カウンターオファーとは?実施する上でのポイントと注意点

d’s JOURNAL編集部

充実した組織体制を構築するには、採用活動に力を入れるとともに、既存の組織運営にも目を向ける必要があります。特に、組織力を落とさないためには、従業員の退職が発生しないような配慮や取り組みが大切です。

交渉によって退職希望者を引き留める「カウンターオファー」は、優秀な人材に残留してもらい、組織力を維持するための重要な施策です。今回はカウンターオファーの重要性や具体的な方法、意識すべきポイントなどを解説します。

カウンターオファーとは


人事領域における「カウンターオファー」とは、退職を申し出た従業員を引き留めるための交渉や提案を指します。ここでは、カウンターオファーの基本的な意味や重要性について見ていきましょう。

カウンターオファーの概要

カウンターオファーは、もともとは貿易や不動産取引などで用いられていた言葉です。一般的には売買契約において、売り手側が提示した条件に買い手側が納得できない場合に、価格などの条件を修正して購入を申し込むことを指します。

売り手からのオファー(取引条件の提示)に対して、買い手も改めてオファーをすることから、「カウンターオファー」という名称がつけられました。人事領域では、こうした意味から転じて、従業員が退職を申し出たときに上司から行われる引き留め交渉を指す言葉として使われるようになっています。

企業側から昇給や希望する部署への異動などを提示することで、退職の意思を取り消し、組織に残留してもらえるようにするのがカウンターオファーです。

カウンターオファーが行われる背景

人事の分野でカウンターオファーが用いられるのは、主に従業員の退職によるダメージが大きいと判断される場合です。現在の採用環境では、労働人口の減少による売り手市場化が長く続いており、新たに人材を獲得するハードルは高くなっています。

こうした環境下では、抜けた穴を埋めるようとして新たな人材を求めても、なかなか思うような採用が行えません。また、新規採用のコストや自社の業務が担えるまでの教育コストなどを考えると、金銭的にも大きな損失となってしまいます。

そこで、退職者と同等以上のスキルを有する人材を採用したり育成したりするよりも、昇給して引き留めたほうがコストを抑制できるといった考え方から、カウンターオファーが用いられるケースが多いです。特に専門性の高い業種や一定以上のスキル・経験が求められるポジションの人材に対しては、カウンターオファーを行う重要性がより高くなるといえるでしょう。

カウンターオファーの具体的な交渉方法


カウンターオファーには、状況に応じてさまざまなアプローチ方法が考えられます。ここでは、具体的な交渉方法を4つに分けて見ていきましょう。

年収をアップさせる

カウンターオファーの代表的な方法としてあげられるのが給与のアップです。従業員が年収に関して不満を抱いている様子であれば、労働環境は維持したまま、収入を向上させるのが効果的です。

特に優秀な人材は自身の貢献度と評価のバランスに敏感な傾向があり、金額によっては自身の働きぶりが認められていないと感じてしまうケースが少なくありません。そのため、まずは給与の上昇によって、企業がきちんと評価していることを伝えるのが有効です。

また、同業他社からの引き抜きにより退職を考えている場合は、仕事の内容よりも給与や待遇といった点に魅力を感じている可能性が高いといえます。カウンターオファーによって同等以上の水準を提示できれば、問題が解消されるケースもあるでしょう。

ただし、昇給の提案を行う際には、他の従業員とのバランスや本人のパフォーマンスを十分に加味することが大切です。組織に大きな影響が及ばない範囲で収まるよう、慎重に考慮をする必要があります。

昇進によって仕事の権限を与える

退職に至った原因によっては、昇進などによって職務権限を拡大することが解決につながる場合もあります。特に優秀な人材の退職は、「ルーティンワークばかりで自身の成長が見込めない」「退屈を感じてしまった」といった点が原因になることも多いです。

このように、成長意欲や自己管理能力の高い従業員、リーダーシップに長けた従業員には、昇進によって業務の幅を広げることで再びモチベーションを引き出せる可能性があります。また、結果志向の従業員にとっては、自身の努力や働きがきちんと評価されていると感じてもらいやすい面もあるでしょう。

ただし、昇進の提案をする場合には、当然ながら本人の力量や周囲との信頼関係が重要なポイントとなります。場当たり的な提案を避けるためにも、日ごろから各従業員の関係性やポテンシャルにはしっかりと目を向けることが大切です。

雇用形態を変更する

退職希望者が契約社員やパートといった非正規雇用の場合は、カウンターオファーとして雇用形態を正社員に変更することも検討してみましょう。正社員になれば経済的な安定性が高まり、将来の見通しも立てやすくなるため、自社への帰属意識を高めてもらえる可能性があります。

また、出産・育児や介護などがキーポイントになっている場合は、リモートワークやフレックスタイム制の導入といった柔軟な働き方を提案してみるのも有効な方法です。まずは従業員が退職を考えた原因をしっかりとヒアリングし、最適なアプローチを検討しましょう。

そのうえで、雇用形態の変更を行う場合は、当初の契約内容や労働関連法にも注意を払う必要があります。

部署を異動させる

「現在所属しているチームの人間関係に不満がある」「保有しているスキルと任されている業務がマッチしない」といった場合には、部署異動のカウンターオファーが効果的なケースもあります。退職理由をヒアリングするなかで、現在の部署の人間関係や働き方に不満を持っている場合は、可能な範囲で対応を検討してみるとよいでしょう。

ただし、人間関係に対する不満は、よほどの信頼関係がなければ打ち明けてもらえることはありません。退職にあたって跡を濁したくないと考えている場合は、明確な理由を示してもらえないケースも多いでしょう。

ヒアリングによって明確な退職理由がつかめない場合は、企業側から部署異動を提案してみて、問題の解決につながるかどうかを本人に確かめてみるのも一つの方法です。

カウンターオファーを成功させるポイント


従業員から退職の申し出があった以上、カウンターオファーは後手の手段であるため、必ずしも成功するとは限りません。ここでは、成功の確率を高めるためのポイントをご紹介します。

転職や退職の理由を丁寧に聞く

カウンターオファーにはさまざまなパターンがあり、相手に合わせたものを選ばなければ効果は期待できません。そのためには、丁寧なヒアリングによって、転職や退職を考える理由について的確に把握する必要があります。

転職・退職を考える原因としては、評価に対する不満、給与や待遇に関する不満、不十分な福利厚生、ワークライフバランス、人間関係の悩み、将来性やキャリアに対する不満といったさまざまなものがあげられます。カウンターオファーを実施する場合は、先入観にとらわれて判断すると、かえって相手を失望させてしまうリスクもあるので注意が必要です。

たとえば、人間関係に関する悩みを感じている従業員に対して、対案として給与アップを提示したところで、あまり期待するような効果は得られません。まずは、どのような点がネックになっているのかを正しくつかむことが重要です。

交渉した内容をきちんと書面で残しておく

カウンターオファーは、あくまでも従業員のアクションを受けて行うものであるため、いつでも万全な準備が行えているとは限りません。万が一の行き違いを防ぐためにも、交渉内容についてはきちんと書面で残しておくと安心です。

記載事項としては、組織名、住所、連絡先事項、日付、従業員氏名、役職、所属部署などの基本項目とともに、給与や手当、福利厚生、昇進・役職の変更といった提案内容も残しておく必要があります。また、その場で返答が得られない場合に備えて、カウンターオファーへの回答期限を設け、あわせて記載するようにしましょう。

カウンターオファーの内容を広めない

重要な前提として、カウンターオファーの内容は公言しないことを明確にする必要があります。なぜならカウンターオファーの実情が組織全体に広がってしまえば、ほかの従業員にも大きな影響を及ぼす可能性があるためです。

また、一度は退職を考えたということが周りの従業員に知られれば、退職を申し出た本人もいづらくなってしまうでしょう。すんなりと自社の組織に残ってもらうためにも、カウンターオファーの有無や内容は口外しないと決めておくことが大切です。

引き留める従業員に対しても、口外禁止を守ってもらうために機密保持契約を結んだり、社内ルールに明記したりしておくなどの策を講じておきましょう。

フォローを続けることが大事

カウンターオファーで提示した内容については、しっかりと実行に移す必要があります。そのうえで、退職を検討した従業員に対しては、その後も定期的なヒアリングで社員の懸念や要望に向き合うことが大切です。

特に人間関係の悩みやキャリアに対する不満などは、ある程度の長期的な時間が経過しなければ、解消できているかどうかを判断することはできません。再びモチベーションが低下しないように、丁寧にフォローを行うことが重要です。

また、組織として研修や育成などの機会を設け、定期的なキャリア支援をするのも効果的です。

カウンターオファーにおける注意点

カウンターオファーを実行するときには、焦らず冷静に向き合うことが大切です。まずは、以下の基本的な項目に注意し、言動がハラスメントにあたらないように細心の注意を払う必要があります。

・脅迫や威嚇に準じる言動
・対象者の評判や名誉の毀損
・正当な理由なくチームから外すなどして対象者を孤立させる
・人種や性別、宗教などによる差別的な言動
・意図的に仕事の量を増やす、ムリな要求をする

また、「後任が見つかるまで辞めさせられない」「責任感がない」といった不用意な発言も、かえって従業員との溝を深める原因となるので避けましょう。カウンターオファーはあくまでも自社にとって重要な人材の流出を食い止めるための行為であるため、個人的な感情をぶつけたり、勢いあまって発言したりするのは控えることが重要です。

退職を防止するための職場づくりのコツ

繰り返しにはなりますが、カウンターオファーは退職の申し出に対する後手の施策であり、そうした意味ではあくまでも対症療法にすぎません。基本的な社内環境に問題があれば、1人を引き留めることに成功しても、再び退職を考える従業員が出てくるでしょう。

安定した組織体制を維持するためには、職場環境をきちんと見直し、避けられる退職を防止することが重要です。具体的な取り組みとしては、従業員全員の労働環境や待遇の改善があげられます。

給与や基本的な待遇を見直すとともに、フレックスタイム制や短時間勤務制度、リモートワークの導入などの可能性も模索し、多様な働き方を実現できるような環境づくりに力を入れましょう。そのためには、社内コミュニケーションの活性化を図り、従業員の意見を自然な形で吸い上げられるようにすることが大切です。

また、スキルアップやキャリア形成の支援体制を整え、キャリアアップへの意欲が高い優秀な人材を逃さないための仕組みづくりを実現するのも有効です。なお、離職を引き起こす代表的な要因については、以下の記事でも詳しく紹介されているので参考にしてみてください。

(参考:『離職の主な原因8種類をまとめて紹介!企業が取るべき対策もあわせて解説』

まとめ

カウンターオファーは、従業員から退職の相談があったときに、引き留めるための対案を持ちかけて交渉する行為を指します。企業にとっては、優秀な人材や替えの利かない存在を引き留め、組織力を低下させないための重要な取り組みとなります。

カウンターオファーにはさまざまな方法がありますが、成功させるには相手の本心を丁寧にヒアリングし、適切な方法でアプローチすることが大切です。そのためには、日ごろから社内のコミュニケーションを活性化させ、従業員の意見をくみ取れる信頼関係を構築する必要があります。

退職のリスクそのものを低下させるためにも、コミュニケーションの充実と社内環境の改善を丁寧に図りましょう。

(制作協力/株式会社アクロスソリューションズ、編集/d’s JOURNAL編集部)