問題社員の特徴と違法にならない対応方法。協調性がない・無断欠勤…どう対応する?
社内の規律を守れない、協調性が欠如している、能力不足で業務が滞るなど、仕事をする上でトラブルとなりうる問題社員・モンスター社員。対応を誤るとパワハラや違法行為と捉えられ、訴訟に発展するケースもあるため、企業側には慎重な対応が求められます。今回は問題社員・モンスター社員の特徴と原因別・シチュエーション別の対応方法、採用前の段階で確認しておくべきことなどを紹介します。
問題社員・モンスター社員とは
問題社員・モンスター社員とは、勤務態度や言動・行動に問題となるものが見られる社員のことです。クライアントや同僚、上司など多くの人と接するにあたり、迷惑をかけてしまうことが問題視され、課題として捉えている企業も増えてきました。具体的には、「仕事をサボりがち」「無断欠勤や遅刻が多い」「必要のない残業をする」「他の社員とトラブルになる」「他の社員に嫌がらせをする」「メンタルや体調に不安を抱えている」「与えられた業務を完遂できない」「パワハラ傾向がある」といった問題が挙げられます。
問題社員・モンスター社員の対応とは?人事の基本的なフロー確認
問題社員・モンスター社員が社内にいると、企業全体の士気が下がる、他の優秀な社員が退職するといったことが想定されます。中長期的に見ると企業の業績はもちろん、外部からの評判・信頼にまで悪影響が及ぶ可能性があるため、適切な対応が必要です。
フロー①:現状把握
問題社員・モンスター社員と思われる言動が見られる、あるいはそうした報告を受けた場合、まず「具体的にどのような問題が起こっているのか」「何が原因なのか」を確認しましょう。個人的な問題と決めつける前に、「チーム・部署」「組織全体」の在り方にも原因がないか、客観的に状況を捉えることが重要です。広い視野を持つために、その本人だけでなく、周囲の社員などに対してヒアリングを行うことも有効でしょう。まず、どのような状況なのかを的確に把握することが、適切な対応につながります。
フロー②:対処方法の検討・提示
事象や原因を踏まえて、対処方法を検討しましょう。検討する際は、洗い出した事象や原因に対して「なぜそれが起こるのか」「どのようにアプローチすればよいか」を多角的に考えることが重要です。状況によっては、本人や上司に現状をフィードバックして一緒に解決策を考え、「いつまでにどのような状況を目指すのか」をすり合わせておくことで、改善の意識を高める効果が期待できます。また本人へのアプローチの他に、制度づくりなど組織全体の仕組みとして改善できることがないかも視野に入れてみましょう。
フロー③:変化があるかを観察
対処方法の提示により、問題社員・モンスター社員の意識や言動に変化が見られ、問題が解決する可能性があります。一定期間、社員(該当社員や周りの社員)の様子を観察し、改善が見られるかどうかを確認しましょう。
※状況が改善されない場合、また②に戻り、他の解決策がないか検討することも大事です。
フロー④:注意
一定期間が経過しても改善が見られない場合、問題社員・モンスター社員に対して注意する必要があります。後々のトラブルを回避するため、口頭でのみ注意するのではなく、注意内容が記された書面を交付しましょう。その際、問題社員から内容に齟齬がない旨の署名・押印などを取得しておくようにすると、企業を守ることにつながるでしょう。
フロー⑤:懲戒
注意しても改善が見られない場合、「戒告」「減給」「出勤停止」「降格」といった就業規則で定めた懲戒を検討する必要があります。懲戒は社員の生活に大きな影響を及ぼすものでもあるため、問題となっている事象の重大性や頻度などを考慮した上で、下すべき処分を慎重に決めましょう。
フロー⑥:解雇
懲戒になってもなお改善が見込めないようであれば、雇用契約の解除を検討する必要も出てきます。解雇に踏み切る前に、まずは問題社員・モンスター社員と話し合って、「合意退職」という形で解決できないかどうかを模索しましょう。合意退職が難しいようであれば、最終手段として「普通解雇」や「懲戒解雇」に踏み切ることになります。その際は弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。
問題社員・モンスター社員のタイプ別対応方法
問題社員・モンスター社員と言ってもさまざまなタイプがあるため、それに合わせた対応方法を考える必要があります。
タイプ①:規律の無視
企業の一員である以上、規律を重視する必要がありますが、中にはその規律を守れない社員もいます。例として、「営業で外出すると言って実際は仕事をしていない」「無断欠勤や遅刻・早退が多い」「残業する必要がない状態にもかかわらず個人の判断で残業し、残業代を稼ごうとする」などのケースが挙げられます。
対応として、まずは「いつどこでどのように仕事をサボっていたのか」「いつ無断欠勤や遅刻・早退をしたのか」といった客観的なデータを集め、原因を本人に確認しましょう。「規律を無視する行為は社会人として許されるものではない」ということを社員に認識させ、同様の問題行動を繰り返さないように約束させることが重要です。なお、『ノーワーク・ノーペイの原則』に基づき、無断欠勤や遅刻・早退をした時間分については、給与から差し引くことができます。他にも「営業に行く」と外出したものの、どこかで時間を潰すだけで仕事をしていない場合は、詳細な営業報告を書くように指示することで、サボり癖を改めさせる効果があります。同様の行動をとる社員が多かったり、問題行動の起こる頻度が高かったりするようであれば、就業規則の該当性の検討(ケースによっては、就業規則の見直し)も視野に入れましょう。一定期間様子を確認し、改善が見られなければ注意や懲戒を検討する必要があります。
タイプ②:対人関係の問題
成果を出すためには、他の社員と協力して仕事をする必要がありますが、中にはそれが難しい社員もいます。例として、「協調性がなく他の社員とトラブルになる」「特定の相手を無視する」「嘘をつく・暴言を吐くなどの嫌がらせをする」などのケースが挙げられます。
その場合、まず「いつどこでどのように協調性に欠ける言動をしていたのか」「いつ誰に対して嫌がらせを行っていたのか」といった情報をまとめ、原因を本人に確認しましょう。公平性を期すため、問題の言動をとった社員とそれを訴えた社員のみならず、同僚など周囲の社員からも事情を聴くとよいでしょう。状況が把握できたら、「協調性や対人関係に問題があると業務に影響が出る」という旨を伝え、社員に態度を改めさせることが重要です。配置転換が可能であれば、問題のある社員を別の部署に異動させることで問題が解決する可能性もあります。それでも改善が見られなければ、注意や懲戒を検討しましょう。
タイプ③:メンタルや体調面の不安
心身ともに健康であることで、社員は自身の能力を最大限に発揮することができますが、中にはメンタルや体調面に不安を抱えている社員もいます。「それまで真面目に出勤していた社員が遅刻や欠勤を繰り返すようになる」「集中力や判断力の低下に伴い単純ミスが増える」などのケースです。
労働契約法第5条に基づき、企業は社員の心身の健康に対する安全配慮義務を負っているため、まずは具体的な問題を指摘した上で、医療機関の受診や産業医との面談などを勧めましょう。身体的な症状のみであれば不調を自覚しやすいので、本人自身で病院を受診することができますが、メンタル面での症状は本人にその自覚がないケースもあるため、受診を助言することが特に重要です。心身の不調が原因で治療・休養が必要であるという診断を受けた場合は、その指示に従います。最初は欠勤扱いとし、欠勤が一定期間続いたら、就業規則に基づき休職命令を出しましょう。なお、休職命令を出した日が休職期間の起算日となるため、日時を記載した休職命令書を社員に交付する必要があります。定められた休職期間が満了したら、社員が復職可能な状態になったかどうかを判断します。社員の心身が業務に耐えうると判断できれば職場復帰させ、回復できていないと判断すれば「自然退職」「解雇」など就業規則に基づいた対応をしましょう。
タイプ④:能力不足
業績向上のためには、社員一人ひとりが十分に力を発揮する必要がありますが、中には能力が不足している社員もいます。「能力不足が原因で業務が滞る」「部下に過剰なノルマを課す」「部下に仕事を与えないなどパワハラ傾向が見られる」などのケースが挙げられます。
能力不足で業務が滞っている場合、まずは指導・研修により必要な能力を習得させるための取り組みを行い、変化が見られるかどうかを確認します。能力が向上しない場合やミスマッチと判断される場合には、別の部署に異動させることも視野に入れましょう。なお、特定の能力があることを前提に、採用した社員の能力が不足しているということがわかった場合は、指導や異動ではなく、原則として「退職勧奨」や「普通解雇」を検討する必要があります。
(参照:『【弁護士監修】採用後に経歴詐称が発覚した場合の対応法。解雇は可能?』)
一方、管理職のマネジメント能力不足は、部下からの申告があって初めて発覚するケースが多いため、まずは上司である管理職とその下で働く社員から詳しい事情を聴き、原因を特定しましょう。単に管理職としての経験不足が原因であれば、管理職研修の実施といった対応をすることで問題の解決が見込めます。一方で、そもそも管理職としての適性がないことが原因であれば、降格または管理職から外すといった対応をしましょう。なお、もともと管理職として中途採用していた場合、本人の同意を得ずに降格処分を下すことができないため、降格ではなく解雇を検討する必要があります。
【シチュエーション別】対応方法
シチュエーションによっては対応に苦慮するケースもあるため、状況に合わせた対応方法を考える必要があります。
親会社から出向してきた社員が問題社員だった場合の対応は?
出向とは、社員がもともとの企業(出向元)に在籍したまま、他の企業(出向先)の従業員として長期間にわたり業務を担当することを言います。出向してきた社員の雇用関係は、出向元の親会社との間で継続しており、出向先とは労務の提供に関する服務規律に服している状態です。そのため、出向先は懲戒として「停職」などを命じることはできるものの、「懲戒解雇」や「諭旨解雇」といった労働契約の解約を伴う処分を行うことはできません。親会社から出向してきた社員が問題社員・モンスター社員だった場合は、出向元との間で交わした出向契約を解除し、当該社員を出向元に復帰させ、懲戒処分については出向元に委ねましょう。
問題社員が定年後再雇用を求めてきた場合の対応は?
定年後再雇用とは、定年退職者を一旦退職させた後で、新たに雇用契約を結ぶことを言います。高年齢者雇用安定法第9条では、定年年齢を65歳未満としている事業主に対し、「①:65歳まで定年年齢を引き上げ」「②:希望者全員を対象とする65歳までの継続雇用制度を導入」「③:定年制の廃止」のいずれかの実施を義務づけており、定年後再雇用は②の継続雇用制度に該当します。
(参考:『【弁護士監修】定年後再雇用制度を整備・活用する際の注意点を徹底解説』)
定年後再雇用を含めた継続雇用制度は、希望者全員を対象とする必要がありますが、下記の表にあるような経過措置と例外が認められています。
経過疎地
【前提条件】平成25年3月31日までに継続雇用制度の対象者を限定する基準を労使協定で設けている場合
期日 | 対象者 |
---|---|
平成28年3月31日 | 61歳以上の人 |
平成31年3月31日 | 62歳以上の人 |
平成34年3月31日 | 63歳以上の人 |
平成37年3月31日 | 64歳以上の人 |
→上記当てはまる場合において、継続雇用の対象者を限定する基準を適用することが可能
【例外】
就業規則に定める解雇・退職事由(年齢に関わるものを除く)に該当する場合、例外が認められます。その場合は、継続雇用しないことが可能です。ただし、客観的かつ合理的な理由があり、社会通念上相当であることが求められるので注意が必要です。
(参考:厚生労働省「『高年齢者雇用安定法』のポイント」)
上記の経過措置または例外に該当する場合は、定年後再雇用を否認することが可能です。しかし、再雇用を認めないとトラブルになる恐れもあります。「あらかじめ問題が起きないような仕組みを作った上で再雇用をする」「就業規則などで問題になった場合に対応できるようにしておく」「問題が起こりそうな業務を担当させない」などの対処方法も考えておきましょう。
問題社員・モンスター社員に対応する場合の注意点
問題社員・モンスター社員への対応は、場合によってはパワハラと捉えられることや違法になってしまうケースもあるため、内容別の注意が必要です。
異動・転勤を命じる場合の注意点
対人関係でトラブルを起こした場合や能力不足で業務が滞っている場合に、異動・転勤といった配置転換を検討するケースもあるでしょう。社員を取り巻く環境や業務を変えることで問題の解決が期待できますが、場合によっては権利の濫用と見なされ、異動・転勤命令が無効となる可能性もあります。具体的には、「業務上の必要性が認められない場合」、「不当な動機・目的がある場合」、「労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものである場合」などが挙げられます。異動・転勤を命じる場合は、権利の濫用ではないという社員への説明を十分に行いましょう。
減給・降格にする場合の注意点
配置転換や注意などを行っても問題となる言動に改善が見られない場合、減給や降格といった懲戒を検討することになります。問題を起こした社員を懲戒することで企業秩序を維持する効果が期待できますが、社員の生活への影響が大きいため、対応を誤ると訴訟に発展するリスクもあります。就業規則で定めた懲戒理由に該当する場合のみ、1回の問題行動に対して1回、行動内容の重大性に応じた懲戒処分を選択して実施しましょう。これに加えて減給の場合は、労働者保護の立場から、1回の問題行動に対しての限度額は1日分の給与額の半額と定められています。また降格の場合、訴訟になったときの備えとして、規律違反についての証拠を確保しておくことも重要です。
解雇する場合の注意点
懲戒を行っても問題の解決に至らない場合、解雇を検討せざるを得ません。しかし、慎重に対応をしないと退職した社員が「不当解雇」を主張し、訴訟に発展する可能性があるため注意が必要です。トラブルを未然に防ぐため、解雇に踏み切る前には「退職勧奨」を行い、問題のある社員に退職届を出してもらうことを検討しましょう。社員が退職に応じない場合は解雇を視野に入れることになりますが、不当解雇と主張されるリスクについて十分に検討し、対策を講じる必要があります。どのような理由により解雇に踏み切るにせよ、解雇に至るまでにいくつかの段階を踏む、または本当に解雇する必要があるのかどうかを検討する、といったことが重要です。
人事として、問題社員・モンスター社員を採用しないためにできること
問題社員・モンスター社員を採用しないためには、入社前の段階から対策を講じる必要があります。
採用前にスキル面だけでなく、カルチャーマッチなどを考慮して要件を決める
企業の社風に合わない場合、いくら高いスキルを有していても十分な力を発揮できず、結果的に問題社員・モンスター社員になってしまう可能性があります。そのため、どういった人材を採用するかを決める際は、カルチャーマッチなども要件に入れるとよいでしょう。面接では、「どのような環境下であれば、あなたの能力が発揮されますか?」「組織で活動する上で重要だと思うことは何ですか?」といった質問をすることで、自社に適合しやすい人材かどうかを確認することができます。
(参考:『面接官を初めてやる人が知っておきたい質問例7つと面接ノウハウ【面接評価シート付】』)
面接では具体的なエピソードをしっかりと聞く
面接では、応募者は自分の強みや成功体験などをアピールしますが、残念なことに中にはつい自分をよく見せようと事実でない話をしてしまう者もいます。そうした応募者は入社後にも嘘をつき、周囲との信頼関係の構築を難しくする可能性があります。そのような事態を防ぐためにも、面接では抽象的な質問だけでなく具体的なエピソードも聞き出し、応募者が事実を話しているかどうかをしっかりと確認しましょう。受け答えを通じて、応募者が本当に自社の求めるスキルや経験を有した人材なのかを判断することも可能です。
(参考:『採用候補者を「見抜く」ためのノウハウと質問例とは?【面接講座2】』)
面接~入社前の段階で現場のメンバーと会う機会をつくる
応募者が入社後に本当に同じ部署のメンバーとうまくやっていけるのか、考え方や行動パターンが自社に合っているのかどうかは、採用担当者のみでは判断が難しいこともあります。そのため、面接時や入社前のタイミングで、現場で一緒に働くことになるメンバーや教育担当者と応募者が会う機会を設けましょう。その際の様子を観察し、参加した社員の意見を聞くことで、応募者の人柄をある程度知ることができます。また、試用期間を設けることも効果的でしょう。
【まとめ】
そのまま放置すると、他の社員や企業全体にも影響が出ることが予想される問題社員・モンスター社員の存在。対応を誤ると訴訟に発展する恐れもあるため、現状把握や対処方法の検討、注意や懲戒といった段階を踏んだ上で、パワハラや違法と認定されない特徴別・シチュエーション別の慎重な対応が必要です。また、問題社員・モンスター社員になる恐れがある応募者を採用しないためにも、入社前の段階でしっかりとした対策を練りましょう。
(制作協力/株式会社はたらクリエイト、監修協力/unite株式会社、編集/d’s JOURNAL編集部)
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