アンダーマイニング効果とは?具体的な影響と防止策を紹介

d’s JOURNAL編集部

アンダーマイニング効果とは、外的な報酬がきっかけで、かえってモチベーションが低下してしまう現象を指します。

意欲的であった従業員のモチベーションが損なわれることで、生産性の低下や離職を引き起こしてしまうリスクもあるので、組織運営においては注意すべき現象の一つでもあります。

この記事では、アンダーマイニング効果の意味や原因、具体的な影響について詳しく見ていきましょう。そのうえで、アンダーマイニングを回避するための予防策も解説します。

アンダーマイニング効果とは

「アンダーマイニング効果」が起こると、それまで意欲的であった従業員もモチベーションが下がり、パフォーマンスに大きな影響が出てしまうこともあります。そのため、社内メンバーのモチベーション管理を行う際には、アンダーマイニング効果について正しい理解を持っておくことが大切です。

ここではまず、アンダーマイニング効果の定義について、詳しく見ていきましょう。

アンダーマイニング効果の定義

アンダーマイニング効果とは、本来は達成感や満足感を得るために行っていたものの、報酬を受けたことによって、かえってモチベーションが低下してしまう状態を指します。

もともとは好奇心や達成感といった内的なモチベーションで取り組んでいたにもかかわらず、金銭などの報酬をもらうことで、「報酬を受けること」そのものが目的になってしまうのは決してめずらしい現象ではありません。

その結果、純粋な動機から見返りを求める感情へとモチベーションの質が変化し、やる気が低下してしまうことをアンダーマイニング効果と呼んでいるのです。

外発的動機づけと内発的動機づけ

アンダーマイニング効果を理解するうえでは、人間のモチベーションを生み出す「動機づけ」の種類について知っておく必要があります。動機づけには、他人から与えられる報酬や評価によって起こる「外発的動機づけ」と、好奇心や探究心、関心や向上心といった本人の内部要因から発生する「内発的動機づけ」の2種類があります。

たとえば、「目的の報酬を得たい」「もっと評価されたい」「罰を避けたい」といった感情は、外発的動機づけの代表例です。それに対して、内発的動機づけは「もっとうまくなりたい」「好きなことを追求したい」といった純粋な感情であるのが特徴です。

どちらも表向きは人を特定の物事へ向かわせる役割を持っていますが、純粋な欲求である内発的動機づけのほうが、より強いパワーを持っています。アンダーマイニング効果は、内発的動機づけが外発的動機づけへとすり替わってしまう現象を指すため、トータルとしてモチベーションが低下してしまうことを意味しているのです。

アンダーマイニング効果の実証事例

心理学者のエドワード・L・デシとマーク・R・レッパーは、1971年にアンダーマイニング効果に関する実証実験を行ったことで広く知られています。この実験は、対象者を2つのグループに分け、以下のような手順でモチベーションの変化を検証するというものです。

1.対象者をグループA・Bに分ける
2.両グループにパズルを解いてもらう
3.グループAにはパズルが解けるたびに報酬を与え、グループBには特に何も与えない
4.両グループに再びパズルを解いてもらう

その結果、報酬を与えられたグループAは、何も与えられなかったグループBに比べてパズルに触れる時間が短くなることがわかりました。これは、報酬によって、パズルが「好奇心や達成感を満たすもの」から「報酬を得るための手段」へと変化し、モチベーションの低下を引き起こしたことを示しています。

アンダーマイニング効果が起こる3つの理由

アンダーマイニング効果は、周囲の環境とそのときの心理状態によっては誰にでも起こり得る現象といえます。よかれと思ってした行為が原因になるなど、知らず知らずのうちに発生しているケースもあるため、その原因についても理解しておくことが大切です。

ここでは、アンダーマイニング効果を引き起こす3つの理由について見ていきましょう。

行動の目的が「やりがい」から「報酬」に変わる

内発的動機づけは、本来とても強いパワーを持っており、外的な要因に左右されにくい性質を持っています。しかし、お金や名声といった報酬が与えられると、人間の心理はどうしてもその喜びや刺激を求めるようになってしまいます。

もともとは使命感ややりがいに基づいて行動を起こしていたとしても、その行為に報酬を与えられた途端、内発的動機が外発的動機へと変化してしまいがちになるのです。その結果、行為の目的が「やりがい」ではなく「報酬」へと変わり、モチベーションが低下してしまいます。

自己肯定感の低下

内発的動機づけの大きな特徴として、自発能動的な行動を引き起こすという点があげられます。自分で自身の行動をコントロールしているという実感が得られるため、自然と自己肯定感も高まっていくのが利点です。

それに対して、他人からの評価や報酬が目的になると、自己決定感や有能感が著しく低下し、「人にやらされている」という感覚を覚え始めてしまいます。その結果、自分の内面から生じる欲求が叶わなくなり、次第にやる気が失われていってしまうのです。

このように、自己肯定感の低下もアンダーマイニング効果を引き起こす主要な原因です。

ノルマや締め切りがある

これまで解説してきたように、アンダーマイニング効果は、主に内発的動機づけが外発的動機づけへとすり替わることで生じるものです。そのうえで、外発的動機づけには金銭や名誉といった褒賞だけでなく、強制力や罰則も含まれる点に注意が必要です。

たとえば、ノルマや締め切りも外発的動機づけにあたり、設定の仕方によってはアンダーマイニング効果を発生させる原因となるケースがあります。これらの強制力は、一時的にはモチベーションの向上を生み出す面もあるものの、効果が長続きしないのが特徴です。

アンダーマイニング効果がもたらす影響

アンダーマイニング効果は、ビジネスに対して実際にどのような悪影響を及ぼすのでしょうか。ここでは、「企業全体」に与える影響と、「従業員個人」に与える影響の2つの側面から見ていきましょう。

企業に与える影響

組織内でアンダーマイニング効果が発生すると、離職の増加リスクが高まります。多くの場合、離職はモチベーションの低下によって起こるものであり、アンダーマイニング効果が見えない離職原因をつくり出す可能性は十分に考えられるでしょう。

また、離職には至らないまでも、モチベーションの低下は生産性の低下を引き起こします。特に機械や運搬具などを用いる業種では、集中力の低下によって重大な事故を起こしてしまうリスクもあるでしょう。

離職の直接的な原因については、以下の記事でも詳しく解説されているので、参考にしてみてください。

(参照:『離職の主な原因8種類をまとめて紹介!企業が取るべき対策もあわせて解説』

従業員に与える影響

アンダーマイニング効果が起こっても、外発的動機づけによるモチベーション管理を行うこと自体は不可能ではありません。たとえば、成果に紐づいた報酬制度は、従業員同士の競争意識を高める効果があります。

しかし、一方で業績のよいメンバーとそうでないメンバーとの間に明確な差が生まれ、職場の人間関係を悪化させてしまうリスクもあります。そのため、「他者の利益につながる行動も評価する」など、実施するうえでは細やかな配慮が必要です。

また、一度内発的動機づけが失われると、外発的動機づけなしでは意欲が生まれなくなってしまうため、再びモチベーションを高めることは難しくなります。仮に外発的動機づけとなる報酬を高く設定しても、モチベーションが十分なレベルにまで高まらない事もあるのです。

エンハンシング効果とは

「エンハンシング効果」とは、アンダーマイニング効果と反対の意味を持つ現象です。つまり、外発的動機づけによって内発的動機づけが高まり、自然とモチベーションが向上していくという効果を示しています。

ここでは、エンハンシング効果がどのようなものなのか、具体的な内容や特徴について解説します。


褒めて自信につなげていく

エンハンシング効果とは、他者から褒められる、期待されるといった称賛を受けることで、内発的なモチベーションが向上していくことを指します。より具体的にいえば、対象の才能や能力ではなく、「行為」や「行動」を褒めることで自信がつき、自らモチベーションを上げて行動していくようになる現象です。

そのため、エンハンシング効果を引き出すためには、結果だけでなくそれまでのプロセスにも目を向けることが大切です。それによって、目標を成し遂げるための内発的動機づけが生まれていきます。

見返りを求めないモチベーション

エンハンシング効果は、行動自体から得られる満足感や、強い探求心など、人の内面的な要因によって動機づけられるのが特徴です。見返りを求めない純粋な欲求で行動できるため、賞罰のような外発的動機づけよりも、さらに強く前向きな意欲が生まれていきます。

モチベーションアップの具体的な方法については、以下の記事で詳しく解説されているので、参考にしてみてください。
(参照:『【1分で解説】モチベーションアップには何が必要?従業員のモチベーションを上げる5つの方法』

信頼している相手からの称賛は効果が高い

エンハンシング効果は、主体と客体の関係性によって効果に大きな違いが生まれるのも特徴です。信頼している上司や尊敬している先輩、自分よりも能力が高い同期など、褒めてもらいたい相手からの称賛のほうが効果は大きくなります。

そのため、エンハンシング効果を期待するのであれば、社内や組織内の人間関係にも十分に気を配ることが大切です。

アンダーマイニング効果を生じさせないための防止策


ここまでの内容を通して、アンダーマイニング効果は「知らず知らずのうちに起こる可能性がある」「一度発生すると、再びモチベーションを向上させるのが難しくなる」といった性質を持っていることがわかりました。社内やチーム内で発生すれば、生産性の低下や離職率の上昇を引き起こすリスクもあるため、予防するための対策を講じることが大切です。

ここでは、アンダーマイニング効果を回避するための防止策を見ていきましょう。

気持ちを込めて行動や努力を褒める

アンダーマイニング効果を防ぐためには、対極に位置するエンハンシング効果を意識して、上手にモチベーションをコントロールすることが大切となります。しかし、エンハンシング効果は言葉の力によって相手の心を動かすものであるため、金銭報酬などと比べて運用が難しいのがデメリットです。

形式的な発言や表現では、いくら称賛の言葉を伝えても相手の心を動かすことはできず、なかなか効果が期待できません。エンハンシング効果を引き出すには、言葉の抑揚や仕草などの要素にも着目して、本心から相手への称賛を伝えるように心がけることが重要です。

自己決定感を持たせて、自立を促す

命令や指示による行動は、業務の効率を高める効果がありますが、同時に相手の内発的な意欲を奪ってしまう危険性もはらんでいます。アンダーマイニング効果を起こさないためには、細かな指示をしすぎず、自発的に業務を進めているという自己決定感を持たせることが重要です。

本人の感覚や好奇心などを尊重することで、内発的動機づけが強まり、より高いモチベーションへと昇華されていくのです。また、従業員自身にある程度の決定権を持たせることで、自然と自律性や広い視野が養われるようにもなります。

大まかな仕事の方向性ややり方について学ばせたら、細かなポイントにはあえて踏み込まず、本人の進め方に任せるというのも一つの方法といえるでしょう。

物質的な報酬ではなく、言葉で報酬を与える

ボーナスや給与の増額といった物質的な報酬は、従業員のモチベーションを引き出すうえでもちろん重要な意味を持ちます。しかし、前述のように外発的な動機づけはアンダーマイニング効果を起こす可能性もあるため、あまり無計画に用いるべきではありません。

むしろ、高い意欲を持った従業員に対しては、期待や称賛の言葉といった言語的な報酬を与えるほうがよい場合もあります。自己決定感や有能感を低下させず、内発的な意欲を向上させる効果が期待できるという意味では、言葉によるエンハンシング効果を意識するのが重要です。

ただし、当然ながら、個人の貢献に対してまったく物質的な報酬を与えなくてよいというわけではありません。対象者が物質的な対価に不満を感じている場合には、きちんとその問題を認識したうえで、適切に解消することも大切です。

また、言葉による報酬の効果は、あくまでも相手との信頼関係が十分に構築されているという前提がなければ成り立ちません。そのため、評価を行うリーダーや管理職者は日ごろから丁寧にコミュニケーションを図り、各従業員と良好な人間関係を築くことが大切です。

他者から強いられているように感じさせない

他者や組織からの強制力は、アンダーマイニング効果を引き起こす主要な原因となります。そのため、従業員に対しては、できるだけ他者から強いられているような感覚を与えないように配慮することが大切です。

そのうえで重要となるのは、やはり外発的動機づけの取り扱い方です。たとえば、心理学者のリチャード・ド・シャームは、外発的動機づけは「他者から統制されている」と知覚させてしまう可能性を持っていると述べています。

人事評価において、不用意に賞罰のような外発的動機づけを用いると、従業員には組織からの強制力が働いているように感じさせてしまう可能性があるので注意が必要です。

簡単な目標を設定してみる

業務を正確に進めてもらうためには、行動予定や目標を細かく設定することも大切です。しかし、業務の進め方や目標については、ある程度の柔軟性を持たせておく必要もあります。

あまりにも方向性を細かく固めてしまうと、従業員にとってはどうしても「やりたくないことをやらされている」と感じる部分が強くなり、自己決定感やモチベーションの低下を引き起こす可能性があるのです。そのため、指示や命令が必要な場面では、できるだけ大まかな内容にとどめておき、細かな判断は従業員本人に任せてみるのもよいでしょう。

そのうえで、実力や経験が不足しているメンバーに対しては、まず簡単な目標から設定してみるのも一つの方法です。自分の力で乗り越えられたという経験を重ねることで、達成感が自信につながり、内発的動機づけを強める効果が期待できます。

従業員それぞれの性質や能力によって、適した目標設定は異なります。そのため、日ごろから各メンバーの意見や様子を観察したり、目標設定のためのミーティングを設けたりするのもよいでしょう。

まとめ

アンダーマイニング効果は、金銭などの外的な報酬によって、本来持っていたはずの内発的な意欲が失われてしまう現象を指しています。好奇心や向上心といった内発的動機づけは、外的な環境に左右されない強いモチベーションを引き出す源泉となります。

一方、金銭などの外発的動機づけは外的要因に左右されやすい面があるため、アンダーマイニング効果が起これば、トータルではモチベーションの低下につながるのです。組織全体として高いパフォーマンスを発揮するためには、従業員にアンダーマイニング効果が発生しないように十分な注意を払うことが大切です。

人事評価システムや報酬制度について見直すときには、アンダーマイニング効果やエンハンシング効果にも目を向けて、最適な仕組みづくりを行いましょう。

(制作協力/株式会社アクロスソリューションズ、編集/d’s JOURNAL編集部)

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