NTTデータ、経験者採用を5年間で20人から500人超へ拡大。国内SIerからグローバルトップ5の事業変革パートナーへ。未来へ向けた「新・人事戦略」と実践に迫る

株式会社エヌ・ティ・ティ・データ(略称 NTTデータ)

コーポレート統括本部
人事本部 人事統括部
採用担当 課長
安永 章太郎(やすなが・しょうたろう)

プロフィール

株式会社エヌ・ティ・ティ・データ(本社所在地:東京都江東区、代表取締役社長:本間 洋)(以下、NTTデータ)。NTTデータと言えば、NTTグループの雄として新卒者にもトップクラスの人気を誇る有力企業である。同社は、過去5年間で経験者採用を大幅に増やし、事業強化に努めてきた。

2022年に行われたNTTグループのグローバル事業強化に伴う再編で、同社の事業環境の変化は加速度を増している。変わり続ける組織の未来を見据えた人事戦略を実行する上での課題とその取り組み、そして展望について、人事統括部採用担当課長の安永氏にお話を伺った。なお本稿では、同社の採用戦略や手法をひも解いたドキュメントを無料でダウンロードできる。ぜひ自社の採用活動に活用してほしい。

(聞き手:パーソルイノベーション株式会社 取締役執行役員 大浦征也)


NTTデータのビジネス環境の変化とその強み

――まずは、NTTデータの過去から未来へのビジネス環境変化について教えてください。

安永章太郎氏(以下、安永氏):NTTデータは、旧電電公社が民営化された日本電信電話株式会社が分社化したところで、その歴史が始まりました。社会インフラを支えるミッションをベースに持つ会社であり、NTTデータのビジョンである「ロングタームリレーションシップ」、すなわちお客さまとの長い関係性を基盤に事業が成り立ってきました。

これまではお客さまの要望や課題をヒアリングし、システム要件に落とし込むスタイルでしたが、近年ではその強みに加えて、「お客さまと一緒に、時にはお客さまを先導して課題を模索していく」というスタイルに変化してきています。社会課題が複雑化し、企業や業界をまたいだソリューションも多く求められ始めています。

創業以来、増収増益ではありますが、近年お客さまが自社でDX(Digital Transformation)を進めるケースも増え、当社の存在意義が問われています。そうした現状から社内では危機意識が年々高まっており、ビジネスモデルや業務などにおいて、変革の必要性を感じています。

――官公庁関連の受注が多いのでしょうか。

安永氏:価格での競争性やスピード感が求められる傾向があり、官公庁関連案件の受注も近年では難しくなるケースも増えてきています。案件入札時には、これまで以上にNTTデータらしい価値や価格、魅力的な提案をする必要があると感じます。

とはいえ、NTTデータという土壌でなければ実現できない大規模なインフラ整備・改修などもありますので、当社の既存の強みに付加価値をどう積上げていくか。その重要性が増していると感じています。

――社会が変化していく中、増収増益が続いているNTTデータの強みとは何でしょうか。

安永氏:二つあると思っています。一つは「お客さまの歴史を知っている」という点です。お客さまと長く関係を構築しているため、いざDX推進となったとき、現状の課題を当事者として語ることができるため、ゴール設定の提案に説得力を持たせられるという強みがあります。

もう一つは、プロジェクトの実現力です。われわれは資料上のきれい事ではなく、プロジェクトをやり抜いて実現させる力に自信と実績があります。プロジェクトの超上流部分から実現に至るまで、しっかりとトータルコーディネートできるところに信頼を頂いています。

――SIerがこれだけのケイパビリティを占めているのは日本ならではです。日本においてSIerが必要な理由、SIerならではの仕事とはどういったものでしょうか。

安永氏:私個人の意見ですが、「第三者目線」が必要とされているのだと思っています。

自社でDXを内製化すれば、意思決定がスピーディーで、構想や思いがそのままシステムに反映できるため、一定のメリットが出るでしょう。一方で、「客観性のある判断」も重要となります。NTTデータの膨大な知見をもってすれば、他社や業界の事例、グローバルの事例などに基づき、客観性のあるコンサルティングが可能になるからです。

他業界や他業種の成功体験をアセット化し、スピード感を持ってサービス提供する事例も増えてきています。第三者目線で提案ができるということは、当社ならではの強みと捉えています。

――NTTグループおよびNTTデータの事業再編に伴い、グローバル展開が加速すると思いますが、NTTデータとして未来に向けて取り組んでいくべき点を教えてください。

安永氏:「グローバルトップ5」を目標としており、現在の中期経営計画がその仕上げと位置付けられています。

組織再編により、データセンター事業やネットワークインフラ事業などをNTTデータのアセットとして使えるようになるので、これまでにない規模感やスピード感のある提案ができるようになります。

私たちの成功体験をグローバルに輸出しつつ、さらに海外での成功体験を輸入する――。このような提案の選択肢が増えることにワクワクしていますし、「グローバル企業になりつつあるのだ」ということを肌身を持って感じています。

経験者採用の拡大と組織力強化への課題

――御社は歴史があり、新卒者にも人気の就職先ですが、最近は経験者採用にも注力しておられます。採用活動は近年どのように変化してきたのでしょうか。

安永氏:経験者採用は、この5年間で年間20名から500名超と激増しており、新卒採用数も同様に増加傾向です。会社の成長には今までの新卒社員だけではなく、経験者採用入社者の活躍が必要不可欠となっています。

求める人材も、ビジネスモデルの変化とともに多様性が求められていますが、「多様性」と一言で言ってもさまざまです。

新卒で入社すると良くも悪くも、NTTデータの文化と風土を受け継いだ「生粋のNTTデータ社員」になります。そこに外部からさまざまな考え方やキャリアを持った方に入社してもらい、双方の良いところをかけ合わせるように成長し、多様性を実現していくイメージを抱いていますが、まだ志半ば。そこに向けてさまざまな施策を走らせている最中です。

――経験者採用を増やしたことにより組織に変化はありましたか?

安永氏:チームの半数が経験者採用で構成されている組織では、NTTデータの従来の良さと、外からもたらされた良さが組み合わさり、新しいイノベーションや新規ビジネス立ち上げなどの実績が生まれています。

一方で、経験者採用で入社すると、「即戦力への過剰な期待」を感じることがあるという意見もありました。つまり経験者採用で入社された方に対する既存社員のイメージはまだまだ「外部の人」というイメージです。新卒入社の社員と経験者で入社した社員で見えない壁があるということです。

そこで入社した人が何に困っているかを細かくヒアリングしたり、必要なフォローアップ体制を築いたりと、経験者採用の受け入れ体制やオンボーディングを整えていますが、この点はいま向き合っている課題のうちの一つとも言えますね。

経験者の方を迎え入れて活躍していただき、組織力向上につなげるための対応は、まだまだ改善の余地があると感じます。

――直近では経験者採用が500名を超えたとのことですが、採用計画自体は順調なようですね。

安永氏:幸いにも当社に興味関心を持ってくださる方は増えており、目下の数字的な目標は到達できています。ただ当社には「新卒で入社する会社」というイメージがまだまだ強く、経験者採用においても若手の方から関心を持っていただくことが多い印象です。

経験豊富な方に向けてのアピールがまだ十分にできておらず、当社でみなさんのキャリアハイを迎えていただける環境があることを、これまで以上に広く認知させることが課題です。

経験者の方が活躍できるフィールドを用意する自信はありますので、これまで培われたご経験をもって、NTTデータでやりたいことにチャレンジしていただきたいと考えています。


「年功序列の廃止」というNTTグループの抜本的な人事制度改革

――人事戦略全般でいうと、どういったテーマがありますか。

安永氏:2023年4月から人事制度が大きく変わっていきます。一番インパクトがあると思われるのは、年功序列制度の廃止です。これまでは、昇格するために「最低在籍年数」のハードルがありましたが、廃止して早期の昇格ができるようにしました。

今後はその方の専門性や成果をしっかりと捉えて、評価・報酬の見直し、昇格がなされ、結果的に組織がさらに強化されることを目指します。

アクションとしては少し遅いかもしれませんが、NTTデータとして大きく制度を変革させたことに意味があると思っています。また、管理職がより結果にコミットできるようジョブ型雇用制度にもかじを切っています。

これらの人事戦略的要素は、私自身がドライブしていかなければならない立場ですが、非常に楽しみでもあります。

――NTTデータとして、人事制度改革を実行するに当たって、社員にはどのような意識変化が起こったのでしょうか。

安永氏:NTTデータがなりわいとしているITおよびデジタルの分野は、人材獲得競争が非常に激しくなってきています。人材の専門性を市場に合う形で評価できないと、人材獲得が難しくなることはもちろん、人材の流出にもつながりかねません。

これまでの当社は「キャリアアップ=管理職/プロジェクトマネージャーになる」というイメージが強かったのですが、今は専門職でも管理職と同じ処遇や待遇が得られるようにキャリアパスを設計し、制度も多様化した人材に合わせた内容へとアップデートしています。

――大きな変化だと思いますが、社員の受け入れ方はポジティブなものでしょうか。

安永氏:総じてポジティブではありますが、NTTデータという会社に「安定」を求める人もいるでしょうし、年功序列で終身雇用を良しとする価値観の人も少なからずいます。そういう方にとっては、NTTデータの変化はネガティブに感じられることがあるかもしれません。

しかし変化は必然です。世界全体を支え、お客さまに変革を促す立場であるNTTデータが変わらないというのでは、説得力がありません。

――その他、人事の課題やテーマにしているものはありますか。

安永氏:一つ挙げるなら「人材育成」です。これまでは新卒で大人数を採用し、画一的な育成プログラムを実施してきました。今後は新卒採用でも、文系、理系、修士学卒などといった多様な人材に対してどう育成していくかが検討されています。経験者採用の多くは即戦力ですが、入社後にキャッチアップしてもらうべき点も多々ありますから、研修体制などは不可欠です。

また、「NTTデータなら、年齢が若くても活躍できる」という実績を社内外に広報していくことも重要です。私自身が34歳で管理職になり今の立場に就きましたが、社内でさらに若く活躍し、昇進・昇格した事例をいくつもつくり、そして知ってもらうことは自分のミッションだと感じています。

新卒、経験者採用いずれをとっても、いかに各自のスキルを最大限に引き出し、NTTデータで活躍していただけるかを課題とし、実現に向けてまい進している最中です。


未来のNTTデータに向けた採用戦略とは

――今のNTTデータが求める人物像や経験、キャリア、スキルを教えてください。

安永氏:私たちが求めている人材とは、社会や業界の課題を本気で解決すべく、自らの手でリードしていきたいと思っている人です。抽象度が高く、多少絵空事のような感じでも、NTTデータならそのような想いを形にする力と土壌が備わっています。

企業理念においてお客さまとのロングタームリレーションシップ(長期的な関係構築)を掲げているので、採用候補者の中にも「お客さまと伴走したい」とか「共創したい」という方は多くおられます。

しかしお客さまの要望を何でもかなえるのではなく、時にはお客さまの要望を否定することをいとわない姿勢も重要です。多数に迎合することを良しとせず、お客さまにとって何が一番必要なのかを考え、客観的に判断するスタンスで臨んでいただきたいと思います。

――日本全体としてエンジニア不足という状況に対し、リーディングカンパニーとしてどう向き合っていかれますか?

安永氏:自社の育成のノウハウを駆使し、優秀なエンジニアを国内で増やしていく使命があると感じています。また、労働集約的なビジネスモデルを見直し、人的工数をかけずに同じ成果が出せる方法を提案していく必要もあります。

ソフトウエアのコーディング自動化やAI活用を提言しているにもかかわらず、自分たちが、人力で、ローラー作戦をやっているのではこれ以上の発展や成長は期待できません。

上流のエンジニアリングができる人材ももちろん不足しています。お客さまの課題を聞いてコンサルティングできる人はたくさんいますが、有象無象の話や構想をしっかり設計できて、かつDXなどを遂行できる人材は多くはありません。ビジネスの現場では、お客さまの声を真摯(しんし)に聞いて「デジタルに着地させるとどうなるか」ということを、きちんと形にできる人材が必要なのです。

単なる「IT化」で満足せず、ビジネスのプロセス自体を変革するマインドにシフトしていかなければ、厳しい競争社会で今後も生き残っていくのは難しいでしょう。

――今後の目指すビジョン、未来への展望はいかがでしょうか。

安永氏:社員一人一人がリクルーターとして「組織力強化を自分事」にすべきだと思っています。これはスタートアップや小規模な企業においては当たり前のマインドです。当社の現状は、採用に関わるメンバーや管理職が中心になって実行していることがほとんどです。大規模な組織がそういったマインドを持つことは難しいかもしれませんが、そこを意識していかないといけません。

自分たちの組織力強化を、お客さまの課題解決のための一つとしてやっていく――。そのパーツの一つとして、経験者採用をどう位置付けるかという設計も大事です。外部からの風は適切なところに吹かせる必要があるので、単なる「人員補填」ではなく、「組織力強化」という観点でつなげられるよう活動していくべきだと考えます。

身の回りを見渡してみるとチャンスはたくさんありますから、一元的に取り組んでいきたいと思います。

――ありがとうございました。

(聞き手:パーソルイノベーション株式会社 取締役執行役員 大浦征也)

【取材後記】

日本社会の根幹たるシステムを支えるNTTデータは言わずと知れた大企業で、新卒者の人気企業ランキングでも常に上位に位置している。安永氏のお話を伺い、NTTデータのような企業でも危機感を持って組織変革を進め、時代の変化に対応しようとしていることが伝わってくる。

積極的にキャリア(経験者)採用を進め、グループ再編でさらにグローバルな事業を展開する同社。年功序列の人事や報酬制度を見直し、人材の市場価値に基づいた新たな評価制度を導入するなど、本気で世界のトップ企業に変わろうとしている。

一方で、これまでSIerとして培った顧客との歴史と、システムを実際に稼働させるという結果を残してきた自負が随所に感じられ、日本の伝統とグローバルな事業との融合による、新たなシナジーが生まれるのではという期待感を持たせてくれた。

企画・編集/鈴政武尊・d’s JOURNAL編集部、制作協力/シナト・ビジュアルクリエーション

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