中堅・中小企業こそ参考にしたい、0円からはじめられる施策も!意向醸成に効果的な選考フローの改善ポイント
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応募があったからといって、自社に入社を希望しているとは限らないことを背景含めて理解する
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応募者に定型文で応対してはダメ、一人一人の状況に合わせた施策を実施すべきである
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自社のファンになってもらうためには選考プロセスごとの顧客体験が大事。入社意向を醸成することを意識する
人手不足が声高に叫ばれています。日本商工会議所ならびに東京商工会議所の調査によると、特に中小企業においては「人手不足」が68.0%(※1)と7割近くに上り、2015年の調査開始以来最大となりました。実際に人手不足への対策として、「正社員の採用活動強化」が68.5%と最多の数字となっており、人材獲得に向けて多くの企業が自社サイトに募集を出したり、転職サイトに求人広告を出したりしています。
長らく中堅・中小企業の新卒・中途採用に関わってきたWOKE株式会社・北原氏は「今の中堅・中小企業が行っている採用活動、選考フローは改善すべきです。なぜなら大前提が間違っているからです」と現在の状況に対して警鐘を鳴らしています。
さらに「面接に来てもらい、最適な人材を採用するためには、対象となる人材に自社のファンになってもらう必要があります。その方法は0円からできるものもあります」と説きます。北原氏に、その意図と中途採用における選考フローの改善施策を聞きました。
選考スピードアップや細やかな連絡だけでは採用は上手くいかない。応募者への連絡は定型文NG
——中堅・中小企業が採用を成功させるためには、どのような姿勢や考え方で取り組めばいいのでしょうか。
北原氏:まず理解しておきたいのは、今は圧倒的に転職活動をしている人が優位な状況にあるということです。転職に成功した方の平均応募社数は20社以上というデータ(※2)が出ています。自社に応募があっても、その裏には競合企業が20社ぐらいひしめき合っていて、採用候補者を獲得できる確率は約5%というわけです。
そのため、「応募してきた人は入社の意向がある」という考え方は、ほぼ通用しないでしょう。最初は、複数の選択肢の中から何となく応募しているケースも少なくないのです。「応募はしているけれどすべり止めぐらいに考えているかもしれない」という前提で自社の採用活動や選考フローを構築していく必要があります。
※2 出典:転職成功者の平均応募者数(doda)・・・2022年1月~12月の1年間にdodaエージェントサービスを利用して内定を得た人のデータを基に算出
——企業側も、応募者のことを大切に考えて選考フローの対策を講じているはずですよね。
北原氏:もちろん各企業も応募者への配慮が必要だと考え、応募後の面接辞退を避けるような対策を打っています。しかし企業側の対策の内容を見ると、「書類選考後の連絡を早くする」、「面接日程を複数用意、選択しやすくする」(※3)などが上位に挙がっています。これらの対応は、よい印象を与えることはできますが、20社の競合企業がある中で入社したい企業として選んでもらうには十分ではありません。
また、ほとんどの企業が転職希望者にスカウトメールを送るときは、転職希望者に合わせて内容をカスタマイズしていますが、応募いただいた後に送る御礼メールや面接日程調整メールなどは、他の企業と変わらない定型文を使っているケースがほとんどです。最初の声かけは丁寧なのに、返事があったらその後はどの人にも同じような定型文を送るというのではもったいないですよね。
「何となく応募をしただけ」という興味や関心が低い状態かもしれないのに、多くの企業が「自社に来てほしい」というアプローチをしていないというのが現状です。
そこで参考にしたいのがビジネスマーケティングで使われる、顧客を育成し購入につなげる「ナーチャリング」という考え方です。応募以降の選考プロセスを通じて、自社の魅力を一人一人の状況に合わせて訴求し、自社のファンになってもらう。私は、この応募者をファン化させるナーチャリングのことを「応募者ナーチャリング」、選考のことを「志望動機構築型選考」と呼んでいます。
※3 出典:エン・ジャパン株式会社 1800社に聞く!「選考辞退」実態調査 ―『engage』アンケート―
応募者をファンにする「ナーチャリング」とは?
——応募者の志望動機を育み自社のファンにするには、具体的にどうすればよいのでしょう。
北原氏:今の選考フローの多くは、転職希望者から応募を獲得することに注力する傾向があり、応募直後の対応が手薄です。応募があったということは、採用決定や入社というゴールに一歩近づいたわけで、その返信が他の企業でも使っている同じ内容の定型文ではよくありません。選考フェーズに合わせて、対応を変えていくべきです。こうした考え方がナーチャリングです。
「実は……会社や仕事のことをよく知らない」「実は……本命のすべり止め」、こうした応募者に対して、会社や仕事に関する情報を積極的に提供することが大切です。
——ナーチャリングの具体的な施策に対して、何かアドバイスはありますか。
北原氏:応募者に自社のことを理解してもらう目的なら、今は動画の活用が有効だと思います。最近の大学生の60%弱は1カ月の読書時間がゼロ。それでも動画の試聴時間は2時間ぐらいあるそうです。「デジタルネイティブ」「Z世代」などと呼ばれている世代の場合、動画なら興味が薄くても見てくれる可能性が高いです。
応募の返信に、御礼メールや面接日程調整メールなどの定型フォーマットをそのまま使うのはおすすめできません。自社のオリジナルのフォーマットで返信するようにしましょう。
個人的には、御礼メールに動画のリンクを入れることをおすすめしています。90秒ぐらいの自社紹介動画をつくり、メールで応募者に「よかったら見ておいてください」と声をかけるのです。こうした施策があって、はじめて応募者は応募した会社の事業内容を理解します。応募者が自社に興味をもってもらうために、動画で工夫するのを提案したいですね。
ポイントは情報の伝え方です。たくさんの情報を伝えることが目的ではありません。「当日は当社のことや仕事について説明しますので、不明点があったら何でも聞いてくださいね」と面接官の自己紹介と合わせてメールをお送りするだけでも親近感はかなり高まります。
採用に力を入れている企業では、面接の前日などに当日の詳細を改めてリマインドするメールを送信していますが、そのメールに「明日の面接でお会いすることを楽しみにしています」などと簡単なメッセージを添えた動画のリンクを送るだけでも面接の参加率は改善されます。
動画の送付が難しい場合でも、配属予定部署の上司(面接官)からのメッセージとして会社や仕事の内容を簡単にまとめ、面接の日程調整メールに添えるのも、すぐできる工夫の一つです。
VXで効果が上がる選考フローを
——動画がよいことはわかりますが、動画作成の経験が浅い場合はどうすればいいでしょう。また、それで他社との差別化につながるでしょうか。
北原氏:スマートフォンで動画を撮影して応募者へ送るだけです。場合によってはメールを書くより楽な場合もあります。私はこうしたビジュアルを使った訴求をVX(ビデオ・トランスフォーメーション)と称して、みなさんに推奨しています。VX施策のポイントは、最初は短く、応募者に会社や仕事内容を伝える、選考プロセスの中盤になってきたら少し長めの動画を入れるなど、応募者の関心度に合わせて徐々に尺を長くすることです。
※PR動画、ピッチ動画、オフィス紹介動画、1日密着動画、インタビュー動画、研修動画は企画・撮影・編集の技術が求められるので、プロに任せるべき。一方で、短尺縦動画、面接官自己紹介動画、面接FB動画は自社での制作が可能です。
応募者への最初の返信に、会社への道案内をする動画を作成したことがあります。大阪の企業で、最寄り駅がターミナル駅ということもあり、出口がたくさんあってわかりづらい。そこで会社への道案内をする動画を、改札を出たところから道順一つ一つ丁寧に撮影した動画を返信に使いました。
応募者は「思っていた以上に丁寧な会社だな……」といった印象を受けると思います。動画によって今まで面接参加率50%以下だったのが、毎回70%超えになったケースもあります。
——確かに面接への出席率は上がりそうです。他にも活用は可能でしょうか。
北原氏:入社してほしい人に面接フィードバックを動画として送る方法があります。一例ですが、動画には「先日、面接担当した北原でございます、○○さん、面接が非常によかったです。私としては、○○さんの△△なところをとても評価しました。ぜひ一緒に働きたいと思っています。ですから次回の最終面接に来ていただきたいと考えています」といったコメントをいれます。本当に来てほしいという応募者にフィードバック動画を送ると、入社への可能性がかなり高まります。選考の前に上記の内容で動画を送信した結果、
これらはすべて、ナーチャリングをベースに考えられています。自社を知らないという前提に立って、自社のファンになっていただくために、ちょっとした手間や工数をかけるのです。スマートフォンでつくれる動画であれば基本的にお金はかかりませんし、人事・採用担当者が「やろう」と思えば予算0円ですぐに実行に移せます。
中堅・中小企業の採用活動を見ると、こうした新しいアプローチは残念ながら遅れています。だからこそナーチャリングを意識したアプローチを今すぐ始めれば、他社と圧倒的な差別化を図れます。
企業への興味を喚起する「入社意向の醸成」
——道案内や面接官の動画が、面接の参加率向上に効果があることはわかりました。もう一歩、自社への興味を喚起する方法はありますか。
北原氏:応募者には企業に入りたいという「意向」を持ってもらう必要があります。中堅・中小企業の場合は、その意向を選考フローの中で育成、醸成しなければいけません。ここでも動画は効果的です。以前、とあるリフォーム会社の入社意向醸成のために日本の長寿をテーマに動画をつくりました。
※「日本は長寿の国ですが家が短命なため、政府はリフォームを支援しています。当社は国も後押ししている産業で急成長を遂げているベンチャー企業です。詳しくは面接で」というストーリー。
90秒の動画ですが、初めて視聴してもわかる内容になっています。ポイントは、いきなり「当社はリフォーム会社です」とは言わないことです。入り口は易しく、みんなが知っている長寿の話から始めて、人の命から家の命に話を移し、国の施策を加えて、初めて「国の施策にマッチした会社です」と自社の紹介をします。
転職希望者との最初の接触では、全部説明しないこともポイントです。実際、将来性があるリフォーム会社ですという部分で動画は終わり「詳しくは面接で」としています。意向を醸成するといっても、動画では「面接に行ってみよう、説明会を聞いてみよう」と思ってもらうところで終了するのがよいでしょう。入社意向はフローのステップごとに醸成するのが効果的です。実際の話は、次のリアルな面接の場で行えばよいのです。
動画での意向醸成は、書店で平積みになっている書籍と同じです。書店に行って、棚に置いてある本は背表紙しか見えませんが、平積みされていると、表紙だけでなく帯も見えますね。帯には「○○先生、大推薦!」「10万部突破!」など、書籍の中身ではなく、面白そう、読みたいと思えることが書いてあります。書籍の背表紙のみを定型フォーマットのメールにたとえると、平積みで帯を見せるのは動画によるアピールです。このことを念頭に置き、応募者の入社意向を醸成するとよいと思います。
選考フローを設計する上では、応募者は応募先の企業のことは知らない、知らない中で応募者の意向を徐々に高めていくことが大事です。
——一次選考以降の情報提供について気を付けるべき点や、取り組むべきこととしてはどんなことがありますか?
北原氏:複数の選考が同時に進んでいる場合、自社の面接で伝えた会社や仕事の情報が他社の情報に上書きされてしまったり、伝えた情報を応募者が忘れて印象が薄くなってしまったりすることがあります。
そこで、面接で伝えた会社や仕事の情報を振り返ることができるように「採用ピッチ」として資料にまとめて面接直後に送付したり、一緒に働く仲間のインタビュー動画を撮影し、いつでも見返せるようにしたりといった対策を推奨しています。
面接の振り返りや組織風土の理解が進むことによって、働くことがよりリアルに感じられ、志望度が高まり、入社への意欲が高まることにもつながっています。一方で、応募者の気持ちがまだ高まっていない段階でインタビュー動画などを送っても温度差が大きく、逆効果となることがあります。
応募者の心情を正しく理解し、適切なコミュニケーションを選ぶことがナーチャリングには欠かせません。
まとめ
中堅・中小企業の採用活動は、「応募が来たからといって、その方はまだ入社したいと思っていない。自社のことを正しく理解しているわけではない」という前提に立つことがとても大切です。
応募の連絡をいただき、書類通過合格の通知をしてからが勝負です。自社の事業や仕事についての説明をすることはもちろん、面接においても疑問点が残っていないかどうか、一人一人の心情に寄り添って選考を進めていくことが重要です。
選考のスピードが早いことは大切な要素ですが、相手の状況を踏まえずに進めてしまうのは逆効果です。会社説明や面接日程の調整、評価フィードバックや組織風土の理解促進など、スマートフォンで撮影した短い動画の活用からまずはスタートしてもよいかもしれません。
企画・編集/白水衛 (d’s JOURNAL編集部)、南野義哉(プレスラボ)、取材・文/森 英信(アンジー)
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