中高年社員、仕事で成果創出は全体の約20%――。「働かないおじさん」と言われないために【3/3】

d’s JOURNAL編集部
働かないおじさんはなぜ誕生するのか
まずはもう一度、自分に問い直す(What you do?)
その努力は給与アップにつながっているか
最後に -意識改革、キャリア自律とその支援を-

2021年4月に「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」の改正法が施行される。65歳から70歳までの高年齢者の就業確保、年金受給年齢の引き上げなど、いま企業のミドル・シニア人材の活用と、その渦中にいる就業者の行方が問われている。シリーズ「ミドル・シニアのキャリアの行方」も今回で最終回。メンバーシップ型雇用からジョブ型雇用への転換。そして今後は40代で昇給ストップが当たり前になるという世界において、ミドル・シニア人材はどこへ向かえばよいのか。今回もパーソル総合研究所の石橋氏の提言を交えながらそのキャリアを探っていく。第2回はこちらから。


働かないおじさんはなぜ誕生するのか

就労70歳時代の幕開けとなる「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」の改正法が21年4月から施行される。それにより定年引き上げ、継続雇用制度の導入、定年廃止、労使で同意した上での雇用以外の措置など企業側にも努力義務が発生する。長く働けば働くほど、安定した給料とポジションが約束され、かつ上昇し続けるという終身雇用の絶対神話はいまや昔の話。若年層だけでなく、30代や40代以降の生活水準を老後まで維持するためには、これまで安定の立場にいたはずのミドル・シニア人材でさえ、スキルを磨き、お金を貯めて、増やしていくことが求められるようになったのだ。

日本型雇用・終身雇用を採用する代表企業であるトヨタ自動車の豊田章男社長からはこんな発言があった。「もはや終身雇用を維持するのは難しい」。かつては大企業の総合職の出世コースから外れた人材でも、年収で1000万円以上はあった。このため働くモチベーションは低くてもそれでもやめるという選択肢はなかった。しかし、その高賃金が今やボリュームゾーンとなった、40代50代のミドル・シニア層を多く抱える企業の人件費を圧迫する。大企業だからと言って現行の雇用制度を維持したままでは将来が見えないのだ。一方で、この状態を企業が解決すると組織内で昇進・昇格の可能性に行き詰まり、あるいは行き詰まったと本人が感じて、モチベーションの低下、ひいては能力の低下までも起こしてしまう。賃金やポジションの限界を組織が解決しても、個々の社員のモチベーション、能力の低下という別の問題が浮上している。


 
こうした中でクローズアップするのが、戦力として活躍している社員と、戦力外となってしまっている社員の二極化である。パーソル総研の調査においては、ミドル・シニア社員において、ジョブパフォーマンスを発揮している社員の割合は全体の約20%程度にしか過ぎないという。相対すると高処遇であるにも関わらずジョブパフォーマンスを発揮できていない、いわば”お荷物”とみなされつつあるミドル・シニア人材。いま個人個人がそのアイデンティティの再構築が求められている。パーソル総合研究所の石橋氏は以下のように説明する。

「大企業でキャリアを積んできたミドル・シニア人材の方は、名刺交換や自己紹介の時にどのように自分を表現するでしょうか。おそらく『●●会社●●部の●●です』と、このように答えるはずです。これまではどういう会社に属していて、組織のなかでどのような地位にあるのかが自分のアイデンティティであることを示します。またこれこそがメンバーシップ型雇用の特徴です。しかし時代はジョブ型雇用に変わりつつあります。どこで何をしているかより、エンジニア、ジャーナリスト、アカウンティングマネージャーといった、どんな仕事をしているかが重要になるわけです。つまり所属している会社やポジションではなく、担っている仕事にプロフェッショナリティ、アイデンティティを求められる時代です」。

漫画「課長 島耕作(1983年~1992年)」をご存知の読者も多いだろう。主人公の島耕作は、劇中で「初芝電機の課長です」と名乗っている。この自分=所属する組織とポジションの意識は、日本全体に染みついている概念でもある。また、出入国カードの職業欄に「会社員」と記載した人も少なくないだろう。しかし石橋氏が説明するように、会社や組織に依存したアイデンティティであると、会社に居続けられなくなった際や組織が再編等されて拠り所がなくなった際、自分のアイデンティティを見失う可能性が高い。変化が激しいこれからの時代においては、”働かないおじさん”と呼ばれないためにも、自己の強みや価値観に根差した仕事のアイデンティティが問われるのだ。

法律も改正され70歳になっても働ける時代にはなった。雇用先あり、収入源があるということは、人生100年時代を迎える日本社会に生きる私たちに喜ばしいことのように思える。だが、これから働く社員に待ち受ける現実は右肩上がりの賃金でもポジションの段階的な上昇でもない。少なくとも賃金は55歳前後で賃金ピークを迎えるし、定年延長やジョブ型雇用の導入に伴い、若手、中堅世代においても担っている仕事によっては賃金も従来に比べると引き下げられてしまう可能性もある。こうした中では同じ組織に留まり、明示されたままに働き、異動を繰り返すことで賃金・ポジションが上昇するというイメージでいると、長期滞留(キャリア・プラトー※)の落とし穴にはまって抜け出せなってしまう。

実際に、相対的な序列でしかキャリアを意味づけられていない人においては、長期滞留に伴ってモチベーション、能力が低下することに伴いパフォーマンスが低下する。これにより会社からはお荷物だと揶揄されながらも会社にしがみつかざるを得ない。確かに彼らにしてみれば、入社した時に約束されていた年齢上昇に伴うアップキャリアが反故にされたために契約不履行だと愚痴の一つもこぼしたくなる。ある意味では時代の変化に伴う犠牲者ともいえるからだ。とはいえ状態を嘆いても状況は変わらない。そのために必要となるのがリカレント教育、つまり学びなおしである。

(※)キャリア・プラトーとは…キャリアが高台に乗り上げてしまい停滞期に入った状態のことを指す。組織内で昇進・昇格に行き詰まり、モチベーション低下や能力開発機会を失うこととして問題になっている


まずはもう一度、自分に問い直す(What you do?)

それでは企業にとって“お荷物社員”“働かないおじさん”と呼ばれないためには何が必要だろうか。

「かつて1998年、不良債権の処理などに約8兆円の公的資金を使った日本長期信用銀行(現 新生銀行)の経営破綻。その犠牲者となったのは当時の40代50代の人材でした。彼らは長信銀という金融業界の中のエリートでありながら、総合職というあいまいで専門性を明確にしないキャリアであったために従来の経験を活かし、処遇を維持できるような行き場を失ってしまいました。想定外変化が生じることが頻繁に起こる中で、キャリア自律の必要性が叫ばれだしたのもこの頃からです。

現在では、給与や退職金、年金に頼った生き方をしている時点で老後格差が開いていきます。それを肌身で感じている20代など若年層ほどキャリア形成、資産形成=キャリア自律している時代です。銀行破綻での事例があるにも関わらず40代以降の人材は何もしていない人が多い。これは日本特有です。ワークシフトが一番できていない日本が先進諸外国の中でも断トツの高年齢化の先頭を走っているのです。これは極めて憂慮すべき状況です」(石橋氏)。

ご存じのように米国ではジョブ型雇用であり、同一労働・同一賃金の人事制度を採っている企業が少なくない。世界的に見てもジョブ型雇用が主流であり、賃金の上昇はより高報酬のジョブに変わるしかなく、ジョブが無くなるときは雇用も失うことを意味します。こうした中で、個人は自己責任を前提としてキャリアを考えていくことになります。日本においては、これまで定年まで会社に下駄を預けて言われるがままに働くことを是としてきましたが、これからの時代は「有限性を認識して自問自答する」ことがキャリア自律においては有益な手段なのだ、と石橋氏は説明する。

まず自分のスキルや経験が、ほかの会社だったらどんな賃金なのかを調べることから始めると良いでしょう。いまは賃金比較サービスサイトもありますし、単純に求人票を見比べてみてもいい。その上で年収比較など自分の気になった会社がどのような業務や仕事ができるのかを関心を持って見てみるのもいい。まずは自分自身の棚卸を行ったうえでそこに対する市場価値に興味を持つことです」(石橋氏)。


 
しかし単純に年収比較だけしてその会社に興味を持つことや転職活動を行うことはおすすめしないと石橋氏はくぎを刺す。一般的に給料を上げるためには2つの手段を試すべきだそうだ。

・経歴を棚卸した上で、どのような価値貢献が出来るのかを相手目線で表現する(職務経歴書をブラッシュアップ)
・今いる会社以外に多様なネットワーク・場を持ち、そこで専門性を磨く

1番目は、職務経歴書をブラッシュアップして、アタックすべき会社に合わせたスキルやキャリアを積み上げていく手法。そして石橋氏の推奨が、2番目の「多様な場で専門性を磨いていく」場の積み重ねにあるという。企業が求めているものは実践力。これを高めていくためには、多様な人間と働く場をもち、その中で専門性やポータブルスキルを磨いていくのだ。そもそも市場価値というものは相手が決めるもの。多様な人と働くことにより、相手に応じた価値発揮の仕方を身につけていくのだ。その上で自分の仕事やスキル・経験は、全く異なる業界や職種、身近な団体でも活かし得るはずだと自覚することが大事なのだという。

その手段一つが副業(複業)だ。現在所属している会社の仕事はメーンでこなしながらも、副業(複業)という形で自分の価値付けを社内だけでなく、社外にも作っていくということである。特に副業(複業)で大事なことは、越境体験(自分とは異なる組織の人と働く、アウェイな場で働く)をすること。この経験を積むことで業界や今の組織に限定せず、自分のバックグラウンドを活かして働くことができる可能性を発見する。同時に、自分の持っている経験が異種の人における「不」を充足させる(アンメットニーズを満たす)可能性にも気づくことになる。これは業界や職種という狭い視野での活躍という軛から解き放たれていくことにもつながるのである。

『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)―100年時代の人生戦略』を執筆したイギリスのリンダ・グラットン氏によると、人生100年時代における“マルチステージキャリア”の概念を提唱されています。詳細は割愛しますが人生100年の中で自分のキャリアを考えると、現在のミドル・シニアの方は残り40年~50年くらいあるわけです。そう考えると同じ会社、つまりシングルステージで人生を全うできる人はほとんど存在しません。ですから、時代の変化に対応したマルチステージライフを一人一人が考えて実現していかなくてはならないというわけです。もちろん時代の変化に流されるだけではいけません。自分に対する知識(アイデンティティ)を持ち、有形資産、無形資産の蓄積を継続的に図っていくことが重要というわけですね」(石橋氏)。

特にマルチステージライフにおいては3つの無形資産が重要になるという。

変身資産…気づき、成長、挑戦の機会を与えてくれる多様な人的ネットワークを持つ
生産性資産…仕事をする上で必要とされる専門スキル、経験に加えたポータブルスキル
活力資産…肉体の健康の維持に加え、精神的な豊かさをもたらすための趣味や仲間

特に変身資産については、自分のキャリアの身元保証や価値保証をしてくれるキーマンを増やすことが大事だ。例えばSNSなどのフォロワー数がその代表例だ。キャリアが広がるかどうか、その人物についての口コミがあるとそれ自体に価値が出てくるように。つまり人的ネットワークの形成が資格を取る事よりも大事になってくる時代なのだ。

「スタンフォード大学などに在籍されておられるジョン・D・クランボルツ教授に学ぶキャリアデザイン『計画的偶発性理論』」という考え方が注目されています。個人のキャリアの8割は、偶然の出来事によって決定されるそうです。あえて明確なゴールを定めず、その時の偶発的な要因によってキャリア形成してもいいわけです。副業(複業)の効果はまさにこれです。キャリアの再発見ができるとともに、人的ネットワークが広がることで、自分で計画するより大きなキャリアアップの化学反応が望めるというわけです」(石橋氏)。


その努力は給与アップにつながっているか

「プロフェッショナル」。つまりその道を極めていくことに忠誠を誓うこと。会社から与えられたキャリアではなく、「職務」に忠誠を誓い究めていくこと、さらにフィールドを限定せずに多様な場所で活躍できること。これらが変化の激しい今の世の中におけるキャリア自律に必要な前提である。「メンバーシップ」から「プロフェッショナル」へ。これがミドル・シニア人材が活躍するために必要なキーワードになることはご理解いただけただろうか。つまり会社という軸で物事を考えるのではなく、社外にも通用する「プロフェッショナル」として継続的な能力の研鑽が必要であるということだ。しかし一方で、能力の研鑽ということに対して、やみくもにビジネススクールに通ったり、資格取得のための勉強をしていては駄目だということも改めて認識してもらいたい。

「そもそも、自分の成長を目的として行っている勤務先以外での学習や自己啓発活動という「学び」の状況を見ると、日本の社会人は学びを行っていません。全年代を通じて約半数が学びから遠ざかっています。また、学んでいない人の割合は、年代が上がるごとに上昇していきます。これは、学習や自己啓発活動を行わなくても所属する会社での評価や給与アップが行われているという現実があるからです。

一方で、今後ジョブ型雇用にシフトするとともに、職務の遂行要件に求められる能力がない場合は給与アップが出来ません。学びは給与を挙げていくという観点でもより重要な行動になっていくからです。そして、学校に行くことや資格に行くことが、能力向上につながるわけではありません。職務の遂行において「資格」や「学歴」が要件になるケースは少なく、多くは『コンピテンシー』と呼ばれる遂行能力が要件となるケースが多いからです。

これは、資格取得や学校に通うことで向上する能力ではありません。現状の日本社会では、職務遂行能力の向上につながらない”学び”を行う方が非常に多い。ジョブ型雇用が主流である米国を見てみると、『自分はどうなりたいのか』『いくらぐらいの給料がほしいのか』を、自分で明確にした上で、就きたいジョブ、必要とされる経験・能力を自覚している人が少なくありません。それは自分の学んだスキルや経験で評価や給与に大きく反映されるからです。その上で、職務経歴書に記載できる経験や学歴のための行動を主体的に行っているのです。

これまでは会社が用意してくれる研修をこなせればそれなりの給与とポジションは保証されました。しかし時代は変わってしまった。実はキャリアの自律を阻む阻害要因の多くは、同じ組織に囲い込んで組織に命じられるままに異動、業務遂行を行うことを是とした日本の人材マネジメントであり、同じ組織に留まっていれば雇用も給与も保証され上がっていくであろうという自分たちのキャリアに対するイメージそのものだったのです。ですから「学ぶ」ことに対して先述のような意識が必要ですし、雇用側である企業の課題としても主体的に学び成長する人が損をしない仕組みを作る必要があるということです」(石橋氏)。

ジョブ型雇用では個々人の業務遂行範囲や期待成果が明確になるためともすれば範囲外の領域については積極的に介入しなくなるという会社から見ればデメリットの側面もある。とはいえ、ビジネスパーソン個人としては、「自分は、この仕事やスキルでは誰にも負けない」という内外での評価を作っていく必要があるだろう。またジョブの能力を高めていくためにはゼロイチの転職ではなく、パラレルキャリアという発想も大事だ。


 
「経験で培ったものを根拠に、何もしない、何も動かないことに対して一番リスクが高いという時代になりました。どうせ変わるのなら自ら働きかけていくことが時代にマッチしています。つまり次の段階へと移行するトランジションを自分で興す。また、仮に出向という辞令が我が身に起こった時でも絶望しないでください、と言いたい。これまでとは違う価値観やスキル、経験を持った人と関われるので改めて自分の価値を見直す越境体験をできるまたとないチャンスでもあるからです。

そこで相手における未充足のニーズと自身の貢献価値を発見し、ポータブルスキルを磨いていけば、それが活きた学び直しとなります。今の時代にリスクが高いのは社内にしか通用しない専門家です。コンピューターで言うと専門性はアプリケーションであり、OSがポータブルスキルという位置づけになりますが、OSが強い方が様々なアプリケーションが載るから有利であります。またポータブルスキルは、越境体験によって磨かれるスキルでもあります。ですから、自らのOSをアップデートする感覚で取り組むといいでしょう」(石橋氏)。

最後に -意識改革、キャリア自律とその支援を-

組織の高齢化、人件費単価の高いミドルシニア社員の増加に伴う総額人件費のコントロール、働くミドル・シニア人材のキャリア自律とパフォーマンス向上にむけた行動の在り方。就労70歳、人生100年時代と言われる現代。労働生産性が低い日本においてはどちらも喫緊の課題であるのは明白である。日本においては年功序列のイメージが色濃く残る中でジョブ型雇用とエイジ・ダイバシティをいかに推し進めていくのか。個人はメンバーへのコミットではなく、ジョブに忠誠をもったプロフェッショナルとして学び続けていく必要がある。これらはそれぞれ個別に考えていく問題ではない。人材マネジメントはエコシステムであり、すべてが連関するものである。こうした前提をもとに組織、個人がシフトしていく必要性と方向性をここに提言したい。


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取材・文/鈴政武尊、編集/d’s JOURNAL編集部