従業員満足度(ES)とは|向上させるメリット・施策や影響する要素を解説

d’s JOURNAL編集部

「自社について、従業員がどれだけ満足しているのか」の指標である、従業員満足度。「高めることで、どのようなメリットが期待できるのか」「向上させるには、どういった施策が必要か」「どのように調査するとよいのか」など知りたい人事担当者の方も多いでしょう。

この記事では、従業員満足度の構成要素や高めるメリット、向上のための施策などを解説します。自社の従業員エンゲージメントを調査する際に役立つシートも無料でダウンロードできますので、ご活用ください。

従業員満足度(ES)とは

従業員満足度とは、「従業員が自分の働く会社について、どのくらい満足しているか」「従業員にとっての居心地のよさ」を表す指標のこと。英語に訳すと「Employee Satisfaction」であるため、頭文字をとって「ES」とも呼ばれます。

「企業理念への共感」や「職場環境・働き方」「人事評価」「業務への適正」「給与・福利厚生」といった観点から、従業員満足度を測定します。従業員満足度を高めることで、「離職率の低下」「業績の改善」などが期待できることから、従業員満足度の向上につながる施策を実施する企業が増えてきています。

従業員満足度へ注目が集まるようになった背景

従業員満足度への注目が集まる背景には、「少子高齢化による影響」や「転職に対する価値観の変化」があります。

近年、日本では少子高齢化が進んでおり、それに伴う労働人口の減少が社会問題となっています。労働人口の減少は今後さらに加速すると見込まれているため、人材確保に苦慮する企業が増加していくと考えられるでしょう。

また、かつての日本企業では新卒採用した従業員を定年まで雇用する「終身雇用制度」が一般的だったため、「転職するのは、もったいない」という風潮がありました。しかし近年では、「転職者に有利な売り手市場の継続」や「副業やフリーランスに代表される働き方の多様化」などにより、「転職=当たり前のこと」となってきています。そのため、「職場環境や人間関係がよくない」「ワークライフバランスを実現できない」「仕事に見合った給料をもらえていない」などと感じた際、すぐに転職してしまう人も少なくありません。

このように人材確保の難易度が上がっている状況で、従業員に自社で長く働き続けてもらうために、従業員満足度を高めようとする動きが進んでいるのです。

従業員エンゲージメントとの違い

「従業員満足度」と混同されがちなのが、「従業員エンゲージメント」です。従業員エンゲージメントとは、「従業員が企業の目指す姿・方向性を理解・共感し、自ら貢献しようという意識がある状態」のこと。組織に対する「理解度」「共感度」「行動意欲」の3つの要素から、構成されます。

従業員満足度 従業員エンゲージメント
定義 「従業員が自分の働く会社について、どのくらい満足しているか」を表す指標 従業員が企業の目指す姿・方向性を理解・共感し、自ら貢献しようという意識がある状態
指標 従業員にとっての居心地のよさ 企業と従業員との信頼度の強さ
業績との関係 従業員満足度のみが高まっても、業績の向上には直結しない可能性がある 従業員エンゲージメントが高まれば、業績の向上に直結する

従業員満足度と従業員エンゲージメントでは、「指標」が異なります。従業員満足度の指標は「従業員にとっての居心地のよさ」ですが、従業員エンゲージメントの指標は「企業と従業員との信頼度の強さ」です。

「業績との関係」についても、違いがあります。従業員エンゲージメントが向上すれば業績も向上しますが、従業員満足度のみが向上しても業績の向上に直結しないケースもあります。なぜなら、従業員満足度のみが高い場合、「普通に仕事をしていれば、十分な給料をもらえる」「これ以上、頑張らなくても問題ない」と考える従業員がいる可能性があるためです。

そのため、「従業員満足度」のみならず、「従業員エンゲージメント」の向上にも力を入れるのが望ましいでしょう。従業員エンゲージメントの詳細や高め方などについては、こちらの記事が参考になります。

(参考:『従業員エンゲージメントとは|効果的な取り組みと事例・向上のメリットを解説』)

従業員満足度を構成する5つの要素

従業員満足度の構成要素としては、次の5つが挙げられます。

従業員満足度の構成要素
●企業理念や経営者の方針
●職場や働き方の環境、人間関係
●人事評価とマネジメント
●業務への適性・やりがい
●給与や福利厚生などの待遇

このうち、「人事評価とマネジメント」「業務への適性・やりがい」は、充足していると感じることで従業員満足度を高める性質をもつ動機づけ要因です。一方、「企業理念や経営者の方針」「職場や働き方の環境、人間関係」「給与や福利厚生などの待遇」は、不満を感じることで満足度を低下させる性質をもつ衛生的要因に該当します。

5つの構成要素について、それぞれ見ていきましょう。

企業理念や経営者の方針

一つ目の構成要素は、企業理念や経営者の方針です。従業員の価値観との乖離が大きかったり、企業の理念・方針に共感することを従業員に強いたりすると、従業員満足度が低下します。

一方で、従業員の価値観と一致しており、従業員が心から共感できていれば、「納得できないことをやらされて、ストレスがたまる」という状況を避けられ、従業員満足度を高めることができます。

職場や働き方の環境、人間関係

職場や働き方の環境、人間関係も、従業員満足度の構成要素です。

近年、ワークライフバランスを重視する機運が高まっていることもあり、仕事へのやりがいや給与などと同様に、快適な職場環境や働き方の多様性を重視する人が増えてきています。そのため、「在宅勤務ができるか」「短時間勤務ができるか」「有給を取得しやすい環境か」「副業を認めているか」といったことが従業員満足度に影響します。

人間関係については、上司や同僚と良好な関係を築けていなかったり、風通しが悪かったりすると、従業員満足度が下がります。一方で、人間関係が良好で風通しがよければ、メンバー同士で意見交換や相互協力が自然にできるため、従業員満足度が高くなる傾向にあります。

人事評価とマネジメント

従業員満足度を高めるには、人事評価とマネジメントをしっかり行うことも重要です。

人事評価については、「自分の働きぶり、成果をきちんと評価してもらえている」「評価基準が明確で、公正に評価してもらえている」と従業員が感じることで、従業員満足度が高まります。マネジメントに関しては、「上司から部下への指導」や「日頃の声かけ・接し方」「業務の振り分け」などの良し悪しが、従業員満足度に影響します。

また、人事評価やマネジメントに関連することとして、上司自身の仕事への向き合い方やネガティブな言動の有無も、部下の従業員満足度に影響を与えるでしょう。

業務への適性・やりがい

業務への適性・やりがいも、従業員満足度の構成要素です。

業務への適正については、「自分の能力・スキルを活かせている」「自身の成長を実感できている」と従業員が感じることで、従業員満足度が向上します。

仕事のやりがいに関しては、自分の仕事を通じて「社会によい影響をもたらしている」「会社に貢献できている」などと感じられる場合に、従業員満足度が高まります。

従業員が業務への適正・やりがいを感じていれば、より意欲的に仕事に取り組むようになるため、生産性向上も期待できます。そのため、従業員一人ひとりの能力・興味・キャリア観などを考慮した適切な人材配置をするとよいでしょう。

給与や福利厚生などの待遇

5つ目の構成要素は、給与や福利厚生などの待遇です。

給与については、「成果に応じた給与が支払われている」「役職や業務の難易度に応じた給与が支払われている」「同業他社の給与と比較しても妥当な金額である」などと従業員が感じていると、従業員満足度が高い傾向にあります。

福利厚生に関しては、「住宅手当、食事手当といった各種手当」や「慶弔時見舞金」「スキルアップに向けたサポート体制」などの有無、「特別休暇の充実度合い」といったことが従業員満足度に影響します。

従業員満足度を高める3つのメリット

従業員満足度を高めることにより、「離職率の低下と定着率の向上」「業績(売上)の改善」「顧客満足度の向上」という3つのメリットが期待できます。

離職率が低下して定着率が向上する

従業員満足度が高ければ、従業員は「この会社で働き続けたい」「転職にメリットをあまり感じない」と思うようになるため、離職率が低下し、定着率が向上します。その結果、採用人数を抑えられ、採用コストの削減につながるでしょう。

また、従業員満足度が高いと、事業拡大や欠員補充などで人材採用が必要になった際に、自社の従業員から友人や知人を紹介してもらう「リファラル採用」を実施しやすく、採用コストを抑える効果が期待できます。

(参考:『リファラル採用とは?導入のメリット・デメリット、運用のポイントを紹介』)

業績(売上)が伸びやすくなる

厚生労働省が外部委託した調査の報告書では、「評価・キャリア支援」や「ワークライフバランス、女性活用」などの雇用管理改善施策の実施が、企業の業績(売上)改善につながることが示されています。こうした施策は、先述した従業員満足度の構成要素である「人事評価」や「職場や働き方の環境」との関連性が高いため、従業員満足度を高めることで業績に好影響をもたらすと考えられます

また、施策を「10年以上前から」「5年以上前から」など長期にわたり実施している企業は、施策を「実施していない/実施期間が短い」企業に比べ、現状の業績が総じてよいことも、調査結果で示されています。

これらの結果から、たとえ短期的には思うような効果が出なかったとしても、従業員満足度の向上につながる施策に継続的に取り組むことが業績改善のためには重要であるといえるでしょう。

雇用管理改善施策の実施調査結果

(参考:厚生労働省『今後の雇用政策の実施に向けた現状分析に関する調査研究事業報告書~企業の雇用管理の経営への効果~』)

顧客満足度が向上する

従業員満足度は、顧客満足度にも影響をもたらします。従業員満足度が高いと、会社への帰属意識や貢献意欲も高まり、自社の販売する商品・サービスにより関心をもつ従業員が増えることが期待できます。それにより、顧客のニーズに合った商品が生まれやすくなったり、顧客対応が改善したりするため、顧客満足度が向上するでしょう。顧客満足度の向上は、リピート率の増加や新規顧客の獲得にもつながります。

従業員満足度の向上につながる施策

従業員満足度の向上に有効な施策としては、以下の4つが挙げられます。

従業員満足度の向上につながる施策
●企業理念や経営方針の発信
●社内コミュニケーションの活性化
●公平性のある人事評価制度の構築
●ワークライフバランスの充実化

それぞれについて、見ていきましょう。

企業理念や経営方針の発信

従業員満足度を高めるには、企業理念や経営方針への理解・共感を促すことが不可欠です。そのため、全従業員を対象に積極的に情報発信していく必要があります。自社に対する理解が深まることで、仕事にやりがいを見いだし、意欲的に仕事に取り組む従業員が増え、企業によい影響をもたらすでしょう。

施策の具体例としては、社内報や社内SNSなどでの発信、会社のビジョンや行動指針を書いた「クレドカード」の配付、新入社員・中途社員を対象とした企業理念勉強会の開催、企業理念や経営方針に沿って活動できたかを振り返るミーティングの定期開催などがあります。

社内コミュニケーションの活性化

「職場の人間関係」は従業員満足度に大きく影響する要素の一つです。人間関係は従業員同士のコミュニケーションをもとに形成されるため、社内コミュニケーションを活性化することが、従業員満足度の向上につながります。社内ツールでの情報発信により相互理解を促したり、部署を問わずにコミュニケーションをとれる場・機会を提供したりすると効果的でしょう。

具体的な方法としては、社内SNSを活用しての交流、社内イベントの開催、他部署/自部署の先輩社員が後輩社員の相談にのる「メンター制度」「ブラザー・シスター制度」の導入などがあります。一人ひとりが自由に席を選んで仕事をする「フリーアドレス」や、さまざまな部署のメンバーが一緒にランチをする「シャッフルランチ」を導入してみてもよいでしょう。

(参考:『メンター制度導入のメリット・デメリットとは。 押さえておきたい制度運用のコツも解説』『ブラザー・シスター制度は早期離職防止に効果アリ?OJT・メンター制度との違いとは』『【成功事例付】フリーアドレスが向いている企業とは?オフィスへ導入前に押さえるべきポイント』)

公平性のある人事評価制度の構築

人事評価は従業員の報酬に直結するものであるため、従業員満足度に大きな影響を与えます。そのため、公平性のある人事評価制度を構築することが重要です。具体的には、「年齢をベースにした年功序列から、仕事の成果やそこに至るプロセスに応じて評価する成果主義への転換」「女性よりも男性の方が優れているというジェンダー観に基づく人事評価の撤廃」などの見直しを検討するのが望ましいでしょう。

また、評価の公平性を高めるためには、感情が働き正しい評価が行えない「人事考課エラー」を減らすことも大切です。人事考課エラーには、一つの良い印象に引っ張られて総合評価も高くしてしまう「ハロー効果」や、部下に対して全体的に甘い/厳しい評価をしてしまう「寛大化・厳格化傾向」などがあります。こうしたエラーを回避できるよう、評価者に事前説明したり、評価者を対象とした研修を実施したりするとよいでしょう。

(参考:『成果主義の導入で失敗しないためのポイント5つ~メリット・デメリットから解説~』『人事考課をうまく運用するために、押さえたい目標設定と評価のポイント』)

なお、人事評価制度の見直しに際しては、こちらの記事が参考になります。

(参考:『人事評価制度の種類と特徴を押さえて、自社に適した制度の導入へ【図で理解】』)

ワークライフバランスの充実化

近年、ワークライフバランスを重視する人が増えてきているため、業務の場所や時間、休暇制度などを見直すことで、従業員満足度の向上が期待できます。併せて、福利厚生の充実も図ると、より効果的でしょう。

施策の具体例としては、在宅勤務制度やフレックスタイム制などの導入、ノー残業デーの導入、リフレッシュ休暇をはじめとする特別休暇の新設、健康維持のためのジム通いに対する補助、住宅手当の支給・家賃補助などがあります。

(参考:『【弁護士監修】在宅勤務の導入方法と押さえておきたい4つのポイント◆導入シート付』『フレックスタイム制を簡単解説!調査に基づく84社の実態も紹介』『リフレッシュ休暇とは―付与日数や条件は?企業義務なのか?有給休暇との違いについて』『特別休暇の定め方―どんな条件で何日取得可能?就業規則は?|申請書フォーマット付』)

しかしながら、上述の施策を一度に実施するのは容易ではありません。自社の置かれた状況や企業としてのフェーズを踏まえ、優先順位を決めた上で、できることから施策を実施していくとよいでしょう。

従業員満足度を調査するフロー

従業員満足度は、どのように調査すればよいのでしょうか?調査は社内で実施する方法と外部の専門業者に委託する方法がありますが、ここでは社内実施の場合の調査フローをご紹介します。

従業員満足度を調査するフロー

調査をする目的を明確にする

まずは、調査目的を明確にすることから始めましょう。目的を定めずに調査を進めた場合、従業員に調査の重要性を伝えられなかったり、調査結果をもとに今後の施策を考えるのが難しかったりするためです。調査目的の例としては、「入社3年目以内の従業員の離職率低下」「従業員の業務負荷やストレスの現状把握」「人事評価制度の課題点の発見」などが挙げられます。

どの従業員を対象にするか決める

次に、どの従業員を調査対象とするのかを決定します。多くの会社では、「正規雇用/非正規雇用」「若手社員/ベテラン社員」「役職に就いている/就いていない従業員」など、さまざまな属性・立場の従業員が働いています。従業員の置かれた状況によって、「企業に何を求めるか」「どのように仕事に向き合いたいと思っているか」が異なるため、調査目的を踏まえた上で、調査対象者を決めることが重要です。

設問や調査方法を決定して実施する

調査目的と対象者が定まったら、設問や調査方法を決定し、調査を実施します。どのような設問とするかは企業によって異なりますが、以下のような項目を問うのが一般的です。

設問項目の例

設問項目 主な調査内容
業務内容 ●業務内容が自らの実力に見合っているか
●仕事にやりがいを感じているか など
業務負荷、ストレス ●業務量が適切か
●仕事に対して、過度のストレスを抱えていないか など
人事評価制度、福利厚生 ●人事評価制度に納得しているか
●福利厚生が充実していると感じるか など
職場環境、ハラスメント ●従業員同士のチームワークがよいか
●パワハラやセクハラが行われていないか など
上司に関すること ●部下への接し方や指導方法に問題がないか
●上司のことを尊敬しているか など
会社に関すること ●企業理念に共感しているか
●会社に将来性を感じているか など
総合評価 ●上記項目を総合的に見て、会社への満足度がどの程度あるか

上記をベースに、調査目的に応じて、項目ごとの設問数を調整したり、新たな項目を設定したりするとよいでしょう。場合によっては、従業員の属性や立場によって設問の変更が必要となることもあります。設問が多すぎると回答者の負担となり、アンケートの回収率の低下につながるため、適切な設問数とすることも大切です。

調査の実施に際しては、従業員の本音を引き出すための配慮も必要となります。従業員に対し、「結果は人事担当者のみが確認する」「回答内容は今後の施策検討時にのみ活用する」「回答内容が人事評価に影響することはない」といったことを明確に伝えておくとよいでしょう。

d’s JOURNALでは、調査の際に役立つシートを作成しました。無料でダウンロードできますので、自社用にカスタマイズしてご活用ください。

調査結果を集計・分析する

調査実施後には、結果を集計・分析します。結果の分析方法としては、項目ごとの合計・平均値を導く「単純集計」、条件を設定した上で傾向の違いを見る「クロス集計」、設問間の相関や因果関係を導く「構造分析」などがあります。必要なデータを得られるよう、これらの分析方法を適切に組み合わせましょう。

分析結果が出たら、改善策を検討・実施していきます。「従業員満足度が低いのは、どの項目か」「いつごろまでに改善するのが望ましいか」などを踏まえて施策の優先順位を決め、取り組んでいきましょう。

まとめ

従業員満足度が高まることで、「離職率の低下・定着率の向上」「業績の改善」「顧客満足度の向上」というメリットが期待できます。

従業員満足度は、「企業理念や経営者の方針」「職場や働き方の環境、人間関係」「人事評価とマネジメント」といった5つの要素からなります。そのため、「企業理念や経営方針の発信」「社内コミュニケーションの活性化」「公平性のある人事評価制度の構築」「ワークライフバランスの充実化」に取り組むことで、従業員満足度が向上するでしょう。

全ての施策を一度に検討・実施するのは難しいため、自社の実情を踏まえ、優先順位を決めた上で施策に取り組み、従業員満足度の向上につなげていくことをおすすめします。

(制作協力/株式会社mojiwows、編集/d’s JOURNAL編集部)

従業員エンゲージメントサーベイシート ~従業員のパフォーマンス向上のヒントがここに~

資料をダウンロード