地方企業の新たな可能性!「フリーランス中心」で成長するLboseの組織戦略【連載 第6回 隣の気になる人事さん】

株式会社Lbose

執行役員 CRO(Chief Relation Officer) 椿原 真(つばきはら・まこと)

プロフィール

人事・採用担当者や経営者がバトンをつなぎ、先進的な取り組みを進める企業へ質問を投げかけていく「隣の気になる人事さん」。前回(第5回)の記事に登場した株式会社ROUTE06の矢野明里さんからは、熊本市に本社を置く株式会社Lbose(エルボーズ)を気になる企業としてご紹介いただきました。

矢野さんが登場した第5回の記事はコチラ
創業2年半、25名採用で離職ゼロ。個のつながりを基に組織を成長させる「ピープル・リレーションズ」

Lboseは、Webサービスやアプリなどの新規開発を目指す企業へデジタルプロダクト開発支援サービス「ATTEND biz」を提供しています。2017年に元フリーランスや現フリーランスのメンバーによって東京で創業し、2020年に熊本へ本社機能を移転。メンバーが全国に散らばるフルリモート×フルフレックスの体制を取っており、同社の人事責任者である椿原氏は「約60名のうち、8割以上がフリーランス」だと話します。

「Lbose以外にも取引先を持つ」フリーランス中心の組織

——貴社は創業時から「元フリーランスと現フリーランスの方々が集まって運営している会社」だと伺いました。

椿原氏:代表取締役CEOの小谷草志はもともと、鳥取と東京の2拠点で活動するフリーランスのマーケティングプランナーでした。当時はデザイナーやエンジニアなど、ものづくりができる人材とつながるのに苦労していたそうです。

私も熊本に根を張るフリーランスのPRディレクターとして活動していたので、この悩みはよくわかります。地方ではデザイナーやエンジニアと出会うのが本当に難しいんですよね。小谷も私も、1人のフリーランスとしてリソース拡大に課題を持っていました。

そこで当初は、東京と地方のフリーランス人材をつなぐマッチングプラットフォームを立ち上げたんです。私たち自身が距離を越えてたくさんの人とつながりたいと考え、さまざまな職種の人が集まるギルド的な発想でLboseを設立しました。

——現在の組織体制は?

椿原氏:Lboseに関わっているメンバーは約60名で、そのほとんどがフリーランスです。うちの会社の仕事だけをやっているメンバーは2割に満たないくらいで、多くの人はLbose以外にもさまざまな取引先を持っていますね。メンバーは日本各地にいて、中には海外在住の人もいます。会社への関わり方は人によって異なりますが、月40時間などの時間単位で契約し、3カ月単位などで更新しているケースが多いです。

ちなみに、正社員の採用を抑えているわけではなく、フリーランスから社員への契約形態の変更も柔軟に対応しています。個別のヒアリングからも、フリーランスとして関わっていきたいと希望するメンバーが多いのが現状です。

——なぜ現在でもフリーランスを中心とした組織にしているのでしょうか。

椿原氏:私たちは「“誰と、どこで、何をするか”を、もっと自由に。」というミッションを掲げていて、これを自社で体現したいと考えています。

せっかくスキルやモチベーションがあるのに、場所や時間の制限によって本来やりたい仕事ができないのはもったいない。地元にスキルを活かせる仕事がなく、やむを得ず無関係の仕事をしている人も少なくありません。他方で「地方では人材不足が深刻だ」と言われます。この状況に違和感がありますし、社会にとっても大きな損失だと思いませんか?

また、現状の日本では労働基準法などの縛りによって働き方の柔軟性に限界がありますが、フリーランスは自由に自分の働き方をデザインできます。フリーランスの活躍の場が増えれば、同時に働き方の柔軟性も高まっていくと考えています。

株式会社Lboseの経営陣と

フリーランスが活躍できる企業の「情報共有」と「業務遂行」

——先ほど椿原さんがおっしゃっていたように、「地方企業は人材確保が難しい」というイメージがあります。フリーランスの仲間を増やすために、Lboseではどのような工夫をしているのでしょうか。

椿原氏:母集団形成の方法は、一般的な社員募集とあまり変わりません。求人情報サイトなどのサービスを活用して情報発信しています。

フリーランスの仲間を集める場合にはそれ以前に、フリーランスを受け入れられる状況、フリーランスが活躍しやすい環境をつくる必要があると考えています。

——詳しくお聞かせください。

椿原氏:たとえば、フリーランスの立場で直面する違和感の一つに「情報の差」があります。業務で成果を出すために情報がほしいと思っても、「これ以上の情報は正社員しか閲覧できません」と言われてしまうことがあるんです。この状況にやりにくさを感じるフリーランスは多いはず。だから当社では、契約形態によって情報の閲覧範囲や権限の基準を変えることはありません。リーダーなどの階層によって閲覧範囲が変わることはありますが、基本的にはフリーランスでもほとんどの情報にアクセスできるようにしています。

また、フリーランスは個人で一定の成果を出せるハイスキルの人が多いものの、最初から業務を全て丸投げされても対応しきれません。新しく入社した社員の場合、普通はOJTなどのステップを細かく踏んで業務に慣れていけるようにすると思いますが、フリーランスに対してはそれをしない企業がほとんど。これではなかなか成果につながりませんし、フリーランスの側もやりづらさを感じてしまうでしょう。どんなにスキルがある人でも、まずは小さくタスクベースで依頼したり、社員と同じように関係性を徐々につくっていったりすることが大切だと考えています。

企業は、情報共有においても業務遂行においても、フリーランスが外部人材であることを意識しすぎない方がいい。「社員とは契約形態が違うだけ」という前提で考えるべきではないでしょうか。

私たちの調査では、フリーランスとして働く人の約45%が単発で仕事を請けていることがわかりました。しかしそれだけでは満足せず、中長期的に情報格差なく企業と関わりたいと考える人も一定数存在します。そんな人に対して、社員との垣根がない状態で採用活動をしている企業はほとんどありません。当社への応募では「Lboseしか選択肢がなかった」と話す人もいます。結果的に当社は地方企業でありながらも、同業他社と比べれば桁違いに採用コストを抑えられていると思います。

フリーランスが「企業と付き合い続けるメリット」を最大化する工夫

——フリーランスの方々と長期的な関係性を築く秘訣についても教えてください。企業にとって、組織に属さない働き方を選択しているフリーランスとは、従業員として働く人と比べて長期的な関係性を築きにくい傾向があると思います。フリーランスの帰属意識を高めるには何が必要でしょうか。

椿原氏:フリーランスの帰属意識を高めたり、それによって離職を防止したりすることを当社では重視していません。というよりも、ほとんど考えていないですね。フリーランスに対して、帰属意識を求める必要があるのでしょうか?

基本的には締結している業務委託契約に応じて成果を出してもらえればOKだと考えています。その中でフリーランス側から「案件にもっと深く関わりたい」と言ってもらえるケースもあるので、マネージャーのポジションをお願いしたり、全体の品質向上に貢献してもらったりしています。

——とは言え、自社とフリーランスの間で長期的な関係性を築けなければ、いずれ人材が枯渇していくことになりませんか?

椿原氏:その観点で言えば、大切なのはフリーランスのスキルアップやキャリアアップに企業が貢献することだと考えます。

フリーランスの人は「個人でもっと稼ぎたい」「こんなスキルを身に付けたい」など明確な目標を持って活動しています。一方、フリーランスは現状のスキルの範囲内で仕事をしがちで、スキルアップやキャリアアップの機会が少ないのも事実。この課題に対応するため、LboseではCTO室にエンジニアのスキルアップのためのチームをつくり、ワークショップを開催したりドキュメントをつくったりといった取り組みを進めています。

このようにして、私たちはフリーランスにとっての「Lboseと付き合い続けるメリット」を最大化し続けているんです。

まずは小さなタスクから始め、小さな失敗を積み重ねる

——人材難に苦しむ地方企業では、Lboseのようにフリーランスの力を活用したいと考えるところも少なくないと思います。まずは何から始めるべきでしょうか。

椿原氏:ゼロベースで動き始めるのであれば、まずは小さなタスクベースから、フリーランスや個人事業主の人と仕事をしてみるのがいいと思います。たとえば「サイト内に掲載する画像を制作してもらう」など、小さなタスクを依頼してみるということです。その際にはクラウドソーシングで探すのもいいですし、副業・複業人材をマッチングしてくれるサービスを利用してみるのもいいでしょう。

やったことがないことにチャレンジすれば失敗もあるはず。最初は人選に失敗するかもしれません。それでも早いうちに小さなタスクで、小さな失敗を積み重ねていくことが大切です。

これができるようになったら、少しずつ社員との壁をなくし、チャットツールに入ってもらったり社内会議に参加してもらったりして、本当に相性がいいと感じた人材と深く付き合っていけばいいのではないでしょうか。

ゆくゆくは、信頼できるフリーランスの人をさらに紹介してもらえるようになり、自社のカルチャーに合う仲間が増えていくかもしれません。地方企業でも、企業自身が考え方を変えれば、可能性はどんどん広がっていくのだと考えます。

画像提供:株式会社Lbose

取材後記

Lboseでは、自身のライフステージの変化に合わせて働き方を柔軟に見直す人が多いそうです。椿原さん自身、かつてはフリーランスとして働いていましたが、Lboseへの入社後は「子どもの保育園の入園審査に備えて」正社員になることを選択したと言います(自治体によっては、保護者がフリーランスの場合に入園の優先順位が下がってしまうため)。

一人一人の働き方に対して会社都合を押しつけることなく、個人にとっての「会社と付き合うメリット」を最大化していく。この考え方が根底にあるからこそ、Lboseは地方企業が抱える制約を乗り越えて優秀な人材を確保し続けられるのだと感じました。

企画・編集/海野奈央(d’s JOURNAL編集部)、野村英之(プレスラボ)、取材・文/多田慎介

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