“入社前に…”が成功のカギ!ブラックな企業人事が語る、入社3年以内の離職率0(ゼロ)%の秘密

トゥモローゲート株式会社

人事総務部 リーダー 浦下歩(うらした・あゆみ)

プロフィール

厚生労働省は本年4月より、中途採用比率の公表を義務化(※)。公表は、転職希望者が企業を評価する一つの指標となります。社員の離職や定着に悩む企業の人事・採用担当者は、自社の離職率を今後下げていきたいと考えるのではないでしょうか。
(※)常時雇用する労働者が301人以上の企業が対象

「ようこそ、ブラックな企業へ。」のキャッチコピーが目を引くトゥモローゲート株式会社はそのキャッチコピーとは裏腹に社員のエンゲージメントが高く、3年以内の離職率0%を実現しています。

採用倍率3500倍を超えることもある同社の人事総務部リーダー・浦下氏に、人が「集まる・辞めない」採用メソッドを紹介していただきました。

まずは会社のビジョンを整理し言語化

私は、離職率を下げる一番のポイントは、採用前の段階からミスマッチを防ぐ工夫を重ねることだと考えています。そのためには、まず自社がどんなマインドを持ち、何を目指しているのかを言語化することが必要で、それができていないと企業と応募者の意識の擦り合わせもできません。社内で自社のミッション・ビジョン・バリューを共通認識で持つために作った会社の「ビジョンマップ」が求職者に伝えるときにも活かされています。

(トゥモローゲート社のビジョンマップ)

 

ビジョンマップには、会社の存在意義や目指す方向、価値観、中長期の経営ビジョンなどを記載します。そして、採用説明会ではその内容を応募者に向けて具体的に説明して理解を深めてもらい、入社後も理念浸透を図っています。また、社員一人一人が自分のビジョンを達成できるよう、個人の目標に合わせて行動に落とし込めるようにもしています。

当社では、創業時こそ社員数も10名未満と少なく、暗黙のうちにビジョンを共有できていましたが、社員が増えるにつれて認識にずれを感じるようになり、ビジョンマップを作成しました。また、年に1回会社のビジョンを全社で確認し、さらに半期に一度、個人のビジョンを確認する場をつくることで、1年を通して進捗を振り返り、今後の目標を設定する機会を設けています。

経営トップ自ら、公で自社への情熱を語るべき

ビジョンマップは、企業ブランディングの出発点となり、そこから企業イメージを高める戦略を立てていくわけですが、その際注意すべき点は、伝える内容と実態の整合性があるかどうかです。伝える内容がいくら立派でも、会社の実態がそれとかけ離れたものだったら、入社して失望し、すぐに離職ということにもなりかねません。定着率を上げる一番の秘訣は、名実ともに魅力的な会社になることなのです。

企業ブランディングや採用ブランディングのツールとしては、SNSが非常に有効です。当社代表の西崎も、TwitterやYouTube、TikTokなどのSNSに取り組んでいますが、会社に最も強い想いを持っている経営トップがSNSで発信することで訴求力も高まり、応募者の認知度や会社に対する理解度も格段に上がります

当社では、代表だけでなく、ほとんどの社員が個人でTwitterに取り組み、社員それぞれが自由に発信しています。

唯一のルールは、特定の誰かを傷つける発言はしないこと。本音で発信することで、どんな社員がどんな思想で働いているのかがわかり、そこから当社のファンになってくれる人が増え、さらにミスマッチも減るのではないかと考えています。

“入社前オンボーディング”を徹底的にやる

採用プロセスにおいても、ミスマッチを避けるための工夫が必要です。会社が伝えたいことだけを発信すると、コミュニケーションが一方通行になってしまいがち。そこで当社では、顧客が商品・サービスを購入するまでのプロセスを描く“カスタマージャーニーマップ”を採用にも当てはめて、求める人材像を想定して何をどう伝えていくかを考えています。

選考段階では、自社のカラーが出るような独自の選考方法を取り入れたほうが良いでしょう。当社では、就活イベントなどでヘッドハンティングを行い、営業や企画職などのプロデューサーはスカウト選考、デザイナーやエンジニアなどのクリエイターはポートフォリオ選考と、希望職種に応じた選考フローを用意しています。

(トゥモローゲート社の本選考フロー)

 

プロデューサーの二次選考では、応募者が面接官役になり社員に質問する逆面接なども実施します。「オモシロイ会社」を目指しているのに、普通の面接しかしなかったら説得力がありません。応募者が各選考段階で感じるであろうことをくみ取ったプロセスにしているのです。

当社の選考フローは長く、4次選考を経て、社長会食で最終的な入社の意思確認をします。長いプロセスを通じて、応募者が当社の求めるマインドや能力を持っているかどうかをしっかり見極めると同時に、当社の仕事やどんな仲間と働くのかをよく知ってもらうことで、入社後にミスマッチが起きるリスクを最小限に抑えられます。

会社の魅力以上に現状の課題を包み隠さず伝えよう

ミスマッチを防ぐためにもう一つの重要なポイントは、会社の良いところだけではなく、悪いところも包み隠さず見せるということです。選考時に良いところだけを見せて採用しても、入社後には全てわかってしまいますし、それで社員が辞めるのでは意味がありません。当社では、あらかじめ自社の課題など厳しい部分もはっきり伝えています。

また、入社前後のイメージのギャップをなくすために、新卒・中途に共通して選考フローにあるインターンシップでは、各部署の社員が交代で対応し、参加者に1日を通して入社後携わってもらう業務を体験してもらうようにしています。たとえば、クリエイターの場合はWEBサイトを制作したり、プロデューサーの場合は企画提案や営業を行ってもらったりします。それによって、実際に当社で働くイメージが湧くと思いますし、職場のメンバーとうまくやっていけそうなのかどうかも見えてくるでしょう。

このように仕事の面白さだけでなく大変さもきちんと伝えることで、企業と求職者、双方にとって不利益となるミスマッチを減らしていくことができるのではないでしょうか。

当社は、今までお話ししてきたようなプロセスを、クライアント企業にも提供しています。一例として株式会社八百鮮さんをご紹介しましょう。ビジョンマップを作成するところからお手伝いさせていただき、「八百屋を、日本一かっこよく。」というビジョンの下、市原社長にはSNSで熱い想いを発信していただいています。

 

(株式会社八百鮮のビジョンマップ)

 

その結果、Twitterではスタート当初30人程度だったフォロワーが1万6000人に増え、WantedlyのPV数も日本一になりました。

必要なのは見せかけだけのかっこいい会社をつくるのではなく、中身から魅力的な会社づくりをしていくこと。ぜひ自社に合った採用やオンボーディングをつくっていただければと思います。

 

取材後記

社員の早期離職を防ぐため、多くの企業がオンボーディングに力を入れていますが、浦下さんは「離職率を下げるために重要なことの80%は、採用段階でのミスマッチを防ぐこと」と語ります。そのために求められるのは、名実ともに魅力的な会社になることと、会社の実態を包み隠さず伝えること。

確かに、小手先のメソッドに頼って人を集めても、イメージと現実のギャップが大きければ、失望が生まれるだけでしょう。自社のありのままの姿をしっかりと見つめ直すことこそ、エンゲージを高めるための第一歩と言えそうです。

写真提供:トゥモローゲート株式会社

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企画・編集/海野奈央(d’s JOURNAL編集部)、野村英之(プレスラボ)、取材・文/森 英信(アンジー)