2年で応募者200%以上増。ブランド戦略を提供する「ブラックな会社」に応募者が殺到する理由(ワケ)

d’s journal編集部

取材・データ協力:トゥモローゲート株式会社

何やら日本には「ブラックな会社」をキャッチコピーとして前面に展開する企業があるらしい。大阪に拠点を持つトゥモローゲート株式会社(本社:大阪市中央区/代表取締役:西崎康平)である。いったい何が「ブラック」なのか――。d’s journalの取材で見えてきたその実態は、採用を中心とした企業ブランディングを手掛ける“面白い会社”を目指す企業だった。加えてその“面白い会社”に入るべく、多くの入社希望者が集うことも分かった。同社の、人が集まる採用ブランディング戦略とはどのようなものか。それについて迫る。

「働くことは面白い」、ブラックな会社を目指すその理由とは

トゥモローゲート株式会社。ベンチャーマインド溢れる成長企業を対象にした、採用カテゴリーほかさまざまな企業ブランディング戦略をサポートする新進気鋭の企業だ。真っ黒なオフィス、真っ黒な資料など、徹底的にブラックカラーを推し進めているのが同社の特徴である。

「もともと創業者であり、現在の最高経営者である西崎康平が黒色を好んでいたことももちろんですが、色はさまざまなカラーが混ざり合うと黒色になりますよね。当社は沢山の個性が交じり合い、そして新しいクリエイティブを生み出せる場を目指しています。代表の西崎の言葉を借りると『働くことは面白いこと』。それを体現するため、あえて『ブラックな会社』をコーポレートカラーとキャッチコピーに採用して、前面に打ち出すようにしました」。

目指す会社のコンセプトをそのように説明してくれたのは、同社の人事総務部 サブマネージャー兼広報発信部 プロモーションディレクターを務める刑部美穂氏(刑部氏)だ。

同社は現在、大阪で事業を展開して、従業員28名(2021年5月時点)という少数精鋭ながら、これまでに延べ200社を超える企業のブランディグ戦略を手掛けてきた。主な事業内容は、企業ブランディング事業に加え、採用ブランディング事業のほか、就活イベント事業、人事交流会運営など。ブランディング活動全般をサポートする。世の中の常識に囚われない、”面白い会社づくり”を目指す「ブラックな会社」として、遊び心を忘れないさまざまなサービスに挑戦し続けているという。

そんな「ブラックな会社」を標榜する同社の働く環境も実にユニークなものである。例えば、コロナ禍において卒業旅行や謝恩会などを経験できなかった新入社員へ「卒業旅行休暇」を付与するといった制度の導入だ(※政府が旅行を推奨したタイミング(GoTo再開など)での取得を推奨)。

また、毎月最終月曜日は出社時間を少し遅く設定できるとして、前日や月曜の朝を有効活用しリフレッシュできる「ブラックマンデー」制度。同社のTwitterで発信した内容が1万リツイートされてバズれば1日休暇が付与されるという「バズ休」など。他社事例ではあまり聞かないような試みを多数実践している。

ほかにもさまざまな福利厚生や休暇制度を導入している同社であるが、これらはすべて社員からの提案で生まれたものだという。詳しくはトゥモローゲートのHPで確認してほしい。想像以上に真っ黒なページレイアウトや、ユニークな会社であることが伺い知れる内容になっているので、必見である。

ビジョンの浸透・共有で、ユニークかつクリエイティビティに溢れた社員を育てる

さて、このような面白い会社づくりを目指す同社の社員は、会社へのエンゲージメントも高く、さまざまな創造性を働かせ、自主・自立マインドを持った社員が多く活躍していると推察するが…。いかがだろうか。

「そうですね。すべての社員が自主性と自立性を持って活躍してくれていると思います。そのマインドを支えているのは間違いなく同社のビジョンマップです。トゥモローゲートのビジョンマップには、まず社名の由来やコーポレートカラーの説明に始まり、MISSIONの存在意義やVISIONの目指す方向性などが記載されています。また中期ビジョンはもちろんのこと、会社が目指す『「オモシロイとは何か?」』を詳細した、『ささる×あがる=ひらく』といった定義も明記されていますね。

また、このビジョンマップをベースにして社員は活動するわけですから、例えば、企画会議などでは『それ、ささってるけど、あがってないよね』といったコミュニケーションが社員同士で展開されるんです(笑)。当然ですが、当社がご支援させていただいているクライアント各社に対しても、ブランディング戦略を推し進める上で、ビジョンマップの策定をご提案するケースもあります」(刑部氏)。

まずは、会社の目指すビジョンを構築して、それを可視化することが組織デザインにおいて必要だと刑部氏は強調する。たしかに、社員が企業活動を実践する際、自分の所属する会社は何を目指しているのか、何を世の中に生み出したいのか、会社は世の中に何を実現させたいのかが明確になっていればいるほど、社員の活動は精度が上がっていく。それは同時に会社が社員を正確に評価する上でも重要な基準となるため、両者の相互理解や共有としては理想的である。

同社の掲げるビジョンは、“世界一変わった会社で、世界一変わった社員と、世界一変わった仕事を創る。”というもの。刑部氏は「世界で一番変わっていて面白い会社は?と言われた時に、真っ先に当社が第一想起されることが理想なんです」と答える。社員が面白おかしく働くことができ、モチベーション高い組織づくりを行うためにはやはりビジョンの構築が第一ということであろうか。

こうした同社の環境整備が、社員のエンゲージメントを向上させ、独創的なアイデアと工夫を凝らした数々の企画と実績を生み出しているという。例えば、夜中の12時からスタートする会社説明会「真夜中の、夜更かしセミナー」や、生き残りを賭けて戦うミッションクリア型選考「サバイバルミッション」など。こうした独創性ある企画を生み出すのも、前述の福利厚生や休暇制度の充実による心理的安全の担保に加えて、そしてビジョンの浸透が何より重要な要素となるのだそうだ。

わずか2年間で応募者数2倍。採用ブランディングの神髄とは

ビジョン構築とその可視化により、ユニークで面白い会社づくりを実現したトゥモローゲート。そうした取り組みの様子は社内外に広がっていき、採用ブランディングとしても有効に働いていった。同社が上記の取り組みを始めたのは約2年前。数々の採用ブランディングを推し進めていった結果、これまで新卒・中途併せて数人程度しか入社希望者が出なかった採用活動から、わずか2年で新卒・中途それぞれでその倍の入社希望者が集まるまでになった。現在では採用選考を毎月実施するほどの盛況だという。

入社希望者が集まる会社づくりの秘訣はどのようなポイントか。再び、刑部氏に解説してもらった。

「まず採用ブランディングには3ステップ存在すると言えます。まず1段階目として先述のビジョン構築と浸透があります。次に2段階目として、認知活動の注力。そして最後の3段階目として、実際の選考や面接などのフローの中で候補者には伝えられる限りの会社情報を開示するということ。つまり面接などで求職者の方が疑問に思う点や、働く上で懸念点があれば、可能な限りお答えしてオープンにしてしまうということです。

2段階目の認知活動について、もう少しご説明しましょう。当社が認知活動においてもっとも注力している発信チャネルは、TwitterなどのSNSとオウンドメディア。発信者は、社長はもちろんのこと社員一人一人です。これらのチャネルのテーマは、主に社員の働くマインドや仕事の中での気づき、学びなどについてです。その中には広告デザインの話や、働き方改革の話題、採用・面接のポイントなど多種多様な話題を取り扱っています。最近では、YouTubeやTikTokなどの動画メディアも鋭意展開中ですね。とにかく活用できるチャネルを駆使して積極的に露出しています。もちろん3段階目の情報開示にも有用に働いてきます。

こうした活動の甲斐もあり、新しくJOINされた社員の方にお話を聞いたところ、自分の採用活動をする前から当社のことを知っていたという人が、以前の2~3割から7割ほどにまで上昇していました。認知度向上のポイントは、トゥモローゲートのファンを増やすために社員個人のブランディングを実践していった点にありました。SNSなどを通して社員個人を世の中に知ってもらうことで『●●さんのいるトゥモローゲート』として認知されますので、そうなると会社そのものの認知度も倍々で向上していくという仕組みです」。

同社のHPの「メンバー紹介」ページに目を通してみると、たしかに社員一人一人のパーソナリティがよくわかるようなコンテンツが満載だった。特に、社員それぞれに「STATUS / SKILL」パラメータを付けて表現している点などは、初見で同HPに訪れた人でもインパクトを大きく与えられる。よくできた構成だと感じる。

このように採用ブランディングは、個人のブランディングを推し進めることと同義であることを、d’s journalに伝えてくれた刑部氏。俗人化したこのようなモデルは、やがて同社のクライアントへの提案にも活用され、ますます同社の躍進は世に知れ渡っていくだろう。

取材後記

今回のコラムのタイトルや冒頭に使用した「ブラックな会社」というワード。ここまで読んでいただいた読者には、それが世にネガティブな通称として知られる類のものとは程遠い存在であることがお分かりいただけたに違いない。日本一のユニークな会社づくりを目指す同社の環境であれば、そこに所属する社員のパフォーマンスも、相応に高いことが取材の中からでも感じ取ることができる。また同社が認知活動として活用しているTwitterなどのSNSは、ゼロ円マーケティング・ブランディング活動として有効なのはすでに周知の通り。人が集まる会社づくりの取り組みは、案外誰でも実践することができるノウハウの積み重ねであったりするのだ。

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取材・文/鈴政武尊、編集/鈴政武尊