人時生産性とは?算出方法や平均データ・向上させるためのポイントを紹介

d’s JOURNAL編集部

自社の経営状況を分析する際には、さまざまな指標に目を向けて、数字のうえから客観的に判断することが大切です。「人時生産性」は1人が1時間稼働した際の粗利を示す指標であり、労働効率や経費のバランスなどを確かめるのに用いられます。

この記事では、人時生産性の具体的な計算方法や平均データ、向上させるために意識すべきポイントなどを詳しく見ていきましょう。

人時生産性とは

人時生産性(にんじせいさんせい)とは、1人が1時間稼働した場合に発生する生産性を測る指標です。生産性は投入量に対する産出量の割合 を示す用語であり、人時生産性においては「粗利益」を指しています。

ここでいう粗利とは、「売上高から売上原価(原材料費や人件費)を差し引いた金額」のことです。そのため、人時生産性の計算によって1人当たりどれだけの利益を生み出せているのかを確かめることが可能であり、利益の効率性を測る指標として用いられます。

人時生産性

 

人時生産性が注目されている背景

人時生産性の向上は、従来多くの企業にとって重要な課題とされてきたテーマでもあります。そのうえで、近年のビジネス環境において特に注目度が高まっているのには、3つの社会的な背景が関係しています。

1つめの理由は、少子高齢化による労働人口の減少です。日本では長く少子高齢化が続き、それにともなう労働人口の減少によって、多くの企業が人手不足の問題を抱えるようになっています。

そして、2つめの理由は、法改正などによる働き方改革の推進です。時間外労働をはじめとする長時間労働の規制、有給休暇取得の義務化といった社会的な要請に応えるために、企業は単位時間当たりの生産量を高める必要性に迫られているのです。

さらに、国際的な観点から見ると、日本における時間当たりの生産性は、先進国のなかでも比較的低い位置にあります。長きにわたって、長時間労働を前提とした働き方が基準とされてきたことで、世界各国と比べるとどうしても取り組みに後れをとってしまうのが現状です。

そうした状況にあって、人時生産性の向上は1つの企業だけでなく、日本社会全体の課題になっているといえるでしょう。

労働生産性や人時売上高との違い

経営状況を分析する指標には、ほかにも「労働生産性」や「人時売上高」などの種類があります。ここでは、それぞれの指標と人時生産性の違いについて見ていきましょう。

労働生産性との違い

労働生産性は、「全体の労働投入量に対する従業員1人当たりの産出量」を表す指標です。どちらかといえば、労働量や付加価値はやや広い概念として捉えられており、経営分析において用いられる機会が多いのも特徴です。

労働生産性で用いられる労働量は、場合によって「労働者数」や「従業員全員の総労働時間」などが使い分けられます。また、産出量についても単純な「生産数量」を用いる場合もあれば、「付加価値」を用いるパターンもあります。

このように、幅広い場面で使われるのが労働生産性であるのに対して、人時生産性は「1人当たりの粗利」という純粋な付加価値を表します。両者の違いを端的に表現すれば、労働生産性は「組織全体」に、人時生産性は「個人」に着目した考え方といえるでしょう。

そのため、人時生産性のほうが、よりピンポイントな分析に用いられるという特徴を持っています。

人時売上高との違い

人時売上高は、従業員1人が1時間稼働した場合に発生する売上高を示す指標です。粗利をもとに計算する人時生産性と比べて、材料費や人件費などのコストが加味されていないのが特徴です。

そのため、企業の売上規模を測る際に用いられることが多く、特に飲食店の経営などにおいて重視されます。

人時生産性の算出方法


人時生産性は、次の計算式で求めます。

・人時生産性(円)=粗利÷総労働時間
・粗利=売上高-諸経費
・総労働時間=従業員数×労働時間

このように、粗利と総労働時間が明らかになっていれば、計算自体はそれほど難しくはありません。たとえば、次のような店舗の人時生産性を計算するとします。

・売上高:200万円
・諸経費:80万円
・従業員数:30人
・労働時間:各8時間

すると、実際の人時生産性は以下の計算結果のようになります。

・粗利:200万円-80万円=120万円
・総労働時間:30人×8時間=240時間
・人時生産性:120万円÷240時間=5,000円

ここから読み取れるのは、人時生産性を向上させるために何をすべきであるかというおおまかな方向性です。具体的には、「売上高を増やす」「諸経費を抑える」「総労働時間を減らす」という3つのパターンに大別して考えることができます。

人時生産性の平均データ

人時生産性は、単純な売上高などの指標と比べて、データの水準を把握しにくい面があります。そこで、まずは目安となる水準をチェックしておくことが大切です。

たとえば、2021年に中小企業庁が算出したデータ によれば、中小企業における業種別の平均人時生産性は次の通りです。

業種 平均の人時生産性
製造業 2,837円
小売業 2,444円
宿泊業 2,805円
飲食店 1,902円

(参照:経営産業省『中小企業・サービス業の生産性分析』)

このように、業種によっても水準は大きく異なり、製造業では3,000円近くが平均とされるのに対し、飲食店は2,000円を下回っていることがわかります。そこで、まずは自社が属している業種の平均値と見比べ、上回っているかどうかを確かめてみましょう。

また、複数の部門を持つ企業では、部門ごとの人時生産性を割り出すことも大切です。より細かなグループに分けて分析することで、改善が必要なポイントを明確につかみやすくなります。

人時生産性を向上させるための4つのポイント

人時生産性を改善することは可能であり、いくつかのポイントを押さえておく必要があります。主なポイントとしては、次の4つの点が挙げられます。

人時生産性を高めるための4つのポイント
・適材適所な人員配置を行う
・業務を効率化する
・ITツールやRPAを効果的に導入する
・従業員のモチベーション維持

各ポイントについて、さらに掘り下げて見ていきましょう。

人時生産性を向上させるには

 

適材適所な人員配置を行う

人時生産性を改善するうえで忘れてはいけない点は、従業員ごとに特性があり、得意・不得意な作業があるということです。たとえば、データ入力が得意な人なら1時間で済むような作業も、パソコンが苦手な人であれば半日ほどの時間がかかり、さらに質も低いといったケースもあるでしょう。

こうした状態を放置しておくことは人時生産性を考えるうえで問題だといえますし、何より従業員自身のモチベーションの低下につながります。取り組むべき業務を洗い出し、「どの仕事を誰が担当するのか」を精査して、適材適所の人員配置を行ってみましょう。

業務を効率化する

人時生産性を高めるには業務の効率化が重要ですが、そのためには業務上のボトルネックとなっている部分を把握しておくことが大切です。ボトルネックとは、瓶の首が細くなっている様子にたとえて、仕事の流れを阻害している原因を指します。

生産性が低いと感じてはいても、組織全体の業務が全体的に滞っているようなケースはめずらしいため、普段はボトルネックとなっている部分に気づきにくいでしょう。現場の従業員の意見なども交えて、「特定のメンバーへの業務集中が発生していないか」や「毎回時間がかかってしまう工程がないか」などをチェックしてみましょう。

ボトルネックとなっている部分を取り除けば、業務が効率化されて労働時間を減らすことも可能です。業務に余裕の持てる組織づくりを心がけることで、人時生産性を高められるでしょう。

ITツールやRPAを効果的に導入する

業務において、データの手入力や紙の書類によるやりとりが多い場合は、ITツールを活用したりRPAに置き換えたりして、作業時間の短縮を図ってみましょう。RPAとは、「ロボティックプロセスオートメーション(Robotic Process Automation)」のことであり、AIや機械学習などを活用して、人が行っていた作業をコンピューターに置き換えることを指します。

日常的に行っているパソコン作業などを自動化することによって、作業時間そのものを減らしていくのが狙いです。また、業務負担を軽減するだけでなく、部門間のコミュニケーションを円滑化するといった効果も期待できます。

従業員のモチベーション維持

人時生産性を高める取り組みは、組織全体にとっては有益なものですが、効果を実感するまでにはそれなりに時間がかかる部分があります。また、従来の業務のやり方を大きく変える場合があるので、従業員に対して丁寧に説明を行い、認識を共有していくことが重要です。

コミュニケーションがきちんと行われていなければ、従業員のモチベーションが低下し生産性を向上させるどころか、かえって低下させる原因になってしまうでしょう。従業員のモチベーションを維持し、高めるためには定期的なミーティングの機会を設けたり、人事評価制度を見直したりすることが有効な手段です。

すぐに目立った成果が見られなくても、中長期的な視点に立って地道な取り組みを続けてみましょう。

人時生産性向上の事例

小売業:株式会社東京さえき

東京都国立市に本社を置く株式会社さえきは、総合食品スーパーマーケットとして、多摩地区を中心に店舗を展開しています。バックヤード業務の生産性向上について、従業員一人ひとりが自立した改善活動ができるように以下の活動方針に基づいて、基礎づくりに取り組んでいきました。

・流れの改善:物と情報の流れを整理し、改善に結び付ける
・人一人あたりの生産性の向上:無駄に着目し、作業時間の短縮を図る
・標準化:誰がやっても同じようにできる

これらの標準化作業によって、作業時間は最大11分50秒短縮され、生産性は39%向上しました。また、「残り2個になったら調理する」というルールを徹底することで作り過ぎが減り、売上の向上にもつながっています。

具体的な改善効果が得られたことで、従業員のモチベーションも高まり、他店舗にも同様の改善を図ることで会社全体として生産性の向上に成功しています。

(参照:厚生労働省「バック業務ヤード生産性向上

まとめ

少子高齢化などの影響から労働人口の減少が今後も見込まれるなかにおいて、企業は限られた人員で成果を出していく必要性に迫られています。業種や職種などで違いがあるものの、人時生産性を高めていくことは企業やそこで働く従業員にとって重要な課題です。

人時生産性に関する基本的な捉え方を正しく理解し、自社の現状を的確に把握してみましょう。そのうえで、具体的な取り組みを行いやすいものから改善し、現場の従業員の意見も交えながら、生産性の向上を図ってみてください。

(制作協力/株式会社アクロスソリューションズ、編集/d’s JOURNAL編集部)

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