シニア活躍とは 企業の人材施策と自律的なキャリアの方向性

法政大学大学院

政策創造研究科 教授
石山 恒貴氏

一橋大学社会学部卒業、産業能率大学大学院経営情報学研究科修士課程修了、法政大学大学院政策創造研究科博士課程後期課程修了、博士(政策学)。NEC、GE、米系ライフサイエンス会社を経て、現職。越境的学習、キャリア形成、人的資源管理などが研究領域。著書に、『日本企業のタレントマネジメント』中央経済社、『地域とゆるくつながろう』静岡新聞社(編著)、『越境的学習のメカニズム』福村出版、『パラレルキャリアを始めよう!』ダイヤモンド社、『会社人生を後悔しない40代からの仕事術』(共著)ダイヤモンド社等がある。

キャリアを考える上での環境変化
シニアのキャリア実態
企業の人材施策(良い影響を与えるマネジメント、阻害するマネジメント)
仕事の意味(意義)を自分でつくる重要性

労働力人口が減少する中、これまでの日本型の雇用の在り方は、見直しを求められています。各世代における自律的なキャリアへの対応をしつつ、70歳までの雇用機会の確保など、企業人事に求められる役割は他方面に広がっています。生涯を通じた自律的なキャリアの考え方と企業の人材施策について、シニアの活躍を考えるうえでの重要なポイントを踏まえながら法政大学大学院 政策創造研究科 教授 石山 恒貴氏にご講演いただきました。

石山 恒貴氏

キャリアを考える上での環境変化

日本は先進国の中でも急速に少子高齢化が進んでおり、労働力人口の年齢構成比を見てみると、2020年の時点ですでに45歳以上の比率が55.5%以上を占めています。これからさらに高齢化が進み、45歳以上の構成比は2/3以上へと高まっていくことが確実となっています。

労働力人口の年齢構成比の推移

キャリアに対する考え方・感じ方も変わってきており、パーソル総合研究所の1万人に対する調査によると、40代前半で「出世したいと考える人」よりも「出世したいと思わないという人」の比率が高くなります。さらに、45歳前後でキャリアの終わりを意識しはじめる人が多数派となり、日本の労働人口の半分以上の人が責任のある仕事を若手に任せ、つつがなく人生を過ごそうとキャリアの終わりを捉えてしまうなら、その状況は懸念されます。

40代でのキャリア観の変化

コロナ前までは、島型レイアウトオフィスでワイワイガヤガヤと仕事をしていたわけですが、緊急事態宣言以降、テレワーク・在宅勤務が一般化し、オンライン会議・チャットツールの活用や、サテライトオフィス・コワーキングスペースを利用する場面も一気に増え、今後は、場所や時間の制約から解き放たれた自由な働き方も環境変化として考慮しなければなりません。

一方、最近の研究・調査によると、言語能力や理解力、処理のスピードや直観力といった2種類の知能は、いずれも60歳ぐらいまで上昇・維持されるといわれています。

◎結晶性知能:言語能力、理解力、洞察力など
◎流動性知能:処理のスピード、直観力、法則を発見する能力など

また、高齢期の知能の加齢変化には、「抑うつ的にならないこと」「経験への開放性が高いこと」、つまり、「楽観的に物事を捉えること」「好奇心をもって挑戦し続けること」がポジティブな影響を与えると指摘されています。

大事なことは、「自己成就予言」に陥って、低い期待を低い成果として実現してしまわないことです。自分の未来に対する自己肯定感の高さが大切ですし、職場もシニアだからという理由で低い期待をすることは避けなければなりません。

自己成就予言

シニアのキャリア実態

40代以上のミドル・シニアに対する仕事の幸福感について一般社員・管理職・役職定年・定年再雇用に分けて実施した調査によると、仕事に対する関心と好奇心の高さが幸福感に大きな影響を与えていることがわかりました。また、仕事に対する熱意に対する調査においても、職場で自由に意見を言うことができ、主体的に工夫して仕事をつくることがプラスの影響を与えることがわかっています。

ミドル・シニアと幸福感

パーソル総合研究所と実施した40代社員4,700名に対する調査の中で、40代以上の活躍している社員の行動特性を洗い出したところ、以下の5つのポイント「自走する力 PEDAL(ペダル)」が見えてきました。

~40代以上の方で活躍している人の行動特性~ 自走する力 PEDAL(ペダル)
※パーソル総合研究所40代社員4,700名調査

PEDAL(ペダル)
・まずやってみる(Proactive)
・仕事を意味づける(Explore)
・年下とうまくやる(Diversity)
・居場所をつくる(Associate)
・学びを活かす(Learn)

具体的な調査結果を見てみると、50%以上の方は高いレベルで行動ができていることがわかります。この調査は行動特性に関するものなので、「伸び悩みタイプ」の約40%の方が、PEDALの5つの行動を、ちょっとずつ改善すれば90%近い方が高いパフォーマンスを発揮できる可能性があるとも言えます。

ミドル・シニアの5タイプ

最近では、【パラレルキャリア】に代表されるように活躍の場は必ずしも職場だけでなく、職場以外での活躍が仕事にポジティブな影響を与えることもわかってきています。

【パラレルキャリア】
◎有給ワーク:雇用、自営、兼業副業など
◎家庭ワーク:家事・育児・介護など
◎ギフト地域ワーク:ボランティア地域活動NPO社会活動など
◎学習趣味ワーク:学び直しなど

<50代のパラレルキャリアの事例>

大学卒業後、技術者として住宅総合機器メーカーに勤務。
50歳を越え人事部門に異動。52歳でキャリアコンサルタントの資格を取得。
社内にキャリア相談室をつくりたいと考え、社外の様々な人に相談、人脈を広げる。
その後、ファシリテーションスキルやコーチングなどの勉強を進み、
在籍出向により地域の団体や大学との交流など、興味関心を起点にネットワークが広がる。
57歳で仲間と一緒に合同会社アットキャリア(@CAREER,LLC)を設立。
60歳を機に定年再雇用を選択せず、上記法人を軸に第2の人生をスタート。

興味関心を軸に小さな一歩からはじめることで、これまで気づいていなかった自分のやりたいことや強みを理解することができます。一度、「手も足もでない場所」で客観的に自分自身のできること・できないことを振り返ってみることが大切です。

<キャリアを考えるポイント>
・「つぶしがきかない」という思い込みをなくす
・「やりたいこと(価値観)」の棚卸し
・今までの経験(マインド)の学習棄却

まずはやってみて、価値観(仕事の意味付け)を振り返り、年齢に関係ない(年下とうまくやる)姿勢で、人と人のハブ(居場所)をつくり、これまでの学びをいかすことが未来につながるはずです。

企業の人材施策(良い影響を与えるマネジメント、阻害するマネジメント)

上司マネジメントのエンジン・ブレーキ

ミドル・シニアの活躍(先述の5つのPEDAL行動)を促進する上司マネジメントの統計調査では、「自分のやり方で仕事を進めることを認める」「責任のある仕事を任せる」「自分自身を振り返る機会を与える」の3つがプラスの影響を与えるということがわかりました。逆に、個人の課題を明確に指摘したり、些細なことでも声をかけ指示をしたりすることは、ミドル・シニアの自律的な行動を阻害する要因になりかねません。

ミドル・シニア世代の自律に対して先進的な取り組みをしている前川製作所では、以下のポイントを重視し、具体的な制度などに反映し、キャリアの支援をしています。

◎自分のキャリアを棚卸し、本当の自分を理解
◎自分にあった、自分らしい、やりたい仕事がはっきりしている
◎指示されて働くのではなく、自発的に行動
◎自分がやりたいことと、現役世代が期待していることを合致させている
◎現役世代との間に、一緒にやっていこうという期待と支援の関係を整えている

前川製作所の高齢者の自律性の特徴

仕事の意味(意義)を自分でつくる重要性

仕事は会社から与えられるものという考えから、自ら仕事の意味(意義)を見出し、自律的にやりたいこと・取り組むべきことをつくり出すべきものへと発想を転換することが求められているのではないかと思います。

職務設計VSジョブ・クラフティング

以下は、『地域とゆるくつながろう』(静岡出版社)の第7章の事例です。

◆加藤製作所:ボーイング787の部品などを製造している航空機部品メーカー<岐阜県中津川市>

シニア世代(60歳以上)の新規採用を実施。主体的に学び、成長する人材の獲得の成功事例。

定年はもうひとつの新卒。
意欲のある人求めます。男女問わず。
ただし年齢制限あり。60歳以上。

同社の成功事例もあり、岐阜県中津川市エリアでは、他にも同じようなミドル・シニア世代活躍の事例が増えています。

◆(株)サラダコスモ:発芽野菜(スプラウト)の製造・販売を手掛ける企業

同社の教育・観光型生産施設(食のテーマパーク)「ちこり村」で活躍するスタッフは約半数がシニア社員になっています。西洋野菜ちこり焼酎などの業務も、未経験だったシニア社員たちが担当しています。

ミドル・シニアだけを特別扱いするのではなく、ミドル・シニアも成長しつづけ、第一線でみずから積極的に取り組んでもらえる環境を整えることが重要です。人事部が中央集権的に職域・職務を設定するのではなく、現場・上司・本人が三位一体となって職務を再創造することが今後さらに大事になってくると言えるでしょう。

【取材後記】

「ミドル・シニア世代は好奇心がなくなり、経験があるからもう学ばなくていいと考えるようになる」、このような年齢に対する偏見があるのではないかと石山教授は指摘されています。講演の中では、年齢に関係なく、成長することが本人の一番のやる気につながることがメッセージとして貫かれていました。一人ひとりの好奇心や強みに目を向け、どんなに年上の人でも必ず成長できるのだという心の持ちようが大事である、自律的なキャリアについて様々な気づきが得られる時間となりました。

【協力】
株式会社パーソル総合研究所

取材・文/白水 衛、編集/白水 衛