SL理論とは?リーダーシップの4つのスタイルをわかりやすく解説

d’s JOURNAL編集部

リーダーシップの理論について、時代によってさまざまな変化がありました。どのような状況でも当てはまるリーダーシップというのは難しい部分がありますが、実務において比較的取り入れやすいものとして、SL理論(状況対応型リーダーシップ)というものがあります。

SL理論は、部下の状況に応じて異なるスタイルをとることに特徴があるため、状況に合わせて適切な対応をとりやすくなるでしょう。

この記事では、SL理論の基本的なポイントと、リーダーシップの4つのスタイルをわかりやすく解説します。

SL理論(状況対応型リーダーシップ)とは

SL理論を正しく用いるには、基本的なポイントを押さえておくことが重要です。SL理論の概要やどのような観点から状況を捉えればよいかを紹介します。

SL理論の概要

SL理論とは、「Situational Leadership」のことを指しており、状況に対応したリーダーシップを意味しています。1977年に行動科学者であるポール・ハーシーと組織心理学者のケネス・ブランチャードによって提唱された理論です。

SL理論が提唱される以前には、F・フィドラーが提唱したコンティンジェンシー理論というものがありましたが、すべての状況に適応できる唯一最善の普遍的なリーダーシップやスタイルは存在しないという考えが基本になっていました。

リーダーはその資質が重要というよりも、状況に応じて役割を柔軟に変えていく必要があるという考え方です。

SL理論はコンティンジェンシー理論をさらに深く掘り下げて、部下の成熟度という観点から発展させた理論だといえます。

SL理論における状況のとらえ方

SL理論は、部下の状況に合わせて活用するのがポイントです。SL理論が有効に働く組織は、「リーダーシップの型が決まっている」「部下の育成能力が低い」などの課題を抱えているケースが多い傾向にあります。

リーダーの役割が固定化されている組織においては、状況に応じてリーダーシップの型を変えるようにしたほうが望ましいため、SL理論が有効に働く可能性があります。SL理論は部下の能力や意欲によって、4つの成熟度に分類します。

各段階のポイントをまとめると、次のとおりです。

SL理論における4つの成熟度

成熟度のレベル 特徴
成熟度1(成熟度が低い) ・新入社員やその業務が未経験の従業員を指す

・何をすべきかわからずミスが怖いと感じている状況

成熟度2(成熟度が少し高くなっている) ・ある程度の業務を自身で行うことができる従業員を指す

・何をすべきかはわからないが積極的に学びたいと感じている状況

成熟度3(成熟度がさらに高くなっている) ・能力が高くなってきており、最低限の指示で業務ができる従業員を指す

・何をすべきかは理解しているがリーダーの指示なしですべてを1人でこなせるかは不安な状況

成熟度4(熟練している) ・高い成果を期待でき、その業務の専門家として責任が負える従業員を指す

・何をすべきかをよく理解し、楽しんで業務を遂行できる状況

これらの分類は、部下がどの程度の知識や経験、スキルを持っているか、業務に対してどれくらいモチベーションを抱いているかといった観点で分けられています。SL理論においては、この4つの状況に応じてリーダーシップを発揮していくことが求められます。

SL理論におけるリーダーの役割

SL理論では、リーダーの役割や行動の軸が定められています。どのような点を意識すべきかを解説します。

指示的行動と援助的行動

SL理論においてリーダーは、「指示的行動」と「援助的行動」の2つの軸で部下に接していくことが重要だとされています。2つの軸に沿ってバランスのとれた行動をとり、部下を導いていくことが大切です。

指示的行動とは、リーダーが部下に対して具体的な業務手順などの指示を与えることです。業務の仕組みを整え、監督していくための行動を指します。

一方で、援助的行動とは、リーダーが部下との間で信頼関係を構築するための行動を意味しています。部下の話に傾聴したり、成果を褒めたりする承認行為やコミュニケーションを指します。

業務に関する指示だけでなく、部下との信頼関係を深めていくこともリーダーの役割として求められる点です。

部下の状況把握

知識や経験、スキルというものは日々変化しているため、リーダーは部下の状況を適切に把握する姿勢が求められます。

成熟度が高まっている部下に対して、以前と同じようなアプローチをしていては、モチベーションの低下につながってしまうため注意が必要です。常日頃から部下の状況をよく把握し、成長段階に応じたアプローチを行っていくことが大切です。

ポジティブな組織文化の構築

よい成長を遂げている企業においては、自社の競争優位性の源泉が商品・サービスにあると捉えるよりも、人にあると捉えることが多い傾向にあります。

したがって、SL理論におけるリーダーの役割としては、部下が業務に取り組むうえで自分の仕事に価値を感じられるような企業文化を醸成していくことが欠かせません。

日頃から部下とのコミュニケーションを積極的に図り、自信やポジティブな感覚が生まれやすい組織づくりを進めていくことが大事です。

エンゲージメントと成果の追求

SL理論を基にしたリーダーシップの考え方においては、部下に対する評価として業務プロセスやエンゲージメント、その成果すべてについて注目する必要があります。

単に成果だけを求めるのではなく、どのような姿勢で業務に取り組んだのかも評価することで、部下のパフォーマンスを高めていくことができます。

部下の行動をよい方向に導くために、不満が起こりにくい評価を行っていくことが重要です。

SL理論における4つのリーダーシップスタイル

SL理論における4つの状況と2つの行動軸を組み合わせると、部下の状況に応じた4つのリーダーシップが必要になるといわれています。

ここでは、4つのリーダーシップとはどのようなものかを詳しく解説します。

教示型リーダーシップ

「教示型リーダーシップ」は、主に成熟度1の部下に対するリーダーシップです。指示的行動が多くなり、援助的行動はあまり必要としない点が特徴だといえます。

成熟度1の段階では、部下はリーダーに対して業務のプロセスを明らかにしてもらい、ゴールにたどり着くまでの道筋を具体的に指示してもらいたいと感じる状態です。

業務の目的などが深い部分で理解できていなくても、与えられた仕事をやり切ることでチームに貢献したいという意欲が高い段階であるため、具体的な指示を与えて成長のきっかけをつくれるように促しましょう。

教示型リーダーシップにおいては、部下の状況を細やかに把握し、その都度適切な指示を与えていくことが重要です。組織の目標達成につなげていくことで、部下が成長する流れをつくってみましょう。

説得型リーダーシップ

「説得型リーダーシップ」は、成熟度2の段階の部下に対するリーダーシップです。説得型リーダーシップにおいては、指示的行動と援助的行動の両方が求められます。

成熟度2の段階においては、業務に対する姿勢や目的を説明してほしいという気持ちが強くなります。成熟度1と異なり、業務に関して本人なりの工夫をするようになるためであり、その意欲や興味などを失わせないアプローチが重要です。

SL理論における4つのリーダーシップスタイルのなかでは、最も工数や時間を必要とする部分であるため、しっかりと部下に向き合っていくことが大切です。成熟度2の段階で部下を成長させることができれば、その後のアプローチは円滑になります。

参加型リーダーシップ

「参加型リーダーシップ」は、成熟度3の段階に達した部下向けのリーダーシップです。特徴としては、援助的行動の割合が多くなり、指示的行動はあまり必要とされない点が挙げられます。

成熟度3の段階において部下がリーダーに対して求めているものは、意思決定に関する責任を分かち合いたいというものです。成熟度3の部下は組織が抱える課題を自分の課題として認識するため、自ら積極的な取り組みを行ってくれるでしょう。

そのため、リーダーは部下の意見を柔軟に取り入れながらアプローチしていくことが大切です。部下が自分の考えで動けるように自立を促す段階であるため、モチベーションを低下させないように気をつけておきましょう。

委任型リーダーシップ

「委任型リーダーシップ」は成熟度4のレベルに達した部下向けのリーダーシップスタイルです。指示的行動と援助的行動の両方があまり必要とされない点に特徴があります。

成熟度4の段階では、部下は業務に関して熟練しているため、自立的に仕事を進めてくれます。そのため、リーダーに対して求めるものは、仕事の過程を見守ってほしいという部分になるでしょう。

意思決定や課題解決に対する責任を部下に任せられるため、できる限り伸び伸びと仕事に取り組める環境を整えてあげることが重要です。ただし、部下に業務を任せているからといって、任せっぱなしになるとモチベーションの低下につながります。

適切なコミュニケーションを行うなど、部下のことをきちんと見守っているというアプローチをとるようにしましょう。

SL理論のメリットと注意点

SL理論を活用することで、リーダーシップをどのように発揮すればよいかという課題が解消するとともに、「部下の能力が向上する」「人材の定着率が高まる」といったメリットを得られます。

しかし、「公平な運用が難しい」「リーダーの負荷が大きくなる」といった注意点も生じるので気をつけておきましょう。それぞれのポイントを解説します。

SL理論を活用するメリット

SL理論を活用することで部下の能力を高められます。成熟度に応じた指示や援助をきちんと行うことによって、部下が業務で行き詰まるのを防げるため、成長のきっかけを与えていけるでしょう。

チームの目標に対する認識や課題にぶつかっても、それを解決するだけの力を身につけさせていけます。部下が成長するほど自立的な動きを見せてくれるため、マネジメントを円滑に行えるようになります。

また、部下は企業における自分の役割や業務の目的を正しく理解して働けるため、長く働き続けたいと考えるようになるはずです。従業員エンゲージメントを高めることにつながり、結果として人材の定着率が向上につながります。

育成した人材が長く働いてくれることは、企業にとって望ましい状況だといえます。

SL理論の注意点

SL理論を活用するときは、部下の間で不公平感が生じないように気をつける必要があります。SL理論においては部下の成長段階に応じてリーダーシップのスタイルを変えていく必要がありますが、部下の立場から見ると他の同僚と異なる扱いを受けていると感じる部分もあるでしょう。

たとえば成熟度4の部下は自立的に活動するのでリーダーは見守るだけで済みますが、成熟度2の部下とは多くの時間を接する必要があります。いくら成熟度4のレベルに達しているかといっても放置してしまえば、部下の不満は溜まりやすくなりがちです。

部下の間で不公平感が生じないように、日頃から一人ひとりの部下とのコミュニケーションをとることが大切です。しかし、他の注意点としてはSL理論を用いることでリーダーの負担が増大するという点が挙げられます。

SL理論はあくまでそれなりにリーダー経験がある方向けにつくられている経緯があるため、運用に慣れないうちはリーダーの業務量が膨大になりがちです。そのため、最初から完璧な運用を目指すのではなく、段階的にブラッシュアップしていくような姿勢で取り組んでみましょう。

部下の状況を適切に把握する方法

SL理論では、部下の状況を適切に把握することが効果的な活用の第一歩となります。具体的なアプローチとして、どのようなものがあるかを解説します。

定期的な1on1

部下とのコミュニケーションや業務に対する理解度を把握するうえで役立つのが1on1です。1on1では部下の話を聞くことに軸を置き、フィードバックやサポートを行っていきます。

落ち着いた雰囲気で話をすることで、業務を行っているなかでは把握できなかった部分に気づきを得られるでしょう。部下が抱える悩みや業務に対する認識などをリーダーが知ることによって、今後のアプローチを検討しやすくなります。

1on1は一度行って終わりというものではなく、定期的に行うことが重要です。部下の立場からしても、リーダーと定期的なコミュニケーションがとれる機会が設けられることは安心感につながります。

組織サーベイの活用

部下と適切な接し方をしていくには、組織サーベイを活用していくことも大事です。組織サーベイとは、組織の状態を測定するためのツールであり、部下の状況を把握するための調査なども含みます。

業務に対するモチベーションやエンゲージメントなどを把握するために役立つものであり、アンケート調査の形式をとるのが一般的です。業務の負担や意欲などに関する質問事項をあらかじめ設定しておくことで、個々の部下が何に対して悩んでいるのかを把握できます。

定期的に実施すれば、過去のデータと比較できるため、どのようなアプローチが必要であるかを判断しやすくなります。

まとめ

SL理論を用いることで、部下の状況に応じてリーダーシップスタイルを変えられます。成熟度に合わせた適切なアプローチを行うことで、部下のモチベーションを高めたり、成長を促したりすることができます。

ただし、SL理論はリーダーの経験をある程度持っている方向けの方法であるため、初めて取り組むときは負担を感じる部分もあるはずです。一度にすべてを実現させようとするのではなく、部下の状況に応じて少しずつ身につけていけば問題ありません。

定期的な1on1や組織サーベイなどを活用して、部下が成長しやすい組織づくりを目指してみましょう。

(制作協力/株式会社アクロスソリューションズ、編集/d’s JOURNAL編集部)

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