中途採用者数が10年で20倍。多様化が進んだ村田製作所、変革の原点となった「2000年代の危機感」

株式会社村田製作所

コーポレート本部ESG・HR統括部 人材開発部 部長 
早田 雄一郎(はやた・ゆういちろう)

プロフィール

世界的な需要の拡大が続くセラミックコンデンサ(キャパシタ)。株式会社村田製作所(本社:京都府長岡京市、代表取締役会長:村田恒夫/代表取締役社長:中島規巨)は、堅実な生産・販売活動で売上を伸ばし、業界のトップシェアを誇っている。かつては「隠れた優良企業」と呼ばれた村田製作所だが、その技術力・営業力は「言わずと知れた」存在となり、コロナ禍でも成長を続けた。

海外売上比率が90%を超え、グローバルな競争力を高めている村田製作所では、過去10年の間に人材開発・採用面における大きな変化があったという。今回は、コーポレート本部ESG・HR統括部人材開発部部長の早田雄一郎氏に取材を行った。

(聞き手:パーソルキャリア株式会社 執行役員 大浦征也)


村田製作所が2000年代に直面した問題と変革

――1944年の創業以来、時代に求められた電子部品を製造し続けている村田製作所ですが、近年は時代の変化のスピードが速くなっています。まず、近年の歩みについて振り返っていただけますか。

早田雄一郎氏(以下、早田氏):私の入社した1996年には、セラミックコンデンサ(キャパシタ)を始めとする受動部品および材料技術を応用した複合機能部品による事業などを展開していました。これは現在も主力事業として不断の錬磨をしており、変わっていません。

もともと1990年代後半には携帯電話が普及し、コンデンサやその派生技術で事業が拡大していました。

その後、業界的にはITバブルの崩壊に直面しましたが、なんとか成長を続けることができました。その理由としては、村田製作所が「開発の仕込み」「市場の仕込み」に長けていることにあると思います。

例えば、自動車市場においては電装部品の比率が上がることを見込み、いち早く車載用の商品の開発を進めていました。開発中の技術が市場で結実するには時間を要しますが、現在では営業努力が実を結び、主力商品の一つとなっています。

また、2010年ごろには、組織内にも大きな変化がありました。クロスボーダー(国境をまたいだ)の買収戦略に本格的に乗り出すようになったのです。

2006年には、アメリカのスタートアップ企業を買収しました。その後、2010年代にかけてさまざまな買収案件を積み重ねていくようになりました。

「隠れた優良企業」と言われていた村田製作所が、積極的にポートフォリオの拡大をしていったのです。

多少の失敗や痛手もありましたが、村田製作所の強みを他社とのシナジーによって多角化しなければならないという、強い想いがあったように思います。

――コンデンサでトップシェアを誇っていた村田製作所が、自社の技術力で周辺のデバイスの技術に自力で踏み出すだけでなく、M&Aという選択肢に打って出た背景についてもう少し詳しく教えてください。

早田氏:当時、私のような担当レベルと、経営サイドとでは見えていた景色が違うと思います。

例えば、セラミックコンデンサは競合技術に「アルミ電解コンデンサ」や「タンタルコンデンサ」などがありますが、それも取り込んでシナジーを出すことで事業基盤を確立するというのが、当時担当レベルから見えていた景色です。

一方で経営陣は、組織文化の硬直化に対する危機感も持っていたようです。当時市場でのシェア率は高く、業績も好調だったのですが、2000年代前半ごろは、顧客から「村田製作所は融通が利かない」と言われることが増えていました。

そうした声を真摯に受け止め、経営トップが「トップが変わらないと会社は変わらない」と宣言し、組織風土改革に着手したのです。

組織改革の一環として「異なる文化を投入したい」という思いもあり、企業買収による異文化との融合もぜひ活かしたいと考えていたそうです。

――この10年でスマートフォンが台頭し、クルマの価値も変わる中で好調な業績を維持されています。これは、常にマーケットにアンテナを張って将来を予測してきた村田製作所にとっては、「狙い通り」いうことになるのでしょうか。

早田氏:そうですね。ある意味、狙い通りだと思います。

当社は、企業の理念である社是の中で、「文化の発展に貢献する」という言葉を使っています。事業判断する際には、顧客とともに新たな文化やアプリケーションを創造できるかどうか、というところに重きを置いています。

村田製作所は、目先のシェアの争いだけに終始せず、基礎的な技術開発、ものづくり力、管理力を蓄積してきました。自社内で大切に培ってきたものが、時間を掛けて結実していくプロセスを我々社員は経験しています。

営業利益率が高いと言われることがありますが、開発に時間が掛かる分、投下資本が大きいという側面もあります。そうした背景を考えれば、営業利益が大きいのは、ある意味当然とも言えます。

――世の中、社会、顧客が何を求めているかと、常にアンテナを張られていると思います。メーカーが競争力をつけるためにはどうしたらいいでしょうか。

早田氏:経営においては技術力、ポートフォリオ、ロードマップなど重要なことはありますが、マーケットの最前線にいる営業・商品技術部門の努力は、競争力と切っても切れない重要なポイントだと思います。

――メーカーで技術力やマーケティングの話をされる方はとても多いのですが、「営業・商品技術」の話をされるケースは珍しいですね。

早田氏:「営業・商品技術」の仕事の定義を、ごく狭く捉えた場合には「売る(sales)」ことで、対象は「購買(purchase)」になるわけですが、実際には別の部門が絡んでいて、チャネルを切り開いていくことが必要になる案件があります。

村田製作所の営業・商品技術担当は、お客さま側のキーパーソンとつながることをとても大切にしているように思います。実際にそのつながりは強いですね。

例えば、顧客の話をヒアリングした上で、先方開発部との対話が必要だとわかれば、営業は迅速に対応します。日々の対応の積み重ねで、通常なかなか聞くことができない情報が自然と入って社内に蓄積され、次の展開を見極めることができているのです。当社が目指す「全員マーケティング」を前線で実践してくれるのが、営業・商品技術の強みであり、有難いですね。

また、営業は時に、会社にとって耳の痛いことも顧客目線で言ってくれる存在でもありますから、組織的にも重要な役割を担っていると考えています。


10年で20倍。中途採用を積極的にスタートした経緯とは

――近年、人事面ではどのような変化がありましたか?

早田氏:この10年で中途採用の社員が増加しました。2000年代までは、当社はほぼ新卒採用の社員で構成されており、年間の中途採用者は10人以下でした。ところが事業拡大によって人員が必要になり、2009年ごろから急速に中途入社の数を増やし、10年間で200人を超えるまでになっています。

当初は中途入社の社員の受け入れ方がぎこちなく、組織になじむのに時間が掛かっていましたが、徐々に誰もが当たり前に活躍できる組織に変化していきました。

中途入社の人たちの経験やスキルが加わることで、現在ではスマートフォン分野の拡大や自動車の電装化の波を的確に捉え、当社の成長と事業領域拡大につながりました

――社員の構成が変わっていく中で、組織に変化は生まれましたか?

早田氏:M&Aの拠点長を担った私の経験に基づいた話になりますが、新卒採用の社員で構成されていた頃には、社内の暗黙知あるいは共通理解が前提のコミュニケーションが成り立っていました。しかし、そうしたものがない状態では、「ムラタ・ウェイ」の言語化と、チームビルディングへの時間の投資が絶対に必要だと思っています。

ですから「これで成功してきたんだから、うちのやり方に従え」というのではなく、それぞれの場面で言語化する努力をしなければならない、ということを組織開発の原点に立ち返って感じています。

新卒社員だけではなくなった組織となり、お互いに馴染む努力を経験しながらも、新たな組織文化の形成をしたというのが、この10年あまりの出来事ですね。

――「チームビルディング」という言葉がありましたが、具体的な取り組みとしては、どのようなものがありますか?

早田氏:例えば、技術プロジェクトの手法として「課題ばらし(*)」を実践しています。チームビルディングの一環として取り入れて、その文化が根づいています。何を課題としていて、チームとして、組織として何に取り組んでいくべきか――。この辺りを言語化して共通の認識・理解することで、社員全体として見据える未来や展望の目線合わせができます。

他社の取り組みですと、パーパス経営などと呼ばれていると思いますが、目指すべき構文は同じです。共通理解は組織を強くする要因だと考えているからです。

また、経営陣が胸襟を開いてビジョンを語り合うという姿が必要不可欠だということで、経営陣も学び、対話の機会を設けています。そのため役員だけの合宿なども定期的に開催して、発信するメッセージの共通化や一体化にも余念がありません。当社の組織が一枚岩となる努力を続けていますね。

(*)課題ばらし:チームでコミュニケーションを取りながら課題を明確化する手法の一つ

――中途採用の人材の活躍に寄与している制度があれば教えてください。

早田氏:当社には複線型の人事制度があり、例えばその中の一つには「貢献コース制度及び専門系管理職制度」があります。

マネジメント職といっても、組織力を持って目標達成・価値創造する「マネジメント」という定義だけではありません。

事業、技術への貢献など、専門的なキャリアのステータスを上げることがますます重要になっており、高い専門性やスキルにより関係者を啓発し、課題を解決する人材や、高い知見と技術革新力により競合優位性を構築する人材を定義し、優れた専門系管理職として任用しています。

この制度は、中途採用で入ってきた人にもマッチしやすくなっており、定着という観点からでも有益です。

――採用活動において、注目しているテーマはありますか?

早田氏:「自己実現の多様性」を、会社としてバックアップすることに注力しています。

社内のダイバーシティーを確保するためにも、新卒や中途、また性別やライフステージを問わず、それぞれがライフキャリアを実現できる会社にすべく、採用方法や人事制度は、ダイバーシティーを後押しするような形に変えています。中途採用が増えているのもその一例です。

また、昨今では「リスキリング」という言葉がよく聞かれるようになりました。当社でもそれを意識した人材開発を行っています。

村田製作所には特徴的な技術を別の領域に応用するというフレキシブルな企業文化があります。例えば、フィルタの開発をしていた人が、フィンランドでセンサーのプロセス開発に携わる、といった具合です。

組織間の壁があると、互いのスキルが見えなくなることがあると思いますが、村田製作所の場合には非常にフレキシブルです。社員がとても協力的なので、「組織のリスキリング」は得意な分野であり、強みの一つとなっています。人材の流動性についても風通しが良いわけです。

一方で、社員一人一人に対する「個人のリスキリング」は、今後の課題だと認識しています。例えば、マネジメント職についていた社員が役職定年し、もう一度現場で貢献するという場合には、業務の概要について理解しているという強みがあります。一方で、現場レベルではDXが進んでおり、それなりのスキルセットがないとなかなか貢献できない事態も想定されます。

リスキリングが必要な人に対して、いかに学びの機会を提供できるかということは、人材開発面の大きなポイントだと思っています。


村田製作所が見据える、日本メーカーとしての「勝ち筋」とは

――村田製作所の人事戦略、経営の視点も含めて、未来のビジョンをお聞かせください。

早田氏:社長の中島の言葉を借りると、2030年までの世界のエレクトロニクスは「だいたい読める」のです。ただし「読めていた未来」に備えられているかは別問題であり、意図して備えをしなければなりません。

社内では、2030 年以降の世界に想いを巡らせ、社会に対してどのような貢献ができるかを想定して、準備するための「備えプロジェクト」という取り組みを始めています。

例えば、5G隆盛によるスマートフォン市場において、今のポートフォリオから一歩進みモノだけでなくソリューションの提供を最大化すること。また、ポストコロナ社会における新しい働き方の模索や、サプライチェーンの担保の仕方なども検討していく必要があります。もちろんSDGsやダイバーシティーについても対応し続けていくでしょう。

――将来を見据えた人材戦略のキーワードはありますか?

早田氏:人事戦略では、3つのキーワードがあります。「多様性」、「エンゲージメント」、「人材基盤の強化」です。

まず1つめの「多様性」ですが、性別や国籍などに関係なく、多様なバックグラウンドを持った社員の活躍できる環境をさらに整え、社会価値の向上につなげていきたいと思います。働き方改革についても向き合っていきます。

2つめは、「エンゲージメント」です。組織の状態を客観的に把握するために「エンゲージメントサーベイ」の取得、経営陣との対話機会の増加、両立支援強化などの取り組みを行っています。「理解して納得して自ら動く」という風土を、人材開発面から下支えしていきたいと思います。

3つめは「人材基盤の強化」ですが、そこでもやはり中途入社者の活躍が必要です。入社先として選んでもらったということは、長期的にキャリアを実現してもらうための責任を当社が負っているということです。

この3つのキーワードを意識していないと、同質性の高い組織に逆戻りをしてしまうかもしれません。こうしたことを無意識にできるようになるまで、継続した取り組みを続けていきます。

――最後の質問です。昨今、世界市場では日本のメーカーが存在感を示しにくくなり、技術者の海外流出が懸念されています。村田製作所は現在、世界で高いシェア率を誇っていますが、日本のマーケットにおいて技術者を引き留めていくためには、何が必要だと思いますか?

早田氏:私も同じ危機感を持っています。世界から見ると日本は「安くていい人材が買える国」となるのではないか、と。

海外拠点に行くと痛感するのですが、世界では「いい会社だし、いい人が多いから辞めない」なんてことはありませんし、離職率は日本よりも高いです。こうした人材の流動の波は、いずれ日本にもやってくるでしょう。

エンジニアが元気でないと、村田製作所とは言えません。「元気とは何か」と考えたとき、複線キャリアで多様な能力がリスペクトされている環境が重要です。

そのリスペクトを実感するためには、金銭的報酬、社内的な認知・裁量、社外の研究機関との接点などが必要になってきます。また、村田製作所での仕事を通じて、社会課題を解決できたという実感も必要だと思います。

――先ほど、技術者間のフレキシブルな取り組みを挙げていただきましたが、村田製作所では、組織内で流動的に動くことで、成長の機会をつくることが得意なのかなという印象を受けました。

早田氏:村田製作所の場合には、グローバルメンバーの「他拠点経験比率」が非常に高い傾向にあります。また、海外志向の社員が多く、現時点で海外出向者は600人を超えています。

社員が異文化を経験することで、社内の多様性を強化していくことにつながりますし、日本人社員だけでなく、グローバル社員もフレキシブルに複数の拠点を動きながら、世界での競争力を高めていきたいと思っています。

一方で当然のことですが、それぞれ上司が一人一人の社員と対話をし、キャリア開発に寄り添うことを重視しています。上司の対話意識が高いのも当社の特徴ですね。

研究者として同じ拠点で活躍し続ける人がいれば、工場立ち上げの任務を担うなどして、動くことに価値を置く人もいます。一人一人の社員のライフキャリアと寄り添い、本来なら「面倒くさい」と言われるような対話を、いかに繰り返すかを大切にしていきたいと思っています。

――ありがとうございました。

(聞き手:パーソルキャリア株式会社 執行役員 大浦征也)

【取材後記】

日本では異例の円安が続く。過去に「輸出大国」と呼ばれた時代であれば、国内産業の追い風となっていたのかもしれない。しかし、2022年8月期の貿易赤字額は過去最大額と、現実は厳しい。かたや、村田製作所の近年の国内からの輸出額は右肩上がりを続け、海外売上比率が90%以上にのぼるという。
グローバル企業のトップをして「村田が止まれば世界のスマホが止まる」と言わしめたほど、国内外の産業において隠れた影響力を持つ村田製作所の人材開発に学ぶ点は多いように思う。技術大国、日本の将来を人材でどのように下支えしていくか今後も注目していきたい。

企画・編集/鈴政武尊・d’s JOURNAL編集部、制作協力/シナト・ビジュアルクリエーション

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