【プロが語る】DXを推進する“ハイクラス人材”を採用するために必要なこと

パーソルキャリア株式会社

ハイキャリア支援統括部 キャリアアドバイザー 玉川 美穂(たまがわ・みほ)

プロフィール
パーソルキャリア株式会社

ハイキャリア支援統括部 マネージャー 入江 泰介(いりえ・たいすけ)

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さまざまな業界でDX推進が課題となっている現在。採用市場においてもDX人材のニーズが急速に高まっています。

dodaにおいては、求人のタイトルに「DX」を含む新規案件が2021年4月~2023年3月にかけて倍以上に増加しました。さらにDX人材の募集においては年収600万円以上の案件占有率が他の職種の倍以上ともなっており、DXに関連する経験・スキルを有する人材へのニーズの高さがうかがえます。

DXを推進するハイクラス人材の採用の現場では今、何が起きているのでしょうか。そして採用に成功している企業の特徴とは?パーソルキャリアでIT領域のキャリアアドバイザー(以下、CA)としてITエンジニアの支援を長年務めている玉川美穂氏と、リクルーティングアドバイザー(以下、RA)の経験もあり、ハイクラスCAとしてDXを推進するPMや事業企画などの支援実績が豊富な入江泰介氏に聞きました。

製造業やコンサルなど幅広い業界で「DX人材」の募集が急増

——採用の現場から、最近のDX人材採用の盛り上がりをどのように見ていますか?

玉川氏:現在、ほとんどの上場企業の中期経営計画に「DX」というワードが出てくるほど大きなトレンドとなっており、DXに関連する求人も増加し続けています。業界別では製造業や金融を中心に、最近では化学系メーカーや製薬企業からもDX関連の募集が出ていますね。それに付随してコンサルティングファームやSIerの採用も拡大している印象です。職種としては、DXプロジェクトを推進するプロデューサーやビジネスデザイナー、またシステムの実装・インフラ構築を担うエンジニアやプロジェクトマネジャー(以下、PM)などのポジションがあり、スキルや経験が豊富な技術者に加え、企画ポジションの募集がかなり増えてきました。

 

※求人のタイトルに「DX」「デジタルトランスフォーメーション」を含む新規案件数の推移 doda調べ(2021年4月~2023年3月)

入江氏:ビジネスサイドを含めて考えても、DXやITが絡む案件が多いですね。純粋な事業企画というよりは「IT企画」や「DXプロジェクトのPM」として募集するケースが急増していると感じます。また、IoTやAIに関連する人材や、その前段階のデータマネジメントを担う人材のニーズも高いです。

——DX人材は引く手あまたの売り手市場になっているのですね。採用難易度は非常に高いと思いますが、異業界・異職種から採用するケースも増えているのでしょうか。

入江氏:AIやデータマネジメント関連では異業界・異職種から採用するケースが増加しています。ハイクラス人材専任のキャリアアドバイザー経由では、DXに関連する採用決定者の約3割が異職種から転職しています。ただ、最上流の企画ポジションでは業界の深い知見が求められるため、同業界の経験豊富な人材を求めることが多いですね。

DXという言葉によって、実際のミッションがわかりづらくなる問題も

——DX人材の採用において問題になっていることとは?

玉川氏:DXという言葉が一人歩きして、募集しているポジションや要件がわかりづらくなっているケースが多いように感じます。企業によっては「DXポジションの募集を始めるけど、実際に何をしてもらうかは決まっていない」ということも。経営層からDXに対応せよという方針が下りてきているものの、任せるミッションや業務範囲が明確になっていない企業も少なくないように感じます。それでも事業推進のために早期に採用活動に着手せざるを得ない状況なのかもしれません。

入江氏: IT人材の募集案件全体をDX採用として扱ってしまっている傾向もありますね。「システム入れ替えを担当する社内SE」と書けばわかりやすいのですが、ここにDXという言葉を混ぜ込んでしまい、実際のミッションが何なのか見えづらくなるという例もありました。ビジネス感度が高いハイクラス人材は、企業の中期経営計画や関連記事をまめにチェックしているので、「とりあえずDXという言葉を使っておこう」といった情報の出し方では見透かされてしまうかもしれません。

——スキルや経験がある人ほど本質を重視し、情報があいまいな求人案件を避ける傾向があるのですね。

玉川氏:そうですね。加えて言えば、ハイクラス人材は転職の際に「自分がやりたい仕事を実現できるか」を重視する傾向にあります。担当ミッションが不明確だと、この軸で他社と比較してもらうことが増えてきていますね。実際に採用がうまくいっている企業は、「○○の分野においてDXを通じたビジネス創出に企画・構想から関わる」「現状、社内で情報蓄積がされているが、それがビジネス創出と結びついていないので、データをもとにして新たなビジネスの可能性と事業開発がミッションとなる」など、その会社のDXがどのフェーズにあるかを明確にしています。

入江氏:採用現場の実情としては、募集案件が多すぎて、人事・採用担当者が個々のポジションを把握しきれていない現状があるのかもしれませんね。企業によっては人事部門だけで数百ポジションの案件を抱え、各ポジションに求める役割や要件を深掘りできないまま求人情報を開示しているケースもあります。

募集ポジションの「ミッション(役割)」と「求めるスキル」の2軸で魅力を高める

——こうした状況を踏まえて、母集団形成のために取り組むべきことを教えてください。

玉川氏:人事部門が主体でできることとして、まず募集ポジションの要件を整理し直すことが挙げられると思います。ハイクラス人材は自分のスキル・経験を明確に棚卸しし、どんな役割であれば貢献できるのかを自己分析できている方がほとんどです。求人票などに記載されている情報を見て何に取り組めばいいのかがわからないと、応募してほしい人材に自分が関わるべき求人か判断してもらう機会を逃してしまう可能性があります。

——募集ポジションの魅力を高めるポイントは。

入江氏:「ミッション(役割)」と「求めるスキル」の2軸で整理するのはいかがでしょうか。ミッションは業務効率化なのか業務変革・ビジネス推進なのか。求めるスキルはIT技術なのか企画力なのか。この2軸で分類すると、たとえば業務効率化を目的としてIT技術が必要なら「社内SE」、業務変革を目的として企画力が必要なら「IT企画」といったように、募集するポジションを明確化できます。

玉川氏:このプロセスは人事部門だけでなく、現場を巻き込んでいくことがとても大切だと思います。加えて、現場の方には今の転職市場の現実を理解してもらうことも重要。売り手市場である現状への理解がないと、現場からは「全ての要件が必須」と言われてしまうかもしれません。

入江氏:採用に力を入れている企業では募集するポジションごとに「転職エージェント向け説明会」を開いているケースもあります。さらに、配属部門との接点を作り、転職市場の状況について理解を深める場を設けているケースもあります。私たち自身もこうした動きに参加させていただくことを重視しています。転職エージェントとしては、現場の方々とコミュニケーションを図れる機会はとても貴重です。人事・採用担当者の皆さまには、現場の方はもちろん、転職エージェントも積極的に巻き込んでいただきたいと思っています。

——具体的に魅力を高めることに成功している事例にはどんなケースがありますか?

玉川氏:ある化学メーカーでは、他社でDXと言われているような工場のデータ収集やFA、IoTなどを2018年ごろからスタートし、既に400以上の案件が完了しています。数年前から非IT部門(協業先)の管理職層のIT教育を始め、「デジタルがあった方がいい!」と感じてもらい、協業の為の下地づくりをされてきました。その上で、横断のデジタル共創本部を組成し、経営の高度化や「既存事業×デジタル」で新しいビジネスモデルの開発などを現場共同で行っています。

入江氏:ある銀行では、銀行業務の高度化を行いたいが、銀行では規制が多いので試したいことなかなか試せないという悩みがありました。そこで子会社を設立し、担当者が親会社と兼務・出向し、銀行ではできないことを子会社側でトライしているんです。そこで活用できそうな取り組みを親会社側に持っていき、情報システム部門と連携して実用しています。

金融経験があるのも大切ですが、一方で金融経験がありすぎることで規制に対して慎重になり、「この取り組みは難しいのではないか?」という固定観念がどうしても出てきてしまう。だからそれ以上に新しい技術が分かっていたり、銀行の常識にとらわれず、非常識な発想で仕事をしたりする方が良いという事例ですね。事業は銀行ですが、風土は銀行ではない、もはや全く違う会社と思ってもらった方が転職希望者にとっては分かりやすいのかもしれません。

玉川氏:なぜ情報システム部門の発言力が強くなっているのか、社内外のステークホルダーとの協業体制がなぜうまくつくれているのか…これらの理由や根拠を転職希望者に伝えられると、慎重な方に対しても応募いただけるケースが増えています。

自社のDX戦略について踏み込んだ情報を発信し、DX分野における「採用ブランド」を築くべき

——選考フローにおいて工夫すべき点は何でしょうか?

入江氏:「プロセスは多いけど選考が早い」状態が理想だと考えています。選考フロー自体は短いほうが有利ですが、プロセスを減らせば減らすほど採用候補者の企業理解や入社意欲が低下してしまうため、「面接1回のみ」は現実的ではありません。複数回の面接を短いスパンで組み、現場の協力を得てカジュアル面談も実施するといった柔軟さが求められます。

玉川氏:最近の傾向では、対面での面接にこだわりすぎると機会損失になるかもしれません。オンラインの面接や面談なら調整が柔軟にできますが、対面面接だと今の仕事を休まざるを得なくなることもあります。大手企業でも最終面接までオンラインで完結するところが増えています。ちなみにハイクラス層では、「自分の経験を活かせるか」「どんなふうに活躍できるか」を重視している人が多いからかもしれませんが、最終面接までオンラインで選考をしても不安に感じる人は少ない印象です。

——DX人材の採用力強化に向けて、長期的に取り組むべきことがあれば教えてください。

入江氏:目指すべきは採用ブランド力の向上だと思います。DX人材の採用を拡大している大手企業では、DXをテーマとしたオウンドメディアを設けたり、動画配信サイトのアカウントで発信したりといった取り組みが進んでいます。いずれも、従来のTechブログと比べて、より上流のビジネス観点を意識した内容となっていますね。こうした情報発信を通じて、企業としてDXでどんな未来を目指しているのかを伝えていくことが重要です。

玉川氏:ハイクラス層のDX人材はこうした情報に本当に敏感ですし、さまざまな手段を利用して情報に触れています。人事・採用担当者から現場の部門トップやトッププレーヤーにインタビューし、コンテンツを増やしていくことで、自社のDX戦略をさらに多くの方々に広めていくことができるのではないでしょうか。

企画・編集/白水衛(d’s JOURNAL編集部)、野村英之(プレスラボ)、取材・文/多田慎介

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