中堅中小企業の抱える、面接辞退・選考辞退の問題を解消する!応募者を引きつける採用動画の種類と効果的な活用術

narrative株式会社

取締役 北原 航(きたはら・わたる)

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  • 転職希望者一人当たりが応募する企業数は平均27社。応募のきっかけは「なんとなく」といったあいまいな理由であることも多い
  • 面接辞退を防ぐ手立てとしては、企業情報をタイムパフォーマンスのよい採用動画で伝えること
  • 動画ありきで考えず、まずは世間に認知されていない自社の魅力を洗い出すところからスタートする

転職市場が圧倒的に売り手優位となった昨今、企業への志望度が低く企業理解は不十分なまま、複数の企業へ応募する転職希望者は少なくありません。そうした転職希望者に多く見られるのが、面接辞退や選考辞退に至るケースです。

面接を受けてもらえない限り、スカウトメールをどれだけ打ち人材紹介サービスを駆使したところで、その努力は水の泡になりかねません。では一体どうすれば志望度が高まっていない転職希望者の方々に選考まで足を運んでもらうことができるのでしょうか。長らく中堅・中小企業の新卒・中途採用に関わってきたnarrative株式会社の北原氏は、その解決策は「採用動画の活用術」にあると言います。

そこで今回は、面接辞退や選考辞退を防ぐために導入したい採用動画について、その種類や適切な活用法、注意事項について掘り下げていきます。

圧倒的売り手市場。応募のきっかけは「なんとなく」も珍しくない

――採用を支援している中で、面接辞退や選考辞退の現状についてどう感じていますか?

北原氏:スカウトメールやダイレクト・ソーシングなどの手段で転職希望者にアプローチしても、当日面接に来ないケースは非常に増えています。転職市場は変わらず売り手市場で、転職希望者一人当たりが応募する企業数は最新のデータでも平均27社(※1)と、かなり多くなっています。転職希望者は、本命であるごく一部の企業以外に対してはスカウトメールが届いたので「なんとなく応募してみた」といったケースも増えています。また、仮にスカウトメールで反応があったとしても、そこから厳しい競争が待っていることに間違いはありません。

――「なんとなく」といった気持ちで応募する転職希望者の心理についてお聞かせください。

北原氏:とにかく「強気」の一言に尽きるでしょうね。もしこれがリーマンショックの時代であれば、自分をスカウトしてくれる一社は非常に貴重だったわけですが、数十社からメールが来る時勢ですから、転職希望者にとってみれば複数ある企業の一社という位置付けになってしまうのでしょう。しかも今は多くの企業がカジュアル面談を導入しています。この傾向が「どんな企業か知らないけど、カジュアルでいいなら話を聞いてみてもいいかな」といった気軽さをますます加速させていると考えます。

――自分が応募する会社のことをよく知らないケースもあるのですね。

北原氏:「よく知らないけれど、見聞きしたことのある業界だから応募してみた」といった転職希望者は多い傾向にあります。そしてもう一つ、面接辞退が増えている理由に、「負の情報が取りやすい」といった現状も挙げられます。

企業ホームページや求人広告といったオフィシャルな情報以外に、口コミサイトなどを見るのが当たり前の時代です。そこで口コミが低評価になっている「負の情報」をわざわざ取りに行ってしまい、会社の本質をよく知らないにもかかわらず「面接はやめておこうかな」と辞退するケースも少なくないと感じます。どちらにしても現状では、中堅・中小企業の人事・採用担当者から、書類選考合格後の一次面接の実施率は50%を切ってしまい困っているという悩みも聞くこともあります。

 ※1 出典 転職成功者の平均応募社数(doda)

タイパを重視する転職希望者に刺さりやすいのは、テキストよりも短尺な動画

――面接辞退を防ぐために企業が取り組むべきことをお聞かせください。

北原氏:私がおすすめしたいのは採用動画の導入です。若者の活字離れが進み、大学生3人に1人は1日の平均動画視聴時間が3時間に及ぶと言われている時代(※2)ですから、テキストのみで応募者に刺さる情報を伝えるには限界があるのではないかと私は考えます。なにより、文字より動画の方が圧倒的にタイムパフォーマンス(タイパ)はよいですからね。自分の世界を大切にし、興味のないことに時間を割きたくないと考える最近の転職希望者には、短い時間で効率よく情報を伝えてくれる動画は、採用領域にとっても必須の情報伝達手段だと言えます。

――たしかにテキストと比較すると、短時間で膨大な情報が伝わる動画のタイパのよさは圧倒的です。

北原氏:採用動画について詳しく伝える前に、まず面接辞退には2パターンあることを念頭に置くことが大事です。一つ目が、お話ししてきたように応募先の企業の情報をよく知らないまま辞退に至るケース。そもそも多くの企業を受ける中で一社一社にそこまで興味がない場合、企業ホームページや求人広告に書かれたテキストを読み込むというのは負担が大きいですよね。そして二つ目が、企業のホームページにあるような情報ではわからない自社の魅力を伝えきれず、面接に進むには情報不足となってしまっているケースです。その足りない要素を動画なら伝えられる可能性があります。

――では、どのように動画を利用していけばよいのでしょうか。

北原氏:まず、応募者が動画に求めるものと、多くの企業が動画に求めるものとの間に往々にしてズレが生じているのを認識する必要があります。企業側としては「意向醸成や入社の決め手」のきっかけになるよう、会社説明会参加「時」に動画を見せたいと考えている一方で、応募者は選考前の判断材料として、つまり会社説明会参加「前」に動画を見たいと考えているんです。

 

仮に現状、動画を作成している企業も、それが応募のきっかけになる役割を果たせているか、今一度洗い出す必要があると考えます。もちろん説明会時に動画を活用するメリットもありますが、まずは面接辞退を防ぐためのツールとして、一次選考より前に見せるための動画制作を意識してみるとよいでしょう。

※2 出典 第58回学生生活実態調査 概要報告(全国大学生活協同組合連合会)

選考段階が進むにつれてより長尺に。応募者の興味を喚起する動画の制作方法

――採用動画を制作するにあたって、どのようなタイミングでどんな種類の動画を制作することが有効か、詳しく教えてください。

北原氏:ビジュアルを使った訴求をVX(ビデオ・トランスフォーメーション)と称しています。VX施策のポイントは、最初は短く、応募者に会社や仕事内容を伝えること。また、選考プロセスの中盤になってきたら少し長めの動画を入れるなど、応募者の関心度に合わせて徐々に尺を長くすることです。こうした順序をおざなりにすると、せっかくの動画も逆効果になりかねません。このように、動画を効果的に展開するためにはファネル(「認知」から「成約」へ向けてふるいにかけていく戦略)にあてはめて考えていくとわかりやすいでしょう。

 

認知ファネル

スカウトや紹介などにより、まずは会社のことを知ってもらいたい段階です。この際に効果的なのは15~30秒、長くても60秒ほどの短尺なPR動画です。尺の長さのイメージはTVCMで、内容のイメージは本の帯です。「会社名」「仕事名」「入社のメリットを一言で」程度に抑えましょう。ここで興味を喚起できると、もう少し詳しく先を知りたいと思わせることができます。

興味・関心ファネル

応募してもらいたい、一次面接に来てもらいたい段階です。ピッチ動画とは会社説明資料を動画化するイメージで、PR動画が骨組みだとすればもう少し肉付けをしていくものです。1.5〜3分ほどの長さで、企業ホームページや採用広告に記載されている内容を要約して伝えます。この際、キャラクターやグラフなどインフォグラフィックを用いるとより目にとまりやすくなりおすすめです。このタイミングで、実際に働くことを想起させるオフィス動画を挿入するのも効果的でしょう。

比較・検討ファネル

本選考に進むかどうかを検討している段階に訴求する動画です。社員の1日に密着する動画は、実際にその会社で働く自分の姿をリアルに想像させられる点がメリットです。3~5分と尺が長くなりがちなので、これ以前のファネルで密着動画を展開しないよう注意が必要です。また一次選考の呼び水にしたいこのファネルでは、面接官の自己紹介動画もおすすめです。「人は顔見知りの約束は破れない」という特徴があります。面接官がカジュアルに自己紹介をすることで応募者と「顔見知り」になれるため、選考辞退を防ぐ手立てにつながる可能性があります。

購買ファネル

内定承諾、入社を検討する重要なファネルです。競合との差別化を強め最終的なグリップを狙う意味でも、10分ほどの長尺を使ってより詳しい説明会動画を展開しましょう。応募者本人に向けた動画であると同時に、応募者の家族に向けて安心感や説得力を持たせる効果もあります。同時に、面接時の印象を丁寧に応募者に伝える面接フィードバック動画も、本当に面接に来てもらいたい応募者に向けて送付すると効果的と言えるでしょう。

共有ファネル

リファラル採用やエンゲージメントなど、ある程度会社のことを理解している応募者に向けた動画です。ただし、紹介とはいえ武器となる情報が必要ですので、ここでは企業情報や研修時の内容をぎゅっと凝縮した短尺の動画を確認の意味でも共有することがおすすめです。

 

動画を制作するポイントは選考段階が進んでいくにつれてだんだん尺を長くし、より具体性のある内容で解像度を高めていくことです。まだ応募も悩んでいるような段階で、よく知りもしない会社の人間が登場して語りだすような長尺動画は逆効果です。まずは一次面接に来てもらえることを念頭に、PR動画やピッチ動画をフックにして応募者の好奇心を徐々に喚起していくことを心掛けましょう。

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動画を制作する前に、世間で認知されていない会社の魅力を洗い出す

――採用動画を活用するうえで、注意すべきことはありますか?

北原氏:採用動画を導入してもあまり効果がなかった企業には、そもそも自社が応募者からどのようなイメージを持たれているかを分析していないケースが多く見られます。以前相談を受けた企業では、転職口コミサイトで「真面目だけど冷たい社風」と評されており、自分たちの認識と異なっていることに悩んでいました。

レッドオーシャンからブルーオーシャンへ企業イメージを変革すべく、自社の魅力を洗い出し、口コミサイトでは現れない真の“姿”を抽出する

そこで私はまず、社員の座談会とアンケートを実施し、改めて自社の魅力について本質的な洗い出しを行うことを提案しました。そして、その座談会の様子を撮影し、動画をつくることにしました。座談会では、「風通しがいい」「人情味がある」「社員の相互尊重がある」といった、口コミサイトには現れていない会社のよさが社員の口から挙げられ、その動画を書類選考が通過した方に見てもらうことで自社の新たな魅力をアピールすることに成功しました。

――効果的な施策を実行するためには、課題を特定することが大事だということですね。

 北原氏:まずはファネルごとに自社企業の抱えている課題を因数分解してあぶり出すところから始めるのが肝要です。ファネルごとに解消すべき課題が見つかるはずですので、動画を使うのであれば短尺のものを複数用意して、一つひとつの不安要素を潰していくことをおすすめします。特に面接辞退にアプローチするのであれば、ファネルの初期段階に有効な短尺動画から着手するとよいのではないでしょうか。

まとめ

中堅・中小企業の転職希望者の大半は、20〜30社と多くの企業に応募していることが当たり前の時代です。その中で本命企業はほんの一部であり、応募があったからといって面接を受けてくれるとは限らないことを念頭に置いて採用活動を行うことが大切です。

昨今の転職希望者が求めるのは「タイパ」であり、隙間時間にスマートフォンでサクッと情報を収集することが習慣化されています。

そこで効果を発揮するのが採用動画です。ただし、「かっこいい採用動画をつくりたい」と前のめりになるのは危険です。まずは自社の魅力を再度洗い出し、どのファネルにどんな動画をあてはめるべきなのかを入念に計画すべきでしょう。選考段階が進むにつれて尺が長く内容の濃い動画を展開していくことで、応募者の興味を喚起することができる可能性が高まるはずです。

企画・編集/白水衛 (d’s JOURNAL編集部)、南野義哉(プレスラボ)、取材・文/波多野友子

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