ダイナミックケイパビリティとは?基本理論・課題・活用事例

d’s JOURNAL編集部

ダイナミックケイパビリティとは、「企業変革力」を表す言葉です。変化する環境に対して自社を大きく変えていく力のことを指しており、自社の競争優位性を見つけることに狙いがあります。

ダイナミックケイパビリティが注目される背景には、社会の不確実性や経済のグローバル化などさまざまな要因が関係しています。

この記事では、ダイナミックケイパビリティの基本的なポイントや課題、活用事例などを詳しく解説します。

ダイナミックケイパビリティとは

ダイナミックケイパビリティについて正しく理解するには、基本的なポイントを把握しておくことが重要です。注目されている理由なども含めて、詳しく解説します。

 

ダイナミックケイパビリティの定義

ダイナミックケイパビリティとは、環境の変化に対応するために企業が自己改革を進めていく能力のことを指し、「企業変革力」とも呼ばれています。ダイナミックケイパビリティにおいては、自社を取り巻く外部環境の変化に対応して、保有する経営資源をうまく活用しながら、競合他社に優位性を保っていくことを目指します。

そもそも、ケイパビリティが組織としての強みを表す言葉であり、そこに外部環境という要素を加えたものがダイナミックケイパビリティだといえるでしょう。社会の不確実性や経済のグローバル化、デジタル技術の躍進などの影響でビジネス環境は大きな変化が起こっており、そうした時代を生き抜くための経営戦略として注目されています。

注目されている理由

ダイナミックケイパビリティが企業に注目される理由として、主に次の4つのポイントが挙げられます。

ダイナミックケイパビリティが注目される4つの理由

・社会の不確実性
・デジタル領域の技術革新
・経済のグローバル化
・顧客ニーズの変化

それぞれの理由について、さらに詳しく解説します。

社会の不確実性

新型コロナウイルスの感染拡大やエネルギー価格の高騰など、日本だけでなく世界的に政治や経済の不確実性が高まっています。社会の大きな変化に対応するためには、これまでの延長線上で事業展開を考えているだけでは、経営リスクが増す可能性があります。

社会の変化にあわせて、企業を自己変革していく能力が不可欠なものとなっており、ダイナミックケイパビリティの向上に取り組む企業が増えているといえるでしょう。

デジタル領域の技術革新

IoTやAIといったデジタル技術の革新は、社会にかかわる多くの人の暮らしを豊かにするとともに、ビジネスの領域においても大きな変化をもたらしています。こうした技術革新をうまく自社に取り込み、組織運営や事業展開に活用していくことが企業には求められているといえるでしょう。

しかし、業種によっては技術革新になかなか対応できていない分野もあり、競争力の低下につながっているケースもあります。逆にいえば、技術革新があまり進んでいない分野においていち早く最適化することで、自社の競争優位性を保つことにつながるため、ダイナミックケイパビリティが注目されているといえます。

経済のグローバル化

経済のグローバル化が進展していくなかで、海外の企業との競争にさらされる場面も多くなっています。国際市場で生き残っていくためには、新たな技術の活用や人材採用と並行して、経営資源の再分配や組織の再構築が必要です。

ダイナミックケイパビリティは、組織全体を横断した取り組みであり、国内だけでなく海外企業にも負けない組織づくりを行ううえで必要不可欠です。特に海外での販売に力を入れている企業や業種にとって、組織の変革は優先すべき課題ともいえるため、ダイナミックケイパビリティが注目されています。

顧客のニーズの変化

現在の経営状況に特に問題がなかったとしても、顧客のニーズは絶えず変化しており、多様化しています。そのため、顧客からの要求にうまく対応できない企業は、中長期にわたって競争力を保つのが難しくなるでしょう。

変化する顧客ニーズへの対応は、マーケティング部門や営業部門だけが担えばよいというものではありません。全社的な取り組みとして行うためにも、ダイナミックケイパビリティの向上は必要です。

ダイナミックケイパビリティを構成する3要素

ダイナミックケイパビリティは大きく分けて、3つの要素で構成されています。企業の自己変革に必要な要素について、それぞれ解説します。

 

①センシング(感知)

センシングとは、顧客ニーズ・同業他社の動向・社会情勢など、企業を取り巻く経営環境の化をいち早く感じ取る能力を指します。企業の自己変革を図るためには、まずは外部状況の変化を適切に把握することが必要です。

日頃から情報収集に取り組み、各部署が保有している情報を共有する体制を築いておく必要があります。そして、単に情報を集めるだけでなく、細かく分析を行うことで自社が取り組むべき課題を明らかにしていくことが重要です。

時代の変化に対応した適切な戦略を立てるうえで、センシングは欠かせない要素であるといえます。

②サイジング(捕捉)

サイジングとは、企業が保有する経営資源を状況に応じて再配分・再利用する能力を指します。既存事業のみに経営資源を傾けるだけでは、環境の変化にうまく対応できない部分があるため、事業戦略そのものを見直す必要が出てくる可能性もあるでしょう。

自社だけで経営資源が不足している場合は、取引先やサプライヤーなども含めて、組織のあり方そのものを再構築していく必要性もあります。

③トランスフォーミング(変革)

トランスフォーミングは、企業が競争優位性を確立するために、経営資源を再構築・変容させる能力を意味します。経営環境の変化に応じて組織を組みなおしたり、社内のルールを変更したりする力が求められるといえます。

単に新しい部署を設けたり、ルールを適用したりするだけでなく、スピード感を持って変化に対応していくことが欠かせません。自社の強みを最大限に活かすために、組織の変革を促していく力が求められます。

ダイナミックケイパビリティの背景となる2つの理論

ダイナミックケイパビリティは、主に「競争戦略論」と「資源ベース理論」という2つの理論をもとに形作られています。それぞれの理論について、詳しく解説します。

競争戦略論

「競争戦略論」はマイケル・E・ポーターによって提唱された理論です。自社が置かれている市場を分析することで、最適なポジションを見つけるために活用する理論といえます。

自社にとっての最適なポジションとは、競争優位性を確立できるポジションを意味しています。企業は市場における競争要因である5F(ファイブフォース)分析を行うことで、自社のポジションを見つけることが可能です。

5Fとは、新規参入企業の脅威・売り手の交渉力・買い手の交渉力・代替品の脅威・既存企業同士の競争を指します。競争戦略論では、自社の戦略はそのときの市場環境に左右されるという前提にもとづいているのが特徴です。

しかし、同じ業種であっても異なる経営戦略を用いて成功している企業がいることから、批判的な意見が寄せられた経緯もあります。競争戦略論に対する批判のなかで誕生したのが、次に解説する資源ベース理論です。

資源ベース理論

資源ベース理論では、企業ごとの競争力の違いは、保有する経営資源の異質性から生まれてくると考えられています。継続的に競争優位を保つには、企業が保有している経営資源が大きく影響していると主張されている理論です。

資源ベース理論では、企業の経営資源に関する強みや弱みを分析するときに、VRIO(ブリオ)と呼ばれるフレームワークを用います。VRIOは、経済的価値(Value)・希少性(Rarity)・模倣困難性(Imitability)・組織(Organization)の4つの要素で分析を行うのが特徴です。

しかし、資源ベース理論においては固有の経営資源に注目するあまり、市場の変化にうまく対応できていないという批判もあります。それぞれの理論の弱点を補い、効果的な経営戦略を立てるために、ダイナミックケイパビリティが生まれた経緯があるといえます。

ダイナミックケイパビリティとDX

ダイナミックケイパビリティについて考えるときは、DXとの関連性も考慮する必要があります。DXの基本的な意味やダイナミックケイパビリティとの関連性を解説します。

DXとは

DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、デジタル技術を用いてビジネスモデルを変革し、市場の競争優位性を確立することを指します。事業プロセスをデジタル化するという意味ではなく、IoTやAIといったデジタル技術を用いることで、経営戦略や事業展開そのものを変えていくことを意味しているのです。

2020年5月に経済産業省・厚生労働省・文部科学省によって公表された「2020年版ものづくり白書」では、ダイナミックケイパビリティの向上はDXに有効であると指摘されています。それぞれの取り組みを別々に考えるよりも、組織全体として一体的に行うほうがより効果的だといえます。

ダイナミックケイパビリティとDXの関連性

ダイナミックケイパビリティを構成する3つの要素(感知・捕捉・変革)は、DXの活用を通して最大限に効果が発揮されるといえます。たとえば、感知や捕捉といった部分は、必要なデータを効率的に収集し、分析することができるデジタル技術を取り入れていくことで、スピーディーに対応可能です。

そして、組織の変革に必要な体制の再構築や社内ルールの変更なども、デジタル技術の活用が欠かせません。DXを推進していくことによって、ダイナミックケイパビリティの向上が期待できるため、一体的な取り組みとして進めていくとよいでしょう。

ダイナミックケイパビリティにおける課題

ダイナミックケイパビリティを向上させるには、全社的な取り組みが欠かせませんが、課題となる部分もあります。ここでは、取り組みを推進していくための課題となる点を3つ解説します。

経営資源が限られている

ダイナミックケイパビリティを推進する際に課題となりやすい点として、経営資源が限られていることが挙げられます。経営資源が整っていない企業においては、資源の再配分を行おうとしても、かえって資源不足に陥ってしまうこともあります。

特に人材不足はさまざまな業種で深刻化しているため、求める人材を得ようとしてもうまく集まらないといった場合も少なくありません。企業は限られた経営資源のなかでダイナミックケイパビリティを向上させていかなければならないため、綿密に既存事業の見直しを行っていく必要があります。

対応できる人材確保が困難

新たな人材の確保が難しい場合には、社内で人材を育成していくことを考えるケースも多いでしょう。しかし、ダイナミックケイパビリティに対応できる人材の育成は難しい部分があり、育成までに時間がかかることが予想されます。

人材教育を行うためのノウハウが確立されていないところがあり、適切な教育が行いづらい点もネックです。段階的に人材教育を施していく計画を立て、必要に応じて外部リソースを活用するなどの工夫が必要です。

時代の傾向や流れを読み解くのが難しい

ダイナミックケイパビリティは時代の変化に対応していくために取り組むものですが、時代の傾向や流れを見通すことは、コロナ禍の例からもわかるようになかなか難しい部分があります。しかし、市場や経営環境の変化について的確に捉えなければ、誤った形で取り組みを進めてしまう原因となるため、慎重に行っていくことが必要です。

情報収集や分析を綿密に行うと同時に、経営層が内部・外部環境を把握したうえで、持続的に競争優位を保つだけの経営戦略を立てる必要があります。経営層が積極的にダイナミックケイパビリティに取り組んでいくことが、何よりも欠かせない要素だといえます。

まとめ

企業変革力を意味するダイナミックケイパビリティは、変化の激しい環境を生き残っていくうえで欠かせない取り組みだといえます。社会の不確実性や経済のグローバル化など、さまざまな変化に対応するにはこれまでの経営戦略にとらわれないことも重要です。

自社の組織力を活かし、競合他社への優位性を保つには綿密な情報収集と分析が欠かせませんが、同時に経営層が率先して経営戦略を立てていくことも大切です。さらに、ダイナミックケイパビリティの向上は、DXとも密接に関係している部分が大きいため、一体的に推進していくことも考えてみましょう。

時代の傾向や流れを正確に捉えることは難しいですが、競合他社も同じ環境にあるため、他社に対する優位性を継続的に保てる経営戦略を練っていくことが大事です。SWOT分析などのフレームワークを活用して、自社の企業変革力を高めてみましょう。

(制作協力/株式会社アクロスソリューションズ、編集/d’s JOURNAL編集部)

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