中堅中小企業が他社に競り勝つには?今すぐ実践できる面接の改善点とは
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面接を行う目的は、採用候補者の見極めだけでなく、入社の動機づけや意向醸成にあり
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見極めには明確な評価基準が必要。一方採用候補者にも見極めてもらうスタンスも大切
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面接官と採用候補者には相性がある。相手の傾向・特性に合わせたコミュニケーションが重要
社員の採用において、面接官の存在はとても大きいでしょう。求める人材の獲得に直接関わるわけですから、その重要さは企業経営を左右するほど。それゆえに公平を期するため複数の面接官が担当し、経験を重ねたミドル層以上が対応することが多いようです。
それだけ慎重に面接しているのだから、その判断は自社にとって正しいはずですが、調査によれば85.2%(※1)の求職者が、面接を受けて、「この会社には入社したくない」と思った経験があり、入社意欲を減退させてしまっています。さらに、その理由については、74.8%(※2)が「面接官の不快な態度・言動」という結果となっています。
より良い人材を確保したいなら、「入社したい」と思ってもらえる面接をする必要があります。それができなければ人材獲得競争が厳しくなる中で採用候補者に選ばれる会社にはなれません。そこで今回は、中堅・中小企業の新卒・中途採用で豊富な支援実績がある北原氏に、面接で他社との差別化を図るための改善策について話を聞きました。
※1 ※2出典:マズイ面接官、 ファンをつくる面接官(エン・ジャパン)
面接では人材の見極めだけでなく動機づけにも努力を
——面接がきっかけで採用候補者が遠ざかっているという数字は驚きです。
北原氏:面接で「入社したくない」と思う人がこれほど多いという事実には私も衝撃を受けました。それも面接官の態度や言動が大きな理由となっているのです。
面接官は自社の面接しか知りませんし、他社がどんな面接をしているかわかりません。面接の感想を採用候補者から教えてもらえる機会もほとんどありませんし、面接におけるやりとりについて第三者から客観的なアドバイスをもらうことも少ないのではないでしょうか。
それゆえ面接はブラックボックス化しやすく、面接官も自分たちの手法や言動の良し悪しに、極めて気付きづらいと思います。ブラックボックス化が続くと、採用候補者が面接官に求めることと、面接官が応募者に求めることは乖離していくと考えています。
——乖離した結果が、先ほどの数字に表れていますね。改善するにはどうしたらよいのでしょうか。
北原氏:私は、乖離を生み出した面接のスタイルを「昭和型」、それをアップデートした面接を「令和型」という形でその要素を比較し、皆さんに令和型を推奨しています。昭和型の面接の目的は、採用候補者の人物像の見極めです。対して令和型面接の目的は、「見極め+入社への動機づけ」となります。スタンスは採用候補者の良さを引き出すプロデューサーで、「信頼感×親近感」を抱いてもらえる面接を目指します。
面接官のアップデートの指針。これからの面接は、採用候補者の入社したい動機を高める
これからの面接官には、応募者をふるいにかけるのではなく、採用候補者の長所を察知し、自社では「あなたの長所をこんな風に活かせますよ」と伝え、入社の動機づけをしてほしいです。
見極めは、個人差が生まれない明確な判断基準で行う
北原氏:面接の見極めで大切なことは、明確な評価基準に沿うことです。この基準には、コンピテンシーと呼ばれる、高い業績や成果につながる行動特性を置くとよいでしょう。
業務を遂行するために必要な技術や知識などはわかりやすいものですが、別の環境や組織においても高いパフォーマンスを発揮できるかどうかはそれだけで判断するのは難しいものです。
そこで、「普段何を意識しているのか」「どういう理由で、どのような行動をしているのか」など、募集する職種・役割・業務内容において成果を出すためのコンピテンシーを設定することが大切です。
期待する業績や成果によってどのようなコンピテンシーが必要なのか、部門ごとのハイパフォーマーへのヒアリングや分析、人事評価制度の項目などを考慮して判断基準を決めましょう
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コンピテンシーを見極める方法としてSTAR面接という手法があります。過去の状況(Situation)、その時の課題(Task)、課題解決の行動(Action)、結果(Result)を順番に聞く面接です。頭文字を取ってSTARと言います。S、T、A、Rの順で聞くと、うそをつきにくく評価基準がぶれないことが多いです。
応募者に質問する際は、例えばSituationの場合、過去に新規事業の責任者だったと言うのなら、「その新規事業の責任者になった理由はなんですか?」というところまで聞きます。Taskでは、「課題が組織内でどれほど重要だったか」、Actionでは、「課題解決の手法だけでなく結果はどうでしたか」、Resultでは「周りの評価はどうでしたか」まで聞きます。行動に対する周囲の反応まで聞くのです。周囲の反応は客観的なものですから、面接官の主観がなく、ばらつきの少ない評価ができます。
コンピテンシーに注目すれば、ぶれない人材評価ができる
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面接官と採用候補者には相性がある。自他の傾向・特性を把握して動機づけを行う
——見極めには統一した評価基準が重要なのは理解しました。他にも面接や面接官が大切にすべき点はありますか。
北原氏:注目したいのは、コミュニケーションにおける人の言動や傾向・特性をカテゴライズする、ソーシャルスタイルという理論です。この理論は、人のコミュニケーションスタイルは4つに大別でき、自他のスタイルを把握すれば、円滑なコミュニケーションができると主張します。
4つのスタイルは、以下の通りです。
ソーシャルスタイル理論はアメリカの産業心理学者デビッド・メリル氏が提唱した、人の言動や傾向・特性を4つに大別するコミュニケーション理論
面接官と採用候補者のスタイルが同じだと、話がスムーズに進みます。逆に、アナリティカルとエクスプレッシブ、ドライバーとエミアブルは相性が悪いです。例えば私は、エクスプレッシブなので、相手もエクスプレッシブなら、「面白い経験を積まれているんですね!」で話が進みますが、もし相手が相性の悪いアナリティカルなら話し方を変えます。分析が得意なアナリティカルの方には「その経験があるのはほとんどが30代以上なので、20代で既に経験されていることは市場価値が高いと思います」と問いかける方が、より深く相手に響きます。
そしてソーシャルスタイル理論の良いところは、初対面であっても、会話の中でこの人はおそらくこのタイプだろうと当てられて、すぐに取り入れることができる点です。また、ある採用候補者のスタイルが見えたら、その情報を面接官で共有すれば、ムラのない対応を行えます。
ソーシャルスタイルの4つのタイプに応じたコミュニケーションをする
【各ソーシャルスタイルの特徴】
・アナリティカル:論理や根拠を重視し、数値を好む。冷静で物事に動じない
・ドライバー:市場価値の向上に興味を持ち、結果を求める。リーダータイプ
・エミアブル:協調性を大事にし、周囲とのバランスを取る。話を聞くことが得意
・エクスプレッシブ:チャレンジ精神旺盛で、人と話すことが好き。感覚を重視する
——面接官のアップデートについて、理解が深まってきたと思います。さらに深める点はありますか。
北原氏:あります。先に見極めの話をしましたが、最近は「面接官が見極められるなんて思わずに、相手に見極めてもらいましょう」という話もしています。
米国発の、RJP(Realistic Job Preview)という理論があります。直訳すると「現実的な仕事情報の事前開示」で、採用の際、採用候補者に対して、仕事や組織の実態について、良い面だけでなく悪い面も含めたありのままの情報を提供することを言います。「ウチの魅力はこうで、やりがいもある、給料もいい」だけでなく「でも目標達成のために残業があるときや、激しい議論もある」など、自社の仕事内容を採用候補者に丁寧に伝えて、採用候補者にそれでも入社を希望するか見極めてもらうのです。
当社でも、私も含め面接を行っていますが、正直全部は見極められないと考えています。現実的には、評価基準を一定にした見極めを行いつつ、同時に自社の情報開示をし、相手にも見極めてもらうスタンスが必要と感じます。
職場のリアルを感じていただくために、「仕事(業務)の流れ」や職場の「メンバー相関図」、「1週間の予定表(カレンダー)」「仕事の七つ道具」といったコンテンツを用意し、活用することも有効な方法です。
中小企業でも、今すぐ実践できる改善点はある
——面接は大事ゆえに難しいことがよくわかりました。その上で応募者との時間を有意義にするために、実行に移しやすい方法はありますか。
北原氏:最初の面接はオンラインで実施することをおすすめします。時間の融通が利きやすくなりますし、移動の制約がなくなるため遠方の方でも参加しやすくなります。実施上の注意点としては最低限、面接官は個室で対応することです。また、部屋の明るさは印象を大きく左右するため、明るさを十分確保してください。視線は採用候補者に合うようにカメラを直視します。
そして採用候補者との会話では、相手の発言(言葉)を繰り返すことを意識しましょう。特にオンラインは、話が相手に伝わっているかがわかりにくいからです。採用候補者が「○○○○です。今日は大阪からオンラインで面接に参加しています」と言ったら、「○○○○さんですね、今日は大阪から参加されているのですね」と繰り返しましょう。このように復唱することで、採用候補者は「面接官は話を聞いてくれている」と実感できます。
オンラインでの面接は相手の表情や小さなうなずきなど言葉以外のリアクションが伝わりにくいため、対面の面接以上に相手の発言(言葉)を大切にしたコミュニケーションを心がけることで相互理解を深めていくことが大切です。
細かい点ですが、これを意識するだけでも採用候補者が感じる印象(信頼感・親近感)は大きく変わってきます。面接官は、肩肘張らず気軽に相談できる身近な先輩や親戚のようなイメージを目指してほしいと思います。
取材後記
入社後に活躍する人材の見極めにおいて、コンピテンシーによる基準を設け、面接官による判断のブレを防ぐこと、職場のリアルを公開することで求職者自身に高いパフォーマンスを発揮できるか否かの判断を本人に問う、という内容は面接官の主観や経験に頼らない手法として採用活動の改善に活かせるものだと感じました。人材の獲得競争が激しくなっている中で、求職者の傾向や特性に合わせて動機づけを行うこと、伝えるべき情報を取捨選択することの重要性を強く感じた取材でした。
企画・編集/白水衛 (d’s JOURNAL編集部)、南野義哉(プレスラボ)、取材・文/森 英信(アンジー)
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