通年採用は2022年卒より本格化?経団連の動きと企業がとるべき対応とは?

d’s JOURNAL編集部

年間を通して採用活動を行う「通年採用」を実施する企業が、近年増加しています。その背景には、企業における人材不足や経団連による「就活ルール」廃止などの影響があるとされています。新卒採用における通年採用への移行が今後進んでいくと考えられている中、「今後の採用活動はどのように変化していくのか」「どのような手順で、新卒採用を進めればよいのか」などを、人事担当として把握しておく必要があります。この記事では、通年採用のメリットとデメリットや新卒一括採用との違い、導入する際の方法などを、すでに通年採用を行っている企業の事例とともに紹介します。

通年採用とは

通年採用とは、期間を限定せず年間を通じて採用活動を行う取り組みのことです。英語では「year-round recruitment」と言います。新卒だけでなく、留学生や海外大学生など多様な人材を対象にアプローチができ、採用スケジュールを企業が自由に決められるのが特徴です。欧米では一般的な採用手法ではありますが、日本では採用活動が学業の妨げにならないよう制限が設けられていたため、新卒に関しては「通年採用」ではなく「一括採用」を行う企業が多数を占めていました。ところが近年、日本においても企業や学生を取り巻く環境が大きく変わってきており、中途採用同様に新卒も一括採用から通年採用へ移行する流れが生まれてきています。通年採用が注目されている背景については、後ほど詳しく紹介します。

通年採用と新卒一括採用の違い

「通年採用」とセットで語られることが多い「新卒一括採用」。新卒一括採用とは、卒業予定の学生を対象に、期間を限定して行う採用活動のこと。年度ごとに一括して求人し、在学中に採用試験を行い、内定を出し、卒業後すぐに勤務してもらうといった流れで進めます。「終身雇用」や「年功序列」と並び、日本独特の雇用慣行と言われています。通年採用と新卒一括採用の違いを表にまとめました。

●通年採用と新卒一括採用の違い

通年採用 新卒一括採用
採用活動期間

1年を通じて採用

毎年3~10月の8カ月程度

対象

●新卒者
●留学生、海外大学出身者
●第二新卒、中途などの既卒者
●企業によっては大学生も対象

●新卒者(企業によっては留学生も対象)

特徴

●採用スケジュールを企業が決められる
●内定辞退の場合でも補完がしやすい

●採用スケジュールがルールによって決められている
●内定辞退の場合補完しにくい

このように通年採用と新卒一括採用は、「採用活動期間」や「採用対象者」などが大きく異なるため、通年採用を行う際には採用計画の見直しをする必要があるとされています。なお、通年採用の導入方法や企業がすべき対応などについては、後ほど紹介します。

「就活ルール」をめぐるこれまでの動き

通年採用が始まった理由を知るには、新卒採用をめぐる動きを理解する必要があります。新卒採用では、就職活動が学業の妨げにならないよう、企業と国、大学の間で「就活ルール」が設けられてきました。就活ルールに基づき、各企業は選考活動開始時期や内定時期など採用スケジュールの足並みをそろえてきました。戦後の人材不足を背景に生まれた「就活ルール」は、時代の流れとともに変化を繰り返しています。就活ルールの変遷について、年表にまとめました。

●「就活ルール」の変遷

1952年以前 大企業を中心に、大学卒業後入社試験を行うことを決定。就職協定の起源となる
1953年~ 大学・企業・関係省庁などで構成された「就職問題懇談会」により「就職協定」を制定。卒業年度の10月を選考開始
1973年~ 「青田買い」と言われる選考時期の前倒しが横行。それを抑制するため日経連(日本経済団体連合会、2002年5月に経団連と統合)と文部省・労働省との間で、「青田買い」の自粛基準を制定。会社訪問開始5月1日、選考開始7月1日
1997年~ 日経連が「就職協定」を廃止。大学と企業間で「倫理憲章」が定められる。具体的スケジュールは、「正式内定日は卒業年度の10月以降とする」のみで、「大学等の学事日程を尊重する」「採用選考活動の早期開始は自粛する」などの抽象的な記載にとどまった
2002年~ 倫理憲章に、「卒業・ 修了学年に達しない学生に対して、選考活動を行うことは厳に慎む」の一文が追加。さらに「倫理憲章の趣旨実現をめざす共同宣言」の発表により、多くの企業が卒業年度の4月から選考活動を開始
2011年~ 倫理憲章が改定。2013年卒以降の採用選考が「広報活動開始12月1日、選考活動開始4月1日」 に
2013年~ 政府の要請により、2016年度卒から「広報活動開始を3月1日、 選考活動開始を8月1日」に
2015年~ 大学3年次の3月に広報解禁、卒業年度の6月に選考解禁、10月に内定解禁」に変更
2018年~ 9月に経団連の中西会長が、「新卒一括採用」への問題意識を表明。経団連による「採用選考に関する指針」の廃止に関する考えを示唆。10月、「2020年度卒以降に入社する学生を対象とする採用選考に関する指針を策定しないこと」を正式に決定。21年春入社以降のスケジュールは、政府主導で議論されることに

政府は2022年卒まで、現行のルールを維持するとの方針を定めています。一方で、採用市場全体はインターンシップの前倒しなど「早期化」が進んでいる傾向にあります。ルールと実態で生じる「ずれ」について、今後さらなる議論が必要となるでしょう。

新卒採用における通年採用の実施状況

経団連による「採用選考に関する指針」の廃止により、2021年以降は新卒の通年採用導入が加速するとの予想もありましたが、実際どの程度の企業が通年採用を実施・移行したのでしょうか。

HR総研が行った『2019年&2020年新卒採用動向調査』の結果報告によると、「通年採用への移行予定」について、「すでに通年採用を実施している」企業は15%でした。「2021年卒採用から通年採用を実施予定」とした企業はわずか4%にとどまっています。また「いずれ通年採用を実施すると思う」が39%、次いで「通年採用に移行することはないと思う」は36%と、企業によって、通年採用を行うかどうかの判断に差があることもわかりました。

新卒採用における通年採用の実施状況

(出典:HR総研「2019年&2020年新卒採用動向調査」結果報告vol.2

この結果から、新卒採用をすぐに通年採用へ移行しようと考えている企業は少なく、中長期的な視点で移行を考えている企業が多いと推測できます。また、「いずれ実施する」と返答した企業の間でも、「数年の間での移行」をイメージしている企業もあれば、「10年から20年」をイメージしている企業もあるようです。そのため、この先新卒者の採用活動が一気に様変わりするといった大きな変化は当面の間は起こりにくいでしょう。

通年採用が今、注目されている背景

日本で今、通年採用が注目されている背景には2つの理由があるとされています。まず1つは「人材確保の激化」です。少子高齢化による労働人口の減少に伴い、人材を十分に獲得できない企業が増えています。そのため、新卒一括採用だけでは人材を十分に確保できず、第二新卒や中途など、既卒者にもターゲットを広げる必要が出てきているようです。

もう1つの理由は、「企業のグローバル化」です。企業が事業を発展させるためには、グローバル人材や高度な専門知識を持つ人材の確保が欠かせません。日本の大学と海外の大学とでは卒業時期が違うため、新卒一括採用では海外留学生や海外大学出身者は採用しにくい状況にありました。多様な人材の獲得には、通年採用の実施が避けられないと言えるでしょう。

このような中、経団連による「採用選考に関する指針」の廃止が発表されたことも、通年採用への注目が高まるきっかけとなりました。就活ルールが完全に撤廃されれば今後は企業ごとに採用方針を定めていくことになるため、通年採用の導入を検討する動きも活発になっていくでしょう。

新卒の通年採用はいつから?通年採用をめぐる経団連の動き

経団連による指針の廃止が発表されたことにより、2020年卒までは経団連指針で採用活動をし、2021年卒からは政府主導で進めることになりました。政府は2022年卒まで、従来通り「広報活動を大学3年次の3月から、面接開始を大学4年次の6月から」とするとしています。政府主導のルールは「企業への要請」であるため拘束力はありません。そのため、「一括採用から通年採用へ移行するのか」「いつから通年採用に移行するのか」などは、各企業の裁量に任されることになるでしょう。通年採用をめぐる経団連や政府の動きを表にまとめました。

新卒の通年採用はいつから?通年採用をめぐる経団連の動き

経団連による「採用選考に関する指針」は、「学生が勉学に集中できる期間を長く確保するために、就活時期を繰り下げるよう」政府からの要請を受けて発表したものです。そのため経団連の指針廃止後、大学側からは「大きな混乱が生じることを強く危惧する」といった声明文が発表されました。
それを受け、経団連と大学の代表による「採用と大学教育の未来に関する産学協議会」は2019年4月、従来の春季一括採用に加えて、学生個人の意志に応じた複線的で多様な採用形態に移行すべきであるといった内容の提言をまとめました。具体的には、ITなどの専門技術を持つ人材を通年採用する「ジョブ型雇用」の導入などが含まれます。今後は「通年採用」か「新卒一括採用」の二者択一ではなく、どちらも並行させて人材確保を進める企業が増えてくると考えられるでしょう。

新卒採用における通年採用のメリットとデメリット

新卒採用における通年採用のメリットとデメリットについて、企業の視点と学生の視点でまとめてみました。

企業における通年採用のメリット

通年採用によって、これまでは対応が難しかった留学生や外国人材、専門人材など、多様な経歴を持つ人材からの応募増加が期待できます。また、大人数を一括で採用する必要がないので、自社の基準に照らし合わせじっくり選考することも可能となるでしょう。必要な時期に必要な人材を、必要な人数採用できるため、事業の状況に応じて柔軟に採用活動を進められます。

企業における通年採用のデメリット

通年採用は一括採用と比べ、採用時期が長期化します。これにより、採用にかかるコストや工数の増加がデメリットとして挙げられます。また、入社後の研修などが分散されるので、育成コストが高くなることも想定されます。採用から入社までのスケジュールも変化するため、採用計画の見直しが必要となるでしょう。

学生側にとっての通年採用のメリット

従来のように短期間で就職活動を行う必要がないためスケジュールに余裕ができ、学生はゆとりを持って応募先を検討することができます。説明会や面接などがバッティングする可能性も低いので、多くの企業に応募することも可能となるでしょう。1社ごとに集中して応募できるため、実力を発揮しやすくなることも期待できます。

学生側にとっての通年採用のデメリット

通年採用では、企業がじっくりと時間をかけて選考を進めるため、従来よりも高いポテンシャルが学生に求められる可能性があります。そのため、通年採用になることで、学生にとってはよりハードルが高くなると考えられます。さらに、一括採用のように採用スケジュールが決められているわけではないため、自分で計画を立て、自発的に就職活動を行っていくことが必要になるでしょう。

通年採用の導入方法

これから通年採用を導入する場合、以下の5つの手順で進めるようにします。新卒採用だけでなく、中途採用も同様に進めることができるため、導入時の参考にしてください。

通年採用の導入方法

フロー①:要員計画をもとに、採用計画を立てる

「要員計画」とは、事業を遂行する際に必要となる人数を見積もる計画のことです。経営計画を遂行するための1つの手段として、「必要な人材を確保するために、どの部署に何人採用するべきなのか」といったことを決めます。要員計画の作成が終わったら、それをもとに「いつまでに」「どの部署に」「何人」必要なのか、年間の採用計画を詳細に立てていきましょう。

(参考:『【フォーマット付】要員計画を立てるとき、絶対に押さえておきたい流れとコツ』)

フロー②:明確なターゲットの設定

採用計画と同時に進めなければならないのが、「自社にどういった人材が必要なのか」という人材像の設定です。自社が求める人材像を明確にすることで、採用のターゲットを設定しやすくなります。経験やスキル、年齢だけでなく、「自社で活躍してほしい人」を具体的にイメージし、言語化することが重要です。コンピテンシーモデルを作成するのもよいでしょう。「企業の理念や方向性に合う理想像を分析する」「自社で活躍している人材を分析する」といった方法により、採用のターゲットを明確にしましょう。

(参考:『採用基準を設定する際、まず何から考えるべきか?【よくある失敗例付】』『サンプル付き/コンピテンシー評価はまずモデルの作成から~すぐに使える項目例で解説』)

フロー③:採用チームの編成

ターゲットが決まったら、採用を専属で行う「採用チーム」を編成します。通年採用を導入することでタスクやスケジュール管理工数も増えるため、一人で担当するより複数人でチームを作ることが望ましいでしょう。チームメンバーには、採用業務を行うことに加え、採用市場に関する情報収集や他社の動向分析などを意識的に行うことも求められます。

フロー④:採用手法・選考方法を決定する

採用チームが編成されたら、ターゲットに対しどのような方法でアプローチするのか、具体的な採用の手法を決定します。コストや工数、特徴などを総合的に判断し、「採用の確率を上げるためにはどの手法が適しているのか」を考えましょう。以下に代表的な採用手法とコスト、特徴などをまとめました。

●採用手法一覧

採用手法 特徴・メリット コスト
求人広告(Web、紙) ●広く母集団形成ができる
●ターゲットに合わせて媒体を選べる
数万円から数百万円
大学就職課 ●大学内での認知度が向上する
●大学就職課とのつながりを作ることができる
無料
合同説明会 ●幅広い訴求力が期待できる
●他社の動向を把握しやすい
イベントによって無料から数百万円まで
ハローワーク ●コストがかからないため、長期の掲載が可能 無料
自社の採用ページ ●掲載情報に制限がないため、雇用条件だけでなく、採用後の働き方・待遇など、詳しい情報を掲載できる 無料
※採用ページを新規で作成する場合は外注費などのコストが発生
インターンシップ ●採用後のミスマッチを防ぐことができる 機器の支給や交通費などの費用
ソーシャルリクルーティング ●SNSなどを利用した採用手法
●双方向のコミュニケーションにより、求人者を深く知ることができる
無料
※使用するツールやアプリケーションによっては有料のものも
ダイレクト・ソーシング・サービス ●サイトに登録している求人者に対し、企業が直接アプローチできるサービス
●ターゲットに対し直接的にアプローチできるため、自社が求める人材を獲得しやすい
月額使用料や成功報酬などが発生。1人当たり数十万円程度
リファラルリクルーティング ●社員に知人を紹介してもらう採用手法
●ミスマッチしにくく、定着しやすい
無料
※インセンティブや謝礼が発生
ミートアップなどのイベント ●交流会などを通じた採用手法
●自社の社風を知ってもらえる
食事代や場所代などが発生

(参考:『自社に最適な人材採用を。ダイレクト・ソーシングの活用方法』)

採用手法が決まったら、自社が求める人材からの応募を促すための広報活動「採用広報」を行うことも必要です。「この企業で働くイメージ」を持ってもらうための情報発信を積極的に行っていきましょう。
(参考:『採用広報はなぜ必要なのか?採用広報を考える際に意識すべきポイントとは』)

次に、選考方法を決定します。「自社に必要な人材なのか」「入社後に活躍できるのか」といったことが判断できるかどうかで、選ぶとよいでしょう。主な選考方法としては、書類選考、試験、面接選考があります。

●選考方法

選考方法 種類
書類選考 履歴書、エントリーシートなど
試験 一般常識試験、適性検査、小論文など
面接選考 個人面接、集団面接など

フロー⑤:育成のための体制を構築する

通年採用の場合、入社時期にバラつきが生じることがあるため、研修担当や配属部署での受け入れ体制を整えることが重要です。研修や教育内容に差が生まれないよう、注意する必要があります。また、部署やチームにスムーズになじめるよう、コミュニケーション方法やフォロー体制なども検討しておくとよいでしょう。

新卒の通年採用拡大後の就活スケジュールと企業がとるべき対応

通年採用が主流になっていくと考えた場合、今後就活スケジュールはどのように変化していくのでしょうか?企業がとるべき対応とあわせて、詳しく紹介します。

新卒の通年採用拡大後の就活スケジュールと企業がとるべき対応

インターンシップの実施

「学生が就業体験を積む場」である、インターンシップ。インターンシップの実施は採用者の即戦力化にもつながり、新入社員を育成する余裕がなくなっている企業にとっても魅力的な手段として注目されています。日本では大学3年生の夏から冬にかけて実施されることが多いですが、通年採用の拡大により、インターンシップ時期が前倒しになる動きも出てきています。中には1~2年生から受け入れている企業もあるようです。インターンシップはあくまで「就業体験の場」であり「就活生を囲い込みするための場」ではないため、企業は「自社のインターンシップを受けた学生だけを先行・優先して採用しない」など公平性を担保するよう注意が必要です。インターンシップの充実度は「応募者数の増加」や「内定辞退数の減少」にも大きく影響するため、事業の状況に鑑みながら、期間や体験内容などを精査するようにしましょう。

採用広報

一般的に、就活サイトを通じた新卒者向けの自社情報の広報は、3月1日以降行うことができます。しかし、「自社ホームページ上における、文字や写真、動画を用いた情報発信」「文章や冊子等、文字情報によるPR活動」「不特定多数を対象としたもの」は、期間の制限などはありません。通年採用を導入する場合は、年間を通して採用広報活動を行っていくとよいでしょう。
(参考:『採用広報はなぜ必要なのか?採用広報を考える際に意識すべきポイントとは』)

企業説明会の開催・エントリー受付

これまで新卒者向けの企業説明会・エントリー受付は、「大学3年次の3月から卒業年度の5月頃まで実施することができる」と決められていました。通年採用を導入する場合は、限られた期間だけでなく、「年間を通して定期的に企業説明会を実施する」「常時エントリーを受け付ける」などの対応が必要となるでしょう。学生からのエントリーをただ待ち続けるのではなく、先ほど紹介したさまざまな採用手法を取り入れ、積極的に学生にアプローチしたり、情報を発信したりしましょう。

採用選考

現在の就活ルールでは、6月以降が採用選考開始となっています。しかし通年採用の場合は、時期を問わず、エントリー後すぐに選考へ進みます。ただし、採用の対象が新卒者の場合は、学業とのバランスを考えた上で、無理なく進められる選考スケジュールに調整することが重要です。

内定出し・内定者フォロー

これまでのスケジュールでは、新卒採用の内定は10月1日以降となっていましたが、通年採用の場合は制限がありません。選考が終了すれば、すぐに内定を出すこともできるでしょう。また内定者が新卒の学生でない場合は、内定後すぐの入社も可能です。
新卒者の場合、「就活ルール」が廃止され採用の早期化が進む中、いかに内定者のモチベーションを入社まで保ち続け、つなぎとめられるかが重要になります。そのため、大学卒業までの間のフォローが欠かせません。入社まで内定者の不安や悩みにしっかりと耳を傾けて適切なフィードバックを行い、エンゲージメントを高められるような取り組みに力を入れましょう。
(参考:『内定者フォローの8つの手法。メール、SNS、イベント等いつどんな方法で実施する?』)

通年採用を成功させるために押さえておきたいポイント

通年採用はあくまで採用方法の1つであり、導入したからといって確実に採用できるというものではありません。採用を成功させるためには、どのようなことに注意すればよいのでしょうか。新卒・中途採用の両面で押さえておきたいポイントを、企業規模別に紹介します。

大企業における通年採用成功のポイント

一般的に、大企業は「新卒一括採用」や「年功序列」などの日本独自の慣例を踏襲しているイメージがあるため、まずは「採用に柔軟な姿勢であること」を積極的にアピールすることが重要です。広報力を活かし、新卒の通年採用または中途採用を導入していることについて、認知を広げていきましょう。また、大企業の場合は採用目標人数も多く、通年採用にすると採用にかかる工数が大幅に増加することも懸念されます。「採用チームを強化する」「必要に応じて採用業務をアウトソーシングする」など、工数削減のための工夫が重要となるでしょう。

中小企業における通年採用成功のポイント

中小企業が通年採用を成功させるためには、自社で働くことの魅力をしっかり言語化することが重要です。「広報力」という点で考えたとき、中小企業は大企業と比べると認知度が低いことが多く、特に新卒の通年採用の導入は向かい風ともとらえられます。認知度の低さを突破するためには、求人者の目に留まるような創意工夫が求められるでしょう。例えば「幅広い業務を経験できる」「大きな仕事を任されるチャンスがある」といった内容で、大企業との違いをアピールするとよさそうです。短いスパンで採用手法を見直し、成果が出ていないようだったら他の方法に切り替えるなどしてもよいでしょう。

ベンチャー企業における通年採用成功のポイント

大手企業や中小企業にはない規模の小ささや機動力を活かし、さまざまな手法で早期アプローチするとよいでしょう。「リファラル採用」「ソーシャルリクルーティング」など新しい採用手法を積極的に取り入れ、企業の社風や仕事内容に対し「面白さ」を感じてもらうことが重要です。またベンチャーには規模の小さい企業も多く、採用チームを編成したり採用専任スタッフを常駐させたりすることが難しいかもしれません。最新の採用ツールなどを活用しながら、効率的に進めることが望ましいでしょう。

通年採用を実施している企業とその手法

日本でも、新卒・中途を問わず通年採用を取り入れている企業が増えてきています。通年採用を実施している企業の実例を紹介します。

株式会社メルカリ

株式会社メルカリは、新卒採用を始めた2015年以降、中途同様に新卒を通年採用しています。会社が急成長する過程で、「必要な時に必要な人材を採用する」必要があり、通年採用を行ってきたようです。インターンシップからの採用が最も多く、その他にもエンジニア志望の学生が集まるイベントでの接触やリファラル採用などにも注力しています。また2016年に、会社の認知度向上を目的にローンチしたオウンドメディア「mercan(メルカン)」は、月間30万PVを記録し、注目されました。現場の社員が積極的に採用にコミットすることを徹底しており、「こういう人材が欲しい」というコミュニケーションが自然にできるような環境づくりがされているようです。
(参考:『「読者は何を知りたいのか」を考え抜く。メルカリ採用ブランディングのメソッド』)

株式会社ファーストリテイリング

株式会社ファーストリテイリングは、新卒・中途、また国籍を問わず、通年採用を行っています。「大学1、2年生の受け入れ」や「1年に1度採用に応募でき、期が変われば再チャレンジ可能」など、独自の採用手法を積極的に導入しているのが特徴です。特にキャリア採用では「攻めの採用」に注力し、ダイレクトリクルーティングを取り入れています。採用で発生するスケジュール管理などのタスクは外部委託を積極的に利用し、工数削減もはかっているようです。
(参考:『ファーストリテイリング渡瀬氏が推進する、ダイレクト・ソーシングの革命的な運用方法』)

ソフトバンク株式会社

ソフトバンク株式会社では、「既存の採用モデル、採用手法にとらわれることなく、会社の成長に伴って常に変えていくことが必要である」という考えのもと、2年前から「ユニバーサル採用」という通年採用を実施しています。入社時点で30歳未満という条件を満たしていれば、新卒・既卒を問わず、いつでも誰でも応募できます。入社時期は4、10月の2つから選ぶことができるようです。スカウト型採用やリファラル採用、採用イベントといった採用手法を積極的に取り入れています。また、リクルーターが各部門との密なコミュニケーションをとることで、採用でのミスマッチを防ぐよう努めているようです。
(参考:『事業拡大に必要な人材確保。自社採用に力を入れるソフトバンクの採用戦略』)

通年採用を成功させるツール

通年採用を効率的に行うことができるツールをご紹介します。新卒採用に特化したサービスを中心にまとめました。

OfferBox

株式会社i-plugが提供するOfferBox(オファーボックス)は、人工知能と適性診断を取り入れた採用サービスです。企業から「会いたい学生」を検索しオファーできる仕組みとなっています。採用担当者の採用活動に掛かる工数や時期を、統計データから予測作成する機能があるため、それらをもとに「いつ何をすべきか」といった採用計画表を作成できます。また、採用担当者の活動を効果的に分析することも可能です。

dodaキャンパス

株式会社ベネッセi-キャリアが運営するdodaキャンパスは、20万人以上の学生が登録する日本最大級のダイレクトリクルーティングサービスです。実際に就活を開始している学生だけでなく、大学1~2年生への早期接触にも対応しています。学生が自身の経験や学びを整理しておけるなど、多くの情報が蓄積される仕組みが構築されているため、学生登録情報を一読するだけで、学生の人となりがイメージできるようです。

Future Finder

株式会社ジェイック、株式会社レイルが共同で提供する「Future Finder」は、約15万人の学生会員の中から、自社での活躍が期待できる学生に対して、スカウトメッセージを配信するなど直接アプローチができるサービスです。自社で定着・活躍している社員の特性要素を分析する「組織診断」で、採用ターゲットを明確化できます。そのため、これまで出会えなかった学生を効率よく見つけることができるようです。スカウトやサイト運用の代行を任せることもできるため、採用担当者の工数削減やコア業務への集中が期待できます。

まとめ

 
新卒採用をめぐる動きや人材獲得競争の激化などにより、通年採用へ移行する企業は、今後さらに増えていくでしょう。これから通年採用を導入する場合は、採用計画や求める人材像、採用スケジュール、採用手法などを見直すことが重要です。政府によるルールや採用市場の動向、他企業の事例などを念頭に置きながら、通年採用の検討や移行に向けた準備を始めてみてはいかがでしょうか。

(制作協力/株式会社はたらクリエイト、編集/d’s JOURNAL編集部)

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