EVPとは?注目される理由と導入のための手順を解説

d’s JOURNAL編集部

人手不足に頭を悩ませる業界や企業は多くあり、従来の発想だけにとらわれない考え方も検討していくことが大事です。働く側にとって魅力のある企業や職場であれば、従業員のモチベーションが上がり、結果として生産性の向上に結び付くでしょう。

企業が従業員に対して、どのような価値を提供できるかという視点で、人事管理や経営について考えていくことが重要です。この記事では、EVPの基本的な意味と注目される理由、導入のための手順などを解説します。

EVPとは


従業員が仕事のやりがいを感じ、働きやすい環境を整える一つの考え方としてEVPがあります。どのような考え方であるのか、基本的な意味や注目されている理由などを見ていきましょう。

EVPの基本的な意味

EVP(Employee Value Proposition)とは、「従業員価値提供」とも呼ばれており、企業が従業員に対して提供できる価値のことを指しています。EVPを高めることは、従業員エンゲージメントや生産性の向上につながり、自社の採用力を強化する部分にもつながるでしょう。

企業と従業員との間において、従来は「従業員が企業に対して、どのような価値を提供できるか」が主な焦点でした。しかし、多くの業界で人手不足が経営課題となる中においては、企業が従業員に対してどのような価値提供が行えるかが重視されてきています。

従業員に支払う給料だけでなく、福利厚生制度の充実やキャリア支援など、多くの意味合いをEVPは含んでいるといえるでしょう。

EVPが注目されている理由

EVPという考えが注目されているのは、理由として雇用の流動性が挙げられます。従来ほど終身雇用制度や年功序列といった仕組みに魅力を感じなくなった働き手が、転職活動を活発に行うことで労働市場に変化が見られます。

多くの労働者のなかから選ばれる企業となるには、既存の従業員から「この会社で働き続けたい」と思われ、求職者からは「あの会社で働いてみたい」という価値を提供していかなければなりません。働く側にとって魅力のある職場でなければ、せっかく新たな人材を採用したとしても、すぐに辞められてしまう可能性もあるでしょう。

競合他社との人材獲得競争を有利に進めていくためにも、EVPの考えに基づいた人事労務管理や採用活動を実施する必要性が高まっているといえます。

EVPの具体例


EVPに関する基本的な意味を押さえたら、次に具体的な内容を理解しておくことが大事です。ここでは、EVPの具体例を解説します。

給与などの待遇

EVPのわかりやすい例として、給与などの待遇が挙げられます。新たに手当を創設したり、定期的な昇給を実施したりすれば、従業員のモチベーションを高められるでしょう。給与に関する部分の取り組みは、EVPのなかでも即効性のある施策だといえます。

ただし、無計画に給与を上げるのではなく、同業他社や業界平均の水準などと比較して引き上げる幅を検討してみましょう。他社よりも少し高い水準であれば、従業員は給与面で満足感を得やすくなるといえます。

また、賞与の支給についても夏や冬などに定期的に支払う形の他に、業績と連動させて決算時に支払う方法もあります。どのような形が従業員のモチベーションをアップさせることにつながるかを検討し、自社に合った給与体系を構築してみましょう。

多様な働き方

フルタイムでの出勤をメインとした働き方の場合、結婚や出産、子育て、介護など家族の状況の変化によって、そのままの勤務形態では働き続けるのが難しい従業員も出てくるでしょう。社会全体としても、さまざまな業種で働き方が見直されている流れのなかにあって、多様な働き方を率先して導入することは、従業員に対する価値提供につながるはずです。

具体的な施策として、リモートワークや時短勤務でも働ける環境の整備、サテライトオフィスを設けることで自宅の近くで働ける環境を整えることなどが挙げられます。また、オフィスに出社をする従業員と在宅勤務で働く従業員との間で、待遇差に不満が生じないように、人事評価制度の見直しも図る必要があります。

従業員が置かれている状況に配慮したうえで、多様な働き方が実現できる仕組みを整えてみましょう。

キャリア支援

従業員に長く働き続けてもらうには、業務を通じて成長できる仕組みを整えることも重要です。勤続年数が長くなるほど、業務においては慣れてくるといえますが、逆にいえばマンネリ化が起こりやすく離職の原因となる可能性があるでしょう。

定期的な面談などを通じて、従業員が抱えている不満や悩みに寄り添い、将来に向けたキャリア開発に協力していくことが大事です。業務に必要なスキルの向上やキャリアチェンジを積極的に支援する流れをつくっていけば、中長期的な人材の育成につながるでしょう。

社内・社外研修の充実や希望する職種にチャレンジできる制度の構築などを推進すれば、従業員はやりがいを持って仕事に取り組みやすくなります。

サポート体制の構築

充実した職場環境に身を置いていたとしても、仕事を長く続けているとメンタルヘルスに不調をきたしてしまうこともあります。そのままの状態で放置してしまえば、従業員はストレスを溜め込み、離職につながる恐れがあるでしょう。

過度なストレスが発生してしまわないためにも、上司と定期的な面談を行ったり、同僚らと気軽にコミュニケーションが取れたりする環境を整えるのが大事です。在宅勤務などで直接参加できない従業員のために、部署やチーム単位でチャットツールを用いるなどして交流を図ってみましょう。

また、悩みの内容によっては上司や同僚に直接相談するのにためらいがあるケースもあるので、外部の専門機関と連携しながら相談できる窓口を設けておくのも重要です。従業員の要望などを踏まえながら、企業としてサポートできる体制を構築してみましょう。

独自の休暇制度の導入

従業員が仕事に対する充実感を維持するためには、ワークライフバランスを整える取り組みも行っていく必要があります。既存の休暇制度や有給休暇のあり方を見直すだけでなく、独自の休暇制度を設けるのも一つの方法です。

例えば、資格の取得を目指したり、ボランティアに取り組んだりするための独自の休暇制度を設ければ、従業員への価値提供はより強化されるといえるでしょう。EVPを強化する一環として、競合他社の状況なども把握しながら、自社に合った休暇制度のあり方を検討していくことが大事です。

ただ、ニーズのない休暇制度を設けてもあまり利用されないという事態に陥りがちなので、制度を構築するときには事前に従業員の意見や考えをヒアリングすることが重要です。多くの従業員にとって役立つ休暇制度の構築を目指してみましょう。

EVPの導入で得られるメリット


EVPを導入することで、得られるメリットとして以下の点が挙げられます。

EVP導入による3つのメリット
・従業員満足度の向上につながる
・人材の定着を図ることができる
・企業イメージを高められる

それぞれのメリットについて解説します。

従業員満足度の向上につながる

EVPの考えに沿った形でさまざまな施策を実行していけば、従業員満足度の向上に結び付いていきます。仕事に対するモチベーションを高めることにつながり、業務の効率化や生産性の向上が期待できます。

また、活き活きとした気持ちで仕事に取り組んでいく従業員が増えれば、結果として顧客満足度を高めることにもつながるはずです。厚生労働省が公表している「今後の雇用政策の実施に向けた現状分析に関する調査研究事業 」という資料においても、従業員と顧客満足度の両方を重視する企業のほうが、業績の向上につながっていることがわかります。

従業員満足度について、さらに詳しく知りたい方は以下の記事も参考にしてみてください。

(参考:『従業員満足度(ES)とは|向上させるメリット・施策や影響する要素を解説』 )

人材の定着を図ることができる

従業員のなかで仕事に対するやりがいが強くなれば、「この会社で長く働き続けたい」という気持ちが強くなるでしょう。離職率の低下につながるだけでなく、人材が定着することによって、スキルや能力の向上に結び付いていくはずです。

事業を成長させて、競合他社に負けない組織を構築していくには、人材を重視した経営を行っていくのが大事だといえます。人の入れ替えが激しい企業においては、慢性的な人手不足の状態に陥りやすくなり、既存の従業員の業務負担も大きくなりやすいでしょう。

多くの従業員が長く働き続けてくれることで、組織力の強化につながり、より働きやすい環境を生み出しやすくなります。

企業イメージを高められる

企業が人材に対してどのような向き合い方をしているかは、その企業が掲げる経営理念やビジョンなどと関連している部分も多いものです。そのため、EVPの考えに基づいた経営を行っていると対外的にアピールできるのであれば、ステークホルダーの理解を得られやすくなり、企業イメージのアップにつながります。

対外的な協力を得られやすくなることで、事業の成長や生産性の向上に結び付ける流れを構築でき、よい循環が生まれるといえます。また、自社のイメージが高まることで、採用力の強化にもつながり、新たな人材を呼び込むきっかけを得られるでしょう。

EVPを導入する手順


EVPをスムーズに導入するには、基本的な手順を把握しておくことが大切です。主な手順として、次のような流れとなります。

EVPを導入する手順
1. 自社の現状を把握する
2. 従業員にヒアリングを行う
3. どのような施策を実行するかを決める
4. 社内外に対して情報発信を行う
5. 定期的にチェックし、改善する

それぞれの手順について解説します。

自社の現状を把握する

EVPを導入するためには、まず自社が置かれている現状を分析し、従業員の視点からどのような価値を備えているかを見定める必要があります。従業員の働きやすさや休暇の取得状況、キャリア支援や職場の雰囲気など幅広い角度から見ていくことが大事です。

また、競合他社と自社を比較したときに、強みとなる部分や不足している部分を把握しておくことも欠かせません。自社が抱えている課題点を洗い出すことによって、ピンポイントで改善策を実行しやすくなります。

従業員にヒアリングを行う

EVPは当然ながら、従業員にとってプラスになるものでなければいけません。自社の現状を分析する一環として、従業員に対してヒアリングを実施してみましょう。

また、給与や上司に対する不満など、直接的には意見が出づらい項目についてはアンケート調査を行い、外部機関の協力を得たりする形で調査を進めていくことが大切です。従業員のリアルな考えを知ることによって、より効果的な施策を実施しやすくなります。

どのような施策を実行するかを決める

自社の分析や従業員のヒアリング結果などのデータを踏まえ、どのような施策を実行するのかを決めていきます。前述の通り、EVPで実行できる施策の幅は広いので、すべての施策を行おうとすれば企業にとって大きな負担となる場合があります。

EVPに関するさまざまなアイデアを出したうえで、効果が期待できる施策に優先順位をつけ、基本的な計画を立てていきましょう。実施すべき施策を決定したら、着実に実行していけるようにサポート体制を構築し、人事評価制度や就業規則などの見直しも事前に行っておくことが大切です。

社内外に対して情報発信を行う

EVPの取り組みを実施できる段階になったら、社内・社外に対して情報発信を行い、広く理解や協力を得られるようにしてみましょう。社内においては説明会の開催や研修を通じた周知を図り、社外にはホームページやSNSなどを活用して伝えていきます。

情報発信を行う際は、単にEVPに関する取り組みを紹介するだけでなく、一連の施策を実施することでどのように自社が変わっていくのかのビジョンを示すことも重要です。

定期的にチェックし、改善する

EVPに関する施策を実施し始めたら、定期的にチェックを行いましょう。運用時は問題がない仕組みであったとしても、実際に実施してみるとうまく機能しない部分も出てくるものです。

また、時間の経過とともに従業員が求めるニーズにも変化が見られるようになるため、できるだけ現状に合った形で制度を運用していく必要があります。分析によって得られたデータなどをもとに改善に取り組み、より効果的な施策を実施してみましょう。

まとめ

企業が持続的な成長・発展を続けていくためには、従業員の存在が欠かせません。従業員一人ひとりが活き活きとした気持ちで働き続けられる職場であれば、離職率が低下し、生産性の高い組織を構築していけるでしょう。

従業員に対して企業がどのような価値提供が行えるかを示す考えがEVPであり、給与などの待遇面だけでなく、休暇制度や勤務形態、キャリア支援などさまざまな施策に結び付いています。自社の現状や従業員が求めるニーズをきちんと把握し、適した施策を実施していきましょう。

(制作協力/株式会社STSデジタル、編集/d’s JOURNAL編集部)

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