インテグリティとは|コンプライアンスとの違いや組織への必要性を解説

d’s JOURNAL編集部

誠実さや真摯(しんし)さを意味する、「インテグリティ」。近年、経営やマネジメントにおいて重要な概念だとして、注目している企業が増えています。

「コンプライアンスとの違いを知りたい」「企業におけるインテグリティの必要性を理解したい」と考える人事・採用担当者も多いのではないでしょうか。

この記事では、インテグリティの意味や必要性、企業におけるインテグリティの高め方などをご紹介します。

インテグリティとは

インテグリティ(Integrity)とは、「誠実」「真摯」「高潔」などの概念を表す言葉です。「完全性」や「全体性」を意味する「Integritas」というラテン語が語源とされています。企業においては、欧米企業を中心に、経営やマネジメントで必要な資質や持つべき価値観の一つとして使用されることが多く、日本でもインテグリティに注目する企業が増加しています。

なお、インテグリティを重視し、法令順守だけでなく、幅広い社会責任の遂行と企業倫理の実践を目指す経営のことを、「インテグリティマネジメント」と呼びます。

コンプライアンスとの違い

コンプライアンスには「順守」という意味があり、法律や社会的通念、社内規則などを守ることを指します。インテグリティとコンプライアンスの違いは、行動に対する「積極性」や「自主性」です。コンプライアンスは国や企業が定めたルールを守るため、外面的で他律性が強いですが、インテグリティは個人の意識や姿勢が軸となるため、内面的で自律的な要素が強いと言えます。

ただし、インテグリティとコンプライアンスは密接に関係しており、インテグリティがなければコンプライアンスを順守することはできないと言えるでしょう。
(参考:『【弁護士監修】コンプライアンスの意味と違反事例。企業が取り組むべきことを簡単解説』)

インテグリティの定義

インテグリティの定義や解釈は、提唱している人によってさまざまです。ここでは、代表的な著名人、ピーター・ドラッカーとウォーレン・バフェットの解釈をご紹介します。

ピーター・ドラッカーのインテグリティ

経営学者のピーター・ドラッカーは、1954年に発表した著書『現代の経営』において、「経営者に知識や才能があっても、真摯さに欠ければ、組織は腐敗する」「従業員は大抵の不完全さを許すが、真摯さの欠如だけは許さない」と言及。

同書では、「経営者が学ぶことができず、元々身に付けていなければならない資質は、才能ではなく真摯さである」とも述べており、経営において最も大切な資質は、真摯さ(インテグリティ)だと主張しています。

その一方で、ドラッカー自身、インテグリティは概念ゆえに明確に定義することは難しいと認識しており、以下のようにインテグリティが欠如している人物を例示することで、インテグリティを逆説的に説明しています。

インテグリティが欠如している人の例

・人の強みではなく、弱みに焦点を当てる人
・冷笑家
・「何が正しいか」よりも「誰が正しいか」に関心を持つ人
・人格よりも頭脳を重視する人
・有能な部下を恐れる人
・自らの仕事に高い基準を定めない人

ウォーレン・バフェットのインテグリティ

世界一の投資家と呼ばれるアメリカのウォーレン・バフェットは、スティーブ・シーボルト著『一流の人に学ぶ自分の磨き方』において、「人を雇うときには『高潔さ』『知性』『活力』の3つの資質が重要だが、高潔さに欠ける人を雇うと、他の2つの資質が組織に大損害をもたらす」と述べています。

ここで言う「高潔さ」がインテグリティに当たり、知性や活力があったとしても、インテグリティが欠けていては企業にとってマイナスになると指摘しているのです。このことから、インテグリティは経営者だけでなく、企業で働く全ての従業員に必要な資質であると、バフェットが主張していることがわかります。

インテグリティが注目される背景

インテグリティが注目されている背景として、成果主義による不正や従業員の酷使が挙げられます。日本では1990年代頃から、成果主義に移行する動きが始まりました。

それにより、賃金の適正化や雇用制度の多様化などの効果があった一方で、過度なノルマを達成しようとしたり、より高い成果を上げようとしたりする社員も出てくるようになります。結果、データの改ざんや根拠のない情報の発信といった不正や不祥事が多発し、社会的な問題となったのです。

こうしたインテグリティの欠如を受けて、近年はデータにエラーやミスがなく、信頼できる状態であることを指す「データインテグリティ(データの完全性)」が社会全体に求められるようになりました。企業としても、信頼性と透明性によって商品やサービスを安心して購入してもらうため、社会的責任を果たすために、改めてコンプライアンスを見直し、インテグリティを推進する動きが高まっています。

インテグリティを持つ人の特徴

インテグリティを持つ人には、具体的にどのような特徴があるのでしょうか。インテグリティを持つ人の特徴をご紹介します。

正義感が強い

正義感が強い人は、企業やチーム、個人に課された目標に対し強い責任感と達成意識を持ちますが、不正や顧客のためにならない行動は行いません。

意思決定や行動の際は、公平・公正であることを重視します。過度なノルマや同調圧力に屈さず、正しくないことには正しくないと言えることから、正義感が強い人はインテグリティを持っていると言えるでしょう。

利他的な考え方ができる

利他的な考え方ができることも、インテグリティを持っている人の特徴です。自分の利益や評価ばかりを優先する利己的な考え方をする人は、たとえ能力が高くとも、顧客や他の従業員とトラブルを起こす可能性もあり、顧客や企業、社会に真摯に向き合っているとは言えません。

「倫理観を持って公平な対応ができているか」「自分の行動が顧客や自社全体のためになっているか」など、俯瞰(ふかん)して考え、行動できることがインテグリティの重要な要素です。

企業における役割別のインテグリティ

企業における役割によって、求められるインテグリティは異なります。ここでは、役割別のインテグリティを見ていきましょう。

経営者のインテグリティ

企業に与える影響力が特に強いのが、経営者のインテグリティです。経営者が自分や自社の利益ばかりを追求すると、やがて管理職や従業員にまで波及し、インテグリティに欠けた組織風土が生まれてしまいます。

経営者が率先して法律・社会通念に基づく振る舞いをするとともに、公益性や社会貢献性を意識した経営を行いましょう。

人事のインテグリティ

人事では、採用や育成に関するインテグリティが重要です。例として、「自社の魅力だけでなく課題点も併せて伝える」「求職者の経歴やスキルだけでなく、人格も含めて判断する」「圧迫面接を行わない」「従業員の就労に関し、過度な制約やルールを設けない」など、公平性・公正性に基づいた言動をする必要があります。

管理職のインテグリティ

企業の方針やマネジメントに関わる管理職にも、高いインテグリティが求められます。上司に気に入られるためではなく、企業・従業員のために行動することが大切で、時には上司に意見することも必要です。また、部下に対しては、個々の能力を最大限に引き出せる方法を考えたり、部下に寄り添ったりするなど、実直な姿勢で接するようにしましょう。

従業員のインテグリティ

従業員は、自身やチームの業務に責任を持ち、一人一人が企業の顔であると自覚することが重要です。保身や利益のために行動するのではなく、「指示待ちにならない」「データをごまかさない」「ミスが発生した場合は即座に報告する」など、自分の尊厳のために業務を遂行することが求められます。

全従業員にインテグリティが浸透すれば、不祥事や内部不正がなくなり、コンプライアンス経営の実現につながるでしょう。

インテグリティを推進するメリット

インテグリティを推進することで、企業はどのような効果を得られるのでしょうか。インテグリティを推進するメリットを解説します。

健全な組織運営につながる

インテグリティは、組織全体の底上げや、経営を長期的に継続するためにも重要な要素です。誠実さに欠けるリーダーの下で業務することや業務の成果に見合わない待遇が続くことは、部下のモチベーションの低下や、離職率が高まる原因になると考えられます。

インテグリティを推進することで、従業員が働きがいを感じやすくなるとともに、社員同士の誠実な関係を築きやすくなるため、健全な組織経営につながるでしょう。

企業のイメージが向上する

インテグリティが企業内に浸透すれば、従業員一人一人の「コンプライアンス順守の意識」や「業務に対する主体性」「公平性のある態度」は、やがて企業の風土や文化になります。

真摯で誠実な行動は、消費者や地域にも好印象を与えられる可能性が高いため、企業イメージの向上が期待できるでしょう。

企業のインテグリティを高める方法

ここからは、企業のインテグリティを高める具体的な方法を3つご紹介します。

社内で研修を実施する

従業員一人一人の言動や態度が企業のイメージを左右するため、インテグリティの推進には、企業全体で取り組む必要があります。一方で、「真摯さ」「誠実さ」という概念を一朝一夕で身に付けることは難しく、人によってその解釈も異なるでしょう。

まずは、インテグリティの必要性や重要性を従業員に共有するとともに、社内全体で研修を行うことが有効です。「インテグリティとはどのような思考や行動を指すのか」を資料にまとめたり、「企業だけでなく従業員にとってもどのようなメリットがあるのか」を伝えたりすることで、従業員が興味を持ち、理解を深めやすくなるでしょう。

リーダーの育成を重視する

上司の言動は部下に大きな影響を与えるため、企業のインテグリティ推進では、まず経営層やリーダーの育成を重視することが重要です。チームのメンバーをまとめるリーダーにはさまざまな役割が求められるため、企業全体の研修の他に、別途リーダー向けの研修を設けるとよいでしょう。

リーダーが手本となって周囲に信頼される行動を取ることで、一人一人の従業員やチーム全体のインテグリティが高まることが期待できます。

インテグリティを評価制度に組み込む

インテグリティを自社の評価制度に組み込むことも有効です。インテグリティを評価基準に取り入れることで、従業員は基準を満たすべくインテグリティを意識するようになります。

基準は「目標達成度」や「チーム、企業、顧客への貢献度」「コンプライアンスの順守度」などを観点に置くことが大切です。また、自社でコンピテンシーを設定している場合には、その中の要素の一つとしてインテグリティを取り入れるとよいでしょう。

(参考:『コンピテンシー評価とは|項目例とシートの書き方やメリット・デメリットを解説』)

まとめ

インテグリティとは、日本語で「誠実さ」や「真摯」などを意味する言葉です。企業内のインテグリティを高めることにより、「健全な組織運営」や「企業イメージの向上」が期待できます。

信頼される企業であり続けるためにも、社内研修やリーダーの育成などを通して、インテグリティを推進してはいかがでしょうか。

(制作協力/株式会社はたらクリエイト、編集/d’s JOURNAL編集部)

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