パーパス(purpose)とは?注目される理由や「パーパス経営」「パーパスドリブン」などの関連用語をわかりやすく解説
d’s JOURNAL編集部
企業としての存在意義を意味する、「パーパス」。企業経営やブランディングなどの観点から、パーパスへの関心が高まっています。「パーパスとは、一体どのようなものか」「パーパスを策定することで、どのようなメリットが期待できるのか」など知りたい企業も多いのではないでしょうか。今回は、具体的な事例を交えながら、パーパスの定義や注目される理由、メリットなどについて、ご紹介します。
パーパス(purpose)とは?
近年、企業経営やブランディングなどの観点から、「パーパス」という言葉に注目が集まっています。パーパスとは一体、どのようなものなのでしょうか。パーパスの定義や、類義語・派生語との関係・違いについて、ご紹介します。
パーパスの定義
「パーパス(purpose)」とは、企業としての「存在意義」のこと。もともと、パーパスには「目的」「意図」という意味がありますが、近年では、「存在意義」を表す言葉として使われるようになってきています。「何のために、自社は存在するのか」という問いの答えが、パーパスであると理解するとよいでしょう。なおパーパスは、一度策定したら基本的に「(そう大きくは)変わらないもの」とされています。
類義語や派生語との関係・違い
パーパスには、いくつかの類義語・派生語があります。類義語・派生語との関係・違いについて、ご紹介します。
経営理念とは?
経営理念とは、経営を行う際の基本となる「考え方」や「価値観」「創業者・経営者の想い」を言葉で表したものです。経営理念とパーパスは近い概念ですが、「社会とのつながりをどの程度意識しているのか」「内容が変化しやすいか」という点が異なります。
経営理念の場合、会社によっては「社会とのつながり」が意識されていなかったり、不明瞭だったりすることがあります。一方、パーパスは基本的に「社会とのつながり」を強く意識したものです。また、経営理念には、経営者の交代や時代・ニーズの変化を受け、内容が「変化しやすい」という特徴があります。反対に、パーパスは基本的には「(そう大きくは)変わらない」ものと捉えられています。
なお、近年では、従来の経営理念に代わり、新たにパーパスを策定する企業が増えてきているようです。
(参考:『よい経営理念を作り、浸透させ、成長していくには?5つの事例から考える/テンプレ付』)
企業理念(ミッション・ビジョン・バリュー)とは?
企業理念とは、企業として、最も大切にしている基本的な考え方・価値観のこと。企業として日々果たすべき使命である「ミッション」、企業として実現したい未来である「ビジョン」、企業として約束する価値・強みである「バリュー」の3つの要素からなります。ビジョンとバリューは、企業にとって重要なものであるという点ではパーパスと共通していますが、その性質は異なるものと理解するとよいでしょう。
ミッションとパーパスは近い概念ですが、経営理念と同様に「社会とのつながりを強く意識しているか」という点が異なります。ミッションの場合、「社会とのつながり」がさほど意識されていないこともあります。一方、パーパスは「社会とのつながり」を強く意識したものです。また、ミッションとパーパスは、「What」と「Why」で対比されることもあります。ミッションは企業が目指す姿に向けて何を行うべきであるのかという「What」を示すものであるのに対し、パーパスは、なぜ企業が社会に存在しているのかという「Why」を示すものです。「将来目指すべき姿」を意識しているのがミッション、「現在あるべき姿」を意識しているのがパーパスとも言えるでしょう。
近しい概念であるために、企業によっては、「ミッション」に「パーパス」の要素を含めているところもあるようです。
クレドとは?
クレドとは、「ミッション」「ビジョン」を実現し、「バリュー」を提供し続けるために、従業員が日々意識する「行動指針」のこと。企業によっては、「バリュー」と「クレド」を一つにまとめているところもあるようです。クレドとパーパスはいずれも企業にとって重要なものであるものの、クレドは「個々の従業員」の行動に焦点を当てたもの、パーパスは「企業」としての存在意義を示すものというように、性質が大きく異なることを理解しましょう。
パーパス経営とは
パーパス経営とは、パーパスに基軸を置いた経営のことです。パーパスを重視した企業活動を行い、社会に貢献していくことを目的としています。
パーパス・ドリブンとは
パーパス・ドリブンとは、「全ての物事がパーパスを軸として始まっている状態」を指します。企業においては、「組織全体が、パーパスに導かれている状態」あるいは「組織内でパーパスを共有し、自社の商品・サービスに反映している状態」と理解するとよいでしょう。
パーパスブランディングとは
パーパスブランディングとは、企業経営をパーパスに基づいて行うべきであるというブランディング手法のこと。パーパスを社会全体に認知・共感してもらい、企業の長期的なブランディング強化につなげることを目的としています。
パーパスが注目され始めたのはいつから?
パーパスは、2019年8月19日に米国トップ企業が所属する財界ロビー団体「ビジネス・ラウンドテーブル」が、「企業のパーパスに関する宣言」を発表したのをきっかけに、注目され始めました。宣言では、過去数十年間にわたり企業経営の原則であった「株主資本主義」を否定し、代わりに全てのステークホルダーへの配慮を目指す「ステークホルダー資本主義」への転換を表明。また、「雇用創出」や「必要な財・サービスの提供」といった企業の基本的役割に加え、下記5点をコミットすることが宣言されました。
「企業のパーパスに関する宣言」でコミットが宣言された5点
●顧客の期待に応える、あるいはそれを超える価値・サービスの提供
●従業員への投資(公平な報酬、急速な世界の変化に対応した教育の提供)
●サプライヤーに対する公平かつ倫理的な取引の実行
●地域社会支援、環境保護
●企業の投資、成長、革新を可能にするための資本を提供する株主への長期的な価値の提供
(参考:Business Roundtable『Business Roundtable Redefines the Purpose of a Corporation to Promote ‘An Economy That Serves All Americans’』)
また同年、世界最大の資産運用会社ブラックロックのCEO、ラリー・フィンク氏が、取引先CEOに宛てた年次書簡において、企業にとってのパーパスの重要性を述べたことで、パーパスへの注目はさらに高まりました。2020年の年次書簡では、「(企業の)長期的成長には、パーパスこそがその原動力となるものである」と述べられています。
なぜ、日本でパーパスが注目されているのか?
「ビジネス・ラウンドテーブル」が発表した宣言や、ラリー・フィンクCEOの年次書簡により世界中で注目され始めたパーパスですが、今なぜ、日本でもパーパスが注目されているのでしょうか。パーパスがこれほどまでに注目されている時代背景について、ご紹介します。
(参考:ボストンコンサルティンググループ編『BCGが読む経営の論点2020』日本経済新聞出版)
時代背景① VUCAの時代の到来
「VUCAの時代」とは、あらゆるものを取り巻く環境が目まぐるしく変化し、将来の予測が困難な状態が続いている時代のこと。VUCAの時代が到来したことで、既存の価値観やビジネスモデルなどが通用しなくなってきました。
さまざまな場面・環境において、「変動性」や「不確実性」「複雑性」「あいまい性」が増す中、企業には、常に複数の大規模プロジェクトを走らせ、環境変化にも迅速に適応する「常時型トランスフォーメーション(構造改革)」が求められるようになってきています。構造改革を進めていくに当たり、「これからどのような戦略・施策を行っていくか」の判断軸が全社的に共有されていないと、意思決定に時間がかかったり、誤った判断をしてしまったりする可能性があります。また、変革のプロセスにおいて、従業員を鼓舞し、共感・コミットメントを広げるための動機づけに注力しなかった場合、「変革疲れ」が生じ、変革が頓挫することも考えられます。
そうした状況の中、構造改革を進めていくためには、「ゴール(Where)」や「具体策(What)」に加え、判断軸・動機づけの根幹となる構造改革の「意義・意味合い(Why)」を明確に示すことが重要です。パーパスは、「意義・意味合い(Why)」に当たるものであるため、パーパスに注目する企業が増えてきています。
(参考:『【3分でわかる】VUCAの時代で何が変わる?取り残されないための4つのスキルとは』)
時代背景② 戦略・組織の多様化
従来の日本企業には、「国内市場中心」「新卒一括採用」「終身雇用」「従業員は主に日本人」といった特徴がありました。こうした企業が一般的だった時代には、企業としての価値観や判断軸がたとえ明示されていなくても、従業員一人一人が同じ方向を目指して行動できていたため、パーパスの必要性は高くありませんでした。
しかし、現代の日本企業は「グローバル市場への参入」「通年採用・中途採用の増加」「終身雇用の崩壊」「従業員の国籍の多様化」など、戦略・組織の多様化が進んでいます。戦略や組織が多様化したことで、企業としての価値観や判断軸を自然に共有するのが困難になりました。そうした状況を受け、従業員一人一人のベクトルをそろえるためのものとして、注目されるようになったのがパーパスです。
国籍や性別、年齢などの違いを受け入れ、多様な価値観や発想を活かす「ダイバーシティー」が企業に求められていることもあり、今後、日本企業における戦略・組織の多様化はさらに進展していくと考えられます。それに呼応する形で、パーパスの重要度もより一層高まっていくでしょう。
(参考:『ダイバーシティーとは何をすること?意味と推進方法-企業の取り組み事例を交えて解説-』)
時代背景③ 社会的意義が重視される風潮
従来、企業に求められてきた「CSR(企業の社会的責任)」には、本業と乖離した、ボランティア的な要素が強いという側面もありました。しかし、近年では、企業の長期的成長のために「ESG(環境・社会・ガバナンス)」の観点で取り組みを行う企業が増加していることからも明らかなように、本業を通じて社会的課題を解決し、企業の成長や価値向上につなげていくという発想が主流になってきています。そのため、「社会とのつながり」「社会的意義」を重要視するパーパスが、時代の要請に即したものとして注目されているのです。
社会的意義を重視する風潮は、1980年代初期以降に生まれた「ミレニアル世代」のキャリア観からもわかります。ミレニアル世代は、「自らの強み・持ち味を活かせること」や「成長の機会を得られること」を重視しているとされています。その根底にあるのは、企業や自らの仕事に「社会的意義」があることから得られる「やりがい」です。ミレニアル世代が共感できるような企業としての「社会的意義」としてパーパスを示すことが、人材獲得競争の成功に直結する時代に突入したと言えるでしょう。
(参考:『【5分でわかる】ESG・ESG投資とは?ー選ばれる企業になるために必要な経営戦略ー』)
パーパスを策定することで得られるメリット
パーパスは策定だけすればよいというものではありません。効果を実感するためには、パーパスが社内に浸透し、パーパスに基づく企業活動が実際に行われる必要があります。パーパスが根付くことにより期待できるメリットを3つの観点からご紹介します。
【経営】より良い意思決定につながる
パーパスは、企業にとって重要な戦略・方針を決める際の「道標」とも言えるものです。そのため、パーパスが社内に浸透していれば、自社にとってベストな選択を迅速に決定でき、より良い意思決定につながります。より良い意思決定が可能になることで、「新商品・サービスの開発」や「ビジネスモデルの変更」「業務フローの改善」といった改革を進めやすくなり、企業のさらなる成長が期待できるでしょう。
【組織】従業員のロイヤリティや自律性が促進される
パーパスは従業員にとって「自社で働く意義」とも言えるものです。パーパスを明確に示し、浸透させることができれば、パーパスは企業と従業員をつなぐ「共通項」となり得ます。従業員は、自分の担当する業務に誇りを持てるようになるでしょう。その結果、従業員の「ロイヤリティ」や「自律性」の促進が期待できます。自社のために自発的に行動できる従業員が増えることで、「イノベーションの創出」や「生産性の向上」にもつながっていくでしょう。
【社会】持続可能な開発につながる
先ほどご紹介した通り、パーパスには「社会的意義」も含まれています。実際、パーパスを実現するための手段の一つとして、「二酸化炭素排出量の削減」や「再生可能エネルギーの使用」などに取り組んでいる企業もあるそうです。
このように、パーパスに基づく企業活動が長期的・継続的に行われていくことで、持続可能な開発の実現につながっていくでしょう。
グリーンウォッシュを防ぐために。パーパスを策定する際のポイント
パーパスに関連して、しばしば問題となるのが、「環境配慮をうたっておきながら、実際には配慮していない」「パーパスに掲げていることと、実際の企業活動が伴っていない」といった「グリーンウォッシュ(パーパスウォッシュ)」と呼ばれる状態です。こうした状態が続くと、ステークホルダーからの信頼を失う恐れが高くなります。グリーンウォッシュ(パーパスウォッシュ)を防ぐためには、以下のようなポイントを押さえたパーパスを策定するとよいでしょう。
パーパスを策定する際のポイント
●わかりやすい言葉で表現されていること
●パーパスの内容と自社の企業活動に一貫性があること
●自社としての実現可能性があること
●企業の成長につながる内容であること
●従業員を奮起させる内容であること
●社会的意義を持った内容であること
パーパスを社内に浸透させやすくするためには、わかりやすい言葉で表現されていることが重要です。できる限り短い言葉で表現できると、覚えやすく、定着もしやすいでしょう。また、グリーンウォッシュ(パーパスウォッシュ)を避けるためにも、パーパスの内容と自社の企業活動に一貫性があることや、自社としての実現可能性があることも重要です。企業である以上、利益も求める必要があるため、企業の成長につながる内容であることも欠かせません。従業員のロイヤリティや自律性を促すためには、従業員を奮起させる内容である必要があります。また、パーパスである以上、社会的意義を持った内容であることも重要です。
パーパス導入の事例とその効果について
実際に、パーパスを取り入れている企業の事例をご紹介します。
ソニーグループ
ソニーグループは、2019年1月「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」というPurpose(存在意義)を策定しました。ソニーグループでは、2018年7月から、「ミッション・ビジョン・バリュー」の見直しを開始。事業内容が多岐にわたり、個別に具体的なビジョンを掲げているケースもあり、グループ全体の存在意義を再定義するために、Purpose(存在意義)を策定しました。
Purpose(存在意義)を浸透させるために行ったこと
Purpose(存在意義)を浸透させるためには「社員が策定プロセスに参加すること」が重要と考え、「全世界の社員から意見を募る」「社員やマネジメント層と議論を重ねる」などしながら、Purpose(存在意義)を作っていきました。Purpose(存在意義)の浸透を図るため、「ポスターの作成」や「社長の思いをつづった署名入りレターの配信」「各事業のマネジメント層への働きかけ」なども行ったそうです。
パーパスの効果
Purpose(存在意義)があったため、働き方が変化したコロナ禍においても、全社員が一丸となって業務に取り組むことができました。「家庭用ゲーム機のネットワークサービスへのアクセス急増に伴う対応」や「映画・音楽制作現場における感染対策と作品作りの両立」などの困難に直面した際も、どのチームでも「感動を届けること」を前提に考えた取り組みを行えたそうです。
また、2020年度にはこれまでの最高益を達成。2021年度の経営方針説明会では、吉田会長 兼 社長 CEO自らPurpose(存在意義)を軸に今後の経営方針について語っています。また、「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」ためには世界が健全・平和でなければいけないと考え、「パッケージの原材料変更」や「プラスチックの包装材を全廃した商品の発売」などサステナビリティへの貢献も行っているそうです。
ピジョン
ピジョンは、2019年「赤ちゃんをいつも真に見つめ続け、この世界をもっと赤ちゃんにやさしい場所にします」というパーパスを策定しました。
パーパス策定の背景
パーパス策定時、ピジョンの経営は安定し、社員の処遇・待遇を上げることもできていました。その一方で、ピジョンでは、乳幼児向け商品の製造・販売だけでなく保育サービスや高齢者向けの介護事業も手掛けていたこともあり、誰にどのような価値を提供していくのか、組織としての方向性を明確にしきれていませんでした。
パーパスの効果
「この世界をもっと赤ちゃんにやさしい場所にします」と宣言することで、ベビーケア事業に特化していく方針が明確になりました。これにより、同時期に取り組み始めた、Pigeon Frontier Awardを通じて、低体重の赤ちゃんに初乳をあげるためのデバイスの改良企画が生まれたり、哺乳瓶を違う材質で作るアイデアが出たりなど、パーパスを体現するような好事例が生まれています。
まとめ
「時代の変化」や「戦略・組織の多様化」を受け、パーパスに注目が集まっています。パーパスを浸透させることで、「より良い意思決定につながる」「従業員のロイヤリティや自律性が促進される」といったメリットが期待できます。グリーンウォッシュ(パーパスウォッシュ)とならないように注意しながら、パーパスを策定し、企業の成長につなげてみてはいかがでしょうか。
(制作協力/株式会社はたらクリエイト、編集/d’s JOURNAL編集部)
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