コーピングとは|3種類の手法と企業でのストレス対策を解説

d’s JOURNAL編集部

ストレスに対処するための行動を意味する「コーピング」。ストレスコーピングとも呼ばれており、日常生活で感じるさまざまなストレスを良い方向に転換させる方法として注目されています。

「コーピングにはどのような手法があるか」「組織内でどのように活用できるのか」など知りたい方もいるでしょう。

この記事では、コーピングの基礎知識をはじめ、コーピングを身に付けるメリットや企業・組織での活用方法などについてご紹介します。

コーピングとは

コーピング(coping)とは、ストレスに対処するための行動を意味する言葉。英語で対処する・対応するという意味の「cope」が語源です。アメリカの心理学者リチャード・ラザルスによって提唱されました。

コーピングの目的は、「ストレス要因の解決」および「負担の軽減」です。ビジネスシーンにおいてコーピングを活用することで、自身が感じるストレスを管理できるようになり、仕事のパフォーマンス向上やモチベーション維持につながると期待されています。

コーピングは、単に気晴らしや発散といったストレス解消の方法だけではありません。ストレスとどのように向き合うかという「認知」などを経て、対処方法を考えるのが、コーピングの特徴です。

コーピングが注目される背景

日本では、仕事の責任に対する重圧や職場の人間関係など、仕事でのストレスを抱える人が多いといわれています。ストレスが過度にかかると、うつ病や適応障害、脳梗塞などのリスクが高まり、心身共に不調を来してしまう恐れがあります。ストレスフルな環境では仕事へのパフォーマンスも低下してしまうため、社員がストレスに対処できる方法として、コーピングが注目されているのです。現代社会にはストレスが多いため、今後もコーピングへの注目は高まっていくでしょう。

コーピングで対処するストレスとは

ストレスとは、外部からの刺激などによって体の内部に生じる反応のことです。ストレスの原因となる外的刺激を「ストレッサー」、ストレッサーに対する心身の反応を「ストレス反応」と言い、ストレッサーとストレス反応を合わせてストレスと呼ぶこともあります。

コーピングで対処するストレス(ストレッサー)の種類はさまざまです。人によっては思わぬものがストレスになる場合があるため、自分が何にストレスを感じるのかを自覚することも重視されます。ここでは、主要な3つのストレッサーである「物理的ストレッサー」「化学的ストレッサー」「心理・社会的ストレッサー」について、紹介します。

物理的ストレッサー

物理的ストレッサーとは、温度や光、音など物理的な環境刺激のこと。例として、「暑さ・寒さ」「騒音」「放射線」などが挙げられます。最近では、パソコンやスマートフォンなどのディスプレイから発生するブルーライトも、物理的ストレッサーの一つに考えられています。

化学的ストレッサー

化学的ストレッサーとは、化学物質や有害物質などのこと。「公害物質」「薬物」「酸素欠乏」「金属」「アルコール」「タバコ」「食品添加物」などが該当します。

心理・社会的ストレッサー

心理的ストレッサーとは、「不安」「焦り」「いら立ち」「怒り」「緊張」「抑うつ」などの感情を伴うもののこと。社会的ストレッサーには、「情報過多」「過密な都市生活」「経済問題」「政治問題」「職場関係」「恋愛」などがあります。現代人において、一般的に「ストレス」とされるものの多くは、心理・社会的ストレッサーに当てはまります。

今回の記事では、主に心理・社会的ストレッサーへの対処法という視点で、コーピングを紹介します。

コーピングは3種類に分類できる

コーピングの方法は「問題焦点型」「情動焦点型」「ストレス解消型」の3つに分類されます。「問題焦点型」と「情動焦点型」の目的は問題に対処することで、「ストレス解消型」の目的は問題と距離を置き発散させることです。それぞれの特徴について、例とともに解説します。

問題焦点型

問題焦点型とは、問題を根本的に解決するために問題そのものに働きかけ、ストレスフルな状態から抜け出す方法です。問題に対して、自身の努力と周囲への働きかけによって解決や対策に取り組むのが特徴です。

問題焦点型の例

●職場の人間関係がストレスになっているので、環境を変えるために転職する
●長時間労働がつらいので、業務効率を改善する方法を考える など

また、問題焦点型の中には周囲にアドバイスや協力を求める「社会的支援探索型」と呼ばれるコーピングがあります。具体的には、「上司や同僚に支援を依頼する」「家族や友人に相談する」などの行動が該当します。アドバイスや協力を求める相手によっては共感を得られるため、精神的なストレスが緩和されやすいのが特徴です。

社会的支援探索型の例

●「職場の人間関係で悩んでいる」と家族や友人に打ち明け、アドバイスや対処法を助言してもらう
●長時間労働の状況を上司に相談し、チーム内の業務分担を見直してもらう など

情動焦点型

情動焦点型とは、問題そのものに焦点を当てるのではなく、問題を捉える自分自身の感情に焦点を当て、ストレスの受け取り方や感じ方を変えて軽減する方法です。

問題によって発生したストレスを誰かに話したり、聞いてもらったりして、ストレス感情をコントロールします。問題そのものの解決が難しい場合や、解決に時間がかかる場合などに適しています。

情動焦点型の例

●家族や親しい友人に話を聞いてもらう
●専門家のカウンセリングを受ける など

情動焦点型にはさまざまな方法があり、大きく2つに分類できます。周囲の人に話を聞いてもらうことによって問題への認識を改める「認知的再評価型」と、問題の捉え方を見直し意識を変化させる「情動処理型」です。それぞれの例も見ていきましょう。

認知的再評価型の例

●医師やカウンセラーへの相談を通して問題に対する新たな見解や気づきを得ることで、意識を前向きに変化させる など

情動処理型の例

●「担当顧客を増やされた」とストレスを感じた場合、「自分はチームの中でも大きな数字を任されている」と責任感の意識に転換する など

ストレス解消型

ストレス解消型とは、問題から離れたり、ストレスを体の外へ追い出したりして発散する方法です。ストレスを感じたときに無意識に行っていることも多く、方法としては「気晴らし型」「リラクゼーション型」に分けられます。

気晴らし型は、ストレスを感じたときに友人と遊びに行くなどの行動を指します。一方、リラクゼーション型は、ヨガやアロマセラピーなど心身がリラックスできる状態を整えることで、ストレスを緩和するのが特徴です。

気晴らし型の例

●友人と食事や旅行に行って、気晴らしをする
●スポーツや読書などの趣味の時間を過ごして、リフレッシュする など

リラクゼーション型の例

●瞑想・ヨガをする
●アロマセラピーを受ける
●自分の体をマッサージする など

コーピングを身に付けるメリット

コーピングを身に付けると、どのようなメリットが期待できるのでしょうか。ストレスに対して上手に向き合えるようになることで得られるメリットを2つ紹介します。

仕事のパフォーマンス向上

強いストレスを感じている状態では、仕事のパフォーマンスやモチベーションが下がってしまう恐れがあります。コーピングを身につけ、自身が感じるストレスを管理できるようになることで、仕事のパフォーマンス向上やモチベーション維持が期待できます。その結果、仕事の生産性向上にもつながるでしょう。

心身の健康を維持しやすくなる

適度なストレスはよい緊張感をもたらす一方で、強いストレスが続くと、うつ病や適応障害などを引き起こすと考えられています。コーピングによって自身でストレスを解消できれば、心身の健康を維持しやすくなるでしょう。

コーピングによって適切にストレスに対処できれば、意欲を高めることにもつながります。

企業・組織でのコーピング活用方法

コーピングを身に付けることで、仕事のパフォーマンス向上や心身の健康を維持しやすいといったメリットがありますが、企業・組織ではどのようにコーピングを活用すればよいのでしょうか。効果的なコーピングの活用方法を3つ紹介します。

メンター制度や1on1の導入

コーピング方法の一つとして誰かに相談するという行動があります。そのため、企業・組織では「メンター制度」「1on1制度」「心理カウンセリング」などで相談の機会を設けることが有効です。

メンター制度とは、新入社員や若手社員などの悩みに対して、年齢や社歴の近い先輩社員が「メンター」として助言する制度のこと。相談できる人を明確にすることで、新入社員や若手社員の不安・不満を解消しやすく、問題に適切に対処できるようになるでしょう。

1on1制度とは、部下の成長を目的に上司と部下が定期的に行う1対1の面談のこと。上司から話をするのではなく、部下から話をするのが特徴です。1on1を通して部下は感情や問題を整理でき、前向きな意識への転換やストレスの軽減につなげることができます。

専門家によるサポートを必要とするときに活用したいのが、心理カウンセリングです。専門家に相談することにより、「新たな気づきを得やすくなる」「問題への認識を改めやすくなる」といった効果が期待できます。企業としては、社員に活用してもらえるよう、「社員が気軽に相談できる窓口を設置する」「定期的なカウンセリングの機会を設定する」など、制度を整える必要があります。

(参考:『メンター制度導入のメリット・デメリットとは。 押さえておきたい制度運用のコツも解説』『【シート付】1on1で話す内容は?会話例や1on1を成功させるポイントを解説』)

研修やe-ラーニングの実施

心理的なトレーニングは意識的に行うことで身に付くため、コーピングに関する研修やe-ラーニングを実施している企業もあります。

個々で学習できるe-ラーニングを通じて社員が定期的にコーピングについて学ぶことで、コーピングへの理解が深まり、自己ケアの定着が期待できるでしょう。

また、育成研修の一つとしてコーピングを実施すれば、社員に対して「組織全体としてストレスを適切に対処しようとしている」と伝えることもでき、安心して働ける環境整備につながります。

社内(オフィス)環境を改善する

空調や作業スペースといった職場環境の改善は、社員のストレス軽減につながります。冷房の効きすぎや周囲の音漏れなどはストレスの元になりますが、現場の問題を吸い上げ、社員の希望を聞き取ることで、より効果的に職場環境を改善できます。

具体的には、「冷暖房の設定温度を見直す」「業務に集中できる個ブース・カウンター席や、メンバー同士のコミュニケーションを促す談話室などを設ける」といった対策が効果的です。

まとめ

コーピングには、大きく分けて「問題焦点型」「情動焦点型」「ストレス解消型」の3つの方法があります。コーピングを身に付けることで問題に適切に対処できるようになり、前向きな意識への転換やストレスの軽減につながります。

「仕事のパフォーマンスが向上する」「心身の健康を維持しやすくなる」といったメリットも期待できるため、社内におけるコーピングの活用方法について、この機会に検討してみてはいかがでしょうか。

(制作協力/株式会社はたらクリエイト、編集/d’s JOURNAL編集部)

従業員のメンタルヘルス対応できていますか?コーピングの手法と具体例を解説

資料をダウンロード