エグゼクティブ人材の「選考・オファー」において成否を分けるポイントとは

パーソルキャリア株式会社

シニアエグゼクティブコンサルタント 上原 真一(うえはら・しんいち)

プロフィール
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  • エグゼクティブ人材は必ずしも転職ありきではない。「現職に残る」という選択肢も大いにある
  • 候補者を深く理解するためには、面談以外の方法も活用することが効果的
  • 最終意思決定を左右するのはオファー額だけではない。リアルな情報の量と質が重要

あらゆる企業に時代の変化への対応が求められている昨今、経営層・CxO・部長・スペシャリストなどエグゼクティブ人材の需要が高まっています。エグゼクティブ専門の人材紹介サービス 「パーソルキャリア エグゼクティブエージェント」で活躍する上原氏は、経営層と人事が一体となってエグゼクティブ人材の採用の要件策定や母集団形成を進め、選考とともにアトラクト(自社への魅力づけ)を進めるべきだと指摘します。

▶上原氏が登場した過去記事はコチラ
エグゼクティブ人材招聘の「要件定義」「母集団形成」はどう考えればよいのか?エグゼクティブエージェントが考える、人事の取り組みポイント
経営層・CxO・事業部長などのエグゼクティブ人材を登用・採用する際に大切にすべきこと

求めるエグゼクティブ人材を採用するために、選考から入社までの段階ではどのような点に注力すべきなのでしょうか。成功企業の実例を交えてご紹介します。

候補者が求める対応とは?カジュアル面談から社長が登場する企業も

——経営層・CxO・部長・スペシャリストなどエグゼクティブ人材の獲得ニーズが高まり続けています。

上原氏:市場環境としてはジュニア・ミドル層からエグゼクティブ層まで、人材不足の状況が続いています。特にエグゼクティブ人材の採用においては、候補者が必ずしも転職ありきで考えているわけではないため、募集企業は「候補者の現職との比較」も考慮しなくてはいけないと感じます。

 

コロナ禍の混沌(こんとん)とした時期には、個人が不安を抱えて社内外のさまざまな情報に触れるようになり、実際に転職活動に動く人も増えました。そうして外の世界を見た結果、自身の環境の良さを再認識し、現職にコミットされる方も増加しています。また、転職活動中に新たな重要なミッションを任されたり、賃金改定で労働条件が向上したりして、現職への残留を決断する方もいらっしゃいます。

企業側には「選考する」というスタンスだけでなく、企業と個人が互いの良い点や悪い点を共有し、深く理解し合える場をつくることが以前にも増して求められていますね。

——エグゼクティブ人材の採用に成功している企業の選考プロセスには、どんな特徴がありますか?

上原氏:最終判断者である社長や役員の方々が積極的に採用活動に関与しているケースでは、選考プロセスの冒頭から登場して動機づけに動くこともあります。書類選考をした上で、会いたいと思う候補者とのカジュアルな面談の機会を設定する企業も多いです。最初からトップや、入社後の上司になる人とざっくばらんに話せる場をつくっているわけですね。候補者が求める情報をトップや役員層からダイレクトに提供できるという意味でも、このやり方は有意義だと思います。

エグゼクティブ人材、たとえば豊富な経験を持つCxOクラスの方が自らの経歴を話そうと思えばいろいろな角度で話ができますが、一方で何を要点にして伝えればいいかわからない状況で自身の経歴を話すのは難しいものです。企業が進めている戦略や抱えている課題がわかれば、豊富な経験のどの部分にフォーカスして伝えるべきかが見えてくると思います。候補者の理解を深めるためにも、企業側はより詳細な情報を提供したほうが良いと考えます

——候補者側が「トップや経営層に会いたい」と要望することもあるのでしょうか?

上原氏:希望する人は多いですね。事前に面談や面接を担当する人がわからない場合は、大半の候補者から「誰と会うのかを具体的に知りたい」と質問されます。相手がわかれば、会社の開示情報やインタビュー記事などを調べ、どのような考えをお持ちか、自身とどのような共通点や相違点があるかを把握できるためです。

候補者を深く知るためにあらゆる手を尽くすべき

——続いて具体的な選考プロセスについてお聞きします。書類選考の進め方は、一般的な採用とは違うのでしょうか。

上原氏:メンバー層の採用では、レジュメに書かれたスキルや経験を見てスピーディーに可否を判断するかもしれませんが、エグゼクティブ人材の場合はもう少し掘り下げて情報を集めるべきでしょう。

これまでに役員などを担ってきた候補者であれば、ネット上にインタビュー記事が掲載されていることもあるため、公開情報をできる限り確認しておいたほうが良いと考えます。候補者が企業について調べるのと同様ですね。

 

——候補者を深く知る手段としてはリファレンスチェックもありますね。

上原氏:リファレンスチェックは候補者を深く知るため、そして、入社後のマネジメントの参考にするためにも、実施したほうがいいと思います。リファレンスチェックは、過去のご経験はもちろん、どのような環境であれば能力を発揮していただけるかを確認できるもののため、面談とは違った角度で候補者の能力や経験を確認することができます。比較的、経営人材の採用では活用する企業が増えてきています。

入社後のミスマッチを防ぐために「自社のリアルな情報」を伝える

——エグゼクティブ人材の採用に向けた面接の進め方についても教えてください。

上原氏:面接で判断するポイントとしては、候補者を採用すべきかに加えて、その人が自社内で活躍できるか、周囲と協働できるか、部下と一緒にパフォーマンスを発揮できるかなどが挙げられます。

これらを適切に判断するためには、冒頭で申し上げたように企業側から情報提供を積極的に行い、候補者の考え方を引き出していくことが欠かせません。経営陣のパーソナリティや組織風土、意思決定のスタイルなどを共有することで、候補者自身も社内で働く自分の姿をイメージできるようになるはずです。

また、面接の過程でケースインタビューを行う企業も増加しています。企業の財務情報や事業戦略・計画などリアルな自社の状況をもとにしたケースを示し、候補者の考え方やこれまでの経験が活かせることなどをディスカッションし、相互理解を深めることが目的です。企業のリアルな情報に触れられるという点で候補者にとってもメリットがあり、入社後のミスマッチを防ぐことにつながっています。

 

——部長クラスの採用の場合は、人事部門がまず候補者と面談を実施するケースもあると思います。このような場合はどのような点に配慮すべきでしょうか。

上原氏:人事部門が最初に面談をする際も、社長や事業トップが考えていること、組織の特徴など、人事から見た経営情報を積極的に伝える必要があるでしょう。組織や人に関する情報は、経営トップよりも人事のほうが具体的に語れるのではないでしょうか。次に会う役職者の情報も伝えながら、候補者の動機形成を促していければ理想的ですね。また、採用を検討している候補者よりも役職が上になる方が面接官として対応することもポイントとなります。採用に対する熱意や誠意を伝える意味でも、任せたいと考えているミッションや役割を背景も含めて話せる方が面接官として語るべきです。

エグゼクティブ人材の入社意思決定における重要な判断材料とは

——採用決定に至れば、いよいよオファー面談に進むことになります。エグゼクティブ人材の場合は報酬が高額ということもあり、オファーに難しさを感じる人事・採用担当者も多いかもしれません。

上原氏:報酬額が高いか低いかはもちろん採用の成否を決める重要なポイントですが、私が見ている中では、他社から1000万円高い年収を提示されても採用に成功しているというケースもあります。これは私見ですが、一定レベルを超えてキャリアを積んできた方は、収入以上に「その企業で何ができるか」を重視して転職先を決定しているように感じますね。また、家族構成や子どもの年齢、定年が近いかどうかなど、候補者の生活状況によってもオファーの受け止め方は変わります。

最も大切なのは誠心誠意オファーすること。なぜ自社に迎え入れたいのか、具体的な理由とともに情熱を込めて伝え、期待する役割や処遇・報酬を提示することがとても重要です。

 

——候補者の最終的な意思決定には、オファー額以外の部分が影響することも多いのですね。

上原氏:はい。繰り返しになりますが、どれだけリアルな情報を提供できるかが勝負の分かれ目だと考えています。求める情報が得られなければ、候補者側から入社を見送るケースも少なくありません。

もちろん企業にとっては、選考過程で開示できない情報もたくさんあると思います。最近では候補者と個別にNDA(秘密保持契約)を締結し、より詳しい情報を開示するケースもあります。何をどこまで開示するか、事前に決めておくことも必要です。

候補者は「現職に残る」という選択肢もあるわけで、得られる情報量は当然ながら現職のほうが圧倒的に多いでしょう。でも悲観する必要はありません。なぜなら、現職はある程度見通しがわかってしまっているわけで、候補者をワクワクさせる未来の情報が次のキャリアを選択する決め手になるからです。エグゼクティブ人材の採用に臨む際には、この視点が重要です。

取材後記

募集開始から人材を迎え入れるまで、長期戦になることも多いエグゼクティブ人材の採用。上原さんが関わるケースでは、書類選考から採用決定まで最低でも3カ月以上、中には2年がかりのプロジェクトになるケースもあるそうです。候補者の現職における役割・ミッションが大きく変わったり、処遇などの諸条件についても希望が変更したりすることも少なくないそうです。選考プロセスの取り組みを無駄にしないためにも、候補者が求める情報を真摯に理解し、オープンな姿勢で対応し続ける粘り強さが求められているのだと感じました。

企画・編集/白水衛(d’s JOURNAL編集部)、野村英之(プレスラボ)、取材・文/多田慎介、撮影/塩川雄也

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