【図解あり】マトリクス組織とは|特徴とメリット・デメリット解説

d’s JOURNAL編集部

「職能」「事業」「エリア」「職種」などの業務遂行要素を組み合わせ、網の目のように複数の軸で構成した組織体系を意味する「マトリクス組織」。

「マトリクス組織には、どのような特徴があるのか」「マトリクス組織にすることでどのようなメリットが期待できるのか」など、知りたい人事担当者もいるのではないでしょうか。

この記事では、マトリクス組織の特徴やメリット・デメリット、組織運用を成功させるポイントなどについて紹介します。

マトリクス組織とは

マトリクス組織とは、「職能」「事業」「エリア」「職種」などの業務遂行要素を縦・横に組み合わせ、網の目のように複数の軸で構成されている組織体系のこと。

従来のピラミッド型組織では指示命令系統が「上から下へ」の1つのみでしたが、マトリクス組織では指示命令系統が「上から下へ」と「横へ」の2つになります。

より具体的にマトリクス組織をイメージできるよう、図を見ていきましょう。

マトリクス組織とは

マトリクス組織では、従業員は自らの職能別の組織に所属するとともに、特定の事業・プロジェクトにも所属するため、2つの所属先を持つことになります。

例えば、「職種」と「事業」を組み合わせたマトリクス組織の場合、従業員は「職種」に応じた業務を進めながら、同時に「事業」に応じた業務も担うのです。上の図を例に取ると、Dさんは製造部門に属しながら、事業部Aでの業務も担当します。

従業員が2つの所属先を持つ、すなわち指揮命令系統が複数あるマトリクス組織にすることで、状況に応じて、従業員に柔軟に稼働してもらえるようになります。つまり、マトリクス組織は、ビジネスにおいて複数の目標を同時進行で達成するのに効果的な組織形態といえるでしょう。

アポロ計画により普及が進む

マトリクス組織は、1960年代にNASAの「アポロ計画」がきっかけで広く知られるようになりました。

アポロ計画では、縦軸に機能別組織、横軸にプロジェクトチームというような形で組織を編成し、プロジェクトごとに「プロジェクトマネージャー制」を導入。マトリクス組織のマネジメントシステムを導入することで複雑なオペレーションに対応できるようになり、複数のプロジェクト管理に成功しました。

マトリクス組織の有効性を認識したNASAが、アポロ計画に参画した航空宇宙産業企業に推奨したことをきっかけに、普及が進みました。

プロジェクト型組織や機能型組織との違い

マトリクス組織は、「プロジェクト型組織」と「機能型組織」の両方のメリットを併せ持つといわれています。マトリクス組織と各組織形態にはどのような違いがあるのでしょうか。それぞれの特徴と併せて紹介します。

プロジェクト型組織

プロジェクト型組織とは、プロジェクトごとに構成される組織のこと。特定の目標達成のために、一時的に組織内外から人員を集めてチームを構成します。該当業務に精通した人や関心のある人などが集うため、メンバー同士の意思疎通が図りやすく、業務を遂行しやすいという特徴があります。

マトリクス組織との大きな違いは、プロジェクト完了後に組織を継続するか否かです。マトリクス組織は「解散せずに複数の所属を持った状態を継続」するのに対し、プロジェクト型組織は「プロジェクト完了後は解散」します。

そのため、プロジェクト型組織では、長期的にノウハウやナレッジを積み上げることは難しいと考えられています。

機能型組織

機能型組織とは、人事や営業、マーケティング、販売といった組織の「機能」ごとに部署をつくり、その部署内に専門の人員を配置する組織形態のこと。部署ごとに独立させる組織形態であるため、業務遂行や情報共有がスムーズに行えるのが特徴です。

機能型組織は「営業やマーケティングなどの機能のみ」で構成されるのに対し、マトリクス組織は「機能とエリアといった複数の単位」によって構成されるという違いがあります。そのため、他部署との連携の取りやすさに差が生じてしまうと考えられます。

機能型組織では、別部署と連携する際の意思決定に時間がかかり、進行が遅れてしまう恐れもありますが、マトリクス組織では従業員の兼任により、他部署との連携が取りやすいでしょう。

3種類のマトリクス組織の特徴

マトリクス組織には「バランス型」「ストロング型」「ウィーク型」という3つの種類があり、プロジェクトの責任者の選出方法が異なります。それぞれの特徴を見ていきましょう。

バランス型

バランス型では、プロジェクトメンバーから責任者を選出します。そのため、リーダーは業務の遂行状況を把握しやすく、必要に応じて的確な指示を出せることから、現場の統率を取りやすいという特徴があります。一方で、複数の業務を兼任するリーダーの負担が大きくなることが課題です。

また、マトリクス組織ではプロジェクトメンバー内から選任された責任者とは別に、部門ごとのマネージャーも存在します。メンバーは複数の上司から指示を受ける状況に置かれるため、業務遂行に当たって調整が複雑になることが懸念点です。

ストロング型

ストロング型では、プロジェクト・マネジメントに特化した専門部署に所属するプロジェクトマネージャーを、各プロジェクトに責任者として配置します。プロジェクト・マネジメントについて高い専門性を持つマネージャーの采配により、明確かつ効率的な業務遂行が可能となり、メンバーの負荷軽減が期待できます。

ストロング型は多くの人員を抱える企業や複雑なプロジェクトに適した組織形態とされますが、導入するにはマネージャーの独立部門を新規設立する必要があるでしょう。設立後のランニングコストも考慮したいポイントです。

ウィーク型

ウィーク型では、プロジェクトの責任者をあえて設けません。責任者がいない代わりに、メンバー一人一人が責任を持ち、自らの判断で業務を遂行します。自由度が高く、多角的なアプローチが可能になる点がメリットです。

スピーディーな対応や臨機応変な動きが求められるプロジェクトでは、ウィーク型の組織形態が強みを発揮するでしょう。一方、マネージャー不在により責任の所在があいまいになりやすく、意思決定に時間を要する可能性が高い点がデメリットと言えます。

マトリクス組織のメリット

マトリクス組織の主なメリットとして次の3つが挙げられます。

業務効率化が見込める

マトリクス組織では、一人一人の業務の幅が広く、他分野の知識に触れる機会も多いです。部署などの垣根を超えて、従業員同士がコミュニケーションを取りながら業務を進めることで、「業務の工程や全体像を把握しやすい」「ノウハウやナレッジを蓄積できる」といったメリットが期待できます。他部署との連携により業務を調整しやすくなるため、業務の効率化につながります。

新規事業に取り組みやすくなる

一般的な組織では、新規事業を展開する際に新メンバーの採用や新たなチームの編成などが必要で、すぐに新規事業を始められないということも少なくありません。一方、マトリクス組織では、各部署から専門性やスキルを持った人材を選任できるため、新規事業の立ち上げや新製品の開発などに取り組みやすくなります。

既存の従業員を柔軟に起用できるため、新メンバーの採用や新たなチームの編成などが必要なく、同時に複数の事業を遂行することが可能です。このように、一般的な組織よりも新規事業に取り組む体制を整えやすい点がメリットと言えます。

トップマネジメントの負担を軽減

マトリクス組織を採用している企業では、ある程度の決定権を組織の管理者やプロジェクトマネージャーに委ねています。そのため、経営層のマネジメントにかかる負担を軽減できるというメリットがあります。

また、現場のメンバーに近いマネージャーに裁量権を与えることで、現場での意志疎通が図りやすくなり、コミュニケーションストレスが軽減されるという効果も期待できるでしょう。

マトリクス組織のデメリット

マトリクス組織にはさまざまなメリットがありますが、注意したいデメリットもあります。マトリクス組織の運営を成功させるためにも、主なデメリットについて押さえておきましょう。

パワーバランス維持が難しい

マトリクス組織では複数のマネージャーが存在するため、パワーバランスの維持が難しいとされます。マネージャーによって意見や指示が異なると、メンバーはどちらの指示に従うべきか優先順位の判断が難しくなってしまいます。

加えて、マネージャー間の意見の食い違いや対立により、メンバーの業務が停滞してしまう可能性もあるでしょう。プロジェクトマネージャーと各部門のマネージャーを選ぶ際は、「組織全体の利益を考えられる」「お互いの領域に精通している」などを判断基準とすることをおすすめします。

従業員にかかるストレスが大きくなる

マトリクス組織では一人の従業員が複数の業務を担い、複数のマネージャーの下で働くため、従業員にかかるストレスが大きくなってしまう傾向にあります。気を遣う相手が増えることによるストレスだけではなく、マネージャー同士の連携が十分でない場合は、業務の調整やコミュニケーションなどにストレスを抱えることもあるでしょう。

また、マトリクス組織間で業務量に差が生まれやすく、特定の従業員に業務が集中してしまう可能性もあります。マトリクス組織は従業員に負担がかかりやすい構造であることを理解した上で、従業員の負担軽減に向けた対策を考える必要があるでしょう。

人事評価の見直しが必要

マトリクス組織を導入すると、誰がどのような業務を行っているか把握しにくくなるため、人事評価制度の見直しが必要です。マトリクス組織では、組織ごとに異なる目標や成果を設定するのが一般的なため、組織の数が多ければ多いほど、人事評価が複雑化します。

また、人事評価の際に従業員一人ひとりのスキルや社内での立場などについて把握する必要があるため、評価者や評価を取りまとめる担当者への負担が増えてしまう点もデメリットです。こうした課題を踏まえたうえで、自社のマトリクス組織に適した人事評価制度を導入しましょう。

マトリクス組織を成功させるポイント

マトリクス組織を成功させるために押さえておきたいポイントを2つ紹介します。

マネージャー同士の連携を強める

マトリクス組織では、メンバーは複数のマネージャーから指示を受けるため、指示に齟齬(そご)が生じるリスクがあります。マネージャーによって指示が異なる状態を防ぐためには、マネージャー間での情報共有が重要です。

あらかじめプロジェクトごとに役割を明確にしておくことで指示系統の混乱を防ぎ、正確に業務を進行できるようになります。また、マネージャー同士の連携を強めることができれば、マトリクス組織のデメリットを解消しやすくなるでしょう。

従業員のストレスをケアする

従業員は複数のプロジェクトに所属することで、気を使う相手が増えたり、業務量の偏りが生じやすくなったりします。そのため、「ストレスフルな状況になっていないか」「一部の従業員に業務が集中していないか」など、各従業員の業務状況を把握することが求められます。

ストレス対策の取り組みとしては、「ストレスチェック」「セルフケア研修」などが挙げられます。従業員のストレス状態を定期的に確認するストレスチェックは、ストレスによる体調不良を未然に防ぐのに効果的です。

ストレスを軽減させるための方法を教育するセルフケア研修の一環として、ストレスに対処するための行動を意味する「コーピング」を活用している企業も見受けられます。マトリクス組織を採用する際は、従業員のストレスを緩和するためのフォローやストレスケアを講じるようにしましょう。

(参考:『コーピングとは|3種類の手法と企業でのストレス対策を解説』)

まとめ

マトリクス組織にすることで、「業務が効率化する」「新規業務に取り組みやすくなる」などのメリットが期待できます。

一方で、「パワーバランスの維持が難しい」「従業員にかかるストレスが大きくなる」といったデメリットが発生する可能性もあるため、マネージャー同士の連携や従業員のストレスケア対策が重要です。

マトリクス組織のメリット・デメリットを踏まえた上で、マトリクス組織を採用するか否か、どのようなマトリクス組織を編成していくかなど検討してみてはいかがでしょうか。

(制作協力/株式会社はたらクリエイト、編集/d’s JOURNAL編集部)

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