コンティンジェンシー理論とは|リーダーの特徴・選び方をわかりやすく解説
d’s JOURNAL編集部
「どのような環境・状況にも対応し得るリーダーシップは存在しない」という考え方のリーダーシップ理論である、コンティンジェンシー理論。リーダーが高いパフォーマンスを発揮できるかどうかは、リーダー本人の資質以上に職場環境や人間関係などの外的要因が影響すると考えられています。
企業を取り巻く環境に応じてリーダーの在り方にも変化が求められる現在、自社に必要なリーダーシップを模索する中で、コンティンジェンシー理論に興味を持つようになった方もいるのではないでしょうか。
この記事では、コンティンジェンシー理論の概要やメリット・デメリット、活用する際のポイントなどを解説します。
コンティンジェンシー理論とは
コンティンジェンシー理論とは、「どのような環境・状況にも対応し得るリーダーシップは存在しない」という考え方のリーダーシップ理論のこと。そもそもコンティンジェンシー理論の「コンティンジェンシー(contingency)」とは、「偶然性」や「偶発性」を意味する言葉です。
企業にはさまざまな経営スタイルがありますが、環境や状況によって変化が求められます。この変化に対応するために、リーダーシップはリーダー本人の資質に帰属するのではなく、環境や状況の変化に応じて組織の管理方法を柔軟に変化させていく必要があるというのがこの理論の特徴です。
リーダーが状況に応じてスタイルを変化させるという側面から、「状況適合理論」と呼ばれることもあります。
コンティンジェンシー理論が誕生した背景
コンティンジェンシー理論が提唱されるようになったのは、1960年代に入ってからのことです。
1940年代までは、リーダーシップは生まれ持った才能に起因するという「リーダーシップ資質論」が一般的でした。優秀なリーダーに共通する資質は「知性」「行動力」「信頼」の3つで、これらは訓練や勉強では習得不可能と考えられていたのです。
しかし、1960年代に入ると技術の発展や産業の高度化に伴い、生産プロセスの複雑化やグローバル化などの動きが加速。こうした複雑な環境下では、従来のリーダーシップ資質論が通用しなくなりました。
このような状況を背景に生まれたのが、コンティンジェンシー理論です。「内外の環境・状況に応じて、適切なリーダーシップは異なる」という考え方は、リーダーシップ論の主流として浸透してきています。
コンティンジェンシー理論と類似する理論
コンティンジェンシー理論と類似する「条件適合理論」と「SL理論」について、それぞれの特徴とコンティンジェンシー理論との関係性を解説します。
条件適合理論
条件適合理論とは、組織が置かれる環境によって優秀なリーダーの定義は変わるという考え方です。コンティンジェンシー理論を含む、現在のリーダーシップ理論の基になっている考え方として知られています。
成果を生むには、リーダーの「行動」のみならず、リーダーの「置かれている環境」も影響するとし、「環境条件に適した行動のみがリーダーシップ行動として効果を発揮する」と考えるのが特徴です。
なお条件適合理論では、リーダーが力を発揮するために考慮すべきポイントとして、「職場の人間関係」と「業務の難易度」の2つを挙げています。
SL理論
SL理論とは、状況に対応したリーダーシップ(Situational Leadership)のこと。コンティンジェンシー理論をさらに深く掘り下げて、「部下の習熟度」という観点から発展させた理論です。
コンティンジェンシー理論とSL理論では、何に着目してリーダーシップを変化させるのかが異なります。コンティンジェンシー理論では外部・内部要因によってリーダーシップを変化させるのに対し、SL理論では部下のレベルに着目してリーダーのスタイルを変化させます。
SL理論では、部下が「どの程度の知識や経験、スキルを持っているか」「業務に対してどのくらいのモチベーションを抱いているか」について、成熟度を4段階に分類。各段階の状況に応じたリーダーシップを発揮していくことが必要としています。
(参考:『SL理論とは?リーダーシップの4つのスタイルをわかりやすく解説』)
コンティンジェンシー理論のリーダーシップ要素
コンティンジェンシー理論におけるリーダーシップは、「課題志向型」と「対人関係志向型」と呼ばれる2つのスタイルを、状況に応じて組み合わせて実践します。どちらのスタイルに重きを置くかは、リーダーの置かれた環境によって変わります。
また、コンティンジェンシー理論では、リーダーの置かれた環境を「状況好意性」という概念で定義しています。状況好意性を構成する要素は次の3つです。
状況好意性を構成する3要素
●リーダーが組織のメンバーに受け入れられている度合い
●取り組む仕事・課題の明確さ
●リーダーが部下をコントロールする権限の強さ
これら3要素が強まった場合には「課題志向型」の、反対に3要素が弱まった場合には「対人関係志向型」のリーダーシップが適切とされています。
ここからは、「課題志向型」と「対人関係志向型」について見ていきましょう。
課題志向型
課題志向型とは、リーダーの思考や関心を「課題」に向けるスタイルのこと。「取り組むべき仕事のゴールや概要が明確である」「リーダーとメンバーの関係性もよく、指揮命令しやすい」など、状況好意性の3要素が強まる状況に適しています。
こうした状況下においては、リーダーが「課題」に集中することが組織の成果につながると考えられます。
対人関係志向型
対人関係志向型とは、リーダーの思考や関心を「対人関係」に向けるスタイルのこと。組織内の人間関係を構築しながらチームの相乗効果を高め、時にはメンバー間の衝突を解決します。
「リーダーとメンバーの関係性が薄い」「指揮命令の権限が弱い」など状況好意性の3要素が弱まる状況では、対人関係志向型のリーダーシップを発揮し、メンバーとの関係性を強化する必要があります。
また、仕事のゴールや概要が抽象的な状況下においても、対人関係志向型のリーダーシップを発揮することで成果につながりやすくなるといわれています。
コンティンジェンシー理論のメリット
コンティンジェンシー理論に基づきリーダーシップを発揮することで、どのような効果が期待できるのでしょうか。コンティンジェンシー理論の主なメリットを3つ紹介します。
時代と環境の変化へ柔軟に対応できる
コンティンジェンシー理論では、リーダーは環境や状況に応じてリーダーシップのスタイルを変えます。つまり、リーダーに求められるのは「柔軟性」です。常に状況を把握し、望まれている行動を起こせるリーダーが増えることで、時代と環境の変化に柔軟に対応できる可能性が高くなるのがメリットと言えます。
また、どのような状況になってもその時々で組織やリーダーを変更できるため、組織の在り方もよりフレキシブルなものとなっていくでしょう。
ヒエラルキーの影響が少なくなる
コンティンジェンシー理論を活用することで、絶対的なリーダーの存在はなくなり、経営体制も固定されにくくなります。「環境に順応する組織が望ましい」との考え方が浸透し、ピラミッド型の人事にとらわれなくなることも、メリットの一つです。
コンティンジェンシー理論によるリーダーシップが発揮されることで、上下関係に依存しない組織の構築が期待できます。組織のメンバー間にフラットな関係性が構築されていくことにより、個々のリーダーシップを発揮しやすくなるでしょう。
ゼネラリストの力が身に付く
リーダーは環境・状況の変化に応じて、取るべき行動や必要な知識、考え方を変えていく必要があります。そのため、「継続的にスキルを磨く」「幅広い知識を身に付ける」などの行動が自然と促され、ゼネラリストとしてのスキルの習得が期待できます。また、臨機応変な対応も求められるため、対人関係能力において優れたリーダーを育成できるという点も、メリットです。
コンティンジェンシー理論のデメリット
コンティンジェンシー理論にはさまざまなメリットがある一方で、柔軟性を重視するが故のデメリットもあります。押さえておきたい2つのデメリットを見ていきましょう。
組織や従業員への負担が大きくなる
コンティンジェンシー理論では、状況に応じて経営方針やリーダーシップの在り方が変化していくため、従業員の負担が大きくなってしまう点がデメリットと言えます。周囲の変化に合わせて、絶えず組織構造を変革するとなると、組織のコントロールも難しくなるでしょう。
また、企業の統一感が失われるだけでなく、現状把握の見極めに誤りがあった場合には組織が誤った方向に進んだり、組織内にあつれきを生んだりするリスクもあります。
組織を主導する側にある程度の手腕が求められるため、必要に応じて研修を行うなど、リーダーの育成にも力を入れるとよいでしょう。
知識・ノウハウが蓄積しにくい
コンティンジェンシー理論では、変化に対応し続けることが重視されます。そのため、広く浅い能力は備わりやすいものの、専門性に欠けてしまう点がデメリットです。リーダーシップの在り方を環境・状況に合わせて模索していく中で、これまでのやり方を大きく変えていかなければならないというケースも出てくるでしょう。
それが繰り返されると、常に状況に合わせた柔軟な思考が求められる一方で、組織にノウハウが蓄積されにくくなります。組織内に知識やノウハウが蓄積されないことで、次第に企業独自の競争力が低下してしまう可能性もあるでしょう。
社内全体で従業員の知識レベルを底上げするためには、従業員全員が参照できるシステムやITツールを活用し、業務内容の記録や知識の共有を積極的に行うことが重要です。
コンティンジェンシー理論を活用するには
では実際に、どのようにコンティンジェンシー理論を活用すれば、企業としてその効果を実感しやすいのでしょうか。コンティンジェンシー理論を活用する際のポイントを3つご紹介します。
従業員の多様性を重視した採用
時代の変化や顧客のニーズの多様化に対応していくには、さまざまなバックグラウンド・価値観・趣向を持った従業員に社内で活躍してもらうことが不可欠です。そのため、特定の特性を持つ人材のみを獲得するのではなく、多様な人材を獲得することが重要となります。
コンティンジェンシー理論の導入と併せて、国籍や年齢、性別、障害の有無などにとらわれない多様性を重視した採用を行いましょう。多様な人材を活用する環境が整えば、新しい価値の創造や生産性の向上、企業としての競争力の向上などが期待できます。
グローバル化への対応
急速に進むグローバル化に対応するには、「異文化を理解する能力」と「異文化コミュニケーション能力」が必要です。リーダー個人にスキルの向上を任せるのではなく、企業としてもグローバル化の推進に力を入れることが求められます。
グローバル化に対応できるリーダーの存在は、企業のグローバルな成長を後押ししてくれるでしょう。
現状にあわせた人事制度の見直し
組織体制やリーダーの在り方を変えるとなると、社内にさまざまな影響をもたらす可能性があります。そのため、コンティンジェンシー理論を導入する際は、社内環境の整備も併せて進めましょう。
特に重要なのが、人事制度の見直しおよび適切な評価基準・項目の策定です。従来の評価制度に固執してしまうと、社内に優れた人材がいてもリーダーに選出できないケースが発生するかもしれません。
組織のポテンシャルを最大限に発揮するためにも、人事評価制度を見直し、現状に適した評価基準・項目を設けましょう。
まとめ
コンティンジェンシー理論を活用することで、「時代と環境の変化へ柔軟に対応できる」「ヒエラルキーの影響が少なくなる」「ゼネラリストの力が身に付く」などのメリットが期待できます。
一方で、「変化に伴い、組織・従業員への負担が増える」「組織内に知識・ノウハウが蓄積されにくくなる」という課題もあります。
今回の記事で紹介したコンティンジェンシー理論を活用するためのポイントを参考に、自社に合ったリーダーシップの在り方について検討してみてはいかがでしょうか。
(制作協力/株式会社はたらクリエイト、編集/d’s JOURNAL編集部)
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