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相手の行動に対して改善点や評価を伝え、軌道修正を促す「フィードバック」。ビジネスシーンでは、評価面談や1on1ミーティング、プロジェクトの振り返りなどの際に、主に上司から部下などに対して行います。伝え方や内容によっては、相手に精神的なダメージを与えてしまうことも考えられるため、配慮が求められます。今回の記事では、ビジネスシーンにおけるフィードバックに絞って、その意味や目的、期待される効果、すぐに実践できるフィードバック方法などをご紹介します。
フィードバックとは、口頭や文章などで行う指摘・評価のこと。もともとは、「フィードバック制御」という制御工学の分野から生まれた言葉だと言われています。英語では、「食べ物を与える」という意味の「feed」と、「返す」という意味の「back」を合わせて「feedback」と表記します。これを略した「FB」も、よく使われています。
ビジネスシーンにおけるフィードバックとは、目標を達成するための行動やその結果について指摘・評価することを指します。上司と部下、マネージャーとメンバーなど、1対1でフィードバックを実施するのが一般的です。なお、フィードバックでは、主観による判断で相手の人間性を否定してはいけません。根拠となる情報を提示した上で、改善点を明確に伝えることが求められます。
フィードバックの目的は、一言でいうと部下の成長促進です。フィードバックによって部下は自身の立ち位置を理解でき、目標達成に向けて足りないところを自覚するきっかけになります。具体的には、人材育成やモチベーションアップ、パフォーマンスの向上などを期待してフィードバックを行います。
フィードバック面談とは、部下の成果に対して上司から評価とその根拠を具体的に伝え、今後の課題や効果的な行動計画を練る面談のこと。評価について部下の納得感を高め、成長を促すことを目的としています。また、フィードバック面談には、上司のマネジメント能力を養う効果も期待できます。
フィードバック面談と混同しやすいのが、「考課面談」や「評価面談」です。「考課面談」や「評価面談」は主に評価を伝える場であるのに対し、フィードバック面談は評価の結果や課題を共有し、一緒に話し合う場であるという違いがあります。
コーチングとは、傾聴と質問を繰り返すことで、相手自身の「気づきによる成長」をサポートするマネジメント手法です。フィードバックでは相手の行動を指摘して改善を促すのに対し、コーチングでは受け手自身が自分の中にある問題点や選択肢に気づき、行動できるように促します。両者の違いは、「課題解決に向けてどのようなアプローチをするのか」にあると言えるでしょう。
また、コーチングと混同しやすい言葉にティーチングがあります。ティーチングは自分の知識やスキルを「教えることによる成長」を目指すマネジメント手法です。フィードバックはティーチングの中に含まれると考えられています。
フィードバックには、「ポジティブフィードバック」と「ネガティブフィードバック」という2つの方向性があります。それぞれの特徴を表にまとめました。
ポジティブフィードバック | ネガティブフィードバック | |
---|---|---|
特徴 | 相手の行動について「よい点」を評価し、肯定的な言葉で成長を促す | 相手の行動について「改善すべき点」を指摘し、成長を促す |
目的 | ●まずは部下の努力をねぎらいたい ●部下の承認欲求を満たし、自信を付けさせたい |
●現状維持ではなく、さらに上のパフォーマンスを期待したい ●冷静に課題を分析するスキルを身に付けてほしい |
効果 | ●相手に、前向きな気持ちになってもらえる ●相手の自己肯定感を強め、モチベーションアップが期待できる |
●相手が自らの改善点を模索するようになる |
注意点 | ●フィードバックの目的を踏まえ、次につながる助言が必要となる | ●フィードバックした相手にとって精神的なダメージになることが多い ●語気や言葉遣いなど、伝え方には十分注意する |
ポジティブフィードバックとは、相手の行動を肯定的に捉えてフィードバックする方法です。社員の承認欲求を満たすことで自己肯定感を高め、仕事へのモチベーションアップも期待できます。肯定的な言葉で、よい点や今後に向けたアドバイスを行いましょう。
ネガティブフィードバックとは、相手の行動の問題点を指摘することで、立て直しを支援するフィードバックの方法です。主に、成長を促す目的で実施します。ネガティブフィードバックは相手にストレスを与える可能性があるため、対象者の選定や伝え方には十分な注意が必要です。
伝える相手や状況によって使い分けが必要となるため、注意しましょう。フィードバックする際のポイントについては、後ほど詳しくご紹介します。
フィードバックの類語・派生語には、「360度フィードバック」や「ピアフィードバック」があります。どちらもフィードバック方法ですが、活用目的やフィードバックの相手、頻度などが異なります。それぞれの特徴を表にまとめました。
360度フィードバック | ピアフィードバック | |
---|---|---|
活用目的 | 社員の評価または能力開発 | 自己認知(本人の気づき) |
フィードバックの相手 | ●上司・同僚・部下が対象 ●相手を指名できない ●匿名で行うのが一般的 |
●同僚が対象 ●相手を指名できる ●記名で行うのが一般的 |
フィードバックの頻度 | 年間または半期に1回 | リアルタイム(最低、四半期に1回以上) |
フィードバックの内容 | ●定量評価がメイン ●匿名かつ定量のため具体的な場面などを記述できない |
●定性コメントがメイン ●「いつ・どの行動」など、具体的な場面を記述できる |
360度フィードバック(360度評価)とは、上司・同僚・部下・他部署の管理職・取引先など、関係性や立場の異なる人たちが共に働く人を評価し合う方法です。評価の方向性が、従来の上司から部下への「一方通行の1対1」から「360度の1対多数」になることで、評価対象の人物像が多面的に浮き彫りになります。それにより、その人の仕事ぶりを客観的かつ総合的に評価できるとされています。
ピアフィードバックとは、同じ階層のメンバー同士でお互いの改善点や評価すべきポイントを話し合う手法です。同僚(ピア/peer)によるリアルタイム性の高いフィードバックにより、自己認知を高めることを目的としています。効果が大きい反面、使い方を間違えてしまうとメンバー同士の信頼関係を損なうリスクもあるため、心理的安全性確保の施策と両軸で進めていくことが大切です。
ビジネスシーンにおいて、フィードバックは注目されています。その背景を見ていきましょう。
現在のビジネスシーンでフィードバックが求められている理由の一つとして、「年上の部下」に代表される、マネジメント対象者の多様化が挙げられます。終身雇用制が主流だった時代は、年功序列の考え方により、年上の上司が年下の部下を指導するのが当たり前でした。しかし、転職の一般化や実力主義の台頭、再雇用制度なども影響し、元上司が部下になるケースも珍しくありません。加えて、外国人雇用や障がい者雇用などを推進している企業も少なくないでしょう。このように、年齢や国籍、障がいの有無などに関係なく、さまざまな上司・部下の関係が存在するようになったことで、適切なマネジメントについて悩む管理職層が増えています。そうした中、多様な人材に対応するための策として、フィードバックが注目されているのです。
フィードバックが注目される背景には、職場におけるハラスメントに対する意識の高まりも関係しています。管理職層には「指摘によって部下を傷つけてしまうかもしれない」「耳が痛いことを伝えるとき、どこまでなら問題にならないのか」といった懸念が広がっています。自身の言動がハラスメントと見なされないように、「何も言わない」という選択肢を取る人もいるでしょう。このような背景もあり、世の中がフィードバック不足になっていると考えられます。しかしながら、部下の成長のためには適切に指摘する必要があるため、フィードバックの技術が注目されています。
フィードバックを行うことで、相手にはどのような影響があるのでしょうか。フィードバックの効果について3つご紹介します。
部下に対してフィードバックを効果的に行うことで、相手の「やればできる」という自己効力感を高める効果が期待できます。部下の自己効力感を高めるため、上司にはフィードバックの際にしっかりと相手への期待を伝えたり、適切なフォローアップをしたりすることが求められます。そうしたことを意識しながらフィードバックをすることにより、フィードバックを受けた人の働きやすさの向上につながっていくでしょう。
(参考:厚生労働省「第2-(2)-10図 上司からのフィードバックと働きやすさについて」)
定期的なフィードバックの実施により、上司と部下がコミュニケーションを取る機会も増えます。対話が増えることで、互いの信頼関係がさらに深まったり、チーム全体の雰囲気がよくなったりする効果も期待できるでしょう。上司や会社への信頼が高まると、部下のエンゲージメントも自然と高まっていくことが期待できます。
フィードバックは、業務への意欲を高める効果もあります。上司からの反応がないと「放置されている」と感じる部下も多いため、上司が部下に対して「しっかり見ている」と伝える意味でも、定期的なフィードバックは必要です。称賛の言葉を送ることで、部下のやる気の醸成にもつながります。また、たとえ耳が痛い指摘であっても部下のパフォーマンスなどに対して情報や結果をフィードバックすることは、部下自身で現状を把握し、向き合うための支援になるでしょう。加えて、振り返りやアクションプランづくりなどのフォローアップを行うことで、業績やスキルの向上に効果を発揮します。
フィードバックには、「SBI型」「サンドイッチ型」「ペンドルトンルール」という3つの手法があると言われています。それぞれの特徴と、フィードバックでの活用事例をご紹介します。
SBI型とは、状況を説明した上で具体的な行動をピックアップし、その行動に対して感想を述べる手法です。SBI型の「S」は相手の置かれていた状況を意味する「Situation」、「B」は相手の取った行動を意味する「Behavior」、「I」はそれによって生じた影響を意味する「Impact」の頭文字を指します。物事の原因と結果を順序立ててフィードバックするため、相手に内容を理解してもらいやすいのが特徴です。ポジティブ・ネガティブのどちらにも使用できます。
S:「今朝のチームミーティングについてですが」
B:「チームメンバー全員に『5分前には会議室に集合しましょう』と伝えてくれていましたよね」
I:「おかげで時間通りにミーティングを始められて、とても助かりました。メンバーへの積極的な声がけは、今後もぜひ続けてほしいです」
S:「先ほどの競合プレゼンについてですが」
B:「先方に資料を配布するタイミングが、少し早すぎたかもしれません」
I:「先方がずっと手元の資料を読んでしまって、こちらのプレゼンに集中できていない様子でした。次回からは、スライド中盤の指示された箇所で配布してもらえると助かります」
ネガティブフィードバックでは、「あなたの成長のために、あえて厳しいことも伝えるね」と会話の主語を「相手」にして、励ましの文脈で伝えます。指摘を受け、その後の行動に改善が見られたら、ポジティブフィードバックで称賛することも大切です。このように、ネガティブフィードバックとポジティブフィードバックを少し時間を空け置いて繰り返すことで、相手の意識改革を促進できます。
サンドイッチ型とは、ネガティブな内容をポジティブな内容に挟んでフィードバックする手法です。最初に相手のいいところを褒めた上で、改善点を指摘し、最後にもう一度褒めてフィードバック全体を締めくくります。最初と最後にポジティブな内容が示されるため、ネガティブな内容を伝えても相手のモチベーションを維持しやすいのが特徴です。
「プレゼンで取り上げていた事例がわかりやすく、先方からの評価も高かったです。しかし、プレゼン時の声が小さく、先方の様子を確認せずに話を進めていたのが少し残念でした。内容そのものは優れているので、今後はプレゼンの仕方も工夫して、受注につなげていきましょう」
ペンドルトンルールとは、フィードバックを受ける相手に自分自身の改善点を考えてもらう手法です。フィードバックを受けた部下は上司に改善点を報告し、話し合いながら課題を解決するための方法を探します。時間をかけ、コミュニケーションを取りながら進めていくのが、ペンドルトンルールの特徴です。コーチングと同様、相手が自ら改善点を見つけられるようになることで、成長につながると考えられています。
部下:「資料の作成に時間がかかってしまうため、今後はフォーマットを用意して効率化したいと思います」
上司:「フォーマットがあれば、生産性も向上しそうですね。どのようなフォーマットを作成しようと考えていますか」
厚生労働省が発表した「上司からのフィードバックの頻度と働きやすさ」についての資料によると、働きやすさを感じるフィードバックの頻度は「毎日」との回答が一番多く、次いで「週に1度」「1カ月に1度」という結果が出ています。一方、働きにくいと感じるフィードバックの頻度は、「実施されない」との回答が一番多く、次いで「年に1度」「半年に1度」という結果でした。この調査結果から、一気にまとめてフィードバックを受けるのではなく、定期的なフィードバックを受けながら業務を進めたいという人が多いことが伺えます。部下に意欲的に働いてもらうために、忙しい状況でも定期的にフィードバックできるとよいでしょう。
(参考:厚生労働省「第2-(2)-10図 上司からのフィードバックと働きやすさについて」)
フィードバックは伝え方やタイミング、シチュエーションによって、十分な効果が得られないことも少なくありません。厚生労働省の資料によると、上司からのフィードバックが効果的だった理由として「今後の行動に関するアドバイスがあった」「具体的な行動について褒められた」などの回答が得られました。これらの結果を踏まえて、フィードバックの効果を最大化させるためのポイントを4つご紹介します。
(参考:厚生労働省「第2-(2)-10図 上司からのフィードバックと働きやすさについて」※一部変更して作成)
フィードバックを効果的に行うためにまず押さえておきたいポイントは、過去の振り返りと今後の行動へのアドバイスをセットで伝えることです。「今後の改善策を考えていこう」「一緒に話し合っていこう」というように、未来に目を向けられるような伝え方を意識しましょう。また、フィードバックする相手によってスキルレベルが異なるため、部下の年次や経験に合わせてアドバイスを行うことも重要です。
フィードバックでは、具体的な行動について指摘することも重要です。フィードバックの内容が抽象的だと相手にうまく伝わらず、指摘を受けても課題を改善できない可能性があります。具体的にどのような行動がよい・悪いのか、行動をどう改善していくべきかを伝えましょう。
フィードバックは相手の「行動」に対して行います。「なぜその行為が問題なのか」「なぜその行動を直さなければならないのか」など、指摘した背景や意義についてしっかり説明します。行動についての指摘であれば、フィードバックを受けた相手も、意識の持ちようで変えることができるため、フィードバックの効果を実感しやすいです。一方、相手の「性格」や「人格」に対するフィードバックは、生き方そのものを否定しているような印象を与えてしまうため、フィードバックの内容としてふさわしくありません。
フィードバックは、なるべく時間を空けずにリアルタイムで行う必要があります。行動してから時間がたつと、フィードバックする側もされる相手も、詳細を思い出せないケースがあるためです。あまりに遠い過去について指摘をされても、相手は実感が伴わず、有効な学びにつながらないでしょう。一方、時間を空けずにフィードバックをすれば、相手はすぐに改善策を実行できるため、フィードバックの効果も得やすくなります。
フィードバックを学ぶために、入門書としてもおすすめの書籍を3冊ご紹介します。
フィードバックについて、基礎理論から実践的ノウハウまでを余すことなく収録。フィードバックの入門書にして、決定版とされる一冊です。
組織心理学のプロにして元外交官の著者が、部下の成長を促すマネジメント技術を紹介。世界各国で300件を超える人材育成・組織変革を行ってきた著者ならではの視点で、フィードバックについて語っています。
全米で70万部を突破した『話す技術 聞く技術』の著者による、自分だけが知らない「自分」に出会うフレームワークを掲載。「上司のダメ出しが最高のアドバイスに変わる方法」がまとめられた一冊です。
部下の成長促進を目的に行われるフィードバックですが、伝える相手や状況によって使い分ける必要があります。フィードバックを効果的に行うためには、「今後の行動へのアドバイスを行う」「具体的な行動について指摘する」「なるべく時間を空けずにリアルタイムで行う」などのポイントを押さえることが重要です。今回の記事でご紹介しているフィードバックの方法や事例などを参考にフィードバックを適切に行い、自己効力感や働きやすさが向上する職場づくりにつなげてみてはいかがでしょうか。
(制作協力/株式会社はたらクリエイト、編集/d’s JOURNAL編集部)
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社会保険労務士法人クラシコ 代表 柴垣 和也(しばがき かずや)【監修】
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