介護離職とは?発生する背景と企業が行える支援策を解説
d’s JOURNAL編集部
2025(令和7)年にはすべての団塊の世代が75歳以上となり、実に国民の4人に1人が後期高齢者となる超高齢化社会が到来します。それにともない、ますます深刻化しているのが家族の介護と仕事を同時に抱える「ビジネスケアラー」の増加です。
ビジネスケアラーによる介護離職は、国レベルでの対策が求められる重要な課題となっています。今回は介護離職の概要や現状、個人や企業に与える影響について解説します。
そのうえで、介護離職を防ぐために活用できる制度や、個々の企業が取り組める支援策についても詳しく見ていきましょう。
介護離職とは
少子高齢化社会の到来により、家族の介護は多くの世帯が直面する課題となっています。現役世代が介護の負担を抱えれば、仕事との両立が難しくなり、それまで培ってきたキャリアを断念せざるを得ない「介護離職」の可能性もあります。
ここではまず、介護離職の概要と現状について見ていきましょう。
介護離職の概要
介護離職とは、家族や親族の介護によって仕事との両立が困難になり、やむを得ず離職してしまう状態を指します。介護には休みがなく、場合によっては深夜になっても対応しなければならない場面もあります。
日中はフルタイムで働き、帰宅後に介護を行う状況が継続すると、介護者には心身の深刻な疲労が蓄積されていくでしょう。兄弟や親戚にも頼ることが難しく介護の負担が過度に集中すれば、やがては仕事との両立が不能となり、本人も望まないまま離職に至ってしまうのです。
介護が必要となる年齢は早ければ70代あるいは80代ごろであることから、実質的に介護を負担するのは、その子ども世代にあたる40~50代の現役世代が担うケースが多いといえます。この世代は、一般的に企業の中核を担う管理職者やベテラン従業員であることが多いため、企業にとっても大きな損失につながるのが特徴です。
このように、介護離職は大きな経済損失も生み出すリスクがあることから、国レベルでも対策が進められています。
介護離職の現状
総務省統計局が公表している「令和4年 就業構造基本調査結果」によれば、介護者は全体で629万人おり、そのうち365万人は有業者とされています。つまり、介護を抱える人のうち、半数以上は仕事と両立をしているということです。
そして、介護・看護による離職者数は、2022(令和4)年の1年間で10万6,000人にものぼります。この数値は毎年それほど大きな動きはなく、平均して10万人前後が介護離職に至っているとされており、今後も近いうちに減少していくという見込みはありません。
特に2025年はすべての団塊の世代が後期高齢者となり、国民の4人に1人が後期高齢者となる「2025年問題」に直面します。このまま何ら対策を講じなければ、介護離職者はますます増えていくと考えられます。
(参照:総務省統計局『令和4年 就業構造基本調査結果 』)
介護離職が起こる理由
介護離職が起こる原因は、やはり仕事と介護の両立による実質的な負担の増加にあるといえます。仕事でそれまでと同等の業務負担を背負うなかで、新たに介護の負担が加われば、個人の努力だけではどうしても限界を迎えてしまいます。
その状態で、勤務先の労務環境がうまく対応できなければ、やがては介護離職へと至ってしまうでしょう。厚生労働省の委託によって行われた「令和3年度仕事と介護の両立等に関する実態把握のための調査研究事業」によれば、介護離職の理由として次のようなものが挙げられています。
介護離職の理由となった勤務先の課題
・勤務先に介護休業制度等の両立支援制度が整備されていなかった
・勤務先に介護休業制度等の両立支援制度を利用しにくい雰囲気があった
・勤務先の介護休業制度等の両立支援制度の利用要件を満たしていなかった
・代替職員がおらず、介護休業制度等の両立支援制度の利用ができなかった
・職場の労働時間が長い、深夜勤務・シフト勤務があるなど、労働時間に問題があった
回答結果では、介護休業制度などに職場が対応できなかったことが、介護離職の主な原因とされています。また、「代わりのメンバーを見つけられない」「もともとの労務環境に課題があった」などの要因も大きく関係していることが明らかにされています。
(参照:厚生労働省委託調査『令和3年度仕事と介護の両立等に関する実態把握のための調査研究事業 労働者調査 結果の概要 』)
介護離職によって引き起こされる問題
介護離職は転職や独立などによる離職とは異なり、従業員本人にとっても決して望ましい離職ではありません。仕事に由来する負担こそ軽減されるものの、本人の人生に大きな影響を及ぼしてしまいます。
ここでは、介護離職後に介護者が直面しやすい問題点について見ていきましょう。
心身のストレス
仕事を辞めて介護に専念すれば、物理的な負担はある程度軽減され、時間の面でもゆとりが生まれやすいと考えるのが一般的です。しかし、実際には仕事を失うことで収入が減少するため、それまで利用していた介護サービスのグレードを下げざるを得ず、結果として肉体的な負担は増加してしまうといったケースもめずらしくありません。
また、要介護者と一緒に過ごす時間が増えるため、それまで以上に精神的なストレスを感じてしまう場面も多くなります。仕事という家庭以外の居場所を失うことで、常に介護のストレスにさらされ続けるため、かえって離職前よりも負担を感じやすいというケースも多いです。
経済的な不安
介護離職による収入の減少は、介護者に経済的な不安をもたらします。一般的に40~50代はそれまで以上に収入が増えるタイミングであるため、キャリアが途絶えれば本人の生涯年収には大きなデメリットをもたらします。
さらに、自身の退職金や年金額も減ってしまうため、長期的に見ても経済的な損失は大きいといえるでしょう。また、本格的な介護が始まれば、さまざまな介護用品の準備が必要となるため、支出もかさんでしまいます。
収入の減少と支出の増加、さらには将来的な資産形成へのデメリットが重なり、介護者本人には大きな負担となってしまうのです。
介護者の孤立
仕事を辞めることで、社会とのつながりが希薄になってしまうのも大きな問題といえます。家族以外とのコミュニケーションが減ってしまい、介護者が孤立感を抱きやすくなるのです。
孤立した状態があまりにも続けば、介護が終わってからの社会復帰にも不安を感じてしまいます。キャリアが途絶えてしまったことで、もとの職場には戻りにくいと感じる一方で、社会的なつながりを失えば新たな環境へ飛び込むのにも大きな負担を感じてしまうでしょう。
このように、介護を終えた後に収入を得る手段を見つけられないというリスクも見過ごせない課題となっています。
介護離職が企業に与える影響
介護離職は介護者本人だけでなく、勤めていた企業にも大きな影響をもたらします。ここでは、企業が直面するデメリットについて3つのポイントに分けて見ていきましょう。
人材の流出につながる
従業員の介護離職は、企業にとって大切な人材の流出につながります。前述のように、介護離職は企業の軸となる40~50代に多い問題であるため、企業の人員配置などには大きな影響をもたらします。
これらの世代は、本来であれば事業の中心を担ったり、後進を育成したりする重要な存在です。介護離職によって流出が続けば、組織としての力は大きく弱まってしまうでしょう。
また、現代は労働人口の減少により、さまざまな業界における人手不足が社会的な問題となっています。働き手が少ない状況下では、新たな人材を確保するのもそう簡単ではなく、欠員の補充に多くの労力を費やしてしまうのも課題です。
(参考:『人材流出はなぜ起こる?5つの原因と防止策・企業事例を解説 』)
業績への影響が懸念される
中軸を担うベテランの従業員がいなくなることで、業績への直接的な影響も懸念されます。例えば、有資格者が介護離職をすることになれば、部署や業種によってはそもそも事業の継続が困難になってしまうというケースもあるでしょう。
また、介護離職をするメンバーが管理職者やリーダーにあたるポジションに就いていた場合は、チーム全体に与える影響も大きくなります。同じような役割を果たせる人材を見つけようとしても、同程度の経験・スキルを持った求職者に出会える確率は決して高くありません。
その結果、組織のパフォーマンスが低下すれば、生産性の低下や業績の悪化を引き起こします。
他の従業員の負担が大きくなる
介護離職によって人員が減少すれば、他の従業員に負担が集中してしまうのも問題です。特に中堅以上のキャリアを持つ人材が離職すれば、その穴埋めは簡単ではありません。
企業側が適切な形で人員を補充できなければ、業務過多の状態が解消されず、残った従業員にも悪影響が及んでしまうのです。過度な業務負荷は、従業員のモチベーションを低下させるだけでなく、心身の健康を阻害する要因にもなります。
その結果、最悪の場合はさらなる離職につながり、組織力の連鎖的な低下を招くおそれもあります。
介護離職を防ぐための制度
介護離職を防ぐためには、企業側が率先して支援制度の活用を促していくことも大切です。ここでは、介護と仕事を両立するために活用できる制度を3つ ご紹介します。
介護休業給付
「介護休業給付」 とは、家族の介護のために長期的な休みを取得できる制度のことです。具体的には、ケガや病気、身体または精神上の障害などにより、「2週間以上にわたって介護を必要とする家族」を介護するために、休みを取得することができる仕組みとなっています。
対象者は勤務先に申し出ることにより、対象の家族1人につき「通算93日まで」「分割する場合は3回まで」を条件に休業を取得することができます。雇用保険の被保険者であり、かつ一定の要件を満たす場合は、「休業開始時点における賃金月額の67%」の介護休業給付金が支給される仕組みです。
家族が要介護認定されたばかりのタイミングは、ケアマネージャーとの打ち合わせ、自宅の介護リフォーム、デイサービスや老人ホームの下見などで、何かと忙しい時期になります。この時期に休業を取得し、しっかりと介護の準備を進めることで、仕事と両立させやすい体制を整えられるようになります。
介護休業は、いわば仕事と介護を無理なく両立していくための準備に充てられる制度といえるでしょう。なお、介護休業の仕組みが設けられていない会社でも、条件を満たした従業員が事業主に申し出れば取得が可能とされています。
法律により、事業主には介護休業などを理由とした嫌がらせや不当な扱いを防止する措置の実施が義務付けられているので注意が必要です。
介護休暇
介護休暇とは、要介護状態にある家族の突発的な介護のために、1年に対象家族1人あたり5日まで「通常の年次有給休暇とは別枠で」休暇を取得できる制度です。口頭での申請が可能とされているため、病院の付き添いや急な体調悪化の対応など、緊急性のある用事にも活用できます。
介護休暇は法律で守られた権利であるため、事業主は申し出に対して拒否することはできません。介護休暇の取得を理由に解雇や降格、その他不利益な扱いをすることも禁じられているため注意が必要です。
なお、介護休暇は1日または時間単位での取得が可能となっています。
所定外労働・時間外労働・深夜労働の制限
従業員が要介護状態の家族を介護するために申請した場合、会社は「所定外労働」の免除をしなければならないという決まりがあります。所定外労働とは、就業規則などで定められた勤務時間を超える労働のことであり、いわゆる残業を指します。
1回につき1カ月以上、1年以内の期間において利用できる制度となっており、回数に制限はありません。また、対象の労働者には、「時間外労働の制限」「深夜業の制限」も適用されます。
時間外労働とは、「法定労働時間(原則1日8時間、1週間で40時間)を超える労働」のことです。家族の介護申請をした労働者に対しては、原則として1カ月につき24時間まで、1年で合計150時間を超える時間外労働をさせてはならないという決まりがあります。
深夜業とは、「午後10時から午前5時までの労働」のことです。こちらも介護の申請をした労働者に対しては、原則として1カ月以上6カ月以内の期間にわたって深夜労働をさせることはできないとされています。
企業が取り組める支援策
介護離職が起これば、従業員本人だけでなく企業にもさまざまなダメージが発生します。大切な従業員に安心して働き続けてもらうためには、企業側が積極的に働きかけを行い、支援策を整えておくことが重要です。
ここでは、企業が取り組める施策を6つに分けて見ていきましょう。
利用できる制度や仕組みを知らせる
先ほども参照した厚生労働省の委託調査「令和3年度仕事と介護の両立等に関する実態把握のための調査研究事業」では、介護離職に至った対象者のうち、実に6割強が「介護休業制度を利用したかった」4割強が「介護休暇制度を利用したかった」と回答しています。また、介護休業・介護休暇を利用しなかった理由としては、「勤務先に介護休業・介護休暇制度が整備されていない」「勤務先の介護休業・介護休暇制度を知らない」という回答が高い割合を占めています。
回答結果からは、勤務先の介護休業や介護休暇制度を利用できれば、介護離職に至らなかったケースも十分に多いと考えられるでしょう。つまり、企業が介護にあたって利用できる制度をきちんと整備すれば、やむを得ない介護離職の予防につながるということです。
そのためには、介護休業を取得しやすい職場風土をつくることも大切な取り組みとなります。具体的には、「介護休業や介護休暇の仕組みをわかりやすく周知する」「申請プロセスをシンプルにする」「業務を効率化して人員にゆとりを持たせる」といった施策を行うことが重要です。
(参照:厚生労働省委託調査『令和3年度仕事と介護の両立等に関する実態把握のための調査研究事業 労働者調査 結果の概要 』)
働き方の見直しを行う
介護離職を避けるためには、多様な働き方が実現できるような仕組みを整えることも大切です。また、育児・介護休業法の第23条では、家族の介護を抱える労働者に向けた連続する3年間以上の期間における「所定労働時間の短縮等の措置」が事業主に義務付けられています。
所定労働時間の短縮等の措置とは、具体的に次のようなものが挙げられます。
所定労働時間の短縮等の措置の具体例
・時短勤務
・フレックスタイム制度
・時差出勤
・介護サービス費用の助成
事業主は介護のための制度として、上記の制度もしくはこれに準ずる制度のいずれかを設ける必要があるとされています。これらはいずれも、働き方の柔軟性を高めるのに効果的なアプローチです。
自社の従業員のニーズに合わせて、これらの制度を組み合わせることで、介護と仕事との両立を考えてもらいやすくなるでしょう。さらに、介護のための制度が充実すれば、出産・育児を控える若手の従業員にとっても魅力的な職場づくりを実現できます。
結果的に社内全体の定着率を高めることにもつながるので、積極的に取り組んでいく姿勢が重要です。
社内で情報を共有しておく
介護休業や介護休暇を利用しやすい風土をつくるためには、日ごろから社内コミュニケーションの活性化に力を入れることも大切です。介護に関する問題には、どうしても家庭内の事情が含まれるため、あまり気軽に相談できるテーマとはいえません。
社内の信頼関係が十分に構築されていなければ、介護の悩みを誰にも打ち明けられず、知らず知らずのうちに離職を選択してしまうという可能性もあります。介護離職を防ぐためには、普段から人間関係に気を配り、すぐに相談できるような環境を整えておくことが重要なのです。
そのためには、上司による定期的な1on1ミーティングを実施したり、社内で介護に関する制度について話し合いの場を設けたりするのが効果的です。日ごろから丁寧に情報を共有しておくことで、実際に介護が必要になったときでも安心して相談できるようになります。
相談窓口を設ける
介護休業や介護休暇の取得が難しい理由には、「チームに迷惑をかけてしまうのではないか」という不安も大きく関係しています。自身が休みを取得すれば、身近な相手に業務の負荷が集中してしまうため、誰にも相談できないというケースは少なくありません。
そこで、社内に第三者的な立場としての相談窓口を設けるのも有効な方法です。相談窓口があれば、人間関係のトラブルや日常業務への影響を気にする必要がなくなるため、直属の上司には言いにくいことも打ち明けやすくなります。そして、相談窓口が第三者の立場として介護休業の取得を勧めれば、申請への心理的なハードルは下がるでしょう。
企業内で窓口を設けるのが難しい場合は、外部サービスを利用してみるのも一つの方法です。外部の介護相談サービスは、会社を通さずに相談ができるため、従業員も比較的に利用しやすいのが特徴です。
なかには、介護離職の防止を専門として扱う企業もあります。介護離職防止対策アドバイザーなどの有資格者が、プロの目線で相談に応じてくれるので、個別の具体的な悩みにも対応できるのがメリットです。
助成金を活用する
介護離職を予防するうえでは、国が用意している「両立支援等助成金」を活用するのも有効な方法です。両立支援等助成金の「介護離職防止支援コース」では、介護離職防止のための適切な支援を行う中小企業事業主に対し、一定の条件を満たすことで助成金が支給される仕組みとなっています。
この制度を利用するためには、「従業員との面談と介護支援プランの作成」「条件に適応した介護休業の取得実現」「介護支援プランに基づく介護両立支援制度の実現」などの条件を満たす必要があります。要件をクリアしたうえで期限内に申請を行えば、「介護休業」では休業取得時・職場復帰時に28.5万円(生産性要件を満たした場合は36万円)、「介護両立支援制度」では28.5万円(生産性要件を満たした場合は36万円)が支給されます。
1事業主につき、1年度5人まで利用可能となっているため、この制度を活用して社内の仕組みを整えるのもよいでしょう。
メンタルヘルスのケアを行う
介護との両立に取り組む従業員をサポートするには、ハード面の整備だけでなくソフト面からの支援も丁寧に行う必要があります。どれだけ環境が整備されても、両立による精神的な負担は生じるため、メンタルヘルスのケアにも目を向けておくことが肝心です。
具体的な取り組みとしては、「ストレスチェックの活用」「相談窓口の設置」「メンタルヘルスに関するセミナーの実施」「外部相談サービスの利用」「社内コミュニケーションの活性化」などが挙げられます。ストレスチェックについては、常時雇用される労働者が50人以上の事業場では実施が義務化されているものの、それ未満の規模の事業所ではあくまで努力義務とされています。
しかし、メンタルヘルスの不調にいち早く気づくためには、小規模の企業でも自主的に実施することが重要です。客観的なチェックによってストレスの蓄積度が明らかになれば、介護と仕事の両立で余裕のない従業員に対しても、企業側から支援の手を差し伸べることができるでしょう。
まとめ
介護離職は本人のキャリアや人生そのものに大きな影響を与える選択です。一時的に本人の身体的な負担は軽減されたとしても、経済的な不安や精神的な負担、孤立といった問題により、離職を後悔してしまうケースは少なくありません。
また、企業にとっても貴重な人材を流出させてしまうことにほかならず、大きな損失となります。双方にとってよい状態を実現するには、企業側が率先して介護離職を防ぐための仕組みづくりに取り組むことが大切です。
まずは介護休業・介護休暇の仕組みや、法律で事業主に義務付けられた措置について、正しく理解する必要があります。そのうえで、自社の従業員に合った仕組みを整え、介護と両立しながらでも安心して働き続けられる職場づくりを目指しましょう。
(制作協力/株式会社STSデジタル、編集/d’s JOURNAL編集部)
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