ポータブルスキルとは?重要視される理由や能力の具体例、育成の方法を解説

d’s JOURNAL編集部

ポータブルスキルは「携帯できるスキル」を意味する言葉であり、業種や職種が変わっても活かされる能力のことです。この記事では、ポータブルスキルの基本的な定義や現代のビジネス環境における重要性、当てはまる能力の具体例について解説します。

そのうえで、企業や組織としてポータブルスキルを育成できる環境づくりの方法やポイントもあわせて紹介します。

ポータブルスキルとは

ポータブルスキルは業種や職種を問わず、どのような仕事に就いていても重要性の高いビジネススキルとされています。ここではまず、ポータブルスキルの基本的な定義について確認しておきましょう。

厚生労働省の定義

「ポータブル」には、「持ち運びできる」あるいは「携帯用の」といった意味があります。ポータブルスキルとは、文字どおり自由に持ち運びができる能力や知識のことです。

厚生労働省では、ポータブルスキルについて、「職種の専門性以外に、業種や職種が変わっても持ち運びができる職務遂行上のスキル」と定義しています。特定の職種のみで活かされる知識や実務的なスキルとは異なり、どのような職種においても発揮される汎用性の高さが、ポータブルスキルの大きな特徴です。

アンポータブルスキルとは

ポータブルスキルの対義語として、持ち運びができないスキルを「アンポータブルスキル」と表現することがあります。アンポータブルスキルは、特定の企業や業種でしか活用できないスキルのことであり、ネガティブな意味合いで使われる場合も少なくありません。

たとえば、特定の企業でしか使われていないシステムを扱える能力や、独自の社風や組織文化でのみ通用するスキルなど、その他の環境で活用できないものを指しています。つまり、単に「専門性」や「テクニカルスキル」を指しているわけではないという点に注意が必要です。

ポータブルスキルが重視される背景

ポータブルスキルは、現在のビジネス環境において特に重要度が増している資質の一つとされています。ここでは、ポータブルスキルが必要とされる社会的な背景について、2つの視点から解説します。

雇用体制の変化

ポータブルスキルが重視される理由の一つには、雇用体制の大幅な変化があります。現在のビジネス環境は、終身雇用や年功序列に代表される制度が崩壊し、雇用に流動性が生まれているのが特徴です。

そのため、個人においては「転職力」とも表現されるような幅広い環境に対応できる力が求められています。また、企業にとっても人材の終身雇用が前提とならない現代では、汎用性が高いスキルを持った人材の必要性が高まっています。

ポータブルスキルを持った人材は、必要な技能や知識を積ませれば、そのまま即戦力としての働きが期待できるのが強みです。そのため、転職市場においては大きな価値として扱われる傾向が強まっています。

ビジネス環境の変化

現代のビジネスを取り巻く環境を指して、「VUCA時代の到来」と表現されることもあります。VUCAとは「Volatility:変動性」「Uncertainty:不確実性」「Complexity:複雑性」「Ambiguity:あいまい性」の頭文字をとった造語であり、将来が不透明で予測が難しく、状況が目まぐるしく変化していく様子を示す言葉です。

VUCA時代においては、技術革新が急速に進み、既存の知識やスキルが役に立たなくなってしまうリスクが高くなります。場合によっては、長らくその企業を支えてきた独自の強みが通用しなくなってしまうケースもあるでしょう。

そうした変動の激しい時代にあって、汎用性の高いポータブルスキルを持った人材の価値は、ますます高まっていくと想定されます。

ポータブルスキルの9つの要素

厚生労働省の定義によれば、ポータブルスキルは大きく9つの要素に分けられるとされています。そのうち5つは「仕事のし方」に関わる領域、残りの4つは「人とのかかわり方」に関する領域に分類されており、それぞれ具体的な能力が割り当てられています。

ここでは、9つの要素をそれぞれ詳しく見ていきましょう。

仕事のし方

仕事のし方とは、業種や職種によらず、業務を遂行するうえで必要とされる能力のことです。具体的な要素としては、以下の5つがあります。

・現状の把握
・課題の設定
・計画の立案
・課題の遂行
・状況への対応

「現状の把握」とは、取り組むべき課題やテーマを設定するために行う、情報収集やその分析のし方に関する能力です。業務を進めるうえでは現状の適切な把握が必要であり、そのためにはさまざまなデータから客観的な現状や進捗を分析しなければなりません。

つまり、現状の把握は仕事の第一歩を踏み出すうえで必要な能力といえます。続いて、「課題の設定」とは、事業や商品、組織、仕事の進め方などについて取り組むべき課題設定を行う能力です。

現状を踏まえて適切な課題を設定できるか、設定したことによる影響を想定できるかなども含めたスキルを指しています。「計画の立案」とは、担当業務や課題を遂行するための具体的な計画を立てるスキルです。

社内リソースや細かな日程を把握したうえで、適切な業務遂行計画を立てられる能力を指します。また、必要に応じて他者に業務を割り振ったり、前例をリサーチしたりする能力も含まれています。

「課題の遂行」とは、スケジュール管理や各種の細かな調整、業務を進めるにあたって想定される障害の排除など、先の流れを読んで現実的な業務に落とし込む能力です。また、精神的なプレッシャーを力に変え、スピード感を持って業務を遂行できる実行力も含まれています。

「状況への対応」とは、予期しない出来事やトラブルへの対応能力です。また、業務に対する責任の取り方なども含んだスキルを指しています。

人とのかかわり方

人とのかかわり方とは、マネジメントはもちろん、経営層や上司、顧客といった全方向の対人スキルを示したものです。具体的には、次の4つの要素からなります。

・社内対応
・社外対応
・上司対応
・部下マネジメント

「社内対応」とは、経営層や上司、関係部署に対するコミュニケーションや支持の獲得のし方を指します。異なる立場の相手と納得感の高いコミュニケーションを図り、理解と支持を得ていく能力であり、業務を円滑に進めるうえでは欠かせないスキルです。

「社外対応」とは、顧客や取引先などに対するコミュニケーションや利害調整・合意形成の能力です。営業や契約の締結、業務提携といった社外とのかかわりが必要な場面で求められるスキルであり、利害対立を防ぐバランス感覚やリスクを想定する能力などが含まれます。

「上司対応」とは、上司への報告や課題の改善に関する意見の述べ方を指す能力です。業務の進捗を正確に共有したり、トラブルが起きたときに適切な内容の報告をしたりするなど、日常業務において必要とされるスキルでもあります。

また、自分なりの意見があるときに、失礼のない形で的確な主張が行える能力も含まれています。「部下マネジメント」とは、メンバーの動機付けや育成、持ち味を活かした業務の割り当てなどを行うスキルです。

ポータブルスキルの具体例

ポータブルスキルは幅広い能力を含んだ概念ですが、前述した9つの要素に分けることで、具体的にとらえやすくなりました。ここからは、さらに細かな項目に分けて、テーマ別に詳しく見ていきましょう。

コミュニケーションに関するポータブルスキル

まずは、コミュニケーションに関するポータブルスキルについて解説します。

主張力・説得力

主張力や説得力は、チームメンバーや異なる価値観を持った相手と協力関係を築くうえで重要なスキルです。主張力とは、「自分の考えや意思をわかりやすく伝える能力」であり、誰に対しても適切な意思表示ができる力を示しています。

また、「相手に不快な思いをさせずに意見を主張する」という側面もあります。特に立場や世代の異なる相手に対しては、礼儀やマナーといった基本的なルールも重視しながら、適切な言葉と温度感で意思を伝えなければなりません。

こうした主張力は、どのような業種、環境においても必要とされる典型的なポータブルスキルです。また、説得力は「相手の疑問や不安を想定して納得させられる能力」です。

説得力とはいっても、単なる話のうまさを示すわけではなく、聞き手の心理状態を想像できるイマジネーション能力が求められます。主張力と説得力を持った人材は、無用な衝突を回避しながら意見をアウトプットできるため、組織になくてはならない存在といえます。

統率力

統率力とは、「向かうべきゴールを示して周囲を引っ張る能力」であり、リーダーシップと大きく重なる部分があります。より具体的に表現すれば、「周囲を巻き込む能力」や「周囲の信頼を集める能力」などに分解できます。

統率力は組織として動くうえで重要なビジネススキルであるとともに、業種を問わず求められる代表的なポータブルスキルです。

傾聴力・受容力

円滑なコミュニケーションが図れる組織をつくるためには、傾聴力や受容力を持った人材が必要です。傾聴力とは、「丁寧に傾聴して相手の信頼を得る能力」です。

単に受け身で話を聞くのではなく、相手の信頼を得るためにときには積極的な発問を行い、話しやすい雰囲気をつくれることも傾聴力に含まれます。また、受容力とは「異なる意見に耳を傾けられる能力」です。

多様な人材が関わるプロジェクトをまとめたり、組織をマネジメントしたりするうえでは欠かせない能力といえます。

支援力・協調力

支援力や協調力は、組織として動くうえで重要なスキルの一つです。支援力は文字どおり「周囲のメンバーを助ける能力」ですが、相手の状況を適切に把握できる観察力や、相手に過度な依存をさせないためのバランス感覚なども求められます。

協調力とは、同じ目標に向かって周囲のメンバーと力を合わせられるスキルであり、「協働や共創ができる能力」です。協調力は総合的な力を必要とする能力であり、向上させるためには、前述した傾聴力や受容力が前提となります。

課題解決に関するポータブルスキル

続いて、課題解決に関するポータブルスキルをご紹介します。いずれも目の前の課題を冷静に受け止め、分析し、乗り越えていくための能力であり、どのような業種・環境であっても必要とされます。

試行力・機動力

試行力とは、「不確定要素があっても積極的にトライできる能力」です。意思決定の材料が十分でない状態でも、思い切りよく物事を試せる能力であり、前に進むための力と言い換えることもできます。

先行きが不透明なVUCA時代のビジネスシーンにおいて、試行力は状況を打開するための重要なスキルです。また、困難な課題を解決する糸口を見つけたり、イノベーションを生み出したりするためにも不可欠な能力とされています。

機動力とは、「状況に応じて素早く行動を起こせる能力」です。試行力と組み合わせることで、課題解決のためのアクションを細かく何度も起こせるようになります。

機動力を高めるためには、フットワークの軽さだけでなく、全体像から必要な業務や役割を把握する当事者意識も重要です。

発想力・変革力

発想力とは、「新しい案を思いつく能力」と「アイデアから自分の考えを展開できる能力」です。新しいアイデアを生み出すには、コンセプチュアルスキルやクリティカルシンキングができる能力が必要であるとともに、現状を的確にとらえる分析力も求められます。

変革力とは、「固定観念にとらわれずに独自の着想ができる能力」です。決して大きな変化を生み出せる能力に限定されるわけではなく、チームの制度や細かな仕組みについて、古い慣習を打ち破れる力も含まれます。

計画力

計画力とは、「目標達成に向けて緻密な計画を立てる能力」です。計画力の向上には、現状を正確に把握したうえで細かく分析したり、主体的に課題を発見したりするスキルが必要となります。

また、複数の課題が見つかったときに、何から解決すべきか優先順位を判断できる力も求められます。さらに、チームの計画を立てる際には全体の戦力を把握しておく必要もあるため、総合的な力が求められるスキルといえます。

確動力

確動力とは、「ミスなく確実に実行する能力」です。スピード感よりも正確さが求められる業務を遂行するうえでは、間違いなく的確に結果を残せる確実性が必要となります。

試行力や機動力といったスピードに関する能力と確動力は、どちらか一方だけを伸ばすのではなく、状況に応じて適したスキルを発揮できるのが理想です。

セルフマネジメントに関するポータブルスキル

セルフマネジメントに関する能力も、業界や職種を問わずに持ち運べる重要なポータブルスキルの一つです。ここでは、代表的な5つの能力をご紹介します。

決断力

決断力とは、何か判断が求められたときに、「素早く意思決定できる能力」です。向こう見ずな性質や無責任な態度によって決断する場合とは異なり、関係者や組織全体への影響も踏まえたうえで判断できる責任感が前提となります。

そのため、決断の前段階で必要となる課題の把握能力や分析能力、組織の利害を的確につかむ観察力といった総合的な力が求められます。さまざまな場面で役立つ能力であるとともに、特にリーダーを担う人材には必要不可欠なスキルです。

瞬発力

瞬発力とは、「短時間で成果を上げられる能力」です。業務によっては、納期などが設定されていて、限られた時間内で成果を残さなければならない場面もあります。

このときに必要となるのが、短期間で一気に持てる力を発揮できる瞬発力です。特に新規事業を立ち上げたり、早期解決が必要な課題に直面したりしたときには、瞬発力を持った人材が重宝されます。

また、短期での決戦に強いという意味では、集中力や取捨選択ができる能力も必要となります。何に取り組むべきかを限定し、選択と集中によってパフォーマンスを最大限に高められる思考力が重要です。

忍耐力

忍耐力とは、「困難やストレスに立ち向かう能力」です。設定した目標に向かって突き進む過程では、ときとして予期しない困難に直面したり、人間関係のトラブルに見舞われたりすることもあります。

忍耐力はそうした状況と上手に付き合い、感情的にならずに受け入れられる能力と表現することもできます。また、困難を跳ね返す精神的な強さや逆境に負けないレジリエンスなども忍耐力に含まれるスキルといえるでしょう。

規律力

規律力とは、「ルールや秩序を守れる能力」です。組織やチームで動くうえでは、優れた発想力や実行力だけでなく、決められているルールや秩序を守りながら周囲と協働できる力も求められます。

派手な活躍につながる能力とは異なり、一見すると地味なスキルではありますが、組織で結果を出すには欠かせない力です。また、自分で決めたルールを守れる規律力が身につけば、目標達成能力や確動力なども自然と向上していきます。

あいまい力

あいまい力は、「不透明な状況をありのままに受け入れられる力」であり、現代のビジネスシーンにおいて重要度が高まっているとされるスキルの一つです。VUCA時代においては、予測ができない事柄が多く、不確定要素を抱えたまま業務を進めなければならない場面も少なくありません。

そのため、「ケースバイケースの判断を受け入れられる柔軟性」が重要な役割を果たします。また、個人の考え方やアイデンティティも多様化しているため、コミュニケーションの場においても断定せずにグレーゾーンを受け入れられる力が必要となっています。

ポータブルスキルを磨く3つの方法

ポータブルスキルは決して先天的な才能というわけではなく、きちんと段階を踏めば後天的に身につけることができます。ここでは、ポータブルスキルを磨く方法として、3つのポイントをご紹介します。

厚生労働省の研修資料を活用する

厚生労働省では、ポータブルスキルを育成するためのツールや研修教材を公開しています。テキスト形式の資料だけでなく、ロールプレイング用の解説動画などもあるため、社内研修時には積極的に活用してみるのがおすすめです。

また、教材は営業編やキャリア・コンサルタント編などとテーマごとに分けられており、素材も事例やグループ研修用といった豊富な項目が用意されています。社内研修用の講義担当者向けテキストや参加者への事前配布物も公開されているため必要に応じて活用しましょう。

さらに、ポータブルスキルを測定したり、活かしやすい職務や職位を判定したりできる「ポータブルスキル見える化ツール」を利用するのも一つの方法です。ポータブルスキル見える化ツールは厚生労働省が主体となって開発したツールであり、15分ほどで自身のポータブルスキルや適した職務・職位が測定されるため、手軽に導入しやすいのが特徴です。

(参考:厚生労働省『ポータブルスキル見える化ツール(職業能力診断ツール)』)

外部の研修システムを活用する

外部の研修システムを使ってポータブルスキルの育成を図るのも一つの方法です。民間企業が提供する研修サービスは、項目が幅広く設計されているのに加えて、より実践的にスキルを磨ける仕組みが整えられているのが魅力です。

研修の受け方は企業によってさまざまであり、自社の従業員が研修施設に出向く場合や外部講師が派遣されるケースなどがあります。そのため、自社の働き方やメンバーの個性に合った方法を選ぶことが大切です。

社内の仕組みを整える

各メンバーのポータブルスキルを育成するためには、単に機会を用意するだけでなく、組織として適したシステムを整えることも重要です。具体的なポイントとしてまず挙げられるのは、「目標と成果の見える化」を実現できる仕組みを設けることです。

重点的に身につけるべきポータブルスキルは、あらかじめ組織内で言語化しておき、チェックシートなどを用いて定期的に成長の度合いを確認できるようにしておくとよいでしょう。そのうえで、メンバーあるいは世代、立場ごとに必要なポータブルスキルを絞り込み、個人に合った目標を設定するのが理想です。

また、「ポータブルスキルの活用事例や成功例を社内で共有する」ことも大切なポイントです。ポータブルスキルは専門的なテクニカルスキルとは違い、身につけるメリットや影響が目に見えにくい面があります。

そのため、ポータブルスキルが活かされた事例があれば、すぐに把握して全体に共有することが大切です。また、ポータブルスキルの向上に成功しているメンバーの事例を参考にし、取り組み方やマインドなどをインタビューしてみるのもよいでしょう。

まとめ

ポータブルスキルは、現代の複雑かつ不透明なビジネス環境において、重要な役割を果たす能力です。

個人においては転職に役立つスキルととらえることも多いですが、組織から見ても、既存のシステムや技術が通用しなくなった場合にはポータブルスキルを持った人材が重要な価値をもたらします。

これからポータブルスキルを持つ人材の育成をはじめる場合、まずは要素と具体例をしっかりと理解し、そのうえで自社での育成に適した方法やアプローチを検討してみましょう。

(制作協力/株式会社アクロスソリューションズ、編集/d’s JOURNAL編集部)

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