テレワーク環境でも活躍できる体制へ。障害者採用を成功に導く「3つのポイント」とは

2021.12.21
株式会社スタートライン

マーケティングディビジョン コンテンツチーム リーダー 吉田瑛史(よしだ・えいじ)

企業の障害者雇用支援や障害者の就職・転職支援、特例子会社人事、障害者雇用の業務開発・マネジメント・農福連携などを経験。現在はスタートラインにて、障害者雇用のコンテンツ制作やセミナー講師などに従事。これまで300社、3000名以上の障害者雇用に携わる。

テレワークによって障害者の課題が一気に解決できる場合も
客観的事実で判断できないなら、安易に採用してはいけない
「緊急ではないけど重要」な業務を切り出す
障害者の心理的安全性を高める3つのポイント

コロナ禍の影響を受け、障害者雇用においてもテレワークを活用した新しい働き方が広がっています。

パーソルチャレンジの調査(※)では、コロナ禍で半数以上(51.6%)の障害者が在宅勤務体制となったことがわかりました。そうした中、障害者の就業に対する不安として最も多かったのが、「体調、健康」(44.2%)で、実生活に直結する「生活・収入」(42.0%)、「就業継続」(32.7%)が続きます。一方では、理想の働き方として「在宅勤務とオフィスへの出社の併用」(35.0%)が最も多く、また、前年比最も増加したのは「仕事と家庭を両立させてはたらきたい」(9.6%。前回比+3.4%)で、今後もテレワークが働き方の選択肢として求められていることもうかがえます。

(※)パーソルチャレンジ「新型コロナウイルス感染拡大による障害者のはたらくへの影響調査」(2021年8月実施)

採用時のミスマッチを防ぎ、テレワーク環境で障害者に活躍してもらうためには何が必要なのでしょうか。障害者雇用支援を手掛ける株式会社スタートラインの吉田瑛史氏に聞きました。

テレワークによって障害者の課題が一気に解決できる場合も

――多くの職場でテレワークが導入されるようになりました。障害者雇用や職場のマネジメントには、どのような影響が出ているのでしょうか。

吉田氏:大きな意味では、障害者も健常者も置かれている環境に違いはありません。緊急時にはテレワークで対応したり、感染者数の減少によって出社したりと、揺らぎのある中で働いているのだと思います。

テレワーク環境でのコミュニケーションの課題なども健常者と同じですが、障害者は心身が不安定になりやすかったり、モチベーションへの影響度合いが大きかったりする場合があります。働く環境の変化によって、休職を余儀なくされるほどに落ち込んでしまう人もいることを念頭に置いておくべきでしょう。

――障害者がテレワークをすることにメリットはあるのでしょうか。

吉田氏:身体障害の人はもちろん、精神障害や発達障害の人でも、通勤面に課題を抱えていることが少なくありません。たとえばパニック障害の人は、閉鎖空間となってしまう電車通勤が大きな負担となることもあります。こうした方々にテレワークを導入すれば一気に課題解決できる可能性があります。

一方でテレワークをするとなれば、オフィスへ出勤するメンバーと比べて、より厳しくセルフマネジメント能力が問われることになります。業務面やモチベーション面、生活面、体調面。これら全てをセルフマネジメントできることが前提となるので、対象者の見極めが重要だと思います。

客観的事実で判断できないなら、安易に採用してはいけない

――テレワーク環境で活躍してもらうことを念頭に障害者採用を行う場合、人事・採用担当者はどのような点に留意して面接・採用を進めることが望ましいのでしょうか。

 

吉田氏:大前提となるのは、障害の種類ではなく「その人自身」を見極めることです。障害についての知識がないと「発達障害の人はこう」「精神障害の人はこう」などと、障害の種類でひとくくりにしてしまいがちですが、それは大きな間違いだと思います。

その上で、いかにしてセルフマネジメント能力を見極めていくのか。ポイントは一つしかなく、「客観的事実を確認すること」に尽きます。

――客観的事実とは。

吉田氏:たとえば「私は今、心身ともに安定しています」と話す採用候補者に対しては、どれくらいの期間安定した状態が続いているのか、その状態を維持できる要因は何なのかなどを、「経験」つまり「客観的な事実」から確認する必要があるということです。

双極性障害や統合失調症などの精神障害がある人の場合、一度は体調を崩して医師の診断を受けているわけです。そこからどう回復してきたかのエピソードを聞くことも大切です。本人は「通院し、服薬もしているので大丈夫です」と話すことが多いですが、働いていない状態でのストレスと働いている状態でのストレスは当然違います。朝7時に起きて、仕事の指示を受け、上司からマネジメントされ…。そうした仕事のリズムを想定しても大丈夫なのか、客観的事実をもとに判断していかなければなりません。

人事・採用担当者は、相手が「大丈夫」「できる」と言っていてもすぐに信じてはいけないのです。こう言うと「冷たい」と思われるかもしれませんが、健常者を面接する場合にも、採用候補者の言うことを全てうのみにはしませんよね。

――とは言え、「実際に働き始めてみないと適応できるかわからない」という人もいるのではないでしょうか。

吉田氏:そうですね。完璧な人を求めようとしても難しいです。

重要なのは、自社の現状の受け入れ体制でどこまで許容できるのかを判断することではないでしょうか。「やってみないとわからない」という人でも、配属予定部署の業務のストレスが比較的軽く、周囲の受け入れ体制もしっかりしている状態なら、一緒にチャレンジを始めてもいいと思います。

一方で、自律自走が強く求められる業務や職場では、安易に採用を決めるべきではありません。人事・採用担当者にも覚悟が必要です。

これは残念なことですが、法定雇用率の達成に向けて採用数を優先する企業が少なくないという現状もあります。それでうまくいかなかった場合に、本人はもう職場復帰できないくらいのダメージを受けてしまうこともあるのです。それを考えると、冷たいとか厳しいとかではなく、安易に採用してはいけないのだと思っています。

「緊急ではないけど重要」な業務を切り出す

――配属予定部署の業務や周囲の受け入れ体制を変えれば、障害者が活躍できる可能性が高まるとも言えるのでしょうか。

吉田氏:おっしゃる通りです。ポイントは「業務フロー構築」と「マニュアル作成」、それに「チェック体制」。業務を棚卸しして、属人化している業務を平準化し、誰が見てもわかるマニュアルにする。そうして障害者が担当できる業務を切り出し、チェック体制を整えていけば、その職場で活躍できる対象者は飛躍的に増えるはずです。

――実際に業務切り出しなどの見直しを行い、障害者雇用を進めている企業の事例をお聞かせください。

吉田氏:ある企業では、契約書類のデータ化など「緊急ではないけど重要」な業務を切り出して障害者に対応してもらっています。紙の契約書の存在はテレワークを阻害する要因となるため、こうした業務を切り出して進めることで、全社的な業務改革にもつながっています。

また、中小企業では全体的に、最初の一歩として人事系業務を切り出すことが多いですね。入退社関連や社会保険など、労務手続きにおける書類対応やデータ入力などの仕事がたくさんあるためです。こうした仕事は毎月定例で発生するので、切り出しを行うことには大きな意味がありますよね。

 

――「まず人事から始める」ことも有効なのかもしれませんね。

吉田氏:「障害者雇用を正しい形で進めたい」という思いを持っている意味では、まさに人事から始めるべきなのかもしれません。

逆に、一番やってはいけないのは、「定例業務があるんだからおたくの部署でやってよ」と、障害者雇用に前向きではない部署に押しつけてしまうことです。大企業ではトップダウンで「各部署1名ずつ雇用せよ」といった形で推進するケースもありますが、障害者雇用に前向きではない部署を無理やり巻き込んでも、ほとんどの場合はうまくいかないでしょう。

障害者の心理的安全性を高める3つのポイント

――長く障害者に活躍してもらうために、マネジメントにおいてはどのような点に留意すべきでしょうか。

吉田氏:働く本人にとっての心理的安全性を構築することが重要だと考えています。私が考える障害者雇用においての心理的安全性とは、以下の3つです。

①明確な担当業務があること
先ほども少し触れましたが、法定雇用率達成に迫られて業務がないのに採用してしまうことは絶対に避けるべきです。「いるだけ社員」になることは、本人にとって大きなストレスとなります。

②本人に合わせた報連相の体制があること
困ったときに相談できる方法があることも大切です。テキストのやりとりでいいのか、口頭の補足が必要なのか、もしくは定期的に報連相の時間を設定するべきなのか。「これでOK」という一律の基準はないので、本人に合わせて無理のない方法で対応していただければと思います。

③普通に接すること
「障害があるから」「コミュニケーションが大変だから」などと、過度に気を使う必要はありません。普通に接していくことが大切です。私はよく「障害者が入社した際には自己紹介してもらっても大丈夫なのか?」「歓迎会を開いてもいいのか?」といった相談を受けますが、「チームの習慣に合わせて普通にやってください」といつも答えています。普通に接する中で相談しやすい環境ができ、業務を進める上で必要な配慮も明確に見えてくるはずです。

最近ではジョブコーチや社会福祉士、看護師などの専門家を職場に置く企業も増えていますが、どれだけ専門家が社内にいても、心理的安全性が低い職場であれば障害者が離れていってしまうでしょう。

上記の3つはオフィスに出社して働くときはもちろん、テレワーク環境においても変わらず、心理的安全性を高めるための重要なポイントとなります。特別な費用がかかるわけではなく、中小・中堅企業でも取り組みやすいはず。こうした本質を押さえて、無理のない形で障害者雇用に取り組んでいただきたいと考えています。

 

取材後記

インタビューでも話題に上った法定雇用率。2023年にはその見直しが予定されており、さらに引き上げられる公算が高まっています。吉田氏によれば「民間企業の障害者雇用の『なり手』は現状でも4万人不足しており、法定雇用率が引き上げられた際の予測値は9万人の不足となる」とのこと

今後はさらにダイバーシティ&インクルージョンやSDGsなど社会的な動きも加速し、障害者の働く選択肢が幅広くなり、働きやすい環境づくりが進むことが見込まれています。そのため人材の獲得競争はますます厳しくなっていくことでしょう。自社ではどんな人が活躍できるのか。どんな体制であれば活躍できる人を増やせるのか。障害者採用要件の見直しと受け入れ体制の変革は、今すぐにでも着手すべきなのではないでしょうか。

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企画・編集/白水衛(d’s JOURNAL編集部)、野村英之(プレスラボ)、取材・文/多田慎介

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