念であるともいえます。オーナーシップによる当事者意識があってこそ、チーム内でフォロワーシップの発揮を実現可能です。

オーナーシップを持つ人材の特徴

オーナーシップは幅広い意味を持つ概念であるため、人材育成の現場に当てはめて考えるうえでは、より深く掘り下げて理解することが大切です。

ここでは、具体的にどのようなパーソナリティーがオーナーシップに該当するのかを4つのポイントから見ていきます。

強い責任感と主体性を持つ

オーナーシップを持つ人材は、自分が所属している企業や組織を単なる居場所として考えることはありません。自らの働きや成長によって、主体的に貢献できる場所ととらえるのが特徴です。

組織に対して自分がどのように成長すればよいのか、与えられた役割でどのような結果を出せばよいのか、自ら判断できる当事者意識が大きな強みとなります。その結果、日々の業務においては「物事を積極的に提案できる」「周囲のメンバーにも積極的に働きかける」「業務の改善点を見つける」「より効率性の高いシステムを考える」といった行動につながります。

自分を客観視できる

オーナーシップに優れた人材は、全体的な視点に立ち、自分の役割や能力を冷静に見つめられるようになります。自分の強みと弱みを客観的に分析できるため、どのような振る舞いが求められているのかを的確につかめる点が特徴です。

そのため、自身の特徴を活かせる工程に力を注いだり、不得意な業務を上手に振り分けたりできます。また、自分を取り巻く環境を冷静に分析できるのも、オーナーシップを持った人材の特性です。

自分だけでなく、周りのメンバーの強みと弱みも把握できるため、補い合うことでチーム全体の生産性を高められます。

臨機応変に動ける

何かトラブルが起こったり、予定と異なる事態に見舞われたりしたときに、臨機応変に行動できるのもオーナーシップに優れた人材の長所です。自分を客観的に見つめ、全体像から必要な役割を見出せるため、指示を待つのではなく自ら対処法を考えることが可能です。

また、既存の方法にとらわれず、さまざまな角度から多面的に物事を考えられるのも一つの特徴です。目的や成果を達成するための方法を柔軟に考えられるため、周囲が行き詰まってしまうような場面でも、新たなアイデアで切り抜けることができます。

こうした能力は、「企業全体の利益を考えて行動できる」というオーナーシップの基本的な性質が土台となっています。全体の利益を見つけられるからこそ、とっさのときには個人のレベルでも物事に対して冷静な判断を実現可能です。

コミュニケーション能力に優れる

オーナーシップを持った人材は、組織やチームの目的を達成するにあたり、周囲との協力の必要性をしっかりと認識しています。一人で優れた成果を残そうとするのではなく、一緒に働くメンバーと力を合わせ、弱点を補い合っていくことが全体の成長につながると考えるのです。

そのため、社内においては積極的に周囲のモチベーションを高めようとし、必要に応じて指導員や相談員の役割を担うこともあります。リーダーシップのように直接的にメンバーを管理する能力ではないものの、自らのアクションによって間接的に組織全体の力を向上させられるのがオーナーシップを持つ人の強みです。

オーナーシップに欠けるマインド・行動例

オーナーシップについての理解をさらに深めるために、対極に位置するネガティブなマインドについても詳しく見ていきましょう。ここでは、3つの種類に分けてご紹介します。

他責・責任回避

オーナーシップに欠ける人物の特徴として、自らの責任を回避し、他者に押し付けてしまうといったポイントがあげられます。具体的には、次のような言動が当てはまります。

・関連性のある業務も「自分の仕事ではない」と感じてしまう
・上司や制度などを必要以上に言い訳にしてしまう
・できない理由を探してしまう

自身と関連性のある業務も、自分の範囲外であると考えてしまう傾向は、オーナーシップの対極に位置する姿勢です。また、上司や制度といった環境要因を必要以上に取り上げ、自身の成長や成功が実現されない理由にしてしまうのも対極にあるマインドといえます。

他責や責任回避の姿勢は、自身の成長を妨げるだけでなく、組織全体にも悪影響を及ぼしてしまう要因の一つです。

自己防御

オーナーシップに欠ける性質には、自己防御も挙げられます。

・失敗や仕事の不具合を報告しない
・面倒なことから逃げてしまう
・自身をよく見せようと背伸びしすぎてしまう

他責や責任回避とも類似していますが、自己防御は自身が責められたり怒られたりすることを極端に避けようとする保身のマインドを指します。他者を責めるつもりはなくても、責められるのを嫌がるあまりに重大な失敗や不具合を隠ぺいしてしまうなど、場合によっては大きな事故につながる可能性もあるネガティブなマインドです。

また、必要以上に自身の欠点を隠そうとして、むやみに背伸びをしてしまうのも自己防御の一種といえます。欠点を隠す行為は組織全体から見れば、正しい力量や成長の度合いを測りにくいという点で、マイナスにつながる要因です。

諦め・無力感

物事に対する諦めや無力感も、オーナーシップの対極に位置するネガティブなマインドの代表例です。

・難しい課題と正面から向き合えない
・指示がないと動けない
・周囲からの働きかけを自分の力に変えられない

オーナーシップに優れた人物は、何か難しい課題に直面しても、自分の成長や組織の成果につながると感じれば前向きな姿勢で向き合います。そして、乗り越えるための方法をさまざまな視点から考えることが可能です。

一方で、オーナーシップに欠ける人物は、困難に直面しても正面から向き合うことをしません。自身で乗り越えるという気持ちが生まれず、自分以外の誰かが解決してくれるのを待ってしまいがちです。

諦めや無力感は、本人の成長を妨げてしまうのはもちろん、ときとして周囲も巻き込んでしまうネガティブな感情となります。周囲から励ましがあっても前向きに受け止められず、コミュニケーションにおいても後ろ向きな発言が目立つため、ほかのメンバーのモチベーションも低下させてしまう恐れがあります。

オーナーシップが求められる理由

ここまでの内容から、オーナーシップは主体性と客観的な分析力に優れ、組織において高いパフォーマンスを発揮するための特性であることがわかりました。ここでは、特に現在のビジネス環境において、なぜオーナーシップが必要とされるのかについて見ていきましょう。

組織の生産性を高めるため

オーナーシップは組織全体の生産性を高めるうえで重要な資質です。急速に変化する環境に対応するためには、組織の力を高めなければなりません。

また、働き方改革の推進によって、限られた時間で最大限の成果を出せる仕組みをつくる必要性も急務です。そうしたなかで、オーナーシップに含まれる「環境に左右されずに成果を出そうと工夫できる」「企業の成長を考えて、自身の役割や責任を見出せる」といった能力は、特に重要な能力となります。

ビジネス環境の激しい変化に対応するため

現在のビジネス環境は、グローバル化やIT技術の進歩により、従来よりも激しい変化にさらされています。業種や企業のスタイルによっては、既存の技術やシステムが通用しなくなるリスクもあり、長らく日本企業で実行されてきた上意下達型の指揮命令系統では変化に追いつけない場面も増えているでしょう。

こうした状況において、オーナーシップを持った人材の重要性はますます高まっているといえます。柔軟性と迅速な判断力、自ら変化を迎え入れる主体性を持つメンバーが増えれば、組織としてのスピード感や競争力が高まります。

そして環境の変化にさらされても、恐れることなく新たなステップに踏み出せるような力強い組織へと成長していくことが可能です。

オーナーシップを育成できる組織づくりの方法

これまで見てきたように、オーナーシップはある程度個人の特性に依存する部分もあります。しかし、組織として育成するシステムを構築することも可能です。

ここでは、オーナーシップを育成する具体的な方法や、意識すべきポイントを見ていきましょう。

研修の機会をつくる

オーナーシップは幅広い意味を持った概念であるため、まずは正しく理解できる機会をつくることが大切です。組織全体でオーナーシップという言葉を使用しても、全員が同じ意味で共有できているとは限りません。

リーダーシップと混同してしまう可能性もあるため、しっかりと研修を行い、言葉の定義も含めて丁寧に学ぶ必要があります。そのうえで、各メンバーに指導する際には、具体的な業務経験と紐づけることが大切です。

指導員とメンバーの間で認識のズレが生じれば、研修そのものが中身のない内容になってしまうため、組織全体として共通認識を持つことを明確な目的として設定しましょう。

オーナーシップを醸成する環境を整える

メンバーのオーナーシップを育成するうえでは、組織として環境づくりに力を入れることも大切です。ここでは、オーナーシップを醸成する環境づくりとして、具体的に着手すべきポイントを解説します。

心理的安全性の高い職場づくりを行う

心理的安全性とは、組織において自身の意見や気持ちを安心して発言できる状態のことを指します。より具体的にいえば、チームや周囲のメンバーが自分の発言、意見を拒絶したり、それを理由に評価を下げたりせず、誰に対しても安心して本音が話せる環境です。

オーナーシップのなかでも、特に主体性を育てるうえでは、自由に意思表示ができる環境づくりが欠かせません。組織が率先して意見交換がしやすい環境をつくり、主体的な発言を促すことが大切です。

そのためには、定期的にミーティングを行い、各メンバーの多様性を認める姿勢を示していく必要があります。また、トップダウン型のコミュニケーションを避け、立場にかかわらず何でも言い合えるような風通しのよい風土をつくる形が理想です。

挑戦をサポートする仕組みを整える

オーナーシップを育てるためには、挑戦を前向きにとらえる雰囲気をつくる必要があります。何かにチャレンジするメンバーには、組織が主体となってサポートする仕組みをつくり、場合によってはインセンティブを与えるなどして自主性を刺激することが大切です。

また、研修やワークショップを行い、それぞれの長所や役割を客観的に認識できる機会をつくるのもよいでしょう。

情報共有を徹底する

全体を見つめられる広い視野を育てるには、各メンバーがきちんと組織の情報に触れられることが重要な第一歩となります。チームの現状やリーダーの考えをできるだけ細かく共有することで、それぞれが自分の役回りを理解し、主体的に行動できる土壌が培われていくのです。

また、情報管理・共有がしやすいように、必要に応じたツールを導入するのも一つの方法です。チャットツールや社内SNSなど、手軽にそれぞれの状況を伝えられるツールがあれば、各メンバーが組織の状況や仕事の進捗などを把握できるようになります。

マネジメントの権限を委譲する

企業や組織においては、自身が置かれた立場や役割によって当事者意識が高まることも少なくありません。そのため、特に重要なメンバーにはマネージャーの権限をある程度委譲し、集中的に当事者意識を育てるのも一つの方法です。

メンバー個人にとって、管理業務はどうしても不透明になりやすいため、実際に任せられることで初めて見えてくる情報や感覚も多い傾向にあります。その結果、広い視野や当事者意識が醸成されやすくなるのです。

ただし、前述のようにリーダーシップとの混同を避けるために、きちんと学べる機会を設けることが大切な前提となります。

オーナーシップの育成に力を入れる3つのメリット

最後に、各メンバーのオーナーシップを育てることが、組織にどのようなメリットを与えるのかについて見ていきましょう。

リーダー候補を育てられる

オーナーシップを持つ人材が増えれば、多くのメンバーが企業全体の視点で物事を考えられるようになります。その結果、企業の未来を託せるリーダー候補の育成にもつながります。

リーダーシップとオーナーシップは異なる概念ではありますが、リーダーシップを身につけるうえでは、オーナーシップが欠かせません。優れたセルフマネジメント能力やコミュニケーション能力、広い視野などはそのままリーダーとしての資質にも重なります。

従業員満足度が向上する

オーナーシップの育成は、従業員のモチベーションや満足度の向上にもつながります。なぜなら、オーナーシップを持った人材は自身の役割を肯定的にとらえ、その企業でのキャリアを前向きに描けるためです。

どのように努力をすれば、組織とともに自分が成長していけるかを把握できるため、日常の業務にも確かなやりがいを感じられるのです。その結果、優秀な人材に起こりがちな「自身の能力と役割とのギャップ」や「キャリアへの不満」も軽減され、離職率の低下も期待できます。

生産性と顧客満足度が向上する

組織内にオーナーシップを持った人材が増えれば、業務の効率や生産性が向上し、チームとして高い成果をあげられるようになります。また、企業や組織の目的を把握したうえで個人が行動できるようになるため、自然と顧客へのアプローチの質も向上します。

企業としての一体感が高まり、アウトプットにも一貫性が生まれるため、顧客サービスが充実していくでしょう。

まとめ

オーナーシップを持つ人材は、組織の生産性や企業の競争力を高めるうえで重要な存在です。全体の動きを踏まえたうえで、主体的な判断ができるため、変化の激しい現代のビジネス環境では重宝する資質といえます。

オーナーシップは個人の特性に依存する部分もありますが、組織として育成の仕組みを整えることも大切です。

個人が主体性を発揮しやすい環境を整えたり、情報共有のシステムを導入したりするのは比較的手軽に実現できるため、自社に合った取り組みを検討してみましょう。

(制作協力/株式会社アクロスソリューションズ、編集/d’s JOURNAL編集部)

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